機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第7話 戦う者たち

 

 格納庫が戦場となった。 

 もともと限界一歩手前で発進していたガンダーが、どの機体も無理な制動によりさらに損傷して帰還したのだ。

 しかしハヤトからは、三分後の再出撃が命令されている。

 そのハヤトは、ロッカールームでパイロットスーツへと着替えを進めていた。

 隆々たる筋肉には無数の傷跡が刻まれている。

 

「ジン君、その身体で出撃するのは本当に無理だ」

 

 テム博士がハヤトに声を掛けた。

 

「こうなった以上、私が行くほかはない」

「今度出撃すれば命の保証はない…サイド3を脱出するときに受けた傷は内臓もかなり痛めているのだろう? もし傷口が開くようなことがあったらその時は…」

「大丈夫です。私は死にませんよ」

 

 ハヤトはすでに覚悟を決めている。

 

 

 

 

「ゴウ、ガイ! ヤマグチ中尉は大丈夫なの?!」

 

 真空の格納庫に駆けこんできたミチルダは、3号機のコクピットを覗き込んでいるゴウとガイのもとへと飛んだ。

 

「ああ、幸せそうな顔でイッてるぜ。失禁してるな、コリャ」

「オレ、2号機フルスロットルにしちまったからなぁ…内臓がイッてたりしなきゃいいんだが…」

 

 ゴウはパイロットシートから引っぺがしたヤマグチ中尉を中空へと放り出した。

 

「さて、ジンさんはあと三分でコイツを再出動させると言ってる。どうする、ミチルダ中尉?」

「どうするって…ジン大佐は無理よ。あの人の身体は…」

「レビル救出作戦で重傷を負ったんだろ。そのぐらいはわかるぜ。となったら、なんとかできるのはあと一人だ」

 

 ゴウがミチルダを強く見つめる。

 ミチルダは全力で首を振った。

 

「聞け。戦闘はおれたちがやる。合体もドッキングサーチャーですます。アンタは2号機のコクピットでスイッチだけ入れてくれればいい。やれるな?」

「…駄目よ。私は…今度はあなたたちを」

 

 ミチルダが絞り出すように言った。

 

「時間がねえ。何があったか、簡潔に言え」

 

 ゴウが命令した。

 

「…レビル将軍救出作戦の時、私はミスをした。そのせいで…大勢の仲間が死んだ。みんな全身がバラバラになって死んでいった。まだ生きている仲間を追ってくる敵の前に置き去りにもした。ジン大佐も重傷を負った。ミスをした私だけが大した怪我もなくぬくぬくと生き残った…」

「だからもう戦えねえって言うのか」

 

 ゴウは乱暴に自分のヘルメットをぶつけ、バイザー越しにミチルダを睨みすえた。

 

「死んだやつらはあんたのことを恨んでいるかもしれねえ。あんたはあの世で袋叩きにされても文句は言えねえ。だが、それがどうした? 今のあんたにできることは死んでいったそいつらに自分の生き様を見せつけることだ。あの世で会った時に恥ずかしくねえように全力で生き抜くことだ」

 

 ゴウの視線は力強く、ミチルダを圧倒した。

 

「戦え。死んじまったそいつらのためじゃねえ。おまえ自身が生きていくためにだ」

 

 

 

 

 追いすがり訴えてくるテム博士に視線を向けることなく、ハヤトは格納庫への通路を進んだ。

 鉄扉の開閉スイッチを押す。

 だが、ドアは開かない。

 ロックがかかっているのだ。

 基地内スピーカーが、コアファイター三機が発進したことを告げた。

 

「! 誰が2号機を動かしている?!」

 

 

 『NASAR』を発進したコアファイターの編隊は再びモビルビーストへ向けて飛翔していた。

 

「どうだミチルダ? 2号機は行けそうか?」

 

 ゴウはミチルダに声を掛けた。

 

「今のところは。でもこの先どうなるかはわからないわ」

「そいつは上等だな。ゴウ、ミチルダ、チベ級から追加戦力が発進してモビルビーストに合流した。オレの見立てじゃガトル爆撃機とジッコ突撃艇が10数機、通常のザクらしい機体が5機、3倍推力のザクが3機だ。敵の指揮官は総力戦を決意したようだな」

「一対多ならガンダー・タンクだな…ミチルダ、ドッキングフォーメーションに入る。ドッキングサーチャーをしっかり見ててくれ」

 

 ゴウの言葉が終わらぬうちに、コアファイター2号機は隊列を崩し進路を変えた。

 

「おい、ミチルダどうした!」

 

 コアファイター2号機は数百メートルはある岩塊を見つけると、静かに着陸した。

 

「ゴウ、ガイ。ドッキングサーチャーは使いません。手動で合体してください」

「なんだと?」

「2号機のサブスラスターがかなりイカレています。ドッキングサーチャーを使用しても機体がぶれて合体は困難です。こちらはここに固定します。そちらのタイミングで合体を」

「待てよミチルダ中尉、ゴウが失敗したらアンタ、岩と1号機に挟まれてぺしゃんこだぞ」

 

 ガンダーの合体は三機の速度を同調させてこそ可能となる。

 停止した機体に突っ込むのは自殺行為と言っていい。

 

「駄目になるのが2号機だけならテム博士が何とかしてくれるはずです。時間がありません。早く合体を」

「わかった。やるぜ、ガイ」

「…承知した!」

 

 ゴウの静かな答えにガイが吠える。

 コアファイター1号機が変形を開始した。

 2号機上面へ機首から突っ込み、メインスラスター部を砲身のように前方へ向け、分離した機首が2号機の後部に合体し、ガンダー・タンクの胴体へとその形状を変える。

 3号機は双胴のボディを腕部へと展開し、機首から頭部を露出させた。

 三機は合体シークエンスへと移る。

 

「行けぇ、地獄へのエレベーターじゃ!」

 

 ハヤトたちが固唾を飲んでモニターを見つめる中、ガンダー・タンクの雄姿が宇宙に顕現した。

 間髪を入れず、ブースター役を務める2号機がメインスラスターを全開にし、ガンダー・タンクは真空の空を疾駆する。

 

「ちょっとだけ揺れます。舌をかまないように!」

 

 どこがちょっとだと怒鳴り返すこともできないほど、機体が激しく振動する。

 ガンダー・タンクはジオンの編隊に向けて突撃を開始した。

 全てのスラスターが異常ななか、ミチルダは出力バランスを調整し機体を安定させた。

 ジオンの編隊の中に突撃する。

 

「一気に決めろー、ガイ!」

「おお! くらえ、ガンダーストームじゃあ!」

 

 ガンダー・タンクの太い下腕部に内蔵された数百発の小型ミサイルが一斉射された。

 鉛筆ほどのサイズのミサイルながら、その威力はモビルスーツの四肢くらいは簡単に吹っ飛ばし粉砕する。

 おまけに熱源探知で目標に命中するまで追尾し続ける執念深いミサイルだ。

 いくつもの光芒が生まれ、ジオンの編隊はあえなくデブリと化した。

 だが、その中にまだ動くものがいる。

 翼を得た『河馬』だ。

 

「さすがだな、怪物め…ガイ、おれがやる。変われ!」

「おいしいところ取らせるかよ、このままオレがやる!」

 

 ガイの叫びとともに、ガンダー・タンクの肘の半球体の装甲が分離した。

 左右のそれを合体させると球面に太い棘が生え、内蔵されていたチェーンが伸び、巨大なモーニングスターが完成した。

 

「くらえ、ガンダーハンマー!」

 

 『河馬』へと突進したガンダー・タンクは迎撃の弾丸をものともせず、『河馬』の開いた巨大な口の中に鉄球を叩きこんだ。

 動力炉を直撃された『河馬』の機体が爆圧で内部から膨れ上がる。

 

「おっしゃあああ!」

 

 勝鬨を上げるガンダー・タンクの背後で、モビルビーストが巨大な爆光となった。

 

『油断するな、おまえたち。チベ級が動き出した。こいつも撃沈できるか?』

 

 通信機からハヤトの声が聞こえた。

 

「おれに任せろ! ガイ、ハープーンミサイルをおれにまわせ。ぶっ潰しちゃる」

「はずすなよ、ゴウ」

「誰にモノ言ってやがる!」

 

 最大望遠でスコープに捕らえたチベ級めがけて、ゴウはトリガーを引いた。

 ガンダー・タンクの腰の砲身から2発の大型ミサイルが発射された。

 しかし、ミサイルはチベ級の艦体にかすりもせず飛び去って行く。

 

「口ほどにもねえな、ゴウ!」

「うるさい、こんなガタガタな機体で的が絞れるか! ガイ、おれに変われ、今度こそぶっ潰してやる」

「駄目よ」

 

 ミチルダが冷静な声で割り込んだ。

 

「ガンダー・ダムには艦船を墜とせるだけの火力はないわ。無駄です」

「そうだな。ガンダー・ダムはモビルスーツに対応した接近戦用の形態だ。戦艦攻撃には向いてない」

「だーっ、おれの機体をその名前で呼ぶな! いいからおれにやらせろ!」

「ガイ、ゴウ、私に。フォートレスで一気に決着を着けます」

「…やれるのか、ミチルダ中尉?」

「ありがとう、ガイ。やります」

「よし、ゴウ、分離する。フォートレスに再合体だ」

「チッ、また下半身かよ」

 

 ガンダー・タンクは三機のコアファイターへと分離し、ゴウは愚痴りながらも自身の機体を変形させた。

 戦姫へとその姿を変えたガンダーは最大速度でチベ級に接近する。

 

「…ゴウ」

 

 激しく振動するコクピットで、ミチルダは呟くように言った。

 

「ありがとう」

 

 フォートレスの右腕のドリルが最大速度で回転し、ガンダーは戦乙女の姿に似合わぬ猛々しさでチベ級のエンジンに突貫した。

 ミノフスキー核融合炉が爆発するより早く、チベ級の艦体を貫き通る。

 ガンダーは急制動を掛けるとチベ級を振り返った。

 この戦いで最大の爆発がガンダーと三人を照らした。

 

「ふぃー…どうやら生きてるようだな。手の震えが止まらねえぜ」

「すみません、ゴウ。怖かったですか?」

「バカヤロー、オレを誰だと思ってる?!」

「いや、ビビってたんだろ、ゴウ?」

「…まぁ、まさかエンジンにぶっこむとはさすがのおれも思ってなかったからな」

 

 三つのコクピットの通信用モニターに映像が入った。

 

『…おまえたち』

 

 弛緩していた三人はモニターに映ったハヤトの顔を見て戦慄した。

 

「ジン大佐殿、いや、これは…あまりの緊急事態にミチルダ中尉の協力を仰いだところ…」

 

 ゴウは思わずしどろもどろになりながら言い訳を口にする。

 

『…とりあえずよくやったと言っておく』

 

 

 そんなゴウを無視してハヤトは怒鳴った。

 

 

『まずは三人とも基地に帰ってこい!』

 

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