吠狼 -HOLLOW-   作:めたるくらすた

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大して誰も待っていないであろう2話です
亜桐の出番どうやって増やそう


瞬間

 

 

「うわぁ〜、すっごぉ〜」

「いい景色だね〜」

 

リンドシティ郊外、とある山の山頂。

景色を眺める2人の女性。

 

都市部から離れた場所ではあるが、四季折々様々な表情を見せるその景色に人々は魅せられ、ちょっとした観光名所となっている。

平日ではあるが軽い人混みができる程度には人通りも多い。

 

「写真撮ろ!」

「いいね!あ、でも…」

「どうしたの?」

「2人だし…誰かに頼んだ方がいいかな。」

「ああ…」

 

 

「私が撮りましょうか?」

 

背後から声がする。

振り返った先にいたのは、少しみすぼらしい容姿の男。

しかしその容姿に似合わず、その手には立派なカメラが握られている。

 

「え?あ…」

少し言葉が詰まる。

人を見た目で判断してはならないとは言うが、はっきり言って非常に怪しい。

 

「良いんですか?お願いします!」

「え、ちょっと」

 

不用心が過ぎる

 

「いいじゃん、どうせ写真撮ってもらうだけだし」

「う、うーん…」

 

それもそうか、と自身を納得させる。

所詮は写真を撮ってもらうだけ。

 

「じゃあ…お願いします。」

「はいはい…じゃ、お二人共にそこに並んで」

 

眺望を背景に2人が並ぶ。

写真を取るには絶好の景色だ。

 

「じゃあ撮りますよー」

「はーい!」

 

男はカメラを構え、シャッターを押す。

 

 

 

 

 

シャッターの乾いた音、構えた手を緩める。

 

「こりゃあ…いい写真になりそうだ…!」

 

恍惚とした表情と共に、その場を去る男。

 

 

素晴らしい絶景の前、空きのあるベストスポットは直ぐ様人で埋まった。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

「ガルバがホラーを探知出来なかった…と。」

 

薄暗い部屋の中、白い少女は背の高い椅子に座ったまま士狼に目を遣る。

 

ここは番犬所。《守りし者》達が所属し、異空の地に存在する場所。

 

「はい。名前は分かっていたので間違いなくホラーではあるんですが…それに、こんなものが」

 

回収していた黒い玉を差し出す。

 

「これは…」

「ホラーを斬った後に出てきた物です。ガルバ曰く、ホラーその物では無いが何か嫌な気配がする…と。」

「本来であれば、ガルバの探知能力は一級品だ。その彼が言うのであれば、何か危険なものであるのは間違いないのだろうな。一先ず此方で預かっておこう。」

 

いつの間にか横に男が現れ、差し出した黒い玉を回収し何かの箱に入れる。

 

「入れた物体の機能を押し留める特殊な魔導具だ。これに入れておけばひとまずは安心だろうが…何しろ此方としても前例のない事態だ。此方からも手は回しておくが、そちらでも調査を進めておいて欲しい。」

「了解しました。では」

 

知らない魔導具があるもんだなぁ等と考えながら頭を下げ、踵を返す。

 

 

「まあ待て。」

 

男から赤い封筒を差し出される。

 

「…指令ですか。随分、スパンが短いですね。」

「全くだ…。ともすれば、お前が遭遇した例のホラー、ひいてはこの黒い玉にも関連しているやもしれん。」

「…」

 

嫌な予感がする。

そもそも、ホラーがこうも短い期間に連続して出現すること自体イレギュラーだ。

そしてこの状況。

 

背筋に嫌なものが走るのを感じながらライターを取り出し、封筒に火をつける。

 

『邪悪なる者あり。時と魂を切り取るその陰我、直ちに断ち切るべし。』

 

「時と魂…?」

時間に関連するものか…しかし切り取るとは?

あまり関連を見出せない語群に、暫し考えを巡らせる。

 

『士狼、考えてても仕方ない。どの道斬るんだ、まずは行ってみようぜ。』

 

右手の腕輪に付いた顔がカチカチと金属音を鳴らす。

 

「…それもそうだね。では、失礼します。」

「ああ、頼んだぞ。」

 

 

 

─────────────────────

 

「で、例の玉は番犬所行きって訳か。」

「そうだね。あんな物こっちが持ってても怖いし、その方が有難いよ。」

 

ひとまず亜桐と合流。

 

「で、次のホラーだが…何処にいる?」

「さあ…。指令はあいも変わらず抽象的だし、地道に探すしかないね。」

「そうだな…。じゃ、行くか。」

「あ、今回は俺に任せて。」

出発しようと魔法衣を掴んだ亜桐は手を止め

 

「は?」

 

と言わんばかりの顔でこちらを見る。

 

「亜桐には頼みたいことがあってね。」

「頼みたいこと?」

「さっきも話した通り、この件はまだまだ謎が多い。だから少し調べ物をして欲しくて。」

「…お前なぁ」

 

大きく溜息をつき

 

「前回もお前に任せっきりだったし、いよいよ腕が鈍っちまうよ…」

恨めしそうに睨む。

 

「まあまあ…訓練なら付き合うからさ、お願い出来ないかな?」

「…わーったよ。帰ってから頼むぞ?」

「了解。」

契約が成立したところで

 

「本題だが、何について調べればいい?」

「例の黒い玉に関連しそうな物なら何でも。記録に少しでも類似点が無いか、それを調べて欲しい。」

「まあ現状、《魔導輪による探知を無効化する》以外の情報も無いしな…。分かった、こっちはやっとくから、お前も気をつけろよ。」

「ああ、頼んだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見つかんない…」

管轄の範囲ギリギリを歩くが、何の反応も無し。

せめて現在地でも指定してくれれば良いものを…。

 

結局街の郊外にある山まで来てしまった。

確か『雅栄山』という場所だったか、日中は人の多い場所だが、夜ということもあってがらんとしている。

 

「ガルバ、ちょっとでも反応無い?」

『……うっすらとだが、何かの気配は感じるな。』

「うーむ…とりあえず歩き回るしか無いか。」

 

ここは用済み、踵を返す。

 

 

「何か、お探しですか?」

「ッ!?」

 

何処からか声が掛けられる。

 

「おや、驚かせてしまったかな。これは失礼…。」

「あ、ああいや…こちらこそすいません。」

話しかけて来たのは、少々貧相な様相の男。

所謂ホームレスのようにも感じられるが、それ以上に何か異様な雰囲気を醸し出している。

 

それに反応してか、腕輪として鳴りを潜めるガルバからカチカチと金属音が鳴る。

 

「それで、先程からここらを歩いておられますが…何か探し物でも?」

「…まあそんなとこですね。」

「私も一緒に探しましょうか?1人で探すより早く見つかると思いますが。」

「有難い申し出ですが…」

 

禍々しい形状のライターを取り出し、男の目の前に翳す。

 

「探し物は見つかりましたよ。」

 

ライターの炎に男の目が反応する。

 

『やっぱり"当たり"だな。』

「貴様…魔戒騎士か…!」

 

男は直ぐ様戦闘態勢に入るが

 

「正解ッ!」

「がッ!?」

 

お構い無しに蹴り飛ばす。

相手は人を喰らう魔獣、無駄な御託も情けも無用。

 

蹴り飛ばされた男も体勢を立て直し

 

「…まあいい。例え貴様が魔戒騎士だとしても、コイツでお前は終わるッ!」

 

1台のカメラを取り出し、士狼に向けて構える。

 

「カメラ…?」

『不味い!避けろ士狼!』

「ッ!?」

 

咄嗟に横に跳ぶ

 

シャッターの音が鳴り響くと共に、背後の草木が魂を抜かれたように色褪せる。

 

「…これは…」

『成程、コイツはシャットラーだな。コイツに写真を撮られたら魂を抜かれるぞ!』

「時と魂…そういう事か。」

魂は言葉のまま、時はカメラによって一瞬を切り取るといったところか。

 

「というか写真で魂を抜くって…いつの時代の理屈だよ。」

「ハハハハッ!俺の前じゃそれも昔の理屈じゃないということさ!ガァァァァァァァッ!!!」

 

叫び声と共に男の皮を食い破り、醜悪な怪物が姿を現す。

全身にフィルムのようなものが張り巡らされ、頭部は巨大なカメラと一体化している。

 

『士狼、ヤツ相手に生身は危険だ!』

「それなら!」

 

黒い鞘から剣を抜き放ち、上空に掲げる。

 

切っ先で空に円を描くと円は光の門となり、そこから鎧が飛び出し士狼の身体に定着する。

 

月明かりに照らされ青く輝く。

蒼銀の鎧、"月影騎士 吠狼"。

 

「はッ!」

「うおっ!?」

 

鎧の召喚と共にシャッターが下ろされるがどうにか飛び上がって回避。

 

「空中では避けられまいッ!」

 

空中の吠狼にレンズを向け、頭部のカメラが閃光を放つ。

 

「ぐあッ…!?」

「…何?」

 

光による目眩しこそあれ、その鎧から魂は抜かれていない。

 

『鎧の上からじゃ魂は抜けないみたいだな!』

「それならぁッ!!」

 

最早怯む理由などない。

落下の勢いを利用し、渾身の一撃を振り下ろす。

 

が。

 

「よっ!」

「ちぃッ…!」

ひらりと身を翻らせ剣を避けるホラー。

 

「面倒なヤツめ…」

「そりゃどーもッ!」

 

再びのフラッシュ。

目を背けると同時にホラーが向かってくる。

 

「そぉらッ!」

「ふッ!」

 

剣と拳が打ち合い

 

「ぐぉおッ…!」

 

月影剣がホラーの腕を切り裂く。

 

「クソッ…!やりやがったな…!?」

「…そろそろ終わらせようか。」

 

剣を構え、ホラーに近付く。

 

しかしホラーのフラッシュに光が灯り

 

「こいつはどうだァッ!!」

 

再びの閃光。

 

「そんなものッ!」

魔戒騎士の鎧からは魂を喰えない。

閃光を意に介さず剣を振りあげる

 

が。

 

「ッ…!?」

 

動かない。

剣を持った手は高く構えたまま、意志の通りに振り下ろすことが出来ない。

正しく"時が止まった"かのように、吠狼の身体はピタリと止まっている。

 

『コレは…ヤツのもう一つの力か…!』

「知らなかったのか!?」

『そうだな、知らなかった!』

「馬鹿正直だな!!」

 

イレギュラーで探知できなかったとは言え、知識面に関してはガルバの力は本物。

そのガルバでも知り得ない新たな力。

コレも例の異常事態か。

 

「何グダグダ言ってんだッ!!」

「ぐあァッ…!!」

 

未だ身体は動かず、ホラーの攻撃を受け続ける。

 

痛みで考えが散らかるが、どうにかして思考を集中させる。

 

この停止が絶対的なものであるならば、勝機は"動き出す瞬間"にあると考えるしかない。

そうでなければこのまま死ぬだけだ。

 

『士狼、残り20秒も無いぞ!』

「………」

 

攻撃を続けるホラーに目を遣る。

 

(…これは!)

 

ホラーの周囲を漂うフィルムには草木、そして吠狼の鎧が写り込む。

ガルバは位置関係の為か映り込んでいないが…

 

(勝機はここか…!)

 

「おや、絶望で言葉も出ないか?」

「……」

 

ホラーの煽りを受けてなお無言を貫く。

それを隙と見たのか、ホラーは頭部のカメラを吠狼に向ける。

 

「…んじゃあその鎧を引っ剥がして、魔戒騎士の魂を堪能させてもらおうかぁ!」

 

トドメを刺さんとホラーの攻撃が迫る。

 

瞬間

 

「ガルバ!今だッ!」

 

腕輪の口から黒い炎が噴き出す。

 

魔戒騎士がホラーを判別する為に使用する炎、魔導火。

ガルバのような魔導具はそれを吐き出す力を持つ。

 

「あっつッ!あぁっ!俺のフィルムが!」

 

黒い魔導火はフィルムに引火し、全ての写真を燃やし尽くす。

それと同時に

 

「ッ!!」

 

月影剣が湾曲、形を変える。

動き出した脚で思い切り地面を蹴り

 

「はァァッ!!!」

「ぐァァァァァァッ!!!!」

 

ホラーの身体を横薙ぎに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…駄目だな、こんなのじゃ」

嘯く男の手には、1枚の写真が握られている。

 

ある時、1枚の写真に心を奪われた。

それまで出会った感動の全てを塗り替えたその写真、魅入られた男はそれを超える為に力を尽くしてきた。

 

だが、その手に握られた写真はそれに遠く及ばない。

 

雑誌や展示を見れば、男のそれを超える物はごまんとあった。

 

「…こんなもの…ッ!」

 

カメラを投げ捨てる。

あの凄まじい記憶を超えた写真を撮りたい。

魂を奪うかのような傑作を生み出したい。

そんな欲望が渦巻くが、男にはそれをやるだけの力と心は最早残っていなかった。

 

 

 

 

『魂…魂か。』

 

「ッ!? 」

何処からか声が聞こえる。

見回すが、声の主は姿を表さない。

 

いや

 

「…これか?」

 

地面に叩きつけ、粉々になった己のカメラ。

声はそこから発されていた。

 

『お前の欲望、叶えるにはお前の力だけでは遠く及ばん。』

「…分かってるよ、そんなの。」

 

身に染みて感じた。

声のするカメラもその成れの果てだ。

 

 

『…俺が力を貸してやろう。お前の願望に見合った、"魂を奪うに足る作品"。それをお前に作らせてやる。』

「…何だと?」

 

得体の知れない声、本来ならば信用に値しない。

しかし

 

「…分かった。力を貸してくれ。」

『良いだろう。お前の望みを叶えてやる。魂を喰らう最初の作品は…』

 

カメラから黒い影が噴き出し、怪物の形を成す。

 

『"お前"だ!!』

「ッ!? うわぁぁァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…またか。」

目を覚ます。

今回は少し長く記憶を辿っていたようだ。

目は少し水分を湛えていた。

 

ホラーの姿は既に無く、鎧も返還されている。

 

『目を覚ました様だな。』

「ガルバ…助かったよ。」

『いやはや、驚いたよ。まさか止められた時間を相手の分析に使うとはな。』

「それしか道は無かったからね。…さて、と。」

 

立ち上がり、ホラーがいた場所に残った黒い物を拾う。

 

「やっぱりコレかな、ガルバが知らない能力の根源。」

『分からない…シックリードの件と言い、最近のホラーはイレギュラー続きだ。エルドの婆さんの言う通り、こっちからも調査を進める必要がありそうだな…。』

「…だね。」




陰我というよりただの願望、ほぼヤミー
はてさて、3話は何時になるのやら
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