暇つぶしにでもなればいいなって。
宇宙。
身体を縛る重力も、心に響く音もない世界。
そこに私は漂っていた。
(せめて……この人だけでも、生き残ってほしいなぁ……)
私の身体はもうぼろぼろで動きそうもない。
でも、彼はよくやったと、よく戦ってくれたって評価をしてくれた。私はそれだけでも嬉しかった。その彼も、よくぞここまで私を使いこなしてくれたと心の中で感謝する。
だから、彼を生かすために私はその身の一部を切り離そうとする。
全身が熱い。
後ろに繋いでいたコンテナの弾薬庫に火が回り、大容量コンデンサーと共に誘爆する。
(強制分離)
間一髪、私の爆風から彼は逃れられた。
後は仲間たちが彼をこの戦場から逃げしてくれるはずだ。
私たちは負けた。
物量で負け、数に押し潰された。
私たちが1機で3機撃破して敵は5機でこちらの1機を落としてくる。それでようやく拮抗するレベルで差があったのだ。
私は物言わぬ巨兵。ただの兵器。戦争の道具に過ぎない。
紅き鎧を纏い、小さき缶を守り、直し、再び送り出す、それが私。
(私、ビーム防御には結構自信があるんですよ?)
彼に初めて会った時、意思のないはずの私に心が芽生えた。
この人を守る。
みんなを、守る。
そう決めたのに。
(私……ちゃんとできたかな?)
一生懸命戦った。それは間違いない。あの赤い彗星にだって負けない戦果を挙げたのだから。初陣でそれは十分すぎるものだ。
(もうちょっとだけ、活躍したかったなぁ)
意識が遠のく。
乗り手のいない兵器なんてただの鉄くずだ。
私は自分の意思で腕ひとつ動かすことができないんだもの。
(次があるなら……どうか)
私を……。
「……ん」
生臭い。
あと、なんか揺れてる。
「……あれ。私は」
生きてる?
爆沈したはずなのに?
……機械が生きていると言っていいものなのか、疑問に思うが。
「あれ?あれれれれ?」
喋ってる。
私に口がある?
(いや、人間に例えて口といえる部分はあったけど)
だがそこは開閉式の砲があっただけで発声器官としてあったわけではない。
「んん?」
青い。
仰向けで見上げている?
……空?
「そーらーはーあおいーなーおーおーっきーなー♪」
地球生まれの誰かが歌っていた気がする。なんとなく歌ってみた。
「空があるってことは……ここは、地球?」
ちゃぷちゃぷと浮かびながらそう考える。
……いや、おかしい。
(私、宇宙専用だったはずなんだけど)
重力下での活動は想定されていないのだが。
(腕は……動く。足も、大丈夫)
意識を向けて手足を動かすと抵抗を感じた。これが重力というものなのか。
「おぉ?」
そういえばあまりにも自然にあったものだから意識になかったが、腕がある。
いや、アーム自体は元々あったのだが、いまはそのアームに包まれるようにして人間の腕がある。
腕を上に伸ばし、ぐっぱぐっぱ開いて閉じて。
アームもその腕の動きに合わせて開閉する。
「よいしょっと」
片足を上げてみた。
赤いブーツにブースターのようなものがくっついていて、やはりその足も人間のものに見えた。
(……人間?)
まぁ、元々人型に近い形に作られていた……わけではないが。そこは急造試作機の悲しいところとしていまは置いておく。
腰に力を入れ、慣れない動作で起き上がる。
傍から見たら生まれたての小鹿のようだと言われそうであったが、幸か不幸か近くには人っ子一人いなかった。
少しだけふらつき、立ち上がる。
見渡す限り青い海、青い空。そして空に浮かぶ白い雲。
(水平線……そうか、これが地球なのね)
コロニー育ちには理解し辛い感覚であり、そもそも工廠と戦場しか知らない私にとってそれはとても言葉にできないくらいの感動を与えてくれる。
「私に大気圏突入能力はないんだけど……どうやってここに来たのかな?」
さらに言うと私を格納できるサイズの宇宙船は存在しない。あの宇宙空母ドロスですら不可能だ。ドロス自体宇宙専用だというのはさておき。
とりあえず、状況を整理してみる。
私はあの最初で最後の戦場、宇宙要塞ア・バオア・クーで沈み、その役目を終えた。
だが、私はいま地球にいる。
人間の姿で。
どういうことか?
「うん。さっぱりわからん」
とりあえず、改めて自分の姿を確認してみる。
脚部にはブースターとブーツがくっついたような艤装がある。
その上にはフリル付きのスカート。足より長くて歩くとき地面に引きずっちゃいそう。まだ歩いたことないけど。
腰周りのスカート部分にはビーム撹乱幕ミサイルランチャーが両側にあり、スカートは後ろにも長く続いている。
そういえば背中になにか背負っているが、自分の目では確認できない。おそらく整備補給用の追加コンテナの類だろうが。というかそれがなかったら私はただのビグロになってしまう。
頭の上にもなにか被っているようだが、これはビグロの部分だろうか?鏡がないので推測するしかない。
で、全体的にとっても赤い。
宇宙空間では問題なかったが地球でこの色は否応なく目立つのではないか?
まぁ、自分の感覚で身体を動かせるということは武装も自分で好きに扱えるということだろうし、なにかあっても大抵のことなら自分の身くらいは守れる自信があるのでちょっとだけ落ち着く。
「それで。私は人間?それとも……」
それとも、なんだろうか。
自問自答というわけにもいくまい。私はいまのいままでただの兵器だったのだから。
兵器が物事を考えるようになったら大変じゃない?
考えるのは偉い人のお仕事。私たちはただ与えられた命令を守り、遂行するだけ。
「でも……いまは私だけだし、考えないことにはどうしようもないの、よね?」
一人って、なんだか寂しいな。
本来の役割からも外れちゃうし。
「っ!そうだ、オッゴは残ってるの!?」
……。
返事がない。
ついつい自分で全てをやらなければいけないことを忘れてしまう。
(兵装確認……)
(――該当兵装無し)
ちょっとがっかり。
というか。
オッゴがないのにどうしろと。
「母艦扱いなのにねぇ……」
どのみち大気圏内ではオッゴは使えないのだが。
「さて。とりあえず……」
これからどうしましょ?
彼女の願いは、新たな世界でなにを生み出すのか。
それは神すらもまだ知らない……。
ちょっと思いついただけで続かないかもしれないです。
このまま心の平穏が保てれば書きます。
……え? 某中佐の刀持った陸戦MSがこっちを睨んでいる? 気のせいじゃないのかなって、あ、2段格闘移動はやめてやめてザシュゥあぎゃー!
インスピレーションとか、そういうのです。駄目そうだったら修正入りますので。
いまのところ他のMSやMAを出す気はないです。
(あと、文才ほしい……)
まぁ、こんなふざけた作者ですが、思うことがあったら感想を。どうぞ。