月明りに照らされるプリステラ。美しい水の都の静謐な水面に月が反射し、辺りを照らす。そんな月光に照らされるのは今宵の夜の舞踏会の賓客だ。主賓たるは『王族の遺児』フェルト様、『大妖精』ベアトリス様、そして『最も厄介なるエミリア陣営の内政官』オットー・スーウェン殿。今宵は彼らを招いて一人の道化が芸を披露する。そんな夜会だ。
「そうだろ、『暴食』の大罪司教――ライ・バテンカイトス」
「ぐぇっ、ぐぁっ、お兄さんはッどこの誰なのかなァ? 俺たちも僕たちも見覚えがないや。なのに、どうしてこんな酷いことするのかなァッ」
「酷いこと? 酷いことってなんだ? お前らが他人の人生を好き勝手に食い物にしてることか? それとも無関係の一般人のふりして現れた俺の両腕を斬り飛ばしたことか? そうしたらあら不思議、お前の両腕も千切れ飛んだ。まったく愉快な偶然もあるもんだ」
「あァあァ俺たちにはナンにも面白くない話だねッ、僕たちの腕はまだ治ってないのに、お兄さんの腕はとっくに完治してるってさァ。ちょっと不公平なんじゃないかなァッ? ていうか、その体の治り方に俺たち僕たちは見覚えがあるんだけど、アンタまさか――ぐはっ」
「お喋りだな、ライ・バテンカイトス。レグルスに同行しすぎて毒されたんじゃないか?」
「不思議だなァ、おッかしいなァ、俺たちはお兄さんを知らない。なのにお兄さんは僕たちを知っている。ああ、オカシイ。可笑しくて可笑しくて――お腹がなっちゃうよ、ぅぐッ」
「ああ、そうかい。なら今度はお腹を切り開いてみようか。それとも、口裂け女みたくなってみるか? 「いギッ」 喉を切り開くのはどうだ? 「おえ゛っ」 自分の指を食べれば永久機関じゃないか。 「がッ」 ……ああ、ならいっそ死んでみたらどうだ。そうすればお前が持つ飢餓感も渇望も『暴食』も何もかも忘れてスッキリ万歳三唱できるんじゃないか? ――なぁ」
「――ぃ‼ 俺たちは、僕たちは! 魔女教大罪司教『暴食』担当のライ・バテンカイトス――ぁ」
「……――知ってるよ」
――だから、俺はお前が大嫌いなんだ。
自分で自分を腹を切り、口を裂き、喉を切り開き、指を切り落とす。すると、『暴食』が何処にいても、何をしていても、同様に同じ部位が切り離される。それが『憤怒』の権能の正しい使い方。否や、本来の脅威度だ。街一つを覆うほどの権能なんて使う必要がない。ただ、敵一人を街のどこにいようと逃がさない――絶対に殺す。自分の身を顧みず、ただ復讐したい相手のみを必ず殺す。それが、俺が『憤怒』に見る真の意味だ。
「あな、たは……何者ですか。いきなり表れて『暴食』を……ライ・バテンカイトスを何もさせずに殺した。貴方が颯爽と現れた
「気が動転してるのかな。質問が複数あるよ。……商人である君らしくない」
「……答えてくれる気はあるようですね。なら――貴方は何者だ」
「俺か? 俺は――魔女教大罪司教『色欲』および『憤怒』担当の――ゼロだ」
――今は『暴食』でもあるか。
そう言葉を紡いで、ゼロはその場から消えた。後に残ったのは得も言えぬ後味の悪さと、全身バラバラになった卑しい子供の死体だけだった。
これで二つ。必要なものは揃った。
後はそう……決着を付けるだけだ。
お前と俺、どちらがこの世界の主人公に相応しいのか――プレアデスで決しよう。