「······」
ダンジョン下層にある【
仮面の人物が思い返すは二十七階層での激戦。核とされる石英を破壊したことで、【
そして冒険者陣営の被害は
あの場にいた三人目の怪人・エインは、育てていた宝玉と
闇派閥についての情報を少し知られただけ、怪人が一人死に死兵が全滅したところで、
「······っ」
それでもエインの仮面の奥の表情は優れなかった。
レヴィスとの殴り合いでようやく分かった。コーネリウス・アイルゼンヴァハは危険だと。団長が無能だと団員の才能は潰れ朽ちるから放置でいいと主神は見くびっているが──実際自分もそちら側だったが──アレは不味い。どうにかしなければやられるのはこちらだ。
奴に対抗できるのは強者ではなく、
「───起キロ」
モンスターの緑肉に埋もれて、【食料庫】の栄養を一身に補給するレヴィスの眼が、静かに開く。
「全治一ヶ月です」
治療院の一室、可愛らしい造形をした人形を思わせる銀髪の少女がキッパリと言った。
彼女はアミッド・テアサナーレ。医療系の最大手【ディアンケヒト・ファミリア】に所属する
俺は例の如くお世話になっており、彼女をして全治一ヶ月は少し長いと思うが、自分の状態を見て納得している。
動かせないように両脚包帯で巻かれ、同じく両腕も包帯を巻かれて更に右腕には金具らしきものを付けられ固定されている。胴体にも頭にもしっかり包帯を巻かれ······というか全身包帯グルグル巻きで肌の露出が少ない。生きながらにしてミイラである。
「今まで診てきた患者の中でも、貴方は群を抜いて重傷です。生きているのが不思議なくらいです。というか亡くなっていた
「亡くなってたの!?······え、
「はい。リヴィラに着いた時点で貴方の心臓と呼吸は止まっていたらしく、異変を感じ取ったキリオスさんが合流し──」
「き、キリオスさんが合流し?」
「──心臓目掛けて殴ったそうです」
「ななな殴ったぁ!?死者を殴ったのアイツ!?なにやってんだあの馬鹿!······あ」
いやそうか、アイツには打撃の衝撃を内部に流動させるスキルがあった。
「······でも一歩間違えたら」
「爆散してましたね。心臓が」
「~~~っぶねぇぇぇ!!」
Lv.6とはいえ死にかけだぞ。無駄に器用なアイツのことだから狙ってやったんだろうけど、防御貫通の凶悪スキルをよく人に使おうと思ったなあの
「それでも死亡から危篤状態になっただけです。キリオスさんが高速でここまで運び、すぐに緊急手術を始めました」
「緊急手術······ん?」
「?どうしました?」
「どうやって俺を運んだんだ?」
アイツのことだから男を、てか俺をお姫様抱っこするとは考えられない。たとえ死にかけだからといっても、だ。やるとしたら俵抱きだろうか。
アミッドは間髪入れず答えた。
「──引きずってました。そして亡くなってました」
「なにやってんだあの大馬鹿野郎!!もう一度殺してどうするッッ!!」
百歩譲って俵抱きじゃねぇの!?何歩譲ったら引きずる選択肢に辿り着くんだよ!仲間の手で殺されてんじゃん俺!いや手じゃなくて地面か?どうでもいいわ!
「同じ要領で蘇生した後、手術に移りました。まずは肉を切り、砕かれた骨を摘出するところから始め、体内に散らばっていた骨、内臓に刺さっていた骨を一つ残らず摘出しました」
「そこまで重傷だったんだなぁ。摘出した骨は?元の形に戻して身体に埋め込んだのか?」
俺は腕を腕を軽く振って確かめる。とはいっても固定されているから満足に動かせないんだけど。でも手足があるってことは切断されてないわけだし、骨を何とかしてくれたんだろうな。
「いえ、摘出したと同時に手術に同席したメルティさんが魔法で復元しました。彼女がいなければ四肢を切り落とし、肋骨などはいくつか欠損した状態で今後の生活に支障をきたしていましたよ」
「そう、か······」
まあ、あのスキルに加えて殴り殴られ状態だったしなぁ。後遺症は覚悟してたけど、メルティの魔法のお陰でなんとかなったらしい。彼女には何かしらのお礼をしないといけないな。
「あ、そういえば俺の皮膚をよく切れたね。Lv.6だから硬かったでしょ」
「それはこちらも懸念しておりましたが、問題ありませんでした。同席した方にお願いしましたから」
「メルティが?まあ、戦闘職じゃないとはいえLv.7だしな。また迷惑掛けちゃったなぁ」
「
などと考えていると、アミッドは即座に否定した。
「───キリオスさんです」
「お前も同席してたんかいぃぃぃぃ!!」
「『それではこれより緊急手術を行う。メス』と、慣れた手つきかつ鮮やかな
「そんでお前が手術したんかいぃぃぃぃ!!メス、じゃねぇよ!!なに名医みたいな雰囲気醸し出してんだよアイツ!?つーかお前は止めろよ
「様になっていたので、つい」
「つい、じゃねぇよ!?」
つい、じゃねーよ!ド素人になにやらせてんの!?明らかに医療ミスだろこれ!裁判沙汰だろ!
「まあ、それは片隅にでも置いておきます」
置いとかれた。片隅に。
「貴方は一ヶ月間絶対安静してもらいます。確かに外傷を治し、骨などの内部分を綺麗に整えましたが、それだけです。診察の結果、身体中のあちらこちらにガタが見られ、この状態で私の魔法を使えば、体内バランスが乱れた状態が普通であるということになります。なので、包帯と金具で矯正しつつ効能を薄めた
「あくまで自然治癒の範囲で丁寧に治していく感じか。説明助かるよ」
なるほど、一気に治さない理由は分かった。ガタがあるのはやっぱりスキルの影響だな。ランクアップによる爆発的なアビリティの増加。何度も思うが、やはりリスクはかなりのものだ。
俺はもうLv.6。全員···とは言わないが、同格を思い浮かべてみて
「······ところで言い忘れてましたが」
「?」
「貴方が目を覚ます少し前。ナザレさんが前回のメルティさんと同じことしてましたよ」
「!?」
リリルカ・アーデ。
【ソーマ・ファミリア】所属の
そして下層が取り巻く環境とモンスターの猛攻に幼さゆえに耐えきれず彼女は逃げ出した。下層から地上までのノンストップ逃避行は彼女の限界を何度も超えさせた。
次話はそんな彼女に焦点が当たるかもしれない。
キリオス
メルティと二人がかりでようやく全治一ヶ月。キリオスがいなかったら死ぬ。メルティがいなかったら何かしらの後遺症が残っていた。俺が失敗するわけないだろ。
ナザレ
メルティに唆され同じことをする(六話参照)。団長は眠っていたがしっかり恥ずかしかった。無表情かつ無言で見ていたアミッドさんと目が合った時は羞恥で悶え死んだ。
リリルカ
報酬が良かったからサポーターを請け負ったけど、初日から下層に連れていかれるとは思わなかった不憫な少女。下層から全力で逃げてその過程で限界を何度も超えた結果、偉業認定されて(特殊な)ランクアップを果たした。珍しくキリオスが手腕を褒めたけど、下層が強烈過ぎて全然憶えてない。