続きましてこんばんは。思い付いてしまっては最後まで書かざるを得ない。それが作者病です。とても良いことでありますね。
転生してから百年。
あれから色々あった。
使命をサボってたら俺を転生させた観覧者から魔女教を嗾けられたり、故郷が滅ぼされたり、エリオール大森林に行ったりと話題に事欠かない百年だった。
「ま、それはもう昔の話だ。親類縁者は皆寿命で死んだ。でも俺は生きている。そしてこれからも死ぬつもりはない……だから、お前には死んでもらうよ、ナツキスバル」
富豪のような部屋で一人ワインを嗜む男は窓の外の満月へ向けて宣誓した。
◆◇◆
「きゃはっ! 呑気なもんでいやがりますよ」
特徴的な喜笑とともに全人類を見下したような視線を手向ける金髪紅瞳の少女。その子供といって差し支えない体は不似合いな黒のローブに包まれていて通りを歩けば周囲の目を引くことだろう。しかし彼女は路地裏の暗がりの中から通りを歩く一人の少年と一人の少女を見つめていた。
この国では珍しいその黒髪と黒い瞳をもつ少年、そしてこの国どころかこの世界でも珍しい銀髪に紫の瞳をもつ少女にコンビは周囲の目を異様に引き、怪しい少女から視線を外す。
「さてさて……どうしてくれやがりましょうか。んー、直接スバルを芋虫にでも変えてやります? そうすれば絶望して生きることを諦めてくれやがるでしょうか。いいや……一度でも失敗すればそれ以降警戒されて近づきにくくなる……まだアタクシ様の存在を気取らせるのは愚策。なら先に周りを狙う? 誰を。カドモン、クロムウェル、フェルト……あるいは……」
「何してるの、あなた」
ぶつぶつと企みを口に出す怪しい黒ローブの少女の後ろから声が掛かった。そこにいたのは同様に黒い外套を身に着けた長身の女だった。先ほど見ていた少年と同様に黒く艶だった髪に、銀髪の少女と同じくする紫紺の瞳が特徴的な美しい女だ。その女の名前はエルザ、『腸狩り』と称される殺し屋だ。今は黒ローブの少女の雇われの身である。
「きゃははっ! エルザじゃねぇですか、何をしていやがるんですか? こんなところで……」
「何してるのと聞いたのよ、〝ゼロ〟」
「………もう少し付き合ってくれても良くない?」
「あなたの下らない真似に付き合うわけないでしょう。普通に不愉快なのだけれど」
「さいですか」
気落ちしたように真顔になった少女、もといゼロはその身をぐにゃぐにゃと変化させ、エルザと同様黒髪の少年へと変わった。そんな摩訶不思議な現象にエルザはさほど驚いた様子もなく淡々と会話を続けた。
「たまに練習しないといざって時に上手くできないでしょ? 俺は失敗できないんだよ。俺には時を遡る力なんてないんだから」
「まるであなたじゃない誰かにはあるみたいな言い方ね、心当たりでもあるの?」
「あるね、それはもう」
「へぇ……」
その返しにエルザは興味をもったようだ。しかしそれを教える気はさらさらない。そんなことより彼女にはやってもらわなければならないことがある。何よりも大事な、ゼロの使命だ。
「それより、ターゲットのことはちゃんと下見してきたの? 見えなかったけど」
「ええ、見たわよ。ちらっとね」
「ふぅん、それで? どう思った?」
「にわかには信じがたいわね。本当にあの子が標的なのかしら。躓いて頭でも打てばそれだけで死にそうな子だったけれど」
「そうだよ、彼は弱い。この世界の基準で言えば子供にすら劣る弱者だ。でも、死なない」
「信じられないわ」
「……ま、今回はお試しだから、気楽にいきなよ。でも、失敗したら報酬はないし、次回は俺の命令に従ってタダ働きしてもらうから」
「……ふふ、素敵。そこまで言うなら私も手は抜かないわ。きっちり殺してきてあげる」
「ありがとね」
「……それじゃメィリィのことはよろしく」
「あいあい、ゼロの児童相談所にお任せよ」
冗談めかしているがその実ゼロの児童相談所という場所は実在する。それどころか一流の食料品店に装飾店、この世界基準で言えば破格の性能を持つ医薬品店など、彼の持つゼロ商会は様々な業種を幅広く行っている。それも異世界の知識を持つ彼がこの百年を掛けて築き上げてきたからだ。今では世界でも有数の大商会として世間に広く認知されている。
そんな彼が契約している黒装束の殺し屋エルザ。大商会の裏で暗躍し、敵対する商会を潰して回っていると噂だが……当然そんなことはしていない。彼がエルザを雇っている理由はただ一つ。――彼女が対ナツキスバルの殺し屋として原作でも屈指の実力者だからだ。
彼女が傍を離れ人気のなくなった路地裏で、再び金髪の少女へと変身したゼロは徐に意識を切り替え、明るく演技を始めた。
「――アタクシは魔女教大罪司教『色欲』担当、カペラ・エメラダ・ルグニカ様だ! きゃはっ!
…………やっぱ下手かな、要練習だな」
とりあえずメィリィ相手に練習しよう、そう決めたゼロだった。
なお、それをした結果一週間は口を聞いてもらえなくなった。
あと当然だけどエルザの襲撃は失敗した。
どこぞの完璧超人様の前では人外殺人鬼もお手上げだったようだ。血塗れの彼女を運んであげたのだが、その時に彼女は恍惚とした表情で言った。
『とっても素敵だったわ』
やっぱり頭おかしいよ、あいつ。
第一章では何をどうしようとラインハルトが来る。そうなればゲームオーバーだ。俺には一個しか命がない以上やり直しは効かない。失敗できないんだ。……奴らはそう都合よく『不死鳥の加護』なんてくれやしないからな。
一歩一歩確実に、ナツキスバルを殺す為の布石を積み立てていく。
だから、今回の目的は『死に戻り』を認識できるかどうかを確認することだった。その結果は、失敗だ。俺には一度もナツキスバルが死んだところは確認できなかった。スバルを付け狙うエルザの行動を見張っていた俺は、スバルが奇妙なほどにその狙いを避けて行動しているようなそんな違和感を覚えた。
おそらくスバルは何度かは死んでいる。しかし何度死んだのかもその根幹たる死に戻りの実在も俺には認識できなかった。
普通に考えれば打つ手なしだ。無限コンテニューのできる主人公相手に殺し合いなど不毛でしかない、負け戦だ。それでも、俺はそれを成さなければならない。もはや夢見た異世界生活は幻影と消えた。しかしようやく始まったのだ。否、あいつを殺して初めて俺は始められるのだ。俺の新たなる順風満帆な異世界生活を。
その為には何としてもナツキスバルを殺さなければならない。主人公は、二人も要らない。あいつが生きているこの世界に俺の居場所はない。だから、奪ってやるのだ。あいつの居場所も命も、何もかも。この世界で異世界生活を謳歌できるのは俺かあいつか、二人に一人なのだから。
その為にまず狙うべきは……序盤でスバルが最も追い詰められた時に立ち上がるきっかけとなる少女。
――レムを狙う。
まず一章。失敗。死に戻りは認識できない。ラインハルトはやはり出鱈目だった。エミリアはきれかわ(綺麗で可愛いの略)だった。次はレムを狙う。