心にデュエリスト魂を持って転スラ世界に・・・   作:風月八泉

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128話 操り人形と鼓動する恋心

 

 

 

 

 

 

 

 レイが部屋の隅に立ちながら、グルーシスとヨウムがミュウランという女性の側に立っている。

 

 エリアの話では、面白い三角関係な状況らしく……ヨウムが勝ち取っている状況だと言っていたけど。

 今はそういう感じを楽しむ状況には、ない。

 

 

 見張ってくれていたレイにお礼を言いながら、ミュウランの尋問するピリピリした空気が漂っている。

 

「――私は、魔王クレイマンの配下“五本指”の一人。薬師のミュウランです」

 

 クレイマン、ね……豚頭帝計画に関わる魔王の一柱とミリムが言っていた人物で、ミリム自身もクレイマンという魔王は印象が良くないと彼女も語っていた。

 

「私に与えられた任務は魔国連邦の内偵でした。だから私は……ヨウムを利用して。この街に潜入したのです」

「なるほどな、つまり今この時もクレイマンに報告しているわけか」

「いいえ、手段がありません」

 

 ミュウラン自身も分かり切っているのか、諦めてしまっているのか……目を閉じながらしっかりとリムルの問いに答えて良く。

 

「私は魔道師です。アンチマジックエリアで私に出来ることなど、普通の人間とそう変わりません」

「君がここを魔法不能領域に変えたのに?」

「どうやって離脱するつもりだったんだ?」

 

 彼女は自分とリムルの問いに、目を閉じて何も答えずいる。

 

「……クレイマンに見捨てられた?」

「だろうな」

 

 ミュウランは何も言わず少し頷いて答える。

 

「マリオネットマスターの二つ名で知られるクレイマンは、配下を自分の意のままに操ります……それこそ、操り人形のように。彼にとって配下とは、道具でしかなく、壊れたりいらなくなれば捨てるだけなのです」

「……なぜヤツの配下に下ったんだ? 従うメリットはなさそうだが」

 

 リムルの言う通りだ、彼女の能力なら別に従うことをせずとも良かったと思えるけど。

 

「……あの時の私も、そう気づくことが出来れば良かったのですが、私は元々人間の魔女でした。人々から迫害を受け逃げのびた森で幾百年……家族もなく、友もなく。魔法の研究に没頭する日々でした」

 

 なるほど。

 彼女はずっと一人で過ごして来たのか。

 

「そんな永劫のような日々が終焉に近づいた頃、あの男が現れたのです。「貴女に永遠の時と老いる事のない若き肉体を差し上げましょう。その代わり、私に忠誠を誓い、仕えなさい」っと」

「応じちゃった?」

「森に引きこもる世間知らずなど、笑えるほど御し易い相手だったでしょうね」

 

 そう過去の自分を笑うように目を閉じて微笑み、自分の問いに答えながら続ける。

 

「クレイマンが私に施した秘術は「支配の心臓」という――仮初の心臓を媒体に、秘術者を魔人へと至らしめるものでした。以来、私の心臓はクレイマンの掌の上、私は約束されたものを受け取ったけれど、同時に自由を失ったわ」

「文字通り、生殺与奪を握られてる?」

「なるほど……つまり自分の命惜しさに、俺の仲間を窮地に陥れてくれたわけか」

 

 リムルの雰囲気がガラッと変わり、殺気の籠った目をミュウランに向ける。

 

「だ……旦那‼」

「黙っていろ、ヨウム、グルーシス。今リムル様が話をされているのは、その女だけだ」

 

 紅丸が二人を威圧しながら睨みつけ、その圧にヨウムもグルーシスを言葉を返せなくなってしまう。

 

「紅丸の言う通りだから、落ち着いてね?」

 

 リムルと一緒に紅丸に手で合図して、リムルが話を続ける。

 

「それで? クレイマンがウチにちょっかいを出す理由はなんだ? まさか配下の始末の為だけに送り込んだとか、言わないよな」

 

「……クレイマンはごく限られた者にしか心の内を見せません。ですからこれは、あの男の言動から考えうる――――私の予想になります。クレイマン自身がファルムス王国を焚き付けたかどうかまではわからない、けれど……魔国連邦のアンチマジックエリアは彼の国の蜂起を見越した上での計画だと感じました」 

 

「被害の拡大を目論んだ……とかか?」

「それもあると思います。ですが、それ以上に外部への連絡を封じ他国への援軍要請をさせないためかと」

「もしもドワーフ王国やブルムンド王国が魔国連邦へ援軍を出せば、ファルムス王国への牽制になる?」

「はい、そうなれば戦争が回避される可能性もあったでしょう。魔国連邦とファルムス王国の間で戦争を起こさせる、それはとてもクレイマンらしい筋書きに思えるのです」

 

【街の外にあるベスターの研究室なら、魔法不能領域の影響は受けないし、今から援軍要請も可能?】

【いや、既に軍事行動を起こしているファルムス王国軍を迎え撃つには準備期間が足りない】

【後手に回ってるね……】

【あぁ】

 

「……ただ戦争を起こして何を得ようとしているのかは、わかりません」

 

【これ以上は、何を聞いてもわかりそうにない?】

【だな、じゃあ始めるぞ】

 

 リムルと目を合わせながら、ミュウランを自分とリムルで睨みつける。

 

「わかった、十分だ」

「旦那……」

 

 リムルがゆっくりとした動作で座っていた椅子から立ち上がる。

 

「ミュウラン、お前には死んでもらう」

 

 当の彼女は初めから分かっていたという感じで、目を閉じながら微かに笑っていた。

 ヨウムやグルーシスは驚きと焦りの顔をしている。

 

「待ってくれ旦那‼ ミュウランは本当に……っ」

「無駄だヨウム」

「グルーシス!?」

「あれは本気の目だ」

 

 グルーシスは体勢を低くしながら、狼の姿へと体を変化させていく。

 

「なっ……!?」

『獣人化、ですね』

 

 レイがグルーシスの事を興味深そうに見ながらも、出入り口を塞ぐように立つ。

 エリアも彼らを逃がさないように、窓ガラス側に立っている。

 

 紅丸にグルーシスがすぐに殴りかかっているが、簡単にあしらわれていた。

 

「なにしてるヨウム‼ さっさとミュウランを連れて逃げやがれ‼ こいつ等には……一度負けてんだ、そんなに長くは稼げねぇよ」

「グルーシス……‼ くそっ……ミュウラン行くぞ、早く立……」

 

 ヨウムがミュウランの肩を掴んで、そのまま立たせて逃げようとするが、ミュウランはというと、ヨウムの頬に手を添えて、クイっと顔を近付けていく。

 

『は~い、ウィンにはまだ早いからね~』

「うにゃ‼」

 

 いつの間にか後ろからライナが自分の両目を覆い隠して、決定的なシーンを見逃してしまった。

 あのままなら、しっかりとヨウムとミュウランはキスをしていただろう。

 

「好きだったわヨウム。私が生きてきた中で初めて惚れた人。さようなら、今度は悪い女に騙されないようにね」

「いい覚悟だ」

 

 リムルが粘鋼糸でヨウムを壁へ貼り付けて、動きを封じる。

 

「旦那‼ リムルの旦那‼ 頼む‼ やめてくれ‼ ウィンの姐御‼ 頼むからリムルの旦那を止めてくれ‼ 俺も一緒に一生を懸けて償う‼ あんたの言うことはなんでも聞くよ‼ だから……っ⁉」

 

 コツコツと歩きながら、右手を上げて、ミュウランの心臓目掛けて一気に突き出した。

 手には「暴食者」を纏わせながら、ミュウランの心臓を抉り取っていく。

 ヨウムは目を逸らし、悲しむ様に瞼を閉じてしまっているせいで気付いていないようだ。

 

『どう、上手くいったかなリムル君!?』

「問題、なさそうか?」

「え……あの……私。なんで生きて……」

「ん~、三秒は死んだと思う?」

「三秒……?」

『リムル君、ウィンちゃん、ヨウム君とグルーシス君が全くついてこれてないよ?』

『まぁしょうがないでしょう。目の前で思い人が死んだと思っていましたからね』

『なっさけない男達ねぇ~』

「だ……旦那!? 一体これは、どういう事なんだ!? ミュウランは……っ」

「わかったわかった、説明するから」

「そんなに狼狽えてると、ミュウランに笑われる?」

 

 リムルは指先をクイっと動かして、ヨウムの拘束を解く。

 

『実はね、ミュウランちゃんの「仮初の心臓」はクレイマンの盗聴に使われてたの』

「盗聴……!?」

「初めに気付いたのはエリアだったんだ。彼女がミュウラン、お前の状況を俺達に教えてくれたんだよ」

 

 リムルがミュウランの体から抜き取った、クレイマンの「仮初の心臓」に使われていた、宝石の様な石を皆に見せる。

 

「暗号化された電気信号で逐一? 魔法通信で定期的に報告を入れさせてたりしなかった?」

「はい……仰る通りです」

「それは、こいつを気付かせないためだろうな。信頼する仲間ではなく、聞いた通り“道具”なんだろうな。クレイマンを騙すためだが、怖い思いをさせてすまんな」

「いえ……いいえ。あの、ではこの胸の鼓動は……?」

「仮初の心臓を参考に作った疑似心臓だよ。もちろん盗聴機能は、はずしてある」

『良かったねミュウランちゃん“支配の心臓”がなくなってさ』

「これでもう、クレイマンは貴女に何も出来ない」

 

 ミュウランは自分の胸に手をあて、鼓動を感じながらもリムルやエリアの言葉に驚き、しばらく目を見開いたまま固まっていた。

 

「は……ははは」

 

 ヨウムはようやく状況が呑み込めたようで、緊張していた糸が切れたようだ。

 

「本当に……」

「やったじゃねぇかミュウラン‼ もうお前を縛るもんは何にもなくなったってことだ‼」

「……ええ」

 

 ヨウムに言われてようやく自分が解放された事を感じ取ったのか、ミュウランの目に涙が溜まっている。

 

「旦那も人が悪いぜ、俺にくらい教えてくれてもよかったじゃねぇか」

「はぁ……」

『おめでたいやつねぇ~』

『ミュウランちゃん……早まったんじゃない?』

『……? ウィン、どういう事ですか?』

 

 リムルもライナとエリアもジト目でヨウムの事を見て呆れているが、よく分かっていないレイだけが首を傾げながら、自分の方に寄って聞いてきた。

 

「あのねヨウム? 多分だけど君が人質だったんだと思うよ」

「え?」

 

 自分の事を言われると思わなかったのか、ヨウムは自分自身を指差して驚いている。

 

「彼女はクレイマンから見捨てられたんだ、律義に最後の命令に従う必要はなかったんだよ」

「どうせ、心臓は返してもらえない? それでも従うことをえらんだのは、そうせざるを得ない状況をクレイマンが作り出していたから? 例えば――人質とか?」

 

 そう自分がリムルと共にヨウムを見ながらいうと、部屋の中の全員がヨウムを見る。

 

「そ……そうなのかミュウラン」

「……大切な人を守りたかっただけよ。あなたの告白に、まだ応えてなかったわね。私、せっかく自由になれたけど、人間の短い一生分くらいなら束縛されても、いいと思っているわ」

「ミュウランさん、今のお言葉。どういう意味なのかハッキリ教えてもらって宜しいでしょうか」

「……ばか」

 

 ヨウムもミュウランも顔を真っ赤にしながら、初々しい感じでいちゃつき合っている。

 

【こんな状況じゃなければね、祝福してあげるんだけど……】

【グルーシスは気の毒だけどな】

 

 紅丸がグルーシスの方に手を置いて慰めている。

 

「慰めはいらねぇよ‼」

 

 ちなみにエリアはキャーキャー騒いでいるが、ライナに羽交い絞めにされているので、とりあえずは静かだ。

 ダルクにもいつの間にかやって来ていて、エリアが騒いでも良いように音を遮断して、雰囲気を壊さないようにしてくれている。

 

「いいんだよどうせヨウムは人間なんだし、寿命なんてながくても百年そこらだ。その後は俺の番ってことで」

「なにぃ――――っ⁉ ふざけんなよ、絶対やんねえからな‼」

 

 そんな男達を見ながら、ミュウランが「早まったかしら……」という視線でヨウムを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで

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