改めましておはようございます。カラオケに行っていたので投稿が遅れました。楽しかったです。どうでもいいですかそうですね。……まずは毎日投稿を頑張ろうってなもんです。このペースだと一瞬にして完結しそうですが。どうぞ。
黄昏時、おつかいを終え屋敷への帰路に付く青髪の少女がいた。その身を黒のメイド服で包み、その端正な顔立ちを無表情で固めたうら若き少女だ。その手には購入した数週間分の食料や追加の調味料が抱えられている。それは予期せぬ来訪者の存在によって望外に増えている為些かいつもとは勝手が違うが、それでもその見た目にそぐわぬ彼女の怪力でもってすれば些細な違いでしかなかった。
しかし、そんな彼女でもいつもと違う行動を余儀なくされた。それは屋敷への帰路に佇む一人の男の存在だ。それは道のど真ん中で俯き不気味に静止している。それはまるで何かを待っているようで……その先の思考に嫌な予感が過った。
「……あの」
「――ああ、勤勉デスね」
「――ッ!」
瞬間、背筋を上った確かな悪寒を信じて青髪メイドの少女――レムはその場を飛びのいた。そのすぐ後、彼女のいた場所を不可視の
一瞬にして警戒を最大まで引き上げた彼女は手に持った荷物を背後へ放り、瞬く間に鬼化して隠し持っていた打撃武器を構えた。
不足の事態に備えて武器を隠し持つのはメイドの嗜みだ。
「素晴らしいィ! 油断がなく隙が無く行動が早イ! その様相こそまさしく勤勉なる愛の使徒! ああ、ああぁぁぁ脳が、ふる、えるッ!」
「――――魔女教徒」
レムはその狂った男の言動にすぐさまその正体に当たりをつける。そしてそれは正解だ。彼は――。
「ワタシは魔女教大罪司教、『怠惰』担当……ペテルギウス・ロマネコンティ、デスッ!!」
「――アル・ヒューマッ!!」
間断なく放たれた憎悪の籠りし氷の杭。だがしかし、全力で放ったそれすらも男に致命傷を負わせる前に見えざる壁に遮られて地に堕ちる。
レムは警戒心と憎悪をさらに引き上げながら……この場から脱出することを考える。それは多くの理性的な理由と本能的な直感によって得られた選択肢だった。
レムには守るものがなく、敵の力は未知数。であるならばここは逃げに徹し、姉様やロズワール様に助力を願う可能性を考えて……
「――イイのデスか? 戦闘中に余所見など」
「っ、しまっ――!」
「アナタ、怠惰デスね?」
男の姿は一瞬の油断の間に彼女の目前へと移っていて、気づけば男の顔は息が当たりそうなほど近くに存在していた。その窪んだ瞳とこちらを値踏みするようなやらしい視線に身の毛もよだつ嫌悪感を抱いたレムはその拒絶心を反発心へと変え、堪えずに武器を振るった。
「はな、れろ……ッ!」
「あぁぁイイ! とても良い抵抗デス! 諦めない心、挫けぬ精神! それこそが勤勉たるモノの在り方デス! ――デスが、力が伴わなければ意味を為さないのデス」
「クッ……うぐッ」
決定的な油断の代償は気力だけで返せるものではなく、抵抗もあえなく彼女は男の血の気の引いた青白い腕で首元を軸に宙に持ち上げられる。その際に唯一の武器であるモーニングスターは地に堕ち、その役目を失う。その骨ばった皮だけの腕のどこにこれだけの力があるのか、そう疑問に思うほど力によって彼女は首を絞められ、次第に感じる血の気の引く感覚に……背筋を凍らせる。
――死、ぬ?
そう最悪の未来を想像してしまい、徐々に心を魂を胸中を恐怖が埋め尽くす。それは死への絶対的な恐怖。それは意味も理由もなく殺される恐怖。それは心に沸き立つ憎悪と復讐心を挫かれる恐怖。
「……たす、けて…………ねえさま…………」
薄れる意識の中、自然と出たのは命乞いではなく最愛にして無二の家族への救援要請だった。ぽろりと、苦しみと悲しみの涙が零れ落ち、もう間もなく彼女の命脈が止まる……そんな時だった。
「――おっと」
「ッ、がはっ、げほっけほっ」
「危ない危ない。危うく殺してしまうところだったのデス! イケナイ、イケナイのデス! ――これでは『彼』に面目が立たない。勤勉たるワタシが寵愛の導きを邪魔することなどあってはならないの、デス! あぁぁあぁぁ、御赦しを! 御赦しを魔女よぉぉぉお!!」
「……っ…………――」
そんな狂人の狂言を、意識を失うその最後の時までその脳裏に収め、レムは意識を失った。
そして、彼女が意識を失った途端に
「……もういいかな? うげー、あいつの体になるとなんだか胃の中に指でも収まってそうで気持ちが悪くなる」
ぐにゃぐにゃと、もはや見慣れた変化を遂げてそこに現れたのは黒髪の少年だった。何を隠そうゼロである。何故わざわざ変身して気分が悪くなる奴を選んだかと言えば、自分が知っている魔女教徒の中で最低限会話が通じる奴がこいつしかいなかったというそれだけの理由、消去法だ。他に利点があるとすれば少なくとも今のペテルギウス・ロマネコンティは俺が真似したことによる風評被害などまるで気にしないだろうという点だけだ。
これより先にレムとペテルギウスが出会った時に身に覚えのないことで混乱する奴が目に浮かぶ。いい気味だ。さて、それはそれとして……俺は彼女がちゃんと気絶しているか確かめた。
「いやぁ俺の演技も捨てたもんじゃないな。今回はかなり良かったんじゃないか? レムも完全に信じきってただろ」
一人満足げに頷くゼロ。その目的はレムを殺すこと――ではない。何故、好きな作品の好きなキャラを自分の手で殺さなければならないのか。そんなことをする理由は彼には万に一つもない。
であれば何の為にこんなことをしたのか。それは偏にレムのスバルに対する信頼を失墜させるためだ。
「ちょっと迂遠すぎたかな? 『彼』なんて言ってもそれがこの子の中でスバルと結びつくかは分かんないし」
自分でも面倒なことをしている自覚はある。だが現代知識以外で自分が賢いという自覚はないので、どうにもこうにも目的の為には思いついたことを片っ端から実践するほかにない。
ただ、これがある程度効果的であることは俺にもわかっていた。
「少しでいいんだ。ほんの少し、小さな歪で人の信頼は崩壊する」
彼はそれを知っている。人の信頼は長く築き上げられた堅牢な城であり、外敵を思うように通さない。だがしかし、内側の不和には酷く脆い。一度瓦解すれば簡単には戻れない。不信が不信を呼び、一たび不安となればもうあとは勝手に崩れ落ちていくのみだ。
「はてさて、ハイテンションでごり押しするしかコミュ力のない今のスバルにどれだけできるかな? これを乗り越えられるかどうかがこの先の計画への試金石になる。せいぜい頑張ってくれよ、ナツキスバル」
意気揚々とにやけ顔を晒して悠々とその場を去った黒衣の男であるが……実際にはいとも簡単に乗り越えられた。いとも簡単にというのは語弊があるかもしれないし主の主観が混じっているかもしれない。しかし、傍目で観察していたゼロからすればそれはもう爽快に攻略されてしまった。
これでわかったことは、外野が何をしようが美少女メイドのレムという存在はナツキスバルを愛するようにできている、それだけだった。意味が分からない。確かに嫌っていたはずで、その不信感と嫌悪感は原作の何倍もの大きさであったはずだ。それなのに蓋を開ければ、一週間にてナツキスバルに攻略されていた。彼女は予想していたよりチョロインだったのかもしれない。
ゼロは密かに計画を修正した。
次点二章。失敗。レムはどうあがいてもスバルを好きになる。それはもう運命であり、その恋路はガチガチに固められている。よくよく考えてみれば原作のif√にレムは基本的に存在せず、闇落ちスバルに干渉することはない。しかし今回の事からして彼女がいたらスバルが闇落ちすることはないことが易々と想像できた。まさしく彼女はスバルにとっての闇落ち防止装置であるのだ。
次回三章にて彼女を確実に排除しなければならない。ならない、が……。
この先はなにも書かれていない。