紅丸が自分とリムルを出撃前に話があると言い、中央広場に呼ばれた。
「――出撃前に話って、なに?」
「俺達が負けるかもって心配なのか?」
「違いますよ、そんな懸念はありません」
軽く笑いながら言うが、すぐに笑顔は消え、視線を地面に落としながらも、自分達を思いやるように静かに喋り出した。
「……俺には前世の記憶はないですし、大鬼族から鬼人族へと変わりはしたが、戦闘種族以外のものになったこともない……己や仲間を守るため、或いは仇討ちのため相手を屠ることに躊躇いはありません。ですが、あなた達は違うでしょう、リムル様、ウィン様」
紅丸も色々な事を考え、思いながらも言葉を必死に選んで喋り続けてくれる。
自分やリムルの心に寄り添っていくように。
「町が出来たばかりの頃、略奪目的の輩すら殺すなと命じていた。俺が心配なのは、好ましく思っている種族である人間を……それも一人二万近く……自分の手で殺めることで、あなた方の心に取り返しのつかない傷跡を残すかもしれないってことです」
自分はもうかなりの数の人間を殺めてしまっているし、後付けではあるけれど気持ちの整理だってダルクやライナ達、それにゲルド達のおかげで、覚悟は決まっている。
そしてそれは……リムルも同じだろう。
広場に横たわっている紫苑達に近づき、彼女達や彼らを見ながら、リムルも紅丸に自分の覚悟と心根を語り出した。
「……そうなるかも知れないが、今回は俺自身の手で、けじめをつける必要がある」
「コレに関しては、自分もリムルも譲れないんだ。ごめんね紅丸」
「リムル様……ウィン様……」
「だからこそベニマル、お前に頼みたい」
リムルがスライムボディから人型へと変わり、ベニマルの前へ立って彼の目を見つめながら酷な命令を――いや、頼みごとをする。
「全てが片付いた後、もしも俺が……いや、俺達が理性のない化け物になっていたら、戦える者を指揮して速やかに処分してくれ」
リムルと自分は紅丸から目を逸らすことなく、ジッと紅丸を見ながら返答を待つ。
驚きと戸惑いで言葉を失っていたけれど、すぐに紅丸は見開いていた目を閉じて拳を握りしめながら、返事を返してくれた。
「………わかりました。やれやれ、とんだ貧乏くじですよ」
「まぁそう言うな、お前にしか頼めない」
そうリムルが紅丸の肩を叩こうとして、立ち止まる。
『そういう話なら俺も混ぜろ。お人好しばかりだと安心出来ないだろう。紅丸とやらが躊躇するなら、俺が二人の魂を狩り取ってやる』
ダルクが紅丸の肩を叩きながら、いつの間にかヒータの横へと歩いて行く。
「ダルク……良いの?」
『ふん、お前らが無様に暴れる姿なんて見せなければ良いだけの話だろう』
ダルクは表情を変える事無く、なんともないように語る。
「なんというか、お前も分かり易い性格してるな……流石はウィンのお目付け役なだけあるな……ライナと違って捻くれてるみたいだが」
「ダルク殿、いつのまに……」
『別に、ただバカやってぶっ倒れてるヒータの顔を拝みに来てたらお前らが居ただけだ。それから俺は別に捻くれ者じゃねぇ‼』
ビシッとリムルに指さしながら抗議しているが、紅丸とリムルはその様子を微笑ましそうに笑って返すだけだった。
「まっ、ダルク君も居るなら安心してまかせられるな」
「うん、そだね」
『決まったな……それじゃあよ、魔王化の儀式とやらが済んだ後に、どう理性の有無を確認するかだが……何か良い案があるか?』
「合言葉だな、どうするか……」
「しっかりと確認できる内容が良い?」
「そうですね……」
紅丸が紫苑の方をチラッと見ながら、笑った。
「こうしましょう。合言葉は――――」
●〇●○ 【魔国連邦首都「リムル」より西方面】 ●〇●○
==神殿騎士団駐屯地 兼 四方印封魔結界、展開基点==
「邪魔だ、どけ」
「うわっ‼」
「おい、もう三日だぞ。ブルムンドの商人や冒険者共は、あの町と心中するつもりなのか? キョウヤよう」
「そう慌てることないさ、他の陣地からも、連絡はないし。地理的にも帰国にはこの西の街道を通るだろうからね」
「えー、来たら殺すんでしょ?」
「キララさん」
「仕事増えんのめんどくない?」
「だからいいんだよ。俺のスキル「乱暴者」は人を殺すと力が増すんだ。うまいことパワーアップすりゃ、あのジジイの呪言にだって抗えんだろ」
「ふーん、殺しとか別に面白くないし、あ――ヒマ!」
「あはは、言葉だけで数十人殺した人がよく言うよ」
「ウチは「死ね」っていっただけだしぃ、んなのネットでもよくあんじゃん。自己責任っしょ。ウチのせいじゃないもん」
「うわ、怖っ」
異世界人が三人で固まっているなか、少し離れた位置で騎士団の隊長と騎士がひっそりと内緒の話を始めた。
「隊長、彼らのことですが……」
「ん、ああ、異世界人等か」
「やけに横柄な態度が目立ちますけど、もっと礼儀を弁えた者はいなかったのでしょうか? こまりますよ、集団行動なのに」
「まぁ、強力なスキルをもっているのは確かだからな、知ってるか? ショウゴ殿が召喚された時、その場で周囲にいた召喚士30人を惨殺したそうだ」
「ええ⁉ 理由もなく突然暴れだしたんですか? 兵士として扱うには危険過ぎでしょう」
「理由がないことはあるまい、彼からしたら元の生活を唐突に奪われたわけだからな。だが召喚儀式魔法に絶対支配の呪言を組み込む理由を再認識することになった事件だ。彼らは強力な兵士たり得るが、決して心から従っているわけではない。異世界人は世界を渡る際に望みに沿ったスキルを得ると言われている、我が強い者の方が強力なスキルを得やすいってわけだ」
「はぁ……異世界人の強者は性格に難アリってことですか……」
「ふむ、改めてそう考えると合点がいくな。ヒナタ・サカグチ殿の強さもそういうことなのかもしれん」
「ちょっと隊長、それ本人の耳に入ったらどうするんです!?」
「なに、彼女はこの遠征には参加していない、多少の――」
そう騎士団の団長が続けようとした言葉は急に途切れ、額から血を噴き出して倒れた。
「――――え? たっ……隊長!?」
「来たか」
「てっ、敵襲‼ 東方向より、狙撃‼ 隊列を整えろ‼ 魔法部隊、身体強化の詠唱を急げ‼ 敵影は!?」
「街道に敵影確認‼ その数……え⁉」
「どうした!?」
「その数、6名……!?」
攻撃を仕掛けたのはゴブタ。
短刀の鞘から圧縮して放った弾を遠くにいた団長の額を狙って当てたのである。
「開戦の合図っすよ」
『流石だねゴブタ。この距離から当てるなんて』
「ウィン様と的当て勝負でデザートを作ってもらう為に頑張ったっすからね」
「ほっほっほ、さて……地獄をみせてやろう」
「皆の痛み、しっかりと思い知らせてやりましょう」
「警備隊の皆の痛み、しっかりと刻み込んでやりますよ」
レイやアウスと並び、白老、ゲルド、リグル、ゴブタが拠点へ向けて走り出した。
●〇●○【四方印封魔結界、展開基点、北】●〇●○
「う……うわぁぁあぁ」
忍び装束を来た蒼影の隠密部隊が、奇襲を仕掛けて騎士団達を蹂躙していく。
「馬鹿な‼ こいつら一体どこから現れた!?」
「クソッ 一旦退――」
隊長の言葉が部下達に届く事無く、蒼影の粘鋼糸によって顔から切り刻まれていく。
「――ソウエイ様、申し訳ございません……この者達は、想定していた程の強敵ではありませんでした」
「そのようだな」
蒼影は同意しながら、クリスタルを粉々に切り刻む。
「これならば、我らだけで四方の陣を落とせたかと」
「油断して失敗するよりマシだ」
背中に武器をしまい、結界のクリスタルが機能していないかの最終確認をしていく。
「やはり西、でしょうか」
「だろうな、リムル様とウィン様の読み通り、ブルムンドの冒険者や商人の口封じをするつもりなら、西に最も戦力を置くだろう」
「助力に向かいますか? 余力は十分です」
「……いや、必要ない。あの様子ならな」
●〇●○【四方印封魔結界、展開基点、南】●〇●○
「対空防御陣形、急げ‼」
盾を頭より上に掲げて、ガビル達龍人族のブレスを必死に防ごうとしているが、その効果はあまり無い。
防壁魔法でなんとか凌いでいるが、それもいつまで持つか分からない状態が続く。
「くっ……こいつら、ただのリザードマンじゃないぞ‼」
「グワハハハ‼ 我らはドラゴニュートである!!」
騎士団長の前にガビルがゆっくりと降り立つ。
「ド、ドラゴニュートだと⁉ ふざけるな‼ 上位種族がこうも大量に沸くものか‼」
「ふざけてなどおらん。吾輩の名はガビル……見知りおく必要はない、冥土の土産にするがよい‼」
誰よりも殺気を放ちながら、敵である騎士団達に己が自慢の槍を力強く振るっていく。
敵を全て排除し終えて、結界の下であるクリスタルを槍の一突きで砕く。
「……ふっ。このスマートな仕事ぶり……幹部昇進の日も近いのである」
「ガビル様ってそういうこと口に出しちゃうから、妹のソーカさんにイマイチ尊敬されないんだよね」
「然り」
「はははいってやるなよ。ガビル様の出世欲は我らが侮られぬようにと思ってのこと、つまり最高の上司故のことよ」
「……でも卒なく仕事をこなすソウエイ様にひかれるのもちょっとわかるっすよね」
「「「「確かに」」」」
「おっ、お前達っ⁉」
部下達の言葉にショックを受けながらも、この場には笑い声が絶えなかった。
●〇●○【四方印封魔結界、展開基点、東】●〇●○
「き……聞いてないぞ‼ こんな化けも――」
ごうごうと木々が焼けて行きながら、その炎は留まる事無く、仏の色とは異なる黒い炎が騎士団自慢の盾も鎧も関係なく、切り裂いていく。
『ちょっと~、ベニマル君~。私にも獲物を残しておいてくれても良かったじゃない~、これじゃあ火消要因として呼ばれただけじゃないの~』
「悪いな、俺の八つ当たりに付き合ってもらって」
『別に良いんですけどねぇ、私だってヒータちゃんに酷い事したコイツらって許せないし……あらあら、熱いでしょう……溺れて死ぬのと、焼け死ぬの……どっちがいい?』
「これでトレイニー殿に怒られなくて済むな」
『その為だけに私ってこっちに連れて来れられたのね……』
「ははは、エリア様が居て下されば、気兼ねなく力を使えますからね……さて、情けなくも困ってる奴等はいねーだろうな?」
何処に逃げようと、黒く燃え盛る火炎から逃れられず、それを逃れても地上だというのに海に飲まれるように溺れてしまう。
次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで
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