これは収納できるのか?   作:くーねるでぶる

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エレオノール

「辞めない」

 

 オレの問いかけに、クロエは真剣な表情を浮かべて言い切った。この顔は覚えのある顔だ。オレと姉貴がどれだけ説得しようと、頑なに首を縦に振らなかったクロエの顔だ。

 

 こりゃなにを言ってもダメだな……。

 

「そうか……」

 

 オレはそれ以上言葉を繋げられず、黙り込むしかなかった。オレとクロエの間に静かな時間が流れる。

 

 コンコンコンッ!

 

 沈黙を破るように、ノックの音が飛び込んできた。

 

「どうぞ」

 

 クロエの言葉に、応接間のドアがゆっくりと開かれる。現れたのは、まさにお姫様といった感じの少女だった。

 

「エルッ!」

 

 クロエが勢いよくソファーから立ち上がり、部屋に入って来た少女を出迎える。オレの一応立っておくか。これから命を懸け合う関係になるかもしれないからな。第一印象くらいは良いものにしたい。

 

「紹介するわ。こっちが、エレオノール。で、こっちがアベル叔父さん。あたしの叔父さんよ」

 

 クロエの雑な紹介に苦笑しながら、オレは軽く頭を下げて少女に挨拶する。

 

「アベルだ」

「はぁい。わたくしがエレオノールですぅ。アベル様、よろしくお願い致しますねぇ」

 

 ちょこんと紺のロングスカートを摘まんで、ゆったりとカーテシーを披露するエレオノールに、右手を伸ばす。

 

 間延びした声がそうさせるのか、なんだかゆったりした落ち着きのある少女だ。緩くウェーブのかかった豊かな金髪、博愛の情を感じさせる優し気な垂れ目の青い瞳。エレオノールから差し出された手は、オレなんかが触れていいのかと思うほど細く柔らかい。エレオノールの手の感触に、オレも慎重に手を握り返す。そんなことはないと分かっているが、下手したら壊れてしまいそうで怖い。しかし、でかいな……。

 

 どこがとは言わないし、視線も向けたりしないが、その存在感は圧倒的だ。高価そうな白のブラウスを押し上げて、窮屈そうにしているのが視界の端に映る。正直、視線がそちらに行かないようにするのに精一杯だった。

 

 今はクロエの前だからな。紳士なオレでありたい。

 

「それで、今日はクロエの叔父様を紹介してくださるのですか?」

 

 エレオノールが、こてんと首を横に傾げ、クロエに問いかける。そんな姿もとても優雅だ。今時の下級貴族なんかより、よっぽど上品だろう。

 

 こんな優雅な所作を身に着けたクロエを見てみたい強い衝動に駆られる。きっとかわいいに違いない。クロエから「叔父様」なんて呼ばれた日には、昇天してしまうかもしれないな。

 

 だが、オレは自らの衝動を抑え込む。どんな格好や所作をしていようと、クロエが一番かわいいのだ。オレの欲望で歪ませることなど許されない。クロエにはのびのびと育ってほしい。

 

「そうそう。それでね、エル。叔父さんに『五花の夢』に入ってもらおうと思っているんだけど……賛成してくれる?」

「まあ!」

 

 クロエの問いかけに、エレオノールが口に手を当てて驚いてみせる。そうだよな。少女たちだけのパーティに、オレみたいなおじさんが入れようなんて、驚くに決まっている。

 

 できれば、承認してほしいところだが……難しそうだな。

 

 クロエにとっては慣れ親しんだ親族だろうが、他の少女たちにとっては赤の他人だ。信頼などあるわけがない。そして、ダンジョンという命を懸けた危険地帯に潜るというのに、信頼できない者を連れて行くのはリスクがあり過ぎる。

 

 オレは諦観にも似た気持ちでエレオノールの姿を見る。この少女の信頼を勝ち取るためには、時間が必要だ。いきなりこんなことを言われても困るだけだろう。

 

 しかし、エレオノールは、オレの予想に反して柔らかな笑みを浮かべてみせた。

 

「ふふふっ。もちろん構いませんわ」

「は?」

 

 まさかのエレオノールの快諾に、オレの方が困惑してしまう。

 

「ありがとう、エル!」

「あらぁ」

 

 クロエがエレオノールに抱き付き、その大きな胸に顔を埋めた。エレオノールは、クロエを優しく抱き留めて、クロエの耳元でなにかを囁いたのが見えた。

 

 エレオノールがなにを言ったのかは分からないが、エレオノールの言葉を聞いたクロエは顔を軽く上気させる。照れているのか?

 

「もう、そんなんじゃないったら。もー」

 

 顔を赤らめてエレオノールの胸をぽふぽふと叩くクロエ。その姿は、オレにはまるで恋人同士ように親しそうに見えた。もしかしたらクロエはエレオノールと良い仲なのだろうか?

 

 独身のオレには、恋人たちの機微など詳しくないが、同性同士の恋人というのも珍しいがないわけじゃないことを知っている。仮にクロエがそうだとしても、オレは変わらずクロエをかわいがる覚悟だ。オレのクロエへの愛に果てなど無い。

 

「まったく……。でも、エルが同意してくれよかったわ」

 

 クロエがエレオノールから離れて問うと、エレオノールは柔らかい笑みを浮かべて答える。

 

「わたくしはもちろん賛成いたしますけど、他の方はいかがでしたか?」

 

 エレオノールの言葉に、クロエが腕を組んで難しい顔を浮かべてみせた。

 

「まだエルしか教えてないの。他のメンバーには今から話に行くけど、エルはどうする?」

「もちろん、ご一緒させていただきますわ。わたくしも微力ながら協力いたします」

「ありがとう!」

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