この世には友人キャラというものがある。
「みーくん!」
主人公が居て、ヒロインが居るような、そんな物語において主人公の隣で騒ぐ存在。
「せ~んぱい♡」
女好きで、ヒロインの魅力を分かりやすく主人公に語る。ヒロインと主人公が仲良くしていたら嫉妬し、その癖応援も助け船も出してくれる存在。
「
主人公とは腐れ縁で、特技が無く、色恋とは縁が無い。そんな友人キャラと呼ばれる存在に
「うん、みんなおはよう」
俺達は転生した。
これはそんな友人キャラ達の日常をお送りする話だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よお御綴!」
「あ、おはよう青山」
ガッ、と肩に手を回して挨拶を交わす。誰から見ても青春真っ盛りな二人の高校生だろう。
こいつの名前は
そしてそんな主人公君に話し掛ける男、それが俺こと青山太郎。前世で死に、神様に友人キャラとして転生させられた男だ。普通、よりは少し下がるパッとしない顔。それでも気の良さが滲み出るような、友達としては付き合える人間。それをいつだって心掛けてこの16年を生きてきた
「おーう!今日も良い日だな!こんな日は絶世の美女とお近づきになりたいぜ!」
「君毎日それ言ってるよな」
本当にな。何で俺はこんなことを言ってるんだろうか……。
「おいおい、何を言ってるんだ親友。男たるもの女性にはモテたいもんだろ!」
別にそんなことねえよ。恋愛嫌いな人だっているし女性がトラウマになってる奴もいるよ。今の陰キャは基本的に諦めてるよ。
「それに比べて親友よ、お前はどうしてそうも縁があるんだ?女神に小悪魔に女王なんて……羨ましいいい!!」
羨ましくはあるが、俺にそれは難しい。友人キャラと定められた以上、それを全うするしかない。それが友人キャラの原則だ。
じゃあなんで友人キャラなんてやってんのか。それはいたって簡単。神様に消されるからですねありがとうございました!(ヤケクソ)
とまあこんな感じで今までも俺は友人キャラをやってきた訳だ。これでもう何回目だろうね?
「やめてよ。あの子達とはそんな関係じゃないんだ。ただの友達だよ」
あーはいはい。オトモダチね。分かってるよ。そんでもって後から恋愛感情に気付いて色々展開していくんだろ?本当に一辺倒だよな。その言葉が本当だったことなんて俺は見たことないぞ。
「本当かあ?あの美女達にだぞ?誰にでも優しく微笑み慈悲を与え、その後ろには天使の羽が見えると噂の女神様!
入学式早々先輩も同級生も虜にしたからかい上手の小悪魔!
誰にも靡かずいつでも冷えた眼差しを男子に送る才女、氷の女王!最高のハーレムじゃねえか!」
「本当だよ。というか何だよその説明口調……」
俺もこんなんやってる人が居たら引くな。でもやるしかないんだよ。"お前の"友人キャラだからな。
「それに、鏡花は幼なじみだ。そんな目で見れない」
「それにしたってずるい!悔しい!」
何が悲しくてこんなことしなきゃいかんのや。叶うことなら俺はもう一人で安寧を享受したいよ。
「はぁ……」
とまあ定番の呆れを貰うまでが俺の日常だ。呆れたいのはこっちだしため息吐きたいのもこっちだよ。こちとら魂かけとんねん。分かる?魂だよ魂。輪廻転生出来なくなるんだって!お前らが失敗したらな!舐めんな!!
「あ、みーくんおはよー!」
うわっ、負けヒロイン系幼なじみが現れた!
はい、ヒロイン候補の一人の
もうさあ、幼なじみって負けるんだよ。そう、そうなんだよ。というか俺が担当してる場合負ける。他の友人キャラの場合は別にって感じらしいけど、俺の時は毎回負けてるんだよね。可愛そうに。
「あ、鏡花」
「やあ鏡花さん、これから俺とオハナシしない?」
「うーん、ごめんね?」
「クソオッ!!」
「あはは、鏡花は優しいね……」
前世だったら素直にこういう悪ノリも出来たし、何なら呆れる側だった筈だろうに。今じゃ必死に道化を演じてるなんて、笑えない冗句だなクソッタレ。
「あそうだ。二人とも先生が呼んでたぞ?何か話したいことがあるってさ」
「え?分かった、ありがとう青山。行こう鏡花」
「うん、みーくん」
ということで俺はフェードアウト。ここで一旦仕事は終了だ。彼らは何らかの仕事を頼まれて、その後にトラブルが起こるのだろう。俺はあくまでも友人キャラ。そこに関与する必要は無い。
一気にスイッチを切りたい所だが、そうもいかない。クラスメイトに俺の本来の性格を知られては友人キャラとして不都合だ。主人公やヒロインに違和感を感じさせては失敗の可能性がある。だから自然に、誰からの注目も振り切るように、背景へ溶け込むように体を動作させる。
「……青春ね」
若人達の喧騒に、言葉が霧散する。教室から見る外の景色は、前も今も変わらなかった。
◆◆◆
生徒や教師が行き交う騒がしい校舎。そこから離れた旧校舎の裏、その隅の寂れた倉庫の中に俺はいた。元は体育倉庫だったのだろう。古ぼけた跳び箱や埃を被ったマット、ボロボロのコーンが置いてある。
「お、来たな。首尾は?」
ガガガッという非常に立て付けの悪い扉が開く音がした。振り替えれば優しげな眼鏡の男。ただ顔はそこまで良くない。とてもじゃないが恋愛をしたことのあるようには思えないな。それは俺もなんだが。
「上々ですよ。このままなら上手くいきます」
この男、場次一真はこの学校にいる唯一の仲間。つまり同じ境遇の友人キャラだ。
「今ぐらいは素で良いだろ」
「……そうだな………ああクソ、本当、何でこうなったんだろうな」
「それな」
眼鏡を取って暗い印象を与える髪を上げればイケイケな兄ちゃんの完成。そう、こいつの本来の性格はオラオラとした陽キャ気質だ。担当している所の友人キャラになる為に仕方なく取っている行動らしい。
まあ、こういうことはままある。実際俺も数回やることになった。というか今回だって性格も口調も偽っているしな。
どちらからともなくため息が出る。本来なら関わり合うことなど無かっただろう俺達もこんな状況なら交友を持つ。最初に気付いた時なんか二人で泣きながら抱き合ったものだ。いつだって消滅の恐怖に怯えながら過ごす日々。一つのミスが終わりに繋がるのは冗談じゃなくツラい。
そうして束の間の休息に没頭していると隣からシュボッ、という何かが吹き出すような音が聞こえる。見れば赤く揺らめく火がライターから出ている。その先端には白い筒状の煙草。煙草??
「おい、吸うんじゃねえよクソ野郎」
「あ?少しぐらい見逃せ。今しかねえんだからよ」
未成年の癖に喫煙してんじゃねえよ。……まあ中身がおっさんだから仕方ないか。友人キャラ達の前世で死んだ年齢はバラバラ。俺は大学生の時だったがこいつは30手前のおっさんだったらしい。俺の場合は早老症、ウェルナー症候群での老衰だったが、こいつはなんで死んだんだろうな。
「お前は吸わねえのか?」
「いらねえ。酒と煙草は避けてる」
「健康オタクかよ」
「体が衰える感覚ってのはつらいからな」
「……そうかい」
普通に考えて高校生のする会話では無いな。完全におっさんじゃないか。まあ前世も合わせるならどっちも30は越えてるし、事情を知れば納得は出来るか?
「匂いつけるなよ。バレたらやりづらい」
「アメスピ」
「あっそ」
やはり気を遣わないというのは良いな。
どちらも命の重みを知っているし、どちらかが数分後に死んでも可笑しくない。吹けば飛ぶような命だからこそ躊躇いもない。優しさも慈悲もいらない。後で喪って悲しくなるのなんて御免だ。
必要なのは後腐れの無さ。例えどちらかが散ってもどちらかは生きる。泣いていたらやっていけない。共倒れは本望じゃないのだ。お互いに。
「そっちはあとどれぐらいだ?」
「短くて3ヶ月、長引けば……まあ二年だな」
「なが」
御綴達の恋愛は、恐らくまだまだ終わらない。たぶん、ヒロインがこれからも増えていく。よしんば付き合ったとしても終わらないタイプじゃないか?卒業前には終わらせたいところだ。
「高校丸々かよ。早く終わらせないとその間に他のが来るぞ?」
「だな。お前は?」
「片方は1ヶ月ちょい。もう付き合ってる」
「マジ?やるなお前。それでもう片方は?」
「八年、たぶん同窓会」
「うわあ……」
そう、この友人キャラというのはマルチタスクなのだ。基本的には二つ三つの恋愛物語を同時進行で進める必要がある。俺もつい先日、三年程続いたのを終わらせてやっと一つに出来たのだ。今はある意味休暇期間なのである。
「長いとか言ってた癖に自分の担当の方が長いじゃん」
「良いんだよ。同窓会系は学生時代にあまり関わらなくても何とかなる。俺達が手出しする場面が少ねえんだ。楽で助かる」
「あっ、ずるいなそれ。でも後々働きながらサポートに回ることになるぞ?」
「……」スッ
「おい目を逸らすな」
これが週一で訪れる俺達の休息の過ごし方である。
◆◆◆
「青山ー、次体育だぞー」
「おーう先行っててくれー」
クラスメイトに急かされながら席を立つ。えっと、体操着は何処にしまったっけ?おっ、あったあった。
時間もあまり無いからさっさと更衣室行かねえと。そういえばあいつら何処に行ったんだ?昼休みになってから見掛けねえけど、また何かあったんだろうな。
「マジかよ。もう全員行ったのか」
更衣室に来たときには中には誰も居なかった。鍵閉め役は俺らしい。さっさと着替えてしまうか。
「……視線?」
何処だ?何処かから気配を感じる。友人キャラをやってる内にこういうのに敏感になったが、理由は良く分からない。ただ気付けないとイベントを進展させられなかったりするから結構大事な技術だ。
さて視線の方向は……ロッカー?ああ、成る程。
「そう言えば明日ここの掃除頼まれてたな。掃除用具は……」
居るんだろうなあ中に。御綴と誰が居るかは知らないが、まあ女王らへんだろう。ツンデレキャラと閉じ込められるってのは鉄板だからな。
そして俺には今三つの道がある。開けた後に察してそそくさと立ち去るのが一つ目。二つ目は周りの連中に言い触らしに行くルートだ。最後の三つ目はそもそも開けない。
一つ目はまあ『あ、お楽しみ中失礼しました~』とか言っておけば大丈夫だ。相手によっては変わるが中に居るのが女王だった場合これが一番効く。
二つ目となると女王だったらボコボコにされるだろうなあ。あの人案外手が出るからな。氷の女王の癖に。他の人だった場合は悪手になりかねない。女神と小悪魔は明らかに御綴に気があるからな。満更でもない感じになって終わってしまう。まだその時じゃないよな。
三つ目は女神と小悪魔に最適だ。あの二人なら何とかなった後に御綴にアプローチをかけるか、もしくは逃げ出すだろう。相手は鈍感主人公。そのぐらいやらないと何にもならない。
つまり中にどいつが居るか何だよなあ。どうにかして探りたいが……取り敢えず三つ目で行くか。反応を見て女王だったら二つ目にも繋げられる。これだな。
「まあ明日でも良いかな?」
そもそもどうしてそんな状況になるん?男子更衣室に女子が居る状況ってどう考えても成立せんやろ。ここは一応現実だぞ?まあ神様が居る時点で怪しさは満点だけども。それでも何でそこに隠れるんだよ。それを何故サポートせにゃならんのよ。頭おかしなるでホンマ。
………今反応したな?呼吸が荒い。振動も心なしか多い気がする。女王で確定だな。
「いや、やっぱ確認しとくか。必要なもの無かったら面倒だし」
殴られるの嫌だなあ……
ガチャッ
「「あ」」
「え?」
君らホント何やってんの?
「「「………」」」
「みんなー!!!
「ちょっと待ちなさい!!」
「待って青山!」
さてここらで追い付かれまして
バキッ!ボゴッ!
あ、今肋骨折れたね。駄目だよそのボディーブローは。ちょっとちょっと腕関節まで逝ってるじゃん。あーあ、曲がっちゃいけない方向だってこれ。痛いよホント。
「ぐ……何故……無念」
「ああ!?青山が!」
「これでこいつも話す気は起きないでしょう」
「そ、そうだね……」
君らさあ、これが友人キャラ役だから良いけど、基本的にはやったら犯罪だからな?
「……痛てて、あら、御綴?というか俺は何でこんなところに?」
「記憶が消えてる……!?」
「私にかかればこんなものよ」
んな訳あるかい。そんな都合の良いことは世の中早々起きねえよ。感謝しろよ?これがアニメなら次のシーンではもう治ってるが、それ現実じゃ不可能に違いんだからな?
よっ、と。
バキバキバキッ
オッケー。これで腕が折れてるようには見えないな。よし、元通りだ。え?どうやったっのかって?気合いだよ気合い。実際は元通りじゃないし見えない所で血が流れてる。外面だけ整えればモーマンタイ。
「あ、もう休み時間が!」
「急ごう!……あれ、青山?」
「もう先に向かったんでしょう」
「……そうだね!」
……行ったな。
「はあ……この状態で行ける訳ねえだろ……応急処置だけするか」
この後怪我を隠す為に何針か縫ったり化粧をして誤魔化したのは俺だけの秘密だ。
因みに治すのには数ヶ月掛かった。許さんぞ女王。