▲△▲△視点:リムル ▲△▲△
「――まず、最初の襲撃者は三人の男女でした。衛兵の一人が絡まれ、そこから交戦に至ったそうです。シュナや……ゴブタ、少し後にはハクロウも応援に加わったのですが、戦闘が始まってすぐに街は二種の結界に覆われました」
『ひとつはアンチマジックエリア。もう一つは魔物を弱体化させるもの。アンチマジックエリアはミュウランちゃんが張ったようだけど……彼女は人質と、自分の心臓を人質に取られていたから、相手のいう事を聞く以外の道はなかったでしょうね』
「待ってくれ、心臓? それに、人質だって?」
エリアの話に少し驚いたのは、俺だけじゃない様子だった。
ベニマルもカイジン達も動揺しているようだ。
『彼女を私の水霊術で拘束したでしょう。その時に彼女の体を調べたら……仮初の心臓がミュウランちゃんに埋め込まれてたの……それに多分だけど、ヨウムや周りの者達を助けるためにも、言う事を聞くしかなかったんでしょうね』
「……それが無ければ、ハクロウが負けることはなかったんだ」
ベニマルが自分の膝を握りしめるようにして、悔しそうに言う。
「その後ファルムス王国の騎士団が五百名程、この街を訪れたんだよ」
カイジンが話の進行を務めていたベニマルの代わりに、続けて語り出した。
「奴らは襲撃者とゴブタらの戦いを見て、こう言ったらしい『魔物の国と聞き調査に来てみれば、この騒ぎとは……我らは人類の法に従い、加勢する‼』ってな。そう言うや否や、魔物に対して剣を振るいだしたんだとよ。衛兵のみならず、成り行きを見守っていた住民にまでな」
「……それで子供の遺体まであったのか」
ウィンが怒りに任せて敵を追って行ったのが、良くわかる。
俺だってその場に居れば、冷静ではいられなかっただろう。
「そして去り際に宣言したのです。『時は今日より一週間の後、指揮官は英傑と誉れ高いエドマリス王その人である‼ 恭順の意を示すならば良し、さもなくば神の名の下に貴様らを根絶やしにしてくれよう‼』という言葉を残して」
リグルドも怒りを抑えるように目を瞑りながら、しっかりと説明してくれる。
「……茶番だな」
ソウエイの報告ではファルムスは既に軍事行動を開始しているとのことだった。
調査自体は本当でも、結論は初めからきまっていたのだろうな。
ヒナタのことと合わせて考えても、ファルムスと西方聖教会はグルなんだろう。
しかし魔物の殲滅を教義に掲げている西方聖教会はともかく……。
「ファルムス王国の目的は何だろうな」
考え込みながら、思わず出てしまった言葉に一人の男が手を上げた。
「よろしいですか?」
「おお、ミョルマイル」
「ファルムス王国は元々貿易で潤っていた国。それは西側諸国にとってドワーフ王国との取引が出来る唯一安全なルートだったからです。ですが魔国連邦が興って以降、流通にはかつてない大きな改革が起き始めています。今まで危険地帯と見られていた森に街道が整備され、安全で税が安い交易路が生まれた」
ミョルマイルが地図を開いて、分かり易く道を作りながら説明してくれる。
「つまり、ファルムス王国にとってここは、利害の競合相手であり。さらに言えば潰すより手中に収めたい……そんな国なのです」
俺は周囲の国家と調和を蔑ろにしているつもりはなかった。
だが、所詮は素人。
……やはり俺の方針のせいか。
「リムル様、どうか誤解しないで頂きたい」
「え?」
ミョルマイルが慰めるでもなく、ただ真剣に俺の事を見ながら続ける。
「ワシはファルムスの動機になり得る背景を語りましたが、その対応が然るべきものだと言っとるのではありません。まず評議会も通していないのはおかしい。最初の三人は魔物が先に手を出してきたからと正当性を主張するための工作要員でしょう。ワシはこの街に留まる商人の代表として、この場におります」
確かにミョルマイルは代表者として、いまこの場に座ってくれている。
待機所には、まだ多くの商人達が魔物達の為に走り回っている者も少なくない。
「聖教会を恐れる声もありますが、意見は概ね一致しとります。ファルムスを迎え撃つのなら助力は惜しみません。武器、食料、必要とあらばコネというコネを使い集めましょう」
ミョルマイルはこの場に居るベニマルやリグルド、カイジンなども見ながら、しっかりと自分の意思を口にして、伝えてくれる。
壁に寄り掛かっていた冒険者達も一歩前に出て、俺の方を向いて声を上げてくれる。
「オレぁブルムンドの冒険者だ。最近はずっとこの街を活動拠点にさせてもらってた。戦力が必要なら手を貸すぜ?」
「わ、私も力になりたいです‼」
「俺もだ‼」
「俺も‼」
「私も‼」
そう声を上げてくれる冒険者達に、嬉しく思う心はある。
だが――。
「ありがとうございます。ですが――この問題は俺達だけで片付けます。皆さんはどうか帰還の準備をなさってください」
断った理由はこの人達を巻き込みたくないから、そして……この人達の身に万が一のことがあった場合、それを俺達の凶行だと触れ回させない為だ。
魔物の国を悪と喧伝したい者達からしたら、この街を知る者から俺達を擁護されるのは都合が悪いはずだ。
最悪の場合、口封じという手段もとりかねない。
「そうですか……なにかあったら、証言しますぞ」
==とりあえず、街の外に出て転移を使って安全にブルムンド王国の方へとミョルマイルさんと共に逃げてもらった方が良いだろう。
……これ以上、奪われてたまるか。
「怪我人の所へ、案内してくれ」
「はッ」
ベニマルとリグルドを連れて、怪我人が居る場所へと案内してもらう。
「リムル様‼ お帰りだったのですね、よくぞご無事で……」
「シュナもな」
「私は……助けてもらいましたから」
ベッドにはハクロウとゴブタが居た。
脇や胸、腕などから血が包帯に滲み出ている。
「襲撃者は空間属性のスキルを使う者だったらしく。治療をしようにも傷口に直接働きかけることが出来ないのです」
シュナが二人の容態を簡潔に説明してくれる。
「回復薬も効かないってことか」
「はい」
【大賢者「暴食者」はもう使えるか?】
〈解。問題はりません。個体名ヒナタとの戦闘で切り離した分は復元完了しています。空間属性の影響を確認しました。「暴食者」にて影響を捕食しますか?〉
【もちろんYESだ】
ハクロウとゴブタにグラトニーを使い、傷口にも回復薬が効くようにしっかりと空間属性の効果を取り除く。
「あ、あれ? オイラ助かった……すか? あっ、ジジイも無事だったっすか⁉」
ハクロウが笑いながらゴブタに近付き、杖を手に持つ。
「もう一度眠りたいかの?」
ゴブタを揶揄うように殺気を向けて仕込み刀を少し取り出していた。
良かった、いつものやり取りが出来るくらいには回復したようだ。
ゴブタやハクロウが元気になって、警備隊のみんなやカイジン達ドワーフの皆も集まって来てくれた。
「……なぁ、ベニマル。あいつはどこだ?」
ベニマルは俺の質問に答えなかった。
「ついて来てください」
==それだけ言うと、魔物達の遺体が安置されている中央広場に向かって歩き出した。
「……ここです」
横たわっている者に掛けられている布を、ベニマルが優しく捲っていくと。
そこにはシオンの変わり果てた姿があった。
「ゴブゾウ!?」
ゴブタの方も、仲の良かった仲間の姿を見つけて駆け寄って行く。
「シオンは襲撃者が狙った子供を庇ったそうです。結界による弱体化で思うように動けず……ゴブゾウもシュナ様を守ろうと――。ヒータ様はハクロウやゴブタ、シュナを守る為に……」
「リムル様‼」
リグルドの叫び声で、自分からあふれ出る妖気にやっと気づいた。
「……すまん、しばらく……一人にしてくれ」
シュナが優しく抱きしめてくれて、何とか落ち着いたものの、今は、誰の顔も見ることが出来ない。
「いつでも、お呼びください。すぐに参ります」
〈告。弱体化した魔物にとって、強すぎる妖気は圧力になります〉
思わず仮面を取り出そうとしたが……そういえば、シズさんの仮面はクロエにあげたんだった。
「抗魔の仮面の解析は?」
〈完了しております。複製しますか?〉
「頼む」
大賢者が複製してくれたシズさんの仮面を被って、その場に膝をつく。
……どうしてこんな事になったんだ。
〈告。回答不能〉
どうするのが正解だった?
〈告。回答不能〉
……人間と、関わったのが間違いだったのか?
〈告。回答不能〉
「なぁ……俺が間違っていたのか?」
〈……告。回答不能〉
あぁ、だから……ウィンは一人で行ったのか? 誰よりも怒って、誰よりも優しいはずのアイツが、自分の一番嫌いな事をしに、敵を殺しに行ったのか……。
きっと自分への罰と、弔いの意思も込めて、自分の心を置き去りにして、敵を追って行ったのか……ウィン。
頭の中は激しい感情が渦巻いているのに、同時に酷く冷静で、涙一滴出ない。
シズさんの時は、涙が出たのに。
いつからだろう。
「……ああ、そうか。俺はもう、心から魔物になったんだ」
次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで
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