ゼロから始めさせない為の異世界生活?   作:萎える伸える

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 二日明けましてこんばんは。Apexしてたら書く時間がなくなりました。というのは嘘です。適当ななろう小説読んで時間を潰してました。やっぱりなろう系はいいっすね。好きっす。


まずは存在理由を奪え

 

 

 レムを助けて英雄(ヒーロー)のふりをした。

 その結果がこれだ。

 

「メィリィ」

 

「…………」

 

「またやってるのね。いい加減切り替えたら?」

 

 死んだように眠る彼女が目を覚ますことはなく、それどころか彼女の尊厳を守ることすら叶わない。世界から忘れ去られた彼女を覚えているのは俺と、ただもう一人だけ。だけどそいつも()()()()ではメィリィと会ったのは一回こっきりで、文字通り名前も知らない関係だ。

 要するに、今彼女を助ける為に動けるのは俺だけということ。彼女の存在を無視する、なんて選択はあり得ない。何故なら彼女が眠っている原因は十中八九、俺にあるからだ。

 

「……言っただろ。この子はお前の妹分で、お前も可愛がってた……」

 

「知らないわね。私、子供には興味ないの」

 

「……」

 

 存在したはずの人間が世界から消えれば、当然それによるバタフライエフェクトが起こる。たった一人の人間の消失は世界にとって影響は軽微なれど、身近な人間に限ればそうではない。それも、少なくない時間を共に過ごしてきたであろうエルザに関して言えば、その影響は計り知れない。

 今のところは大きな差異はない。少し瞳が冷たくなったくらいだ。命令にも聞いてくれる。だが、そこには確かな差異が、違いが発生していた。

 

「それで例の標的の子のことだけれど、計画は決まったの?」

 

「……ああ。メィリィを失った分の戦力は俺が埋める……先方にもそう話をつけた」

 

「そう。存在がバレるのをひどく恐れていた貴方が自分で、ね」

 

「当然姿は変える。不必要な会話もしない。姿を変えた邂逅は前もやったし問題ない。それに……今回は奴の殺害はもちろんだが、他にも並行して狙う子がいる」

 

「へぇ……なら私も手が開けば狙ってみるけれど」

 

「必要ない。言っただろ、今回は俺の命令に従ってもらう。余計な事はしなくていい。お前は標的を、『ナツキスバル』を徹底的に狙えばいい。……言っておくが、屋敷のメイドにも、精霊にも、手は出すなよ」

 

「あの坊やだけでは少し物足りないけれど。いいわ、今回は従ってあげる」

 

「……そうしてくれ」

 

 分かっている。分かっているんだ。言われなくとも、俺のやってることが甘いことくらい。本来であればなりふり構わずナツキスバルの守る対象を狙うべきだ。その難易度を上げるべきだ。だが、それでも……まだその時じゃない。あいつの周りの子たちを殺さずとも、まだあいつを殺せる可能性がある。

 

 あいつの生きる指針は、異世界生活の根幹はエミリアだ。その存在とあいつの行動理念は切っても切り離せない。あいつが失って最も困るものはエミリアの命。――そしてその『精神(こころ)』だ。

 命はいくらでもやり直しが効く。だが、心を失ってしなえば早々に取り返すことはできない。――心を失ったまま章を攻略してしまえば猶更だ。

 嫉妬の魔女は、スバル以外の生き死にをさほど考慮していない、はずだ。それも生きてさえいるのなら問題ないと判断する可能性が高い。だから、俺が目指すべきは――エミリアの心が壊れたまま章をクリアしてしまうこと。

 そうなればあいつは死に戻りしてもセーブポイントには戻れない。

 

「…………生きているなら、儲けもんだろ」

 

 彼女の心を壊すことに躊躇いがないと言えば嘘になる。しかし、もうそれしかないのだ。なにせ、それだけナツキスバルという存在は殺し殺されという関係において類稀な強敵だからだ。死なない、折れない、挫けない。そんなのは空想の世界での精神性であり、決して現実的ではない。この世界に転生して尚、一度死んで尚、死ぬことに怯えている俺が言うのだから間違いない。おかしいのはこの世界ではなく、あいつだ。

 あいつこそが異常なのだ。ただ舞台で観客として見てた時は大したことのない取り柄だと思っていたが、実際にその片鱗を垣間見れば、その前後の認識には雲泥の差ができる。

 

「あいつさえいなければ……なんて八つ当たりできたら楽だったな」

 

 事の正当性を問うならば、間違っているのは一方的に彼を殺そうとしている己だ。その理由も身勝手で、臆病で、情けないものだ。

 

「ただ……好きな世界で、好きに生きたい。……それだけだったんだけどな」

 

 初めの頃はそうでも、今はもうそんな甘っちょろいことは言えない。言ってはならない。ただ一人の俺という存在が、一つの街を地図から消し、ただ一つしかなかった人々の命を、人生を、その軌跡を抹消し、結果、それでも厚顔無恥に生き恥を晒し続けている。

 いっそ消えてしまった方がいいとすら思う。

  

 それでも、もう止まれない。失ったもの、奪ったもの、それを数えればキリがない。ならばそれらを理由に止まれないなどと言い訳することはしてはならない。

 

「俺は俺の目的の為……何を利用してでも、俺の理想の異世界生活を勝ち取ってみせる」

 

 たとえその行動が理想の真逆を突き進んでいたとしても。

 止まる、わけには…………。

 

 

◇◆◇

 

 

 覚悟は決めていたはずだ。

 好きなキャラの心を壊す最悪の所業だろうと熟す覚悟だったはずだ。

 ならなぜ、なぜ……俺は彼女を抱えて聖域から抜け出す帰路を進んでいるのか。

 

「あぁ、とっても素敵だったわ……」

 

「…………」

 

「どうして、助けに来たのかしら」

 

 恍惚とした笑みを浮かべる彼女は一見して妖艶で、美しく、人を引き付ける笑みを浮かべていた。だがすぐにその表情を収め、こちらに問うように視線を交わす。

 それに俺が返す言葉は、なかった。

 

 何故なら、理由などなかったから。

 

「俺は……」

 

 死ぬと知っていたから。あのままだと、エルザは死ぬ。いくら不死身の呪いとそれを活かすだけの力があるとはいえ、ガーフィール・ティンゼルというエミリア陣営最強の矛を相手にそれほどの余裕はなかった。

 彼女はここで残機を使い切り、死ぬ。それが原作の展開だ。

 

 だから、手駒が死なないように助けた。そういえば筋は通るだろうか。

 ……その答えは否だ。

 

「お前が死んでも、別に俺の計画に支障があるわけじゃない。そもそも、お前はここで使い捨てる予定だった。原作での展開を変えない為にも、確実な未来を得る為にも……お前はあそこで死んでおくべきだった」

 

「なら、どうして?」

 

「――。お前が、好きだから」

 

「……つまらないことを言うのね」

 

 つまらないこと。つまらないことだろうか。

 ……つまらなくなんか、ない。

 

「俺はお前が好きだ。メィリィや、レム、ラム……ベアトリスも、ペトラも、ロズワールだって好きだ」

 

「何を言っているの?」

 

「俺もわからない。分からないんだよ。皆好きで、皆大切で、でも死にたくなくて。このまま何も為せず、何も残せず、何物にもなれないまま死ぬのが怖いんだ」

 

「……」

 

 自分でも何を言っているのかわからない。いや分かってる。分かってる? 本当に?

 

 会いたかった人たちに俺は今日会えた。

 

 これまで弱気に生きてきたエミリアが、自分の意志で立ち上がるのを見た。

 これまで過去の繋がりに縛られて閉じこもってきたベアトリスが、外に出て大切な者と手を繋ぐところを見た。

 不幸な星のもとに生まれてきたオットーが、ガーフィールが、フレデリカが、ラムが、生き生きとしている姿を見た。

 

 本来だったらあり得なかった、レムがスバルを立ち上がらせ、エミリアを勇気づけるところを見れた。

 

「満足だった。もう、いいとさえ思った。俺は失敗したんだと。俺は負けたんだ、ナツキスバルという男に……そう、諦めて……どうせならお前がいる屋敷で一緒に燃え死のうと思った。一人で死ぬのは、怖かったから……」

 

 だけど、そう言葉を紡いで、

 

「死にそうなお前を見たら……助けなきゃって思った」

 

「余計なお世話よ」

 

「だろうな……そう言うと思った。……だからこそ、助けたいと思った」

 

「……変な子」

 

「俺もそう思う」

 

 これで四度の失敗。

 もうスバルを殺すチャンスはそう多くない。

 まだやるのか、そう呆れる自分がいる。

 

 でも……まだ諦めたくない自分がいる。

 

 手は尽くした。もうエミリアは挫けず、レムはスバルを挫かせない。

 死なない、折れない、諦めない。三拍子そろった最強のナツキスバル……いいや、『英雄』ナツキスバルの誕生だ。

 

 もう大罪司教が勢揃いしようとあいつを止めることは叶わない。

 

 なら、どうするのか。

 いっそ、仲間として何もかも忘れて取り入る方が賢明かもしれない。

 スバルさえ仲間にしてしまえば、観覧者だってそう簡単には手出しできない。そう考えるのは簡単だ。

 簡単で、楽で、怠惰な結論。

 そんな中途半端な答えではダメだ。

 俺はエミリアを堕落させることより、エルザを生かす方を選んだ。エミリアを潰すことも、エルザを消費することも、メィリィを目覚めさせることも、すべてに手を出してはすべてを中途半端に片づけた。

 このままではいけない。

 

 立ち上がったエミリアのように、誰かを一途に想い続けるレムのように、すべてを救う英雄のように。

 

 俺も中途半端なままではいけない。

 

 ――ゼロから。

 ――本気で。

 ――――俺の異世界生活を始めるのだ。

 

 失ったものは取り戻す、失うはずのものも失わせない。

 すべて手に入れる。

 『強欲』に生きる。

 

 その為に。

 

 ――プリステラで、奴らから『権能』を奪う。

 

 

 一世一代。ただの平凡な凡夫の、最後の悪足掻きだ。

 

 






 四章。失敗。そもそも相手陣営にはレムが増えて、こちらはメィリィを失っている。それだけで勝ち目はほとんどなかった。結局、原作よりもスムーズにスバルは四章をクリアした。
 エミリアの心を壊す葛藤と、レムが生きている満足感、それからエルザを死なせたくない気持ち、メィリィを助けたい気持ちが織り交ざり極めて中途半端な真似をした。
 しかしそれももう吹っ切れた。もう、スバルの周りを狙うような真似はしない。正々堂々、スバル本人と決着を付ける。そうして負けたなら、端から俺にはその資格がなかったってことだ。そんな当たり前の事実から、許容すべきリスクから目を逸らしていた。
 望む結果を得る為には安全マージンなんて取っていられない。リスクを負って、勝ちにいく。
 勝負に出る六章のため、次で必要なものを揃える。――必要な権能を。
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