問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん
今回で第4章は終了です。
“アンダーウッド”での激戦から二日後レティシアは目を覚ました。
(ここは………)
取り敢えず辺りを見回して見るとどうやら宿舎の一室であった。
「お、起きたかレティシア」
そしてレティシアは分厚い紙の束とペンを持った蘭丸に呼びかけられる。
「私は………」
「ああ、丸二日眠りっぱなしだったぞ。身体には特に異常もなかったしな」
ペンを走らせながらも蘭丸はレティシアの顔を見ながら話しかけていた。それを見てレティシアも自然と笑みをこぼした。
「ずっと、見ててくれたのか?」
「俺はそれでもよかったんだが、全員で交代制だ。目さめたときに誰もいなかったら困るだろ?」
「そ、そうか………(ずっとじゃなかったのか……)」
レティシアは少し残念そうに頷き、気づかれないように溜息を吐いた。しかしその溜息は蘭丸に気付かれていたようだ。
「ん?どうした?なんか残念そうなんだが………もしかして最初に俺は不味かったか?」
「い、いや、そんなことはない!………むしろ………」
「ん?」
「ああ、なんでもない」
そうかと納得した蘭丸を尻目にレティシアは心の中で安堵の息をついた。早まる心臓を抑えるように一度深呼吸をする。
心臓が収まったのを確認しレティシアは蘭丸に笑みを浮かべる。
「本当に……」
レティシアが蘭丸に何かを言おうとしたその時にガシャン!と騒がしい音を立てて黒ウサギが飛び込んできた。
「蘭丸さん!交代に来たのですよ………って、レティシア様!お目覚めになりましたか⁉︎」
「ああ、つい先ほどな」
「そ、そうでしたか………!では黒ウサギは皆さんを呼びに行ってきます!」
歓喜の声を上げ、部屋から飛び出した黒ウサギ。レティシアはそんな彼女を見て懐かしく感じた。
「本当にありがとう蘭丸。お前には本当に救われたよ。おかげで私はお前たちに辛い選択を押し付けずにすんだよ」
実際にあのまま大天幕が解放して、巨龍が太陽の光の中に消えていったら蘭丸たちは同士を救えなかったという重荷を背負って生きていくことになっただろう。
蘭丸は首を横に振り
「いいよ礼なんて。俺もレティシアが無事でいてくれて本当に良かったよ。おかえり、レティシア」
蘭丸の微笑みに顔を赤らめるレティシア。また心臓が騒ぐのを感じる。
(やっぱり今言うべきか……)
「蘭丸」
「ん?どうした」
作業が終わったのか、紙の束から目を離した蘭丸はレティシアを見つめる。その瞳を見ると、また心臓がうるさく騒ぐ。
「………………」
「レティシア?」
ずっと黙っているレティシアに不信感を覚える蘭丸。だが決して聞こうとせずレティシアが話すのをじっと待っている。それに安心したレティシアは
「………いや、なんでもない」
「あら?」
蘭丸は思わずずっこけた。まさかここまで間をおいて何もないと言われれば誰でも同じような反応はするであろう。
「本当に何もないのか?」
「ああ、すまない。なんでもなかった」
「そっか、じゃあ俺はこの報告書を“サウザンドアイズ”に送ってくるから、後でな」
ポンポンと頭を撫でた蘭丸は静かにドアを開け、部屋を後にした。蘭丸が行ったのを確認したレティシアはベッドに顔を埋めた。
「ッ〜〜///!私はなんてドジをッ!あんなチャンスを‼︎」
ベッドに顔を埋めて悶えるレティシア。黒ウサギ、“サウザンドアイズ”の女性店員、そしてレティシア。この三人は蘭丸に好意以上のものを寄せている。それをこの三人はもちろん知っている。(知らないのは当の本人だけだが………)
(でも、それで良かったのかもしれない)
もし自分がここで好意を伝えていれば、結果はどうあれ、今までの関係に亀裂が入るかもしれない。それならばもう少しこの距離でこの生活を楽しみたい。
そう思ったレティシアは先ほどまでここにあった彼の顔を思い出し、小さく泣いた。
「私の太陽は外にあるものだけじゃなかったのか……」
そんな充実感と幸福感を抱いてレティシアは眠りについた。
次に目を覚ました時には収穫祭だ。太陽のように輝く同士たちと共に歩む明日、そして自分にとっての特別な太陽への想いを胸にレティシアはまどろみに身を任せた。
*
蘭丸は今回のギフトゲームの被害の損失を“サウザンドアイズ”に報告するために報告書を届けようと“境界門”を目指す。瞬間移動を使えば一瞬だが曰く急ぎの用でなければギフトは使わない主義の蘭丸は自分の足を使っていた。
その前に本陣営に顔を出そうと思った蘭丸は扉を開ける。
「失礼します……かな?」
ゆっくりと扉を開け、本陣営には十六夜とジン、先ほどレティシアの部屋に来た騒がしい黒ウサギがいた。
「十六夜もジンもここにいたのか?それに騒ウサギもか」
「ちょっと待ってください!なんですかその騒ウサギとは⁉︎また変な渾名を付けないでください!」
「いや、さっきのアレは騒がしいの他にないぞ」
「ナイスだ蘭丸!」
「だまらっしゃいこのお馬鹿様‼︎」
スパーン!と黒ウサギのハリセンが十六夜に命中する。そんな黒ウサギを無視して蘭丸は女性店員に話しかけていた。
「あんたが来ていたならちょうどよかった。これ、今回の被害の報告書なんだが」
「わざわざありがとうございます。……貴方も本当に苦労しますね」
「いんや、こんだけ騒がしいといつでも飽きない。本当に楽しいよ」
「そうですか……」
女性店員は拗ねたようにそっぽを向く。それにニヤニヤしながら十六夜が肩を叩く。
「そういや蘭丸。御チビから面白い提案があるんだが」
「ジンが?それはなんだ?」
蘭丸はジンに視線を移す。提案と言うよりも今回の報酬といってもいいだろう。本来はレティシアの隷属と“蛇遣い座”の所有権は対一のものなのだが、それは“全権階層支配者”に貸し出されるものであり、一コミュニティに授けるものではない為、その代わりに報酬の授与がされるらしい。
「僕が望む物は二つ。
一つ、“ノーネーム”の六桁への昇格。
二つ、“ノーネーム”が六桁で所有していた土地・施設の返却。ーーー以上です」
それを聞いた蘭丸は一度は目を開いたが、すぐにニヤリと笑った。
「なるほど、確かに俺ら“ノーネーム”では旗を持っていないから六桁への昇格は普通出来ない。だから代用に連盟旗を作るのか」
「はい。やっぱり蘭丸さんにはお見通しですね」
「でも、驚いた。お前がそこまで考えが回るまで成長してたなんてな。数ヶ月前とは大違いだ」
蘭丸はすこし荒っぽく頭を撫でる。ジンは恥ずかしそうに笑う。
(母さん。俺はここでこいつらを守るよ。それが母さんの約束だしな)
母との誓いを胸に蘭丸は笑顔で笑い合う同士を見つめていた。
**
四桁三三五七外門の“円卓の騎士”の王の間。
玉座に座る蘭丸の父、アーサーは直径二メートルほどの水晶を眺めていた。そこには蘭丸の姿が映っていた。
アーサーは隣で水晶を見る女性に声を掛ける。
「どうだ?11年ぶりに見る蘭丸は」
「うん。嬉しいわ。ちゃんと私との約束を覚えてくれていたのね!」
その女性はハンカチで涙を拭いていた。それを見るアーサーは苦笑いでその女性の頭に手を置く。
「それにしてもあの子はすっごいモテモテじゃないの!“月の兎”の子に吸血鬼の子、それに白ちゃんのとこの女の子なんてハーレムじゃないの」
「だが肝心のあいつがアレだからなぁ」
キラキラと目を輝かせる女性と対照的にアーサーは溜息を吐き、頭を抱える。
「失礼します。お呼びでしょうか、アーサー王」
そんな時に、“円卓の騎士”の傘下の“ブラッドソード”のリーダーで蘭丸と戦ったローズが王の間に入って跪く。
「ああ、これからお前には“アンダーウッド”の収穫祭に参加して蘭丸にコレを渡してほしい」
アーサーは細長い箱をローズに渡す。中には一枚の紙と笛が入っていた。
「これは?」
「その紙に書いてある。俺は“サウザンドアイズ”に向かわなければいけない。頼んだぞ」
「はっ!」
ローズは敬礼をすると王の間から退出する。アーサーは玉座から腰を上げる。女性もアーサーについていくように歩く。
「さて、白夜叉にお前の挨拶に行かなきゃいかんしな。行くぞ雪菜」
これで四章終了です。
蘭丸のお母さんの登場⁉︎あの時死んだのでは⁉︎それは次章に明らかにします。
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