これは収納できるのか?   作:くーねるでぶる

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大群

 残るゴブリンアーチャーは二体。

 

「シッ!」

 

 オレは、両手で構えていたヘヴィークロスボウを投げ捨てると、胸元に装備した投げナイフを左手で一つ摘まみ、手首のスナップをきかせて投擲する。

 

 投げナイフは、松明に照らされた洞窟内を、銀円を描きながら飛ぶ。その先に居るのは、いそいそと弓を構えるゴブリンアーチャーだ。

 

「GEHA!?」

 

 投げナイフは、まるで吸い込まれるようにゴブリンアーチャーの胸に命中し、突き立つ。その衝撃と痛みからか、ゴブリンアーチャーが矢を取り落とすのが見えた。

 

 これで、残すゴブリンアーチャーは一体。

 

 パシュンッ!

 

 ゴブリンアーチャーが矢を取り落とすのとほぼ同時に、まるでオモチャの楽器のような軽い音が響いた。クロエのライトクロスボウの発射音だ。

 

「Guッ!?」

 

 クロエの放ったライトクロスボウのボルトが、弓を構えていたゴブリンアーチャーへと命中する。しかし、倒れない。クロエのライトクロスボウは、速射性を重視したそこまで威力がないものだ。釣りや戦闘のアシストには使えるが、一撃でモンスターを屠るほどの威力がない。

 

 しかし、そんなライトクロスボウでも、最低限の仕事はしてみせた。

 

 ボウンッ!

 

 恐れていたゴブリンアーチャーの矢が、ついに発射される。しかし、ゴブリンアーチャーの矢は、まるで見当違いの方向に飛んでいった。クロエの放ったライトクロスボウのボルト。その衝撃に、態勢を崩されたためだ。

 

 オレの中で、クロエへの称賛が無限に溢れてくる。

 

 さすが、クロエはやっぱり最高だぜ!

 

 クロエの功績を自慢したい気持ちに囚われそうになるが、今は生死を賭けた戦闘の最中だ。悔しいが控えよう。

 

 後でクロエを思いっきり褒めて甘やかそう。

 

 そう心に誓った瞬間だった――――。

 

 負傷したゴブリンアーチャーたちのさらに奥、洞窟の先の曲がり角が、にわかに騒がしくなった。聞こえてくるのは、ペタペタと裸足で洞窟を闊歩するいくつもの音。最悪だ。

 

「GOBUGOBUGOBU!」

「GEGYAGYA!」

「GOBUGOBU!」

「GEGYA!」

「GOBUUUUU!」

「GOBUN!」

 

 洞窟の曲がり角から現れたのは、クロエたちよりも小柄な緑の肌をした人影。ゴブリンだ。

 

「マジか……」

 

 しかも、その数は10を超え、さらに増えつつある。実に20近いゴブリンの大集団だ。

 

「そんな……ッ!? どうするの!? ねぇ! どうするのよ!?」

「あわ、わ……」

 

 イザベルとリディも、ゴブリンたちの大戦力を目視したのだろう。恐慌状態とは言わないが、それに近いほど慌てふためき、オレに詰め寄る。

 

 どうするか?

 

 オレの頭の中には、二つの考えがせめぎ合っていた。つまり、迎撃するか、撤退するかだ。

 

 普通なら、即時撤退を決定する戦力差だ。

 

 撤退というのは、集団行動の中でも、最も難しい行動だとオレは思っている。

 

 誰か一人でも、己の命欲しさに逃げ出せば、即座に成立しなくなるほどのシビアな戦いだ。たった一つのミスから、パーティが瓦解することもありえる。息苦しいほどの重圧に耐え抜き、それでも力及ばずに全滅の憂き目に遭うこともしばしば。

 

 そんな極限状態にパーティを放り込むというのは、一つの選択肢として、とても魅力的に見えた。人は、極限状態を耐え抜いた時、著しく成長することを知っているからだ。

 

 ここで、撤退戦という試練を与えるのは、クロエたちの成長につながるだろう。

 

 しかし、クロエたちの心はどうだろうか?

 

 まだ、冒険者としての経験も少ないクロエたち。彼女たちを侮るわけではないが、きっと冒険者としての覚悟も決まっていないだろう。彼女たちは、まだまだ初心者冒険者。それが普通だ。

 

 そんな彼女たちには、この試練は重過ぎるかもしれない。

 

 下手に試練を課して、潰れてしまったら元も子もないからな。

 

 では、迎撃するのかと問われれば、それも難しい。

 

 今のクロエたち『五花の夢』には、あの数のゴブリンたちを殲滅するのは難しいだろう。数とは、シンプルな力だ。一体一体の性能はこちらが上でも、この数の差の前には、あまりにも無力だ。数の暴力とでも言うべき蹂躙に遭うだけである。

 

 オレが居なければ……な。

 

 オレは、最終的な判断を下すと、大きく口を開く。クロエたちを安心させるように、声がひっくり返らないように、細心の注意を込めて、雄大さを意識して叫ぶ。

 

「全員! 目の前の敵に集中しろ! 恐れるな! 敵の援軍は、オレが片付ける!」

 

 こんなオレにも、少しは信頼が築けたのか、浮足立っていた前衛陣の動きが、少しだけ安定したものとなった。

 

 あとは、この信頼に応えるだけだ。

 

「……本当に大丈夫なの? 貴方のギフトは……」

「ん……?」

 

 イザベルの言いかけた通り、オレのギフトは【収納】。戦闘系のギフトではない。

 

 戦闘系のギフトを持っているか否かで、個人の戦力が大きく異なる世界だ。

 

 戦闘系のギフトを持たないオレなど、普通は戦力にも数えられないことが多い。

 

 オレを半信半疑で見上げるイザベルとリディに、オレは意識して笑顔を浮かべてみせた。

 

「楽勝だ。お前たちも、自分のできることをしろよ」

 

 それだけ言うと、オレは迫りくる20体ほどのゴブリンの大群を睨み付けた。

 

 オレの新しい能力を見せてやるよ!

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