これは収納できるのか?   作:くーねるでぶる

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切り裂く闇⑦

「落ち着け、ブランディーヌ」

「そうだよ、落ち着きなよ。アベルが断ることなんて想定内だろう?」

「ふー……ふー……。そうね。そうだったわ」

 

 グラシアンとクロードの言葉に、ブランディーヌがなんとか落ち着きを取り戻したようだ。一触即発の雰囲気は消え、静かに武器に手を置いていたクロエたちもその構えを解いていく。

 

 ブランディーヌたちは、そんなクロエたちの様子に気付いていながら、警戒もしていない。端からクロエたちなど眼中に無いかのように振舞っている。格下の冒険者がなにをしたところで、自分たちに勝てるわけがないと高をくくっているのだろう。

 

「アベル、貴方がパーティに入ることを拒むことなんて、わたくしたちには想定内なの! そんなあなたにいいお話を持ってきてあげたわ。感謝しなさい」

 

 想定内というには取り乱していたし、この上で語られる話などロクなものではないだろうな。

 

「アベル、貴方の手切れ金だけど、わたくしたちは少なすぎると判断したわ。全財産を出せと言ったのに、貴方が豪邸を買う余裕があるなんておかしな話でしょう? 今度こそ、全ての金を出しなさい!」

「はぁー……」

 

 なにを言うかと思えば、ようするに金の無心か。借金塗れのブランディーヌたちらしい発想だ。呆れすぎて溜息が出てしまった。

 

「貴女たちねえ、そんな屁理屈が……」

 

 さすがに我慢の限界にきたのか、イザベルが怒りを滲ませた低い声を上げる。オレは片手を上げることでイザベルを制した。今ここで『切り裂く闇』のヘイトをクロエたちに向けるのは得策ではない。

 

「お前たちは一度は納得しただろう? 一度決まったことを後からひっくり返すな。こんなのは初歩の初歩だぞ? そんなことも忘れたのか?」

「うるさいですわ! 貴方は言われた通りに金を出せばいいのよ!」

「そうだぜおっさん? あんたも俺たちと揉めるのは本意じゃねぇだろ?」

「我らは正当な取り分を望んでいるだけだ」

 

 頭のおかしいのはブランディーヌだけかと思えば、ジョルジュやグラシアンまでブランディーヌに同調した。ジョルジュなど、これ見よがしに腰の短剣の柄に片手を置いてみせる始末だ。パーティ内の自浄作用など、もうとっくに期待できないな。

 

「断る。オレはもう貴様らに銅貨の一枚も払いはしない。冒険者なら、冒険して金を稼いでみせろ。オレから見たら、今のお前たちは、命を懸けた冒険から逃げ出した冒険者崩れに等しいぜ?」

「言わせておけばッ!」

 

 さすがに冒険者崩れという蔑称は気に障ったのか、ブランディーヌたちが武器に手を伸ばし、臨戦態勢を取る。それに応じて、クロエたちも武器へと手を伸ばした。

 

「小娘どもが! いっちょまえに冒険者面してるんじゃないわよ! いい? わたくしたちは、レベル6ダンジョンを攻略したエリートなのよ! アベルッ! わたくしたちの慈悲に満ちた提案を拒絶した貴方を、わたくしたちは許しはしないわ! 精々、後悔することねッ!」

「夜道には気を付けるんだな!」

「こちらの情けが分からぬとは……。愚物め!」

「君は鈍い鈍いと思っていたけど、ここまでとはね。さよならだ、アベル」

 

 ブランディーヌたちが、恨み言を残して去っていく。それにしても、ひどい言われようだな。

 

「叔父さん大丈夫……?」

 

 言われっぱなしだったオレに、心優しいクロエが心配してくれる。もうそれだけでオレの心はルンルンだ。だが、オレは自分の感情を表に出さないように努める。おじさんがルンルンしても気持ち悪いだけだしな。

 

 それに、オレは硬派な紳士を目指しているのだ。踊り出しそうなほど嬉しいが、表面上は冷静に振舞う。

 

「ああ。大丈夫だ、クロエ」

「まったく、見ていてイライラしたわ! 貴方も、言われっぱなしじゃなくて言い返せばいいのに!」

「そーそー。あーしとか、もう剣抜いちゃいそうだったし!」

「なんと言うべきか、すごい人たちでしたね……。話が通じないというか……」

「ん……」

 

 イザベル、ジゼル、エレオノール、リディまでも怒りの雰囲気を滲ませていた。そうとうブランディーヌたちに腹を据えかねているみたいだ。

 

「そう言うなって。煽り過ぎて、ここで暴れられたらたいへんだろ? まぁ、アイツらには言わしておけばいいさ。それより……」

 

 オレは内緒話をするようにクロエたちに顔を伸ばす。しかし、クロエたちはオレに耳を近づけてこない。仕方なく手でおいでおいですると、クロエたちが溜息と共に顔を近づけてきた。その顔は、ブランディーヌたちへの怒りからか、いつもよりも上気している気がした。

 

「それで、どう見る? 『切り裂く闇』の出方だが……」

「んひっ!?」

 

 オレが小声で囁くと、エレオノールがおかしな声を上げて顔を遠ざけた。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、息が耳に吹きかかって……」

 

 エレオノールが押さえた左耳は、真っ赤になっていた。どうやらエレオノールは、耳が弱いらしい。

 

「我慢しろ。今からこれからの行動のおさらいだぞ?」

「わ、わかりました……」

 

 エレオノールに中断されること三度。オレたちは内緒話で今後の行動予定を固めたのだった。

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