機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第26話 終焉とはじまり

 

「ククク…圧倒的じゃないか、我が軍は」

 

 ア・バオア・クー中心部に位置する総合作戦指令室の上方にはランウェイのように張り出した司令台がある。

 眼下のオペレーターたちの報告を聞きながらギレンは独り言ちた。

 

「ギレン様」

 

 いつものようにギレンの背後に立つセシリアが声を掛けた。

 

「デギン公王からホットラインです」

「私のモニターに繋げ」

 

 ギレンはモニターに映る憔悴した父を見た。

 

「父上。今は戦争中です。何かありましたか」

『…キシリアがな、死んだよ』

「ほう」

『あ奴らが動き始めた。地球圏を…地球を我が物にすると息巻いておる』

「互いに利用しあう間柄です。構わんでしょう…マ・クベも倒れたのでしょうな、父上?」

『トカゲはすべて処分したよ』

「結構なことです」

 

 ギレンはほくそ笑んだ。

 

「キシリアに任せていた星の屑作戦はすでにデラーズに指揮権を移行して、もはや止められない段階まできています。…ハ虫人類の技術も完全に我々のものとしてとりこんだ。何の心配もありませんよ、父上。生き残った連邦宇宙軍を此処で叩けば、もはやジオン…ザビ家の勝利は揺るぎない」

『…ギレン』

「なんでしょう、父上」

『…何故、あれがキシリアではないと気づいた?』

「あれで私の可愛い妹です。モニター越しと言え、本物のキシリアかどうかなぞ一目瞭然ですよ。…なぁ、セシリア?」

 

 突然、名を呼ばれたセシリアはびくりと身体を震わせた。

 ギレンはセシリアに背を向けたまま言葉を続ける。

 

「…ジオンに潜り込んでいたハ虫人類はすべて狩り出した。私を亡き者として、ジオン国民…生き残ったスペースノイドを宇宙の労奴としていいように使うつもりだったのだろうが、残念だったな」

「何をおっしゃっているのですか、ギレン閣下?」

 

 セシリアがその美しい顔に戸惑いの色を乗せた。

 

「おまえの正体についてだよ、セシリア…いや、恐竜帝国女帝ジャテーゴ殿」

 

 しばし呆然としたセシリアの美しい貌が、邪悪な笑みを作った。

 

「…いつから気づいていたのだ、ギレン?」

「貴様がセシリアと入れ替わった時からだよ。私以上にセシリアの肉を知る者はおるまい? …我が軍の勝利が確定したところで私を殺し、成り代わるつもりで傍にいたのだろうが、仇となったな」

「さすがはギレン・ザビ。下等なサルどもにも切れ者はいると言うことか」

 

 言葉とともに、セシリアの身体が二回りも大きく膨れ上がった。

 肉感的な身体が軍服を破り、皮膚が裂けた。

 美しく整ったセシリアの顔が裂けて剥がれ落ち、冷酷な視線で笑みを浮かべた醜悪なハ虫人類…恐竜帝国女帝ジャテーゴの素顔がギレンの前にさらされた。

 同時に、各席に座っていたオペレーターたちが一斉に立ち上がり、ギレンに向けて銃を向けた。

 その半数は、人への擬装を捨て去りハ虫人類の素顔をさらしている。

 その様子を見下ろしながら、ギレンはモニターの中の父に声を掛けた。

 

「父上。トカゲはすべて駆除したのではありませんか?」

『よく言う。おまえが泳がせていたのだろう?』

「おっしゃるとおりです」

 

 ギレンの言葉を受けて、ギレンに銃口を向けていたオペレーターの半数が、同族であるはずのオペレーターたちに銃を向けた。

 人間に偽装していたハ虫人類に扮していた、ギレン親衛隊の兵士たちだ。

 

 指令室を見下ろしていたギレンとジャテーゴは、静かに視線を合わせた。

 

「…互いに手詰まり、というところか? ギレン」

 

 まだ何か策があるのだろう、ジャテーゴは無数の牙を覗かせてにたりと笑みを浮かべた。

 ギレンは表情も変えない。

 

「我らハ虫人類の生命力はよく知っていよう、ギレン?」

「貴様らは宇宙空間でも数十分は活動ができるそうだな」

「宇宙は脆弱なサルどもより我らを選んだのだよ」

「ガッター線とやらの問題はないのか?」

「我らは3億年もの間、マグマ層の中でガッター線対策を練り上げてきた。だから地上制圧に乗り出してきたのだ。…さあ、ギレン・ザビ閣下。我らを相手にこの場を覆すことができるのなら、お手並みを拝見しよう?」

「そうだな。…ところでジャテーゴ。コーヒーだ」

「…なに?」

「コーヒーだよ。飲みたくはないか? ここは重力ブロックだ。チューブ入りではない暖かい湯気の立つコーヒーが恋しくはないかね?」

 

 ジャテーゴは何か、異変を感じた。

 身体が重い。

 関節が固くなり動きが鈍くなってきたような気がする。

 そして、吸い込まれるような…足元がなくなり深い闇に落ちていくような耐え難い眠気。

 ギレンが、フフフ…と小さな笑みを浮かべた。

 

「ハ虫人類の生命力、とやらもたかが知れたものだな。この作戦指令室は貴様が正体を現してから室温を下げ続けている。今はまだ氷点下を越したくらいだが…どこまで耐えられるかな、ジャテーゴ殿?」

 

 ギレンの口元からは白く曇った呼気が吐き出されていた。

 眼下の指令室では、ジャテーゴ配下のハ虫人類兵士たちが寒さに耐えあぐね、銃器を取り落とし、また昏倒する者も出始めていた。

 

「ギレン、貴様、姑息な手を…」

「すまぬな、ジャテーゴ。我々人類は脆弱な身体しか持ち合わせていないのでね。それゆえ万事に抜かりはないのだよ。私と我が兵士には軍服の下に厚さ一ミリほどのノーマルスーツを着させている。万が一このまま宇宙に放り出されても、貴様らよりは長く生きていられるという訳だ」

「…サルごときが、小細工を…」

「ああ、言い忘れたが、このノーマルスーツはおまえたち恐竜帝国からいただいた技術で開発させてもらったよ。それから貴様のマシーンランドは私の配下が占領した。今は私の部下のコントロールで星の屑作戦を遂行しているところだ」

 

 寒さに耐えられず片膝をついたジャテーゴに、ギレンは静かに近づいた。

 その額に、自らの腰に下げていたレーザー銃の銃口を向ける。

 

「…待てギレン、冗談はよせ。ともに力を合わせこの地球を制圧する筈ではなかったか」

「フフ…ジャテーゴ閣下も意外に甘いようで」

 

 ギレンが引き金を引きジャテーゴの骸が中空を舞うと同時に、ギレン親衛隊ももはや動けぬハ虫人類兵士を一斉に駆逐した。

 幾多の銃声が響き、やがてうって変わって静寂が指令室に訪れた。

 

『…終わったか、ギレン』

 

 モニター越しに顛末を見ていたデギンが言った。

 

「はい。ア・バオア・クーの戦線にも異常はありません。そして、あと20分ほどで星の屑作戦も達成される。我々人類の…ザビ家の勝利ですよ、父上」

 

 小悪党であればここで勝利の高笑いでもするのだろう。

 だが、ギレン・ザビはそのような振舞いはしない。

 彼にとってはこれが当然の帰結であるからだ。

 

 

 五月女研究所では無数の人間が、真ガッターロボの出撃準備にいそしんでいた。

 無論、地球連邦軍の兵士たちではない。

 だが、彼らが何処から現れたのか、今はそんなことはどうでもよかった。

 星の屑作戦のコロニーが北米大陸に落着するまで30分を切っている。

 かつて竜馬が着用していたパイロットスーツに着替えたゴウは、真ガッターロボの1号機コクピットに座していた。

 通信用モニターの一つが開く。

 3号機のコクピットにいる竜馬の顔が映った。

 

『しかし、真ガッターを壊そうとしたやつが、よく乗る気になったな』

「あんたに言われたくねえな」

 

 竜馬は静かに笑みを浮かべるだけで答えることはなかった。

 

「おれはこのガッターロボが何なのか、おれたちに何をやらせようとしているのか…ガイやケイが何処へ行ったのか…それを知るためにこいつに乗る。そのために、おれはガッターで行く!」

『頭でわかろうとしても何もわかりませんよ』

 

 もう一つの通信用モニターが灯り、タイールの顔が映った。

 

『理解しようとするんじゃありません。すべて感じることなのですよ』

「おまえ、何処にいるんだ」

『2号機です。この機は私が操縦します』

「ジンさんはどうする」

『あいつはもう真ガッターに乗れる身体じゃねえ。それに、あいつは俺たちと違ってこの後に必要な人間だ』

 

 竜馬が静かにそう言った。

 

「タイール、おまえに操縦ができるのか?」

『ぼくはこのためにここに来たんです』

 

 少年はにっこりと笑った。

 

『さて、おしゃべりはここまでだ…そろそろ行くぜ』

 

 竜馬の言葉に答えるように、真ガッターの奥から激しい鼓動のようにエネルギーが突き上げ始めた。

 

「ジン大佐! ガッターが出撃体勢に入りました!」

「なんだと!」

 

 懐かしいガッターチームのパイロットスーツに身を包んだハヤトに、指令室から部下の連絡が入った。

 ハヤトは真ガッターの格納庫に駆けこんだ。

 真ガッターの頭上のハッチが解放され、真ガッターの巨躯が静かにリフトアップされていく。

 

「ふざけるな! また俺を置き去りにするつもりか!」

 

 ハヤトの叫びが聞こえぬかのように、真ガッターの脚は床を離れ、静かに空へ浮かんだ。

 

「行くぜ! 目標は北米大陸! 中央の穀倉地帯だ!」

 

 ゴウが叫び、真ガッターが、研究所の上空から消失するように飛翔した。

 

 

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