NASAR内に緊急警報が鳴り響いた。
チベ級から発進した敵機がNASARへ…いや、ルナツーへ接近している。
「ですが…妙ですね。接近するスピードが遅すぎます」
作戦司令室内でミチルダがハヤトに言った。
「モビルビーストだな。迎撃されても落とされない自信があるんだろう」
答えながら、ハヤトは接近するモビルビーストが最後の一機であることを願った。
チベ級の艦内にモビルビーストが満載されているようでは、今のガンダーでは太刀打ちできるものではない。
「こちらが敵の攻撃圏内に入るまでどのくらいだ」
ハヤトはミチルダ中尉を伴ってガンダーの格納庫へと向かっていた。
「10分です」
ミチルダは簡潔に答えた。
ハヤトは冷静に、しかし速足で歩みを進める
ミチルダは意を決してハヤトに声を掛けた。
「ジン大佐。ヤマグチ中尉は精神的にかなりまいっています。今ガンダーに乗せるのは危険です」
「わかっている。優秀な奴だからこそ一度は落ち込むはずだ。これを通り過ぎれば、奴は一皮剥ける。行かせるんだ」
「しかし!」
ハヤトの返答はにべもない。
ハヤトはヤマグチ中尉が自室でいつも怯え震えていることを知らなかった。ガンダーの合体に失敗して圧死する妄執に憑りつかれているのだ。
二人はガンダーの格納庫に到着した。
「来たぜ来たぜジオンのやつらが! 第三戦闘ラインを突っ切った! うおっしゃあ、出撃だぁ野郎ども!」
3機のコアファイターが並ぶ格納庫内で、パイロットスーツに身を包んだゴウがはしゃいでいる。
「…ガンダーのパイロットにはとてつもなくタフなメンタルが必要ですね」
呆れたようなミチルダの言葉にハヤトは頷いた。
「ああ。ガンダーを乗りこなせるのは優秀なヤツかバカかだ!」
「ジン大佐!」
コアファイターに取りついていたソノバ・シノグ技師長がハヤトに声を掛けた。
「お断りしときますが2号機は今、扱いが困難です。応急修理はしきましたが、線が一本キレたヒステリーみたいなもんですよ」
「線が切れてるマシンに線のキレてるヤツが乗るのか。こいつはヘビーだな」
軽口を叩きつつ、さすがのゴウもその目は笑っていなかった。
「出撃命令が出ているのに何をモタモタしている!」
負のオーラを発しながら、ヤマグチ中尉が姿を現した。
「ヤマグチ中尉、行けるか?」
ハヤトが問うた。
「自分は何ともありません!」
ヤマグチ中尉は叫ぶように答えた。
「中尉、顔色が悪いぜ?」
ゴウがそう声を掛けると、ヤマグチ中尉は出撃の恐怖に歪んだ顔でゴウとガイに振り返った。
「言っておくがゴウ、ガイ、この出撃では命令はすべて俺が出す。いや、今後もすべて俺の指揮どおりに動け! 死にたくなかったら俺に逆らうことは許さん!」
「しっかりリーダーシップ取ってくれるなら誰も逆らわねえよ。おれたちだって中尉と同じく怖いんだ」
ゴウが静かに答えた。
「ヤマグチ中尉!」
さらにいきり立とうするヤマグチ中尉をハヤトが強く制した。
ミチルダはあらためて彼がまともでないこと強い不安を覚える。
「…ガイ少尉」
ミチルダは小さな声でガイを片隅へ呼び出した。
「シミュレーターで見つけたの。緊急コード099-2。他の機体から2号機のコントロールができるようになるわ」
「…わかった」
想像以上にシビアな出撃に、ガイは硬い声で答えた。
『格納庫ハッチ開け!』
『1号機、カタパルト接続完了まで15秒!』
『コアファイター1号機から、各機5秒間隔で発進!』
3機のコアファイターはそれぞれのパイロットをコクピットに収め、メインスラスターに力を込めていた。
命令と指示が飛び交い緊迫する管制室で、ハヤトとミチルダはガンダーチームの様を見つめている。
ハヤトはコアファイターの三人に向けて通信機のマイクを掴んだ。
『いいな、モビルビーストが第二戦闘ラインを突破するまであと70秒だ。格納庫で合体して出撃する余裕はない。発進後、速やかに合体しろ』
「了解、コアファイター1号機、発進する!」
解放されたスラスターからエネルギーを放出し、1号機が宇宙へと斬り込んでいった。
『2号機、どうした。発進しろ』
「りょ、了解」
真紅の2号機もNASAR基地から離脱した。
『ガイ、よろしく頼みます』
「了解。コアファイター3号機、出る!」
ミチルダの願いを受けて、ガイは3号機のスロットルを全開にする。
三機のコアファイターは編隊を組んで宇宙を駆けた。
「いいな、二人ともわかっているな。ヘマは許さんぞ!」
ヤマグチ中尉の怒声が響いた。
「…了解」
ゴウがムカつきをこらえながら大人しく答える。
「ガイ、返事はどうした! 上官に対する返答をせんか!」
「…了解」
ガイも大人しく答える。
「調子に乗りやがって、いつから上官になったんだよ」
ゴウはあちこちの不調を訴える1号機を制御しながら小さな声で吐き捨てた。
「ジン大佐、やはりヤマグチ中尉の様子が」
ミチルダがハヤトを見た。
「ここを乗り切らねばガンダーに未来はない」
しかし、乗り切ることができるか…あまりに分が悪い賭けであることはハヤトも痛感している。
「いたぞ! モビルビースト…!」
「…なんだアレは…」
ガイが思わず呟いた。
「ありゃあ河馬って動物だ。…背中に羽は生えちゃいねえがな」
ゴウの言うとおり、短い四つ足に大きな胴体、そしてふざけているかのような巨大な口とその中に生えた牙。
だが、背中には猛禽類の猛々しい羽根が生えている。
「陸戦用の機体を無理やり空間戦闘用に改造したってところか…1号機から2号機へ。ヤマグチ中尉、命令を!」
「…駄目だ! あんな怪物相手に戦えるか!」
「中尉、しっかりしろ! あいつと戦うためにガンダーは出動したんだろうが。命令を!」
「あ…よ、よし、ガンダー・タンクで」
「ふざけるな、一対一の戦いにタンクがあるか!」
「うるさい、命令に従わんか!」
「ゴウ、ガンダー・タンクだ。合体さえできればオレが何とかする」
ガイが言った。
「チッ、しょうがねえな。行くぜ、ドッキングサーチャー起動!」
「待て! ドッキングサーチャーは使わん! 手動で合体する!」
「何言ってやがる中尉! 訓練でも一度も成功してねえだろが!」
「うるさいゴウ、上官の命令に従わんか!」
「…ゴウ、やるしかない」
ガイが緊張した声でゴウに言った。
「ええい…!」
3機のコアファイターは合体のフォーメーションに入った。
だが。
「駄目だゴウ、2号機が加速して接近してくる! しかも軌道が定まってねえ!」
「またかよ! うおおおお!」
ゴウはすでに合体形態に変形し運動性の低下した1号機を必死で操った。
しかし、三機が互いに接近する速度は明らかに早すぎる。
「駄目だ、1号機のコクピットが潰される!」
ゴウが絶叫する。
「…!」
ガイは『緊急コード099-2』を打ち込んだ。
同時に、自身の3号機に最大出力の逆噴射をかける。
一瞬、コアファイター2号機の動きが停まり、次の瞬間メインスラスターが全力で火を噴いた。
2号機がいた空間を間一髪で1号機が上から駆け抜けた。
しかし、その後を追っていた3号機が逆噴射のバーストで1号機を焼いた。
それでも、コアファイター三機はかろうじて無事だ。
『ゴウ、ガイ、ガンダーは帰還だ。至急こちらに戻ってこい』
指令室のハヤトは賭けに負けたことを悟った。