これは収納できるのか?   作:くーねるでぶる

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再会

 オレがクロエたちを逃がすように食堂へと行かせたら、すぐにブランディーヌたちがオレの目の前に陣取った。

 

「あの小汚い女の子たちは何かしら? まさか貴方、冒険者を辞めて娼婦の斡旋でも始めたの?」

「マジかよ。俺様が買ってやるぜ? いくらだよ?」

 

 ギリッ!

 

 いきなりクロエたちを娼婦呼ばわりする下衆に怒りが募る。気が付けば、歯が割れてしまいそうなほど強い力で食いしばっていた。

 

 オレは別に娼婦をしている女性に対して偏見や差別意識があるわけじゃない。彼女たちの多くが、望むと望まずに係わらず、娼婦しか道が無かったことも知っているつもりだ。

 

 だが、女性に対して娼婦か問うのは、禁句の一つだ。特に、親族の女性を娼婦呼ばわりするのは、最大級の侮蔑に近い。

 

 叶うことなら、このバカどもを殴ってでも理解させてやりたいところだが、冒険者同士の私闘はご法度だ。それに、もし私闘が許されたとしても、オレ一人じゃコイツらに勝てない。

 

 一対一ならヘヴィークロスボウでなんとかなるかもしれないが、それだけだ。こんな下品な奴らだが、その戦闘能力はオレを凌駕している。オレは初めて人を育てたことを後悔したかもしれねぇ。

 

「彼女たちは、オレの仲間の冒険者だ。彼女たちへの侮辱は許さん」

 

 オレの声にブランディーヌは目をぱちくりさせると、にちゃりと湿度の高い笑みを浮かべてみせた。

 

「あらあらあら! 今度はあんな下品な女の子たちに寄生するつもりなのかしらぁ!」

「おいおい、娼婦の方がまだマシな格好してるぜ?」

「女に目でも眩んだのか?」

「そこまで堕ちたか……」

 

 寄生という言葉が、オレを心を深く刺した。寄生か……。自分に戦闘能力は無く、ただ他者の戦闘能力を頼りにダンジョンに潜るオレは、たしかに寄生しているのかもしれない。そう思ってしまったのだ。

 

「………」

 

 言い返す言葉を紡げなくなってしまったオレに、ブランディーヌたちの追撃が入る。

 

「ふふっ。貴方は勝手に堕ちなさいな。わたくしたちは上に行きますから! アハハッ! あんな貧民の少女たちに頼らないとダンジョンに入れないだなんて、貴方、終わってますわ!」

「ケヒヒッ! 失敗したからって俺たちに縋ってくるんじゃねぇぞ。俺たちとお前は、互いに不干渉の約束があるからな」

「これはさすがにひどいな。女に狂って道を踏み外すとか。やはり貴様はクズだ」

「これで己の菲才に気が付いたはず。才無き者は冒険者などさっさと辞めてしまうことだな」

 

 ブランディーヌたちは、オレに言いたいだけ言うと、わざとオレの肩にぶつかって冒険者ギルドを出ていく。

 

「クソが……」

 

 オレはその背中にそう呟くことしかできなかった。

 

 

 ◇

 

 

 オレは、クロエたちに寄生しようとしているだけなのだろうか?

 

 そんな問いかけが自分の中でグルグルと巡っていく。

 

 今まで、他人になにを言われても気にもならなかったが、オレがクロエの成長の重荷になる可能性があると知って、オレの心は揺らいでいた。

 

 オレはこのままクロエと共に冒険者をやるべきなのだろうか?

 

「叔父さん……大丈夫だった……? アイツら、叔父さんをパーティから追放した奴らでしょ? 今度会ったら、あたしがぶっとばしてやるんだから! ……だから、元気出して……?」

 

 しばらく呆然としていると、いつの間にかクロエたちが不安そうな顔でオレを見上げていた。どうやら心配させてしまったらしい。いかんな。保護者失格だ。

 

「大丈夫だ。なんでもねぇよ」

 

 オレは努めて笑顔を浮かべてクロエの頭を撫でる。グローブ越しにも感じるサラサラの黒髪は撫でていて気持ちが良かった。なんだか、クロエの頭に手を置くと安心する。クロエの頭が、撫でるのに丁度いい高さにあるからか?

 

「でも……叔父さん、寂しそう……」

「ッ……」

 

 オレの体はビクリッと震え、いつの間にかクロエの頭を撫でる手も止まっていた。

 

 寂しそう? オレが?

 

「そう見えるか?」

「うん……。あんな奴らに言われたことなんて気にしちゃダメよ」

 

 べつに、ブランディーヌたちの言葉が直接刺さったわけじゃない。オレは、クロエに迷惑をかける可能性があることに気付いたから動けなくなっちまっただけだ。

 

「クロエ、本当にオレをパーティに入れてもいいのか?」

「今更どうしたのよ!?」

「将来、オレは……クロエの邪魔になるかもしれねぇ……」

 

 驚くクロエに、オレは気が付いたら内心を吐露してしまっていた。こんなこと言うつもりは無かったのに。クソッ! これじゃ格好がつかねぇ。

 

「いや、忘れて……」

「叔父さんは邪魔じゃない!」

 

 オレの言葉を遮って、クロエが噛み付くように吠える。

 

「絶対っ! あたしは叔父さんを邪魔なんて思わない! なにがあっても!」

 

 力強く真っ直ぐ見つめてくるクロエの黒い瞳に嘘は無かった。クロエは本気で言っている。そのことに気が付くと同時に、オレは弱い自分の心を恥じた。まさか、クロヴィスたちに会っただけで、こんなに自分の心が弱くなるとは……。

 

「ああ。ありがとよ」

「うんっ!」

 

 クロエの頭を撫でるのを再開すると、クロエが嬉しそうに頷く。

 

 そうだな。このままオレの持てる全てを使ってクロエたちを育て上げて、将来、オレの存在がクロエの邪魔になるなら、その時は改めて自分の進退を考えればいい。ただそれだけのことだ。

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