ゼロから始めさせない為の異世界生活?   作:萎える伸える

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 遅ばんにちは。どうやったら面白くなるか考えること。それしか作者にはできなんだ。この世の不利益のすべては作者の能力不足。想像力が足りてねぇんだ。キャラの解像度の低さも全部作者の能力不足故……


まずは怠惰の代償を知れ

 

 

「手伝わせてくれてありがとな、ペテルギウス」

 

「いえいえ! それはこちらの台詞なのデス! この大事な時にこうして助力を申し出るアナタの勤勉さに、ああ、ああああああ、脳が、震える! ――感謝を。同じ大罪司教として感謝を申し上げるのデス。『色欲』の同士よ。寵愛の信徒よ! しかし……しかししかし……前々から気になっていたのデスが……何故にアナタはそうして狂ったフリなどしているのデスか?」

 

 真に恐るるべきは理解できない化物ではない。会話の通じる狂人だ。言葉を介する知恵があり知識があり知能があって尚も分かり合えない矛盾。

 同じ言葉、同じ言語、しかしその先に理解はない。要するに狂っているのだ。それは己か、相手か。自分が知らぬ間に狂っているなどそれこそ狂気の沙汰だ。しかしだからこそ、こちらを覗き込む無遠慮な男の顔を、俺は笑顔と共に突き返し、否定した。

 

「……狂ったフリ? 失礼だな。俺は狂ってないし狂ったフリなんてしてないよ」

 

「いえいえ、それはおかしいのデス。ならばなぜ、どうして、何故(なにゆえ)に此処に来られたのデスか? アナタの考えは実に単純明快デス。アナタ……『死』をひどく恐れていますね? それなのに、何故。それならば何故! アナタは此処に来られたので?」

 

 奇妙な言動に今更驚くことはない。こいつが意図して狂人のように振舞おうと俺には何の関係もない。俺の中でこいつは徹頭徹尾道化でしかないのだから。

 ――己の過去も思い出せず過ちを犯し続ける道化。狂気に呑まれた凡人。それがこの男に対する俺の絶対的な評価だった。意味もない活動に極めて勤勉で実に結構。その活動が俺にとって利用できるならそれでいい。こいつがどんなに道半ばで果てようと想いを遂げれずに死に絶えようと俺の人生には何の影響もない。

 

 しかし、果たしてもらわなければならない役目はある。

 

「……俺の故郷にはな。狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人って言葉があるんだ。その意味が分かるか?」

 

「いえいえ、いえいえいえ。それは違うのデス。間違っているのデス。狂気とは、常人の思考の外に潜むもの。只人の一時的な発狂と同じくしてはならないの、デスッ! それでは狂気に対して失礼というものデス!」

 

「お前が狂気に対してどんな敬意を持っているかは知らないけど。俺にとって凡人の発狂もサイコパスの狂人もなんら変わらないよ。そんなことより、作戦は決まってるのか?」

 

「作戦! 策略に計略に詭計に謀計! 実に勤勉たる行い! 故に勤勉たるワタシたちになくてはならないもの! すでに計画は始まっているのデス! 此度の王選に参加せし不届きな風貌と出自の娘! すなわち銀髪の半魔! 許されざる存在の――――」

 

「あーはいはい。そうですね。大変ですねー」

 

 一度語り出したら止まらないタイプの話し手には適当に相槌を打つに限る。目前の男が熱く語る不届きな少女の出自と許されざる似姿。その紫紺の瞳は万民を魅了し、その銀髪は観衆を釘付けにする。しかしそれは一般の魔女教徒のみだ。本当の民は、王国民は、世界中の人々は、彼女を拒絶し排除し受け入れず、遠ざける。偏にその恐怖故に。

 

「――故に! 今! すぐに! 魔女を冒涜せし半魔を擁立するメイザース領へと向かうのデス!」

 

「うんうん。それで?」

 

「そこから先は『福音』の導きに従うのデス!」

 

「福音。」

 

「そう! 福音! 我が愛の道標(みちしるべ)! あぁ嗚呼ぁああああぁあああぁぁ魔女ぉぉぉぉ! 魔女よぉぉぉぉ!」

 

「………」

 

 『福音』。それは所有者の未来を暗示する予言書にして、所有者を望む未来へと導く魔女の寵愛の証だ。その製法もロジックもまるで理解らないロストテクノロジーの作品。それが魔女教の大罪司教から下っ端のぺーぺーまで等しく与えられ彼らを望む未来に導いている。――魔女の望む未来に。

 

 だがしかし、唯一ゼロの持つ福音だけは彼女の望む未来を示していなかった。

 

 刻まれているのは唯一人を殺す為の殺人計画書だ。毒殺、刺殺、絞殺、殴殺、惨殺。殺して殺して殺して殺して、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。脅迫のように書き連ねられるそれはゼロの意志とは関係なく綴られる。

 これのどこが『福音書』なのか。呪いの書の間違いだろう。――なにせ書かれているのは、そう――ゼロが辿り得る死因の数々なのだから。

 

「………ま、スバル大好きな魔女様に嫌われるのは当然か」

 

「ん、何か言いましたデスか?」

 

「何でもないよ。それより行こうか。俺は俺の目的の為、お前はお前の悲願の為」

 

「ええ、ええ! 身の程を弁えぬ不埒な輩に試練を与える為! 寵愛に報いる為! 愛に遺愛に敬愛に純愛に愛に愛に愛アイあいあい、あぁぁぁぁああああぁぁいぃいいいいいい!!」

 

 狂気と狂笑に身を委ねた様子のペテルギウスが血走った眼で己の両手の指を噛み千切り出血と鮮血と血走らせる中、ゼロはお似合いの黒い衣に福音をしまい静かに隠れ家を後にした。

 

 

◆◇◆

 

 

「ペテルギウスは死んだか。権能は……手に入らないか。そりゃそうだよな」

 

 すべてが晴れすがった清々しい平野。静かにそよぐ風に生い茂る草花が淡々と弛む。その光景を視界一杯に収め目を伏せたゼロは死者を悼むように両手の指を合わせた。だがその意図は哀悼にない。それはただ、胸に圧し掛かる恐怖を稚拙な瞑想で沈めようとしただけなのだから。

 

「……あ? なんでお前がここにいるわけ? あの半端者と一緒にいたんだろ?」

 

「あァ……食って食んで噛んで喰らって噛み砕いて暴飲暴食! いくら食っても喰い足りないィ! 僕たちの腹は磨かれた美食でしか満たされないッ! 飽くなき悪食でしか満たされないッ! 僕たちのペットを狩った奴らを喰えばそれも満たされるかもしれないと思ったが……想像以上だァ!」

 

「久しぶり。元気そうで何よりだね。ざっと十年ぶり?」

 

 平穏とした草原で一堂に会すのは穢れた三つの魂。『無欲』を名乗りし『強欲』に、『飽食』を欠いた『暴食』、そして『愛』を失った『色欲』だ。

 彼らは一定の距離をとってそれより近づかず、決して各々の間合いに入ることはしない。すでに崩壊した竜車と血塗られた暴食の短剣。その有様で何が起こったかなど容易に想像できるものだ。万事解決した舞台裏に空気の読めない観客が紛れ込んだ。それだけのことだ。

 

「あなたは……」

 

「ん……俺? 俺は………」

 

「おい、僕を無視するな! だいたいさぁ何しに来たわけ? ペテルギウスの奴はどうしたんだよ。はっ、どうせ死んだんだろ? 分かりきった答えだよね。そもそもあいつが僕と同格の位置に並べられていたのが間違いだったんだ。資格も持ってない奴が何の手違いで大罪司教になってたのか僕には知りたくもないけど。いい気味だよね。これで身の程ってものが分かったんじゃないのかい? どいつもこいつも話の通じない図々しい輩ばかりで辟易していたんだ。大罪司教という地位に相応しくない奴の末路としてはお似合いだろうさ。違うか? 僕は何か間違ったことを言っているかな」

 

「あーうん。お前はいつも正しいよ。言ってることも至極まともだ」

 

「ふん、そんな当たり前のことを上から目線に言いのけるなんてどういう精神してるんだい? もしかして僕を、この僕を見下しているのかなぁ……偶々空いた席を奪っただけのお前が、新参者のお前が! この僕を! 人を馬鹿にするのも大概にしろよ! 僕は! お前たちとは違う真に完成された存在! 完結した存在なんだ! 喰らうだの愛するだのそんな自己満足の下衆な我欲に囚われてるお前たちとは違う! 本物の――!」

 

「……痛いなぁ。知ってるでしょ。俺だってこの程度の傷は治せるけど、痛いものは痛いんだ」

 

「なんだよその言い草は。なんなんだよその顔は。それぐらいのことで勝ち誇ったつもりか? 思考が浅いんだよ。たかだか肉体の欠損を直せる程度の力で、その程度の力で僕の権能を越えた気になるなよ! 身の程を知れよ! そもそも僕とお前とじゃ立ってる次元が違うってさぁ! そうやって勝手に勘違いして傲り高ぶって僕を見下す! 平穏に生きたいだけの僕の邪魔をする! それってさぁ……僕の権利の侵害だよねぇ!!」

 

「―――。」

 

 突然仕掛けてきた『強欲』の攻撃を避け、避けた先の地面が弾ける。その際に太ももの一部が持ってかれるが瞬きする間に完治する。血は出ない。その様はもはや人間ではなく、それを観察する背後のメイドも刮目する。

 しかし彼女には確かな自覚があった。それは、この状況において、彼女は目の前の人ならざる者に()()()()()()と。

 

『ニ――。ゲ――。ロ――』

 

「―――。」

 

 口パクで伝えられたその言葉に息を呑んだ彼女は、すぐさま思考を切り替え逃げる為に倒れ伏したクルシュを抱えて立ち上がった。

 目線で謝意を伝えて、その場を一目散に去る。それを邪魔しようとする『暴食』の魔の手を――。

 

「本当に人使いの荒い雇い主だわ」

 

「……遅かったな」

 

「間に合ったのだから良いのでしょう? それで、私はこの子供の相手をしていればいいのかしら」

 

「子供とは言ってくれるなァ! 名も知らないお姉さん、よければお名前をお聞きしても?」

 

「お生憎、貴方みたいな薄汚い子供には興味ないの」

 

「ッ言ってくれるッ!」

 

 そっけない殺人鬼の対応に嗜虐的な笑みを浮かべ手慣れた短剣を構えた。

 

「……そういえば名乗り損ねたな。まぁ名乗れるわけないんだけど。でもまぁ、そうだなぁ……――俺は魔女教大罪司教、『色欲』担当のゼロ。……やっぱりしっくり来ないな」

 

「僕を、無視、するなぁぁ!!」

 

 面白いように逆上する対面の男の不細工な面を拝んで楽しみ、体をミンチにされる痛みから意識を逸らす。そんな苦行をしばらく続ける。しばらくとはレムが逃げれるくらいの時間を稼げるまでの間だ。

 何故、殺さなければならないナツキスバルの仲間を、それも超重要人物であるヒロインを助けているのか。それに何のメリットがあるのか。……ない。メリットなどない。言い訳(そんなもの)は後から作ればいい。今はただ、心の衝動の赴くままに好きな女の子を助けるだけだ。

 そこに対価など必要ない。

 

 それから数十分の間、ゼロは『強欲』の猛攻を受け切り、キリの良いところで逃げ出した。幸い『強欲』の足は速くない。本気で逃げれば簡単に戦闘から離脱できる。『暴食』に関してはその限りじゃないが……

 

「ぐッ、がッ、ギッ」

 

「あら、こんなものなの? 先ほどまでの威勢はどこにいったのかしら」

 

 ナチュラルに煽る彼女の前では形無しだった。その対決する姿など原作でも見る由もなかったが、やはりこうなったか。長剣との闘いならいざ知らず、短剣同士の戦いであればおそらくこの世界の誰が相手であろうとエルザに軍配が上がるだろう。勿論、その相手が完璧超人の天剣様でもなければだが。

 

 そうして完璧に離脱した俺たちは少し肩の凝る疲れた体をほぐしながら帰路に付き……そこで眠ったように倒れる『メィリィ』を発見した。

 こんなところで寝るなと肩を揺すっても彼女は起きず、それから一年が経とうとも起きることはなかった。

 

 そこで俺は知ることになる。己が怠惰の代償を。

 

 

「? メィリィって誰のことかしら」

 

 





 三章。喪失。メィリィの『名前』が奪われた。暴食の仕業ではない。考えられるのはクソ観覧者だけだ。故郷を滅ぼした時と同じ。また同じ過ちを犯した。身勝手の代償は手の内から奪われた。目に見えず会話することも叶わない存在にどう太刀打ちしろというのか。彼女を目覚めさせるには、役目を果たすしかない。すなわち、救世主の殺害を。
 覚悟を決めろ。四章、エミリアを堕落させ、スバルの生きる意味を奪う。
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