機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第2話 悪魔との邂逅

 ゴウの乗ってきたエレカで、4人はグリーン・ノア1の宙港対岸にある未開発エリアへ向けて疾走していた。

 といっても、コロニー内の乗り物の最高速度は30キロ程度に抑えられている。

 やきもきしながら宙港を見ていたガイは、シリンダー基部から現れたモビルスーツがグリーン・ノア1の地表に向けて降下する様を見た。

 侵入してきた機体は3機である。

 

「どうだね、ガイ君。あれが君の知っているザク…いや、モビルスーツと言えるかね」

 

 後部シートに並んで座っているテムの皮肉るような言葉に、ガイは返す言葉がなかった。

 遠目にもわかる異形の機体。

 先頭の一機は巨大な2本の牙をはやした不気味な生物の顔を左肩に生やしていて、そこから蛇腹の腕が伸びている。

 頭部にはモノアイが縦に二列並んでいるのが伺えた。

 そのあとを追う機体は脚部よりも巨大な両腕の拳部にバーニアを持ち、やや前屈したような姿勢で、貧弱な下半身についた脚部バーニアとあわせて減速を掛けている。

 最後の一機はひと際巨大で、四足獣の腰の上にザクの上半身が乗っている。

 腕にはザクマシンガンとヒートホークを一つずつ装備していて、見慣れたありふれた武器を装備していることが逆にそのモビルスーツ…いや、モビルビーストの異形を際立たせていた。

 

「よぉ、ジオンのでかいの。なんだ、ありゃあ」

「…モビルビースト、というそうだ」

 

 興奮を抑えきれずに尋ねるゴウに、消沈したガイが短く答えた。

 興味を抑えられないのか、ハンドルを握っているにもかかわらず振り返ってモビルビーストを見ようとするゴウをテムがたしなめた。

 

「君は黙って運転をしていろ。…あれはモビルスーツに動物の敏捷性を搭載させた、まったく新しい兵器だ。…だがあんなものは動物ではない。動物を理解していないスペースノイドが適当に造った…いや、悪ふざけして造った合成獣だ。…1機目のアレは左肩から先が象…いや、マンモスの頭部だな。2機目の奴は全身がゴリラ…『森の賢人』とでも名付けるか。三機目に至っては…トラの背中にザクの上半身を合成しているな。常軌を逸しているよ。モビルビーストではなくモビルキメラだ」

「アムロの父ちゃん、あんた、ドーブツ詳しいんだな」

「私はロボット工学の科学者だ。生物全般の身体構造に詳しい…当たり前のことだ」

「そうかい。じゃ、あれの戦闘力はどうだ」

「なんだ?」

「奴ら、あんたたちが言うあれを壊すか奪うかしに来たんだろ。なら、あれでぶっ倒して返り討ちにするしかねえじゃねえか」

「…待て。君は、私たちが探しているあれを知っているのか?」

 

 ゴウは不敵な笑みを浮かべた。

 

「多分な。多分、あれのことだ。…だろ、ジンの旦那」

 

 テムは溜息をついてハヤトに声を掛けた。

 

「…ジン大佐、君は本当にあれに彼を乗せるつもりかね?」

「乗せて駄目なら死ぬだけだ。気にすることはないでしょう」

 

 4人の乗るエレカは軍の区画を抜けて一般住宅街に入った。

 この辺りはザクの襲撃のダメージはほぼ見受けられない。

 

「待て、ゴウ。エレカを止めろ」

 

 あたりを見張っていたガイが言った。

 

「なんだ、でかいの」

「だから、オレの名前はガイ・ブレンドだ! 右手後ろ! 今、住宅の陰に人影が見えた」

「馬鹿な。グリーン・ノア1は無人の筈だ。ゴウ君以外は誰も…うわっ」

 

 テムがエレカから落ちそうになるほど強引なターンで、ゴウは方向転換をした。

 アクセルを思いきり踏み込む。

 100キロほどまで加速し、車体に働くコリオリの力をねじ伏せながらエレカはガイが口にした方角へ走る。

 

「なんだこのバカみたいなスピードは! 殺す気か!」

 

 テムが口汚く罵るように叫ぶ。

 

「リミッターをはずしてあるだけだ。黙ってねえと舌噛むぜ!」

「ゴウ、このコロニーにはおまえ以外にも誰か生き残っているのか?」

 

 ガイが叫ぶように尋ねた。

 

「いや、生きてる人間は多分いねえな」

「どういう意味だ?」

 

 ハヤトが静かに問うた。

 

「2、3日前からだ。死体が消えるんだよ」

「なんだと?」

 

 ガイが応えた。

 

「明日埋めてやろうとしてた人間の死体が消えたんだ。…誰かが運び去ってるみたいでな」

「…おまえと同じことをしようとしてたんじゃないのか?」

「昨日だ。ついにそいつらに襲われた。おまえと同じジオンのパイロットスーツ着ていたぜ」

 

 グリーン・ノア1から少し離れた宙域にいたチベ級か、とガイは思いを巡らせた。

 

「ジンのおっさん、ハンドル頼むぜ。そこの角を曲がって300メートルほど行くと死体がたくさん転がってる場所がある。奴らの目的地は多分そこだ」

 

 ゴウは勝手にハンドルを手放すと、後部座席のガイとテムを押しのけ荷台に積まれていた機関銃を引っ張り出した。

 黙ってハンドルを預かったハヤトが全く減速せずに角を曲がる。

 100メートルほど走ると、ストレッチャーを動かしながら移動する白衣を着た数名の人影が見えた。

 

「エレカを止めろぉぉぉ!」

 

 ハヤトがブレーキを踏むと同時に、機関銃を構え荷台に仁王立ちしたゴウがトリガーを引いた。

 空気を裂いて飛ぶ無数の弾丸で、医療従事者と思しき白衣の人影が銃撃音をBGMに跳ねるように踊る。

 彼らが踊り疲れて倒れると、ゴウはようやくトリガーを戻した。

 

「貴様、いきなりなんてことをする!」

 

 ガイに殴り飛ばされたゴウはエレカから地面に叩きつけられた。

 ガイはエレカを飛び降り蜂の巣にされた死体に駆け寄った。

 死体は頭部や四肢を吹き飛ばされ穴だらけになっている。

 ガイは怒りに燃えて、平然と立ち上がるゴウを睨みつけた。

 

「ゴウ、貴様どういうつもりだ! 民間人をこんな無惨な目にあわせやがって!」

「50億人殺したジオンが言うセリフじゃねえな。それに、今は自分の命の心配した方がいいんじゃねえのか」

「ガイ君、後ろだ!」

 

 テムの声で振り返ったガイに、異形の怪物となった死体が襲い掛かかろうとしていた。

 頭部を半分吹き飛ばされた死体は腹にある牙の並んだ巨大な顎をさらし、別の死体は頭部から無数の触手を伸ばしガイの身体を絡めとろうとしている。

 そして、機械の腕に巨大な砲口を備え、6本腕の怪物と化した死体。

 いずれもその顔に生気はなく、これでもかとばかりに眼球を剥きだしにしたその姿は地獄からの亡者と言ってよかった。

 

「伏せろ、ガイ」

 

 静かな一言の後、ハヤトが荷台に積まれていた2丁のマシンガンを両腕で斉射した。

 すんでのところで地に伏したガイの身体の上を、無数の弾丸が飛び怪物たちを再び蜂の巣にした。

 

「ゴウ、敵を撃つならとどめは徹底的に刺せ」

 

 硝煙を上らせる機関銃を下ろし、ハヤトが言った。

 ゴウはハヤトの足元の荷台をまさぐり何かを探す。

 

「そうだな。肝に銘じておくよ。ガイ、早くこっちへ来い」

 

 言いながらゴウは手りゅう弾の安全ピンを咥えて抜くと、立ち上がろうともがく怪物に向けて放り投げた。

 

「ひっ」

 

 エレカに駆けこもうとするガイを待たずに、運転席に戻ったハヤトはアクセルを踏む。

 ドワォ!

 四人は背中に爆風を感じながらその場を走り去った。

 

「こらぁぁ、ゴウ、なんじゃアレはー!」

 

 かろうじてエレカにしがみついていたガイが絶叫する。

 

「知るかよ。見てのとおり化け物だ」

「…死体を改造した兵士…サイボーグゾンビだな。…人がするべきことではない」

 

 テムが怒りを押し殺した声で静かに言った。

 

「ジオンの奴ら…あんなものを作ってまで戦争を続けるつもりか。まったく正気の沙汰ではない」

 

 テムの冷静な怒りにガイは思わず吠えた。

 

「待て。そんなはずはない。…そりゃジオンはコロニー落としなんてまともじゃねえこともやったが…いくらなんでも人をあんな化け物にしてまで戦争をするはずはない」

「じゃあアレは何だって言うんだ」

 

 ゴウがガイを睨み据えた。

 

「それは…だが、ジオンがあんな酷いものを造るわけはない。絶対にないんだ。オレの故郷を馬鹿にするな」

 

 ガイが悲痛な声で叫ぶ。

 

「なら、ジオンには人ならざる悪魔が入り込んでいるということだ。…私の話を信用する気になったか?」

 

 運転席のハヤトがガイに向けて静かに言った。

 

「何の話だ?」

 

 尋ねたゴウを無視してハヤトが言葉を続ける。

 

「ジオンの奴らはサイボーグゾンビの材料にするためにここの人間の死体を回収している。それはガイ、おまえが知るまっとうなジオン公国軍じゃない」

 

「そしてそいつらは、あのモビルビーストの持ち主って訳か」

「そういうことだ、ゴウ」

 

 ハヤトは踏み込んだアクセルを緩めることなく答えた。

 

 

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