これは収納できるのか?   作:くーねるでぶる

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報告

「こんにちは。本日はどういったご用件でしょうか?」

「トレイを出してくれ。血で汚れる」

 

 義務的なスマイルを浮かべた若い受付嬢に、オレはトレイを出すように指示を出した。

 

「分かりました」

 

 オレはなにも持っているようには見えないだろうに、受付嬢は素直に金属製のトレイをカウンターテーブルの上に用意する。オレのギフト【収納】は変に有名だからな。この受付嬢も、オレが【収納】のギフト持ちだと知っているのだろう。

 

 オレは収納空間を展開し、麻袋を取り出してトレイの上に置いた。麻袋の下側はドス黒く染まり、鼻が曲がりそうな悪臭を放っている。

 

「うぐっ……!」

「くっさ! ヤバいって! ヤバい臭いって!」

「ひどい匂いですね……」

 

 オレの後ろに居るクロエたちにも匂ったようだ。後ろから文句を言うように臭い臭いと騒いでいる。受付嬢も笑顔の仮面にヒビが入り、眉を寄せて不快感を露わにしていた。

 

「これは……?」

「ゴブリンの耳だ。王都の東門の近く南側で討伐した。数は八体。ゴブリンの強さはレベル3ってとこだった」

「それは……ッ!?」

 

 受付嬢も事の重大さが分かったのだろう。真剣な表情をしている。

 

「中身を確認しても?」

「構わない」

 

 受付嬢が麻袋を開くと、濃い血の臭いと悪臭が広がる。

 

「ゴホッ……失礼しました。ご確認します」

 

 受付嬢は一度咽ると、麻袋を広げ、中身を確認する。中に入っていたのは、緑色の三角形の物体が八つ。全てゴブリンの右耳だ。耳の形状はエルフの耳ように三角に尖っているが、ゴブリンの方が幅が広く大きい。

 

「これは……。詳細を調べるためにお預かりしてもよろしいでしょうか?」

「構わない」

「すぐにギルド長に報告します。もう一度、ゴブリンの発見場所を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 オレは、メモ紙を用意した受付嬢に頷くと、聞き間違えの無いようにゆっくりと話す。

 

「王都の東門を出てすぐの南側に行った所だ。まだ死体もそのままだから、すぐに見つかるだろう。ゴブリンの数は八体。強さは、ダンジョンでいうレベル3ってところだった。手慣れた冒険者なら、不覚を取ることはないだろう」

 

 オレの言葉が間違いなく受付嬢によってメモに書かれていくのを見届け、オレは体を左にズラした。

 

「一応、証人も連れてきた。オレ一人の証言じゃなにかと不安だろう?」

「ありがとうございます。アベル様の証言でしたら、わたくしどもは信用しております。ですが、せっかくですので確認してもよろしいでしょうか?」

「ああ」

 

 受付嬢がニコリと笑う。まぁ、信用うんぬんはリップサービスだろう。もしくは、冒険者歴が長いから、それだけの信用は稼げたのかもな。

 

 

 ◇

 

 

 エレオノールやイザベル、ジゼル、リディーをそれぞれ家に送った後、オレはクロエと幸せの綱引きをしていた。

 

「もー! 叔父さんもご飯食べていけばいいのに!」

「悪いな。この後、ちっと予定があってな」

「もー! あたしとお母さんだけじゃ、こんなに食べきれないわよ」

「明日の朝にでも食えばいいさ。んじゃ、もう行くぞ」

 

 ぐずってオレの手を離そうとしないクロエを言い聞かせて、なんとか手を放してもらう。まったく、オレとして嬉しい限りだが、そんなにこんな無精ヒゲのおっさんと一緒に居たいものかね。

 

 世の娘との関係が思わしくない父親連中には悪いが、オレとクロエの仲は、良好だと言ってもいいだろう。

 

 思春期の娘は扱いが難しいと聞いていたし、一時期はクロエに嫌われることさえ覚悟していたが、蓋を開けてみれば、なんてことはなかったな。

 

 これも偏にクロエが心優しい女の子だったということだろう。さすが、ラブリーマイエンジェルクロエだ。優しさが天元突破してやがる。

 

 もしくは、クロエにとっての思春期というやつは、これから訪れるのかもしれないが……。できれば、今のような関係を維持したいものだ。

 

「じゃあな、クロエ。姉貴にもよろしく言っておいてくれ」

「うん……。じゃあね、叔父さん」

 

 若干の寂しさを滲ませたクロエの姿に、罪悪感が湧き上がるのを感じる。しかし、今日はどうしても今日中に片づけたい案件があった。クロエには悪いが、許してもらう他ない。

 

 あぁ……。クロエにあんな悲しそうな顔をさせるなんて、オレはなんて罪深い生き物なんだ……。

 

 できることなら、オレだってクロエと共に夕食を取りたい。だが、それは許されないことだ。オレは今から将来のクロエのために働くのだからな。手抜きはもちろん、すっぽかすなんてありえない。

 

「じゃあな。おやすみ、クロエ」

 

 オレはそれだけ言うと、踵を返してクロエから目を離し、薄暗い王都の裏路地を歩いていく。

 

「おやすみなさい、叔父さん。ご飯ありがとね」

 

 クロエの声に振り返らず、片手を上げるだけで返して、オレはクロエと別れた。

 

 クロエには、露店で買った夕食を持たせたし、姉貴もちったー楽できるだろう。

 

 クロエと姉貴と共に囲む家族団欒。想像するだけで胸がほかほかと温かくなる。そこにオレの姿が無いのが残念でならないが、これもクロエのためだ。耐えよう。

 

 自分にそう言い聞かせて、オレは一路、冒険者ギルドを目指して歩み続ける。

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