『あの男が弱い、だと?クッ、ハハッ、なんの冗談だぁ?』
女は語る。
参謀としての能力はおろか、己自身も何度も高みに至り強者の部類に数えられる女──【殺帝】ヴァレッタ・グレーデ。
あの【クベーラ・ファミリア】の団長と、闇派閥全盛の暗黒期に幾度と殺し合いを繰り広げた女だ。彼女は戦闘の度に重症を負わせ、冒険者が援軍するまでの時間ずっとレベル差の暴力で圧倒し勝利を──
『──違ぇ。私は勝ってない、勝ったことなんて一度たりともねぇ。全て敗走に終わってる』
『あの時代、奴はLv.3で私はLv.5。負けるなんて万が一にもない。まあ、奴の場合はレベル差を覆すスキルを持ってるがな、あれには時間制限がある。実際スキル関係なくズタボロにしてやったしな』
『···が、どれも敗走だった。何度やっても、スキルをいなしても、勝利をもぎ取れず、結果は変わらなかった』
『なぜ負けたのか、だって?······眼だ。奴と相対すれば、否応なしに
『恐れた。殺しが好きな私が、弱者をいたぶるのが好きな私が、自分の中にある恐怖を剥き出しにされて、弱者に呑まれて恐れた』
『【猛者】や【覇王】よりも恐ろしいよ』
「!!···ッ!······!?」
怪物は困惑する。自分より脆く、遥かに弱い。先ほどまでとは違う急激な強化にこそ驚くが、それは一瞬。自分の命を刈り取るに至らないと気付く。
しかし、
「───」
「ガ、ァアアアアア!?」
異常種である怪物は、目の前の相手に驚愕する。母たるダンジョンから産まれ、あらゆる同族を補食し、特殊な武器を持っているのに、精霊をも埋め込まれた自分が、奴の黒い目、まるで己の命を見据えているようなあの眼が恐ろしくてたまらない!
そのせいで、たった一人の弱者を倒せないでいる!
『あの野郎が弱者だと?テメェの目は節穴か?』
【フレイヤ・ファミリア】副団長にして都市最速の男──アレン・フローメルは語る。
彼自身もコーネリウスと戦い、敗れた過去がある。
『あぁ?それは不意討ちで敗けただけ、勝利とは言わない···だと?』
『······テメェ、俺が不意討ちで敗ける雑魚だと思ってんのか』
『そもそもあれは不意討ちじゃねえ。接近するアイツに俺が気付けない筈がねぇ。それは、あの場にいた狼も同じだ』
『俺はLv.6だった。あの野郎はLv.5だった。だが負けた』
『スキル使ったから?···ハッ、テメェは知らねぇのか』
『──あの野郎は、
「ハァアアアアア!!」
俺は異空間に収納していた武器を、全て空中にばらまく。
長剣、細剣、短剣、魔剣、長槍、短槍、戦斧、戦槌などなど。
あの天才共に追い付くため極めようとして、結局そこそこの腕前にしかならなかった武器と技の残骸。
俺は器用貧乏。だから、武器はそこそこ扱えるが二流止まり。が、今はこれで充分だ。
先に空中から落ちてくるのは、重たい戦斧。
「ふんっ!お、らぁあああああ!!」
「ア、ガァアアアアア!?」
戦斧を掴んで殴る!怪物は空中にばらまかれた武器に気を取られたせいで反応が遅れ、モロに喰らう。
叩き付けた場所は、胴と腕の関節部分。どれだけ硬い鎧を着用しても、手足は動かさなければいけないため格段に脆い部位になっている。
下の階層に落とされてすぐの斬り合いで分かったことだ。
切り落とすことは出来ずとも、呻き声を上げて膝をつく。戦斧は食い込んでる。やったね。
次に落下してくる武器は戦槌。
打撃に特化したこの武器で、叩く場所は決まってる。
「やああああああああ!!」
狙う場所は食い込んだ戦斧。敵は膝をついているので、格段に狙いやすい!
振り下ろしの一撃だけで、豪腕が落ち、追撃とばかりに頭部を殴る。一撃だけじゃなく二撃。二撃から三撃。三撃から四撃の連続殴打!頭を破壊するに至らなかったが、頭を覆う装甲は崩れ剥がれた。
脳震盪を起こしたのか、巨体が倒れる。てかスキル三段階まで引き上げてんのに死なないのか。頑丈すぎだろコイツ!
落ちてくるのは長槍。頭に刺して終わり、だ───!?
「ガァアアアアアアアアアアア!!!!」
「ぬわぁ!?──がっ!」
格下相手を強制停止させる攻撃で、本来ならミノタウロスや階層主が使用する手段の一つ。コイツのそれは停止なんて可愛いものじゃなく、一種の範囲“砲”撃。
壁や床に至るまでの部屋がひび割れ、空中に浮いていた武器が飛ばされる。ゼロ距離で攻撃していた俺も例外ではなくぶっ飛ばされた。
やっべぇ、スキルの効果が切れた。反動で身体中が痛い、痛すぎる!
「フーッ、フーーーッ!!」
ズシンズシン、と鼻息荒げる怪物が近付いてくる。コイツの特性か体質なのか知らないが、脳震盪からの回復が速い。見れば欠損した腕の出血が止まってる。いやむしろ再生してね?ヤバくね?
手元に武器が無い。先の咆哮で手放し、それ以外は全部飛ばされた。
ヤバい。今までの人生で幾度と経験した絶対絶命のピンチ。死の気配を感じ取れる。······いや死の気配ってなんだ。そして、こんな時は大抵──
「
「···?──!!!??」
「団長ちゃぁぁぁぁああん!!生きてるぅぅぅぅぅうう!!?」
既に修復された天井は、もう一度派手に破壊された。現れたのは珍しく焦り大声を上げる、
「メルティ!!」
······と、
「黙れデカブツが」
「ぐぶぎゃ!!?」
澄ました顔でモンスターに踵落としを喰らわせる戦闘狂、
「うぇえ!?キリオス!?なんで!?」
【
「···フン、ナザレから連絡が入った。貴様らは災厄の相──つまり、凶日なのだろう?」
キ、キリオスさん······!
そんなの知るか、っていつもなら一蹴するのに、今日のコイツはイケメン過ぎる。くっ、メスの顔になっちゃう!
「メルティ、手当てしてやれ。奴は俺がやる」
「いや待てキリオス!アイツは──痛ッッ!?」
「スキルを三段階まで引き上げたのだろう?今の貴様は反動で使い物にならん。足手まといだ」
うぐっ、本当の事だけどハッキリ言いやがる···!
キリオスは二刀を両手に持ち、敵に突貫する。攻撃を躱し、剣を確実に当てる。
「フン、確かに硬いな」
しかし、斬れない。斬撃は、硬い装甲の前では有効にならない。だから俺は関節を狙ったんだ。
キリオスの次の手は、
すなわち
「行くぞ」
「ガァア──グッ、ゥゥゥゥ!?」
雄叫びを上げるが、キリオスの拳が入り中断される。打撃が通じている。硬い装甲に覆われている部分を殴られているのに、だ。
キリオスのスキル【流れ荒ぶる聖なる拳】。効果は体術での戦闘時、力・敏捷に補正が掛かるシンプルなもの。しかしこのスキルの真骨頂は副次効果にある。
「ハァアアアアア!!」
「グ、ガハァアアアアアア!?」
・
怪物が一つ一つの攻撃に苦しみ吐血するのは、衝撃が内部へ到達しているから。分かりやすく言えば、
防御不能の一撃だ。
「······ハハッ、どっちが怪物かわかんねーな」
苦しめていたモンスターを圧倒するキリオスに、言葉が漏れる。痛みを忘れその光景に魅入ってしまう。ああ、痛みを忘れてるのは、メルティの魔法のお陰か。いつの間にか傷が治ってる。
「団長ちゃんは、その怪物に勝ったじゃないか」
「あの時は、その、がむしゃらで···」
「団長ちゃんが勝利したから、キリオスちゃんは団長ちゃんを団長と認めるようになった。だから、君に並ぶために強くなろうとしてるんだよ」
「·········え?」
「キリオスちゃんだけじゃなくて、私達も、ね」
え、は?キリオスが、メルティ達が俺と並ぶために?逆だろ、俺がお前達と並ぶために今まで努力して──
「自他共に認める天才達と並んできた。差を付けられても、また追い付いてきた。君だけなんだよ?諦めなかったのは。みんなは、その姿に触発されたんだ」
大抵の人間は彼らの才能に絶望し、諦める。俺が諦めなかったのは、お前らの上に立つ団長だからであって、その立場じゃなかったら諦めてる。
「充分充分。諦めてないという結果が全てだよ」
「······そっか」
今まで見栄を張ってきたが······張ってきた見栄が剥がれてた気がするが······うん。
「っし、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
近場の武器を拾って、俺は立ち上がり、前へ進む。
「! ······大人しく休んでいろ、邪魔だ」
「うるせー、俺の獲物だ。遠征で疲れてんだろ?お前が休んでろよ」
「必要ない。貴様みたいな貧弱な身体をしていないからな」
「「あ"あ"ん"!?」」
「フフ、なんだかんだ仲がいいね」
この後、仲良く怪物を倒しました。
オラリオに激震が走る!
【クベーラ・ファミリア】、【色彩】のメルティ。
Lv.7に到達。
さらに【クベーラ・ファミリア】副団長こと、【覇王】キリオス。
Lv.8に到達。
オッタル→キリオスに、リヴェリア→メルティへと都市最強、都市最高魔導師が塗り替えられた!
【クベーラ・ファミリア】団長こと、【宝神の守り番】コーネリウス・アイルゼンヴァハ。
Lv.6に到達!
全っっ然、話題に上がらなかった!
「糞がッッ!!」
ヴァレッタに勝てなかった理由、未熟だったから。
アレンに勝てた理由、キリオスに勝利して色々精錬されたから。
暗黒期~原作二年前の間でキリオスと戦闘を繰り広げ団長(仮)から団長(本物)となった。まあ、キリオス以外は認めてた。
怪物さん咆哮を上げてブチギレ。終始格下を恐れてたんだから仕方ないね。
団長はこの戦いで。
メルティは魔法職が苦戦する階層主を一人で倒したから。
キリオスはたくさん戦ったから(笑)