『…いいか、ガイ、ゴウ。ガンダーRX-76は三機のコアファイターで構成される、ザクとはまったく異なるコンセプトのモビルスーツだ。その汎用性はザクをはるかに凌駕する。それは三機のコアファイターが異なるフォーメーションで合体することにより、戦況にあった形態に変化することができるからだ。ガンダムやガンキャノン…ああ、ガンタンクもか、アレに搭載されているコアブロックシステムなぞ、ガンダーのシステムの低予算劣化版にすぎん。ついでに言えばRX計画の予算が天井知らずになった理由は9割がたガンダーのせいだ。…ガンダーの変形合体機能を使いこなすことができれば、ザクの50機や100機はものともしない。私が保証する。…だが、いかんせん今はパイロットがジン君以外素人だ。そこまでの戦闘能力は引き出せん。あらためて言う。ガイ、ゴウ、君たちはコクピットに座っているだけでいい。全てジン大佐に任せろ。それで十分、ガンダーは勝利することができる。わかったな』
「ちょっと待てテムのおっさん!」
ガンダーは今、コロニー内の人工の大地と外殻の間の空間に設けられた架台で、鋼鉄の栓の下を居住可能エリアへゆっくりと水平移動している。
そのコクピットから、ガンダー専用のパイロットスーツを身に着けたゴウが司令塔にいるテムを怒鳴りつけた。
「何もするなもなにも、どうしておれがメインパイロットじゃねえんだ。おれが乗ってるのは1号機だろ、どう考えたっておれが主役だろーが!」
『今のガンダーの形態は2号機のジン大佐がメインパイロットの第2形態だ。君は大人しく下半身を担当していろ』
「第2形態は高速長距離巡航形態だろーが! そんなんでコロニー内で戦えるか! おれにやらせろ!」
『黙りたまえ。素人にメインパイロットなぞ務めさせるわけにはいかん』
「おれのシミュレーターの成績見てねえのか!」
『そんなものがあてになるか。そんなことよりジン大佐の操縦で気を失わないよう覚悟しておくんだな』
なんだとてめえ、とゴウががなり立てるモニター通信を切って、テムは架台の移動状況を確認した。
ガンダーを載せた架台は居住エリアの地表部への垂直移動に移行している。
ゴウの指摘はもっともなことだった。
ガンダー第2形態はモビルスーツ形態ではない。
姿勢制御用AMBACシステムがたまたま手と足に見える位置に配置されているだけだ。
この形態は、背中に背負った3号機の圧倒的な推力で安定した長距離移動を可能とする『ガンダー・フォートレス』と呼ばれる移動要塞形態に過ぎないのだ。
例えジン・ハヤトが超人的と言える操縦技術の持ち主であっても、この形態で…ザクをはるかに凌ぐ挙動を見せるモビルビーストに勝てるのか。
だが、すでに賽は投げられた。
今は、彼と、自身が創り上げたガンダーを信じるほかはない。
『あと20秒で内壁…地表に出るぞ。いいな』
テムはモニター通信のスイッチを入れ一方的に言い捨てた。
「ジンさん、一つだけ確認だ。…モビルビーストに乗ってるのは本当におれの仲間じゃないんだな?」
「あんな化け物に乗れるのはサイボーグゾンビだけだ」
「…わかった。ジンさん、お手柔らかに頼むぜ」
3号機のガイが言った。
『ジオンのテストパイロットはシミュレーターでゲロゲロになるようなヤツだからな。小便漏らさねえようにしっかり股を閉めとけ』
『なんだとゴウ、このガキ!』
ガイとゴウの子どものようなやり取りにテムは溜息をついた。
「もうやめたまえ。…ジン大佐、ガンダー、地表に出るぞ」
テムは諦めたようにハヤトに言った。
居住可能エリアの三体のモビルビーストのうち、『マンモス』と、猛獣を模した下半身を持つ『ゴーゴン』は、鋼鉄の栓の前でこれを破壊せんものと攻撃を繰り返していた。だが、分厚すぎる隔壁はなまなかな武器ではまるで歯が立たない。
一方、ゴリラ型の『森の賢人』は、RⅩ計画のお宝はないかと灼熱で燃え尽きた残骸をしらみつぶしに漁っていた。
『森の賢人』のすぐそばにあった、民生用に偽装された大きな倉庫の屋根が割れた。
鋼鉄の乙女がグリーンノア1の大地に立った。
『森の賢人』は突如現れた巨人に動揺する。
「一気に片付ける。行くぞ、ゴウ、ガイ!」
ハヤトが躊躇なくスロットルレバーを押し込むと、ガンダー・フォートレスの背面ブースターが火を噴き『森の賢人』の懐に入った。
そのまま、うなりを上げる右腕の巨大なドリルを『森の賢人』の胴体に貫通させる。
ヒットアンドアウェイを絵に描いたような動きで、ガンダーは『森の賢人』から飛びすさった。
「何考えてるんだ、ジンさん! コロニーにもう一つ穴をあける気か!」
『大丈夫だ、ガイ。このおっさんはそんなヘマはしねえよ。コクピットだけを正確に抉り取ってやがる。それより後ろだ、ジンの旦那!』
数百メートル離れた鋼鉄の栓のふもとから、『ゴーゴン』がとてつもない跳躍力でガンダーに襲い掛かった。
ガンダーは振り向きざまに胸部の膨らみに内蔵されたメガバルカンで牽制しつつ、『ゴーゴン』の真下を駆け抜け距離を取る。
着地した『ゴーゴン』の上半身のザクが身体を捻ってマシンガンを乱射してきた。
「…フン」
ガンダーを振り返らせたハヤトは、右腕のドリルを傘のように展開し回転させた。
シールドへと転じたドリルはザクマシンガンの銃弾を弾き返す。
『ゴーゴン』が再び跳躍してガンダーに襲い掛かった。
ガンダーはスラスター全開で上空へ飛ぶ。
ガンダー・フォートレスのスラスターの推力には直径6キロメートルの距離などないに等しい。
対岸まで届く跳躍をしたガンダーはグリーンノア1の中心で機体を反転させ、脚部を下にして天井だった大地に着地した。
と同時にもう一度スラスターを全開にしてジャンプし、戦場へ舞い戻る。
「ジンの旦那、長距離移動用の第2形態じゃ不利だ。オレに変われ」
ゴウからの通信をハヤトは鼻で笑った。
「シミュレーションでうまくできたくらいで調子に乗るな。奴らは怪物だ。おまえごときに何ができる」
「言ってくれるじゃねえかこの野郎。行くぜガイ、チェンジだ!」
「なにっ」
ハヤトが思わず叫んだ瞬間に、コクピットに予想外のGがかかり、ガンダー・フォートレスは爆発した。
いや、ハヤトの乗る上半身を構成する2号機、ゴウの乗る下半身を受け持つ1号機、そしてガイの乗るメインスラスター役の3号機が分離したのだ。
その衝撃だけで、並みのパイロットなら失神…さらには内臓がひしゃげていただろう。
「ぬおおおおおお」
突然狭いコロニー内に放り出されたガイは、内壁という大地へ激突しようとする3号機を必死でねじ伏せた。
思わず減速する。
次の瞬間、アラートが鳴り響いた。
『ゴーゴン』の上半身が放つザクマシンガンの弾幕を錐もみしながら回避し、安堵する間もなく今度は進路上にいるゴウの1号機とニアミスする。
「行くぞ! 合体だ!」
「うひぃぃぃ」
3機のコアファイター全てがコロニー内の狭い空間を高速で飛び回っていた。
だがそれは、コロニーの内壁に激突しないよう、その場しのぎに乱舞しているだけだ。
無茶苦茶な動きゆえに『ゴーゴン』からの攻撃もかわせているが、人口の大地か河と呼ばれるミラー、 あるいは互いの機体と衝突するのは時間の問題と言えた。
「…やむを得ん。おまえたち、ついてこい」
ハヤトは真紅の2号機の進路をコロニーの大地へと向けた。
機首のドリルが高速回転を始める。
2号機は大地に激突し、盛大に砂煙を上げさせた。
舞い上がった砂煙が、しかしビデオの逆回転のように大地へ吸い込まれていく。
ドリルで突貫したコアファイター2号機はグリーンノア1の外壁まで突き破り、宇宙へと続く巨大な穴を穿ったのだ。
「ジンさん! あんた、なんてことを!」
激高したガイが吠えた。
コロニーの破壊。
それはスペースノイドにとっては自らが生きる大地を冒涜する悪魔の所業だ。
「落ち着けガイ! この程度の穴がもう一つ増えたところでコロニーの被害に大差はねえ。それより、あの穴から外に出ろ!宇宙で合体だ!」
ゴウの冷静な判断にガイは我に帰った。
渦を巻いて空気が流出していく宇宙への洞窟にコアファイター1号機が突っ込み消えた。
ガイも後に続く。
三機のコアファイターのうちもっとも大型の3号機は運動性能も低い。
だが、ガイは双胴の巨大な3号機を駆り宇宙に飛び出した。
「よし、二人とも外に出たな。もう一度合体して奴らを叩くぞ」
ハヤトは内心ゴウとガイに感心しながら冷静に指示を出した。
コロニーの内壁に衝突しないよう操るのが精一杯の状況から機体をコントロールし、宇宙へ続く穴に飛び込む。
相当の技量と度胸がなくてはできない技だ。
「だからジンの旦那、おれにやらせろ! コロニー内での陸戦ならおれのガンダーだ!」
「…そうでもないようだぞ。見ろ」
コロニーの外壁に火柱が上がり、また新たな穴が穿たれた。その穴から、『ゴーゴン』と『マンモス』がその異様な姿を現す。
ガイがさけんだ。
「三時の方向、接近する熱源体5つ! 通常の三倍の速度だが…こいつはザクだ!」
ハヤトは瞬きするほどの間で置かれた状況を冷静に分析する。
「…ゴウ、こういう状況だ。貴様なんとかできるのか?」
「おお、なんとかしてやるぜぇ! おれのガンダーは空間戦闘にも向いてる。任せろ!」
「…この程度の状況を覆せんようならガンダーのパイロットの資格はない」
ハヤトは静かに命令した。
「本気かよ、ジンさん」
ガイが不安気に尋ねる。
「これから地獄を見てもらうと言った筈だ。おまえにもな」
その言葉に、あきらめて腹をくくったガイがサブモニターに映るゴウに叫んだ。
「ゴウ、射線軸をおれの3号機にあわせろ。今、ドッキングサーチャーを連動させる」
「馬鹿野郎、ガイ、こういうのは勘とノリと勢いでやるんだ!」
「ちょっと待てこのバカ!」
「フフ…」
小さく笑うハヤトの視線の先で、変形したコアファイター1号機と3号機が合体した。
荒っぽい合体ではあったが、超硬合金ルナ・チタニウムZ製の堅牢なボディには何の影響もない。
ハヤトも2号機を操り、鋼の巨人の背面に自機を合体させる。
上半身となった1号機の機首が後方へ折れ曲がり、デュアルアイに三本角のアンテナを装備した頭部が現れた。
2号機の推力を得たガンダー第1形態は、爆発的な推力を見せて宇宙を裂く。
「何処へ行く気だぁ、ゴウ!」
「先に雑魚を蹴散らす! メインディッシュはとっておきだ!」
それは初めて乗る実機の癖をつかむためのゴウの判断だ。
ガンダーは接近してくるザクの編隊に向けて、下腕部に装備されたハンディマシンガンを乱射した。
「ゴウ、そいつはルナ・チタニウムZ製の高価な弾丸だ。請求書はおまえにまわすぞ」
「…高いって一発どのくらいだ?」
ゴウは初めてビビりの入った声でジンに尋ねた。
「――来たぞ」
三倍で動くザクのマシンガンとバズーカの弾体がガンダーに襲い掛かった。
ゴウは急制動と急加速で回避する。
ザクやガンダムは手足を振り回すことで機体を制御するAMBACシステムを採用しており、それはガンダーも同様である。
同様ではあるが、ガンダーの四肢は他の形態を取った時にはその形態のメインスラスターとなる。
これを吹かすことで、より早く、強引で強力な姿勢制御が可能なのだ。
もちろん、機体にかかる負担は大きく、燃費は悪く、パイロットに求められる操縦センスも生半なものではない。
しかしながら、ゴウは3倍速のザクに無造作に突撃しキックを見舞った。
蹴り飛ばされた3倍速ザクに、体勢を整える時間を与えずハンディマシンガンを斉射する。
ザクは爆散した。
続けてガンダーは左腕を高々と掲げ銃撃を放った。
ノールックの正確な射撃で2機目の三倍ザクを撃墜する。
「どうだぁー!」
「フフ、なかなか大したものだが…ゴウ、四時の方向だ。友軍のビーコンが出ている」
ハヤトが言った。
「なんだと!」
ガイもモニターで状況を読み取った。
「コロニー間巡航艇だな…まずいぞゴウ、モビルビーストが一機、そちらに向かっている!」
「任せろ! 蹴散らしてやる!」
ガンダーは放たれた矢のようにコロニー間巡航艇『イッテル』へと飛んだ。
望遠で捉えた映像は、『マンモス』が右手に持ったヒートホークを操縦室に叩きこんでいた。
破壊された機器や人のようなものが次々と宇宙へと吸い出されていく。
半壊した操縦室を覗き込んでいた『マンモス』が、その蛇腹のような右腕を振り上げた。
「うおおおおー、この野郎!」
ゴウはガンダーごと体当たりして『マンモス』を弾き飛ばした。
ガンダーは『イッテル』の操縦室内を覗き込む。
こちらを見上げる連邦軍のノーマルスーツが見えた。
「…よし、無事だな。行くぞガイ、ジンの旦那。ヤツにとどめ刺しちゃる!」
ガンダーは再び弾かれたように『マンモス』に迫った。
ボディの頑強さにものを言わせて蹴りを入れ、殴りつける。
弾き飛ばされた『マンモス』をハンディマシンガンの標的に捕らえ、急制動を掛けた。
ゴウはトリガーを引く。
しかし、狙い撃った筈のルナ・チタニウムZの弾丸は『マンモス』がいた空間を虚しく飛び去った。
「生意気な野郎だ、何処に消えやがった!」
「後ろだ、ゴウ!」
『マンモス』の蛇腹の腕が長く伸びて、ガンダーの腕ごと胴体に巻き付いた。
異常な力でガンダーのボディが締め付けられていく。
「ヤバいぞ、ゴウ!」
機体が軋む音に囲まれガイが叫ぶ。
「舐めるなぁぁー!」
ガンダーは巻き付いた蛇腹の腕を内側から強引に引きちぎろうとパワーを込めた。
「ゴウ、無理だ。ガンダーのパワーでもこの体勢からじゃ破壊して逃げることはできねえ!」
「うるせええ! 行けえ! おれのガンダーは男の子ッ!」
ガンダーは蛇腹の締め付けを、内側から強引に引きちぎった。
同時にガンダーは分離する。
宇宙を舞う三機のコアファイターが再度合体した。
『マンモス』の背後を取ったガンダーは零距離からハンディマシンガンを叩きこんだ。
離脱したガンダーの背後で『マンモス』は爆発四散した。
「おっしゃあぁぁぁ!」
ゴウが咆哮した。
ハヤトはゴウの手際に一人満足げな笑みを浮かべながら、ミノフスキー粒子のノイズの中、『イッテル』に向けて発信をした。
『…宇宙船のパイロット。生きているか。そちらを戦闘には巻き込む気はない。そのまま待機していろ』
『イッテル』の生き残りからの返事を聞くこともなく、ガンダーはスラスターを全開にして三機の三倍ザクのもとへと飛び去って行った。
そのガンダーに向けて、宇宙空間を律儀に走って『ゴーゴン』が接近してくる。
「おお、いい度胸じゃねえか、怪物ヤロウ!」
ガンダーは両肩に外付けされたトマホークを左右の手でつかみ取った。
ゴウの怒声を乗せて、ガンダーも『ゴーゴン』に一直線に接近する。
「喰らええええ!」
トマホークの刃部分がピンク色に発光した。
高熱を帯びたミノフスキー粒子が放出されたのだ。
しかし、Iフィールド技術が追い付いていないガンダートマホークは刃型の放出口からミノフスキー粒子を垂れ流しているだけだ。
当然、稼働時間は10数秒と短い。
だが、それで十分である。
すれ違いざま、ガンダーの右手のビームトマホークが虎の頭を叩き割り、左手はザク部分を胸元から真一文字に両断した。
加速を切らさず飛び去るガンダーの背後で、『ゴーゴン』が爆発した。
「やったな、ゴウ!」
ガイも思わず叫ぶ。
「おお、ガンダー、こいつは最高じゃー!」
ゴウの喚声が宇宙に響いた。