機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第3話 鋼鉄の戦士

 

 

 突然、四人の乗るエレカの数メートル脇で爆発が起きた。

 横転しそうになるエレカをハヤトが強引にねじ伏せる。

 

「見つかったぜ。奴ら撃ってきやがった」

 

 肩に象の頭部を持つモビルビースト…『マンモス』が歩を進めて後を追ってくる。

 

「ジン君、未開発エリアまで逃げ切るんだ。隔壁の向こうにはあれがある」

 

 120ミリの巨大な弾丸が次々と地面を穿つ中を、エレカが疾走する。

 住宅街を抜けて森林地帯に入った。

 木陰を走るエレカを見失ったモビルビーストの歩みが遅くなる。

 エレカは、コロニーの創造中エリアを封じている直径6キロを超すとてつもなく巨大な鉄の栓のふもとに達した。

 

「右だ。50メートルほど走れ。そこに入り口がある」

 

 ゴウの言葉に従ってハヤトはさらにエレカを走らせた。

 何の変哲もない栓の壁面の前でエレカを止めさせたゴウは素早く飛び降りると、壁の一部に幾度か触れた。

 壁面の一部がスライドして、隠されていた電子ロックのキーパネルが現れる。

 ゴウはとてつもなく長いアルファベットと数字の羅列を素早く打ち込んだ。

 一拍おいて、最後のキーワードを打ち込む。

 

 G・A・N・D・E・R・_・R・Ⅹ・-・7・6。

 

 ゴウがエンターキーを叩くと、軽い振動とともに巨大な鉄壁の一部がスライドをはじめ、エレカごと通れる通路が開いた。

 

「ゴウ…君は何故このパスワードを知っている?」

 

 テムはゴウの手際よい動きに呆然としながら問うた。

 

「おれのハッキング能力をあんたの息子と同レベルと思うなよ。…この鋼鉄の栓の向こう側…おれはこのコロニーに来て半年ばかりだが、こんな怪しさ全開のところが気にならねえ訳ねえだろ。よし、行け。ジンのおっさん」

 

 ゴウはエレカに戻りハヤトを促した。

 

「待て」

 

 アクセルを踏み込もうとするハヤトをガイが遮った。

 その表情は硬く、ひどく思い詰めている。

 

「…ジンさん。本当にオレが行ってもいいのか。…オレはジオンの人間だぞ」

 

 ハヤトは静かにガイを見返し言った。

 

「地球人も宇宙移民者も関係ない。おまえが人間のために戦うと言うなら私と来い。…そして、私たちにはおまえの力が必要だ」

 

 ガイはハヤトのその言葉をかみしめた。

 

「急ぎたまえ、ジン君。モビルビーストはすぐにここを襲いに来るぞ。それまでにあれを起動させてここを脱出せねばならん」

 

 テムの言葉に、ハヤトはアクセルを踏み込んだ。

 

 人工の大地であるコロニー内を居住可能エリアと創造中の開発中エリアに分ける鋼鉄の栓は、50メートルもの厚みがある。

 非常灯のわずかな光が並ぶ狭い通路をエレカが走り抜けると、そこは何もなくただひたすら広い野戦演習場だった。

 上空…コロニーの中心部に雲も発生していないため、荒れ野の地平線は上空へ向けて弧を描き、天頂で繋がり円を描いている。

 土と瓦礫と砂ぼこりが天まで繋がるだけの景観は、人が密集して暮らすコロニーで生きる宇宙移民者にとっても異様な光景だった。

 ハヤトはエレカをさらに100メートルほど走らせて、見るからに重厚で頑強そうな建物に辿り着いた。

 広く大きい5階建てのビルの屋上部に、背の高い管制塔が生えている。

 演習場として使われていたこの未開発エリアのすべてを管制する、司令塔のような施設なのだろう。

 

「ヒョッホー!」

 

 勝手知ったる様子のゴウが嬉々としてエレカを飛び降りた。

 開きっぱなしのドアからずんずんと中に入っていく。ハヤト、テム、そしてガイが後に続いた。

 薄暗い通路の先の閉じられた重い鋼の扉の前で、ゴウは後からやってくる三人を待ち構えていた。

 

「ジンのおっさん。この先にあるものだろ? あんたが言う忘れ物ってのは」

「そのとおりだ。この状況を打破できる唯一無二の力だ」

「大げさだな…と言いたいところだが確かにそいつは嘘じゃねえな。乗ってみたおれにはよくわかるぜ」

「おまえ…あれに乗ったのか?!」

 

 テムが血相を変えて叫んだ。

 

「落ち着けよ。おれが乗ったのはあれの操縦シミュレーションマシンだ。だが、あれが化け物だってことは良くわかったぜ」

「ちょっと待て…おまえたち何の話をしてるんだ」

 

 戸惑いながらガイが口をはさむ。

 

「こいつの話だよ」

 

 ゴウが扉を開くボタンを押しながら答えた。

 左右に割れていく扉の向こうから光が差し込んでくる。

 そこは五階分の高さが吹き抜けになった巨大な格納庫だ。

 扉から中に立ち入ったガイたちの眼前に、巨大なハンガーベッドを背にした物言わぬ巨人が静かに屹立していた。

 上半身が赤く、腰から下が青く染められた細身の巨人。

 

「RX-76・ガンダー。地球連邦軍が生み出した超々最高機密のモビルスーツ。だろ?」

 

 ゴウ・ジュウモンジは興奮を隠さずガイたちを睥睨した。

 

 「これが…連邦軍のモビルスーツ…か?」

 

 ガイが巨大な人型のマシンを見上げながら呟いた。

 ガイは一週間ほど前、ルナツー近郊の小惑星上でシャア・アズナブルのムサイへの補給作業中、後にジオン軍内で『木馬』と呼ばれる宇宙戦闘艦からの攻撃を受けた。

 その時に、ガイは『ガンダム』を間近で見ている。

 白をベースにトリコロールに塗り分けられた連邦軍のモビルスーツは、ガイの上官であるガデム大尉の駆るザクⅠと交戦しこれを撃破した。

 『ガンダム』は工業製品の趣とヒロイックさを強く感じさせる、ジオンのザクとはまるで異なる機体だった。

 だが、今ガイの眼前にあるモビルスーツはその『ガンダム』とも全く趣が異なった。

 それは、何処から突っ込んだらいいのだとガイに自問させるに十分な外見をしていた。

 真っ先に挙げるべきなのはやはり、右腕に装備されているドリル、だろう。

 そう、ドリルだ。

 雄々しく乱暴なそれは他に例えようがない。

 そして、機体全体のシルエットだ。

 

「…女の、身体か?」

 

 ガイは思わず呟いた。

 真紅の上半身には女性の胸部を思わせる二つのふくらみがある。

 頭部には眼鼻と口までついた細面の顔があり、微笑むでもなく静かな表情をたたえている。

 青く染められた下半身もどこかいびつながら細く華奢で、くびれた腰部とあわせて女性的なラインを構成している。

 さらにガイは気づいた。

 機械で造られた艶やかな機体の背面には、身長に匹敵する二本の巨大なノズルを持ったバックパックが装着されている。

 機体本体との違和感が甚だしい。

 

「…なんで、モビルスーツが女の身体をしているんだ?」

 

 ともにモビルスーツを見上げているハヤトにガイは尋ねた。

 

「…さぁな。設計者の趣味がボインちゃんだったんじゃないのか」

「おい、ジン君。私は別に胸の大きな女性が好みという訳ではないぞ…」

 

 ぶっきらぼうに答えながら整備士用の作業室へ足を向けるハヤトを、テムが追いかけながら叫んだ。

 

「ガイ、おれたちも行くぜ。あっちにこいつのシミュレーターがある」

「…オレにこいつに乗れって言うのか?」

「こいつは三人乗りなんだ」

 

 言い捨てると、ゴウもさっさとハヤトたちを追う。

 

「三人乗り…?」

 

 ハヤトたちに追いついたガイはともに作業室とその先の通路を抜けて、シミュレータールームへ足を踏み入れた。

 3メートルはあろう強化プラスチック製の球体がシミュレーターマシンだろう。

 こればかりは一目でわかる程にジオンのものと酷似している。

 

「ガイ、30分でガンダーの乗り方を覚えろ。ゴウ、シミュレーターの使い方をレクチャーしてやれ。テム博士、我々はガンダーの出撃準備を」

 

 ハヤトは冷徹な声音で命令を下した。

 テムが血相を変えて反論する。

 

「出撃? まさかと思っていたがガンダーであのモビルビーストと戦おうと言うのか? バカな!」

「では、博士はガンダーでどうするつもりだったんです?」

「決まっている。ガンダーでルナツーまで戻るんだ。君だってそのつもりだっただろう」

「ジオンと戦闘になりつつある状況で我々がサイド7を脱出しても後を追われる。ガンダーが追い付かれることはないにしても、ルナツーに敵を招き入れることになる。そしてルナツーの戦力ではモビルビーストを倒すには圧倒的に力が足りない。ガンダーも長距離移動した後に奴らと戦うのではあまりに不利だ。ここで奴らを撃破する以外にないでしょう」

「チベ級の高速重巡洋艦が控えているんだぞ。ガンダーだけでそれも墜とそうと言うのか? 無茶もいいところだ!」

「…テム大尉。この程度の無茶も通せない機体なのか、ガンダーは」

 

 恫喝に近いハヤトの静かな一言にテムは言葉を失った。

 

「ジンのおっさんの言ってることは理屈が通ってると思うぜ、アムロの父ちゃん」

 

 ゴウがわざと、のほほんとした声でテムに言った。

 

「ゴウ、ガンダーは三人乗りだ。ガイ君と君がパイロットの勘定に入っているんだぞ」

「やるしかねえならやってやるさ。そうだろ、ガイ」

 

 ゴウの問いかけにガイは答えあぐねた。

 

「だいたいだ、テムのおっさん。尻尾を巻いて奴らから逃げ出そうにもだ、ガンダーは三人乗りだろ? 一人定員オーバーじゃねえか。あんた、おれの代わりにここに残るかい」

 

 ゴウもまた、野獣のごとき強い眼差しでテムをすくませる。

 

「…ええい、私の造り上げたガンダーは無敵だ。こんなところでやられることがあったら君たちパイロットの責任だ! 行くぞジン君! ガンダーの最終チェックだ!」

 

 テムは半ばキレ気味でシミュレータールームを出て行った。

 ハヤトがほんの一瞬、鉄面皮に似合わぬ柔らかな眼差しをゴウに向けてテムの後を追った。

 

「さぁて、ガイ君。こっちも始めようか。しかし30分で何とか出来るかな?」

 

 ゴウのおちょくった言い回しにガイはムッとする。

 

「こう見えてもオレは元宇宙戦闘機乗りで、モビルスーツのテストパイロットも長くやっていたんだ。無茶なOSには慣れてる。見くびるな」

「へええ、やる気じゃないの、ガイちゃん」

 

 ガイは押し黙った。

 モビルスーツパイロットとしてのプライドからそう答えたものの、ガイの中の同胞と戦うことへの躊躇はまだ払しょくできてはいなかった。

 そんなガイの心中を見透かしたようにゴウが口を開く。

 

「あらためておれの意見を言っておくぜ。ジンのおっさんが言うとおり、あのジオンの奴らはまともじゃねえ。人の心ってものを持ってねえ。そしておまえも殺す気だ…例えおまえがジオンの人間だとわかってもな。…それでも戦わねえって言うのか?」

 

 正面から自分を見据えてそう言うゴウに、ガイは返す言葉もなかった。

 理屈はそのとおりだ。

 だが。

 

「ええい、もういい。とにかくおまえはこいつをかぶれ。で、ガンダーのコクピットに座ってろ。戦闘はおれがやる」

 

 ゴウはシミュレーターと無数のコードで繋がった釜のようなヘルメットを乱暴にガイにかぶせた。

 

「何だコレは!」

「教育型コンピュータ…電子頭脳だよ」

 

 モビルスーツのテストパイロット時代にジオンでも聞いたことがある。

 パイロットの動きを学習し以後の戦闘で最適な動きを可能とする、自ら学ぶコンピューターシステムのことだ。

 

「あ、おまえが思ったのとは多分違うぜ。脳みそに無理やりガンダーの操縦方法を流し込んでくるんだ。ホントに教育型コンピュータだよな」

 

 ゴウはシミュレーターのカプセルにガイを蹴り込むと乱暴にハッチを閉めた。

 

「座ってりゃいいとはいえコイツは相当に癖のあるシステムを積んだ機体だ。とにかくチュートリアルを味わってこい。…吐くなよ」

 

 ゴウは凶悪な笑みを浮かべながら呟いた。

 

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