「わぁ……速いね、テンペストウルフだっけ? 聞いたことない種族だけど」
「そうだよ、名前はランガだ」
「ランガ、ご主人をちゃんと守るんだよ」
「無論です、我が主の朋友よ」
シズさんに喋りかけたランガがすぐに、シズさんの方に視線を送りながら喋る。
「はぁー……すごいね」
「どうかしたか?」
「町で出迎えてくれたホブゴブリンも、このランガも流暢に話すなって」
「珍しいのか?」
「すごくね。でも、それ以上に魔物が町を作ってることに驚いたけど」
「俺たちの町は気に入ってもらえた?」
「とっても」
自分はリムルとシズさんの会話を邪魔しないように、ランガの後ろをアペライオとじゃれ合いながら走っている。
あんまり警戒し過ぎても良くないだろう。せっかくリムルと楽しそうに話しているのに、その雰囲気をぶち壊すという行為は避けたいしね。
ちなみに冒険者達はライナとアウスが見ていてくれている。良い人達だとは分かったが、だからと言ってすぐに信じ切れるかといえば、自分は違う。
まぁ、ドワーフ達も居るが、戦闘に関しては冒険者と呼ばれる人達なんだから負けてしまうかもしれない。何かあってもライナとアウスが居れば、対処は出来るだろう。
どうしてもシズさんの「最後」というあの言葉が頭から離れない。最後と言うのが冒険が最後というだけで、シズさんの旅が終われば……子供達の元へと帰るだけなのかもしれない。それなら良いんだけど。
ざわつく心は、全然落ち着いてくれないし……むしろ増してるのは何でだろう。
「そうだ! 面白いものを見せてやるよ」
リムルが何かしようとしているようだが、何をするんだろう。
〈了〉
【リムル? 大賢者さんの声が聞こえたけど?】
【あぁ、ウィンも見てみるか? 「思念伝達」で日本の風景を見せようと思ってな】
【なにそれ⁉ 見たい!】
思念伝達ってそういう事にも使えるのか、スキルの応用ってヤツなのかな。
「見えるか?」
「うん……えっと誰かの部屋?」
「ちょっ⁉」
「リムルの部屋? でもモニター……」
「気にするな! 間違ったんだ、今の無し‼」
「キレイだったよ?」
シズさんの時代には、まだテレビはなかったのかな。パソコンのディスプレイに男性が好んで見そうなグラビアアイドルの写真集的な何かが流れていた。
【リムルのおバカ……】
【そんな目で見るなよ、男の部屋ならあんなもんだろう!】
「見せたかったのは、こっちだ」
そうして浮かんできた映像は、路面電車や瓦礫を片付けて一所懸命に生きている戦後の復興に励む人達だった。
「これは……?」
「俺も自分で見たわけじゃあないけどな。終戦後、復興に励む人々だ」
「これが、あの炎に包まれた町……?」
「みんなが頑張ったんだよ」
「そっか……こんなにきれいになったんだね」
いつの間にか、新幹線の初開通やら記念式典みたいな映像にどんどんと切り替わる。
「こっちでも同じさ、皆で楽しく暮らせる町を作る。それに向かって俺たちも頑張っているんだ。めざすは摩天楼!」
「良かったらまた遊びに来てくれ、町はもっと発展させるつもりだが同郷のシズさんに、第二の故郷と思ってもらえたら俺も嬉しいよ」
「……ありがとう、きっとお邪魔する」
その言っているシズさんの顔は優しくも、寂しそうに感じる者がある。
何も言えずに見守って――。
「そういえば――」
急にシズさんの魔力が乱れていくのを感じ取れた。
「……? ――ッ⁉」
リムルは気付いてないっぽいけど、シズさんの乱れた様に感じた魔力が抑えられているけど、なんか無理くり抑え付けている感じだ。
「シズさんを召喚したのって誰なんだ? 人ひとり異世界から喚びよせるなんて、人間業とは思えないんだが」
「……あの人は、この世界の頂点の一角。魔王、レオン・クロムウェル」
「魔王⁉」
とんでもない存在がシズさんの口から飛び出して来たが、今はそれどころじゃあなさそうだ。シズさんは胸元を抑えて、耐えているみたいだけど抑え込めていない。
「さっき「最後の旅」って言ってたろ? もしかしてその魔王に……」
「シズさん⁉ どうしたの⁉」
「ウィン? シズさん? ランガ止まれ!」
どんどん顔色が悪くなっていく。閉じていた目が開いたと思ったら色が変わっている。
「どうしたんだ、顔色が……っ!」
シズさんがリムルを自分の方へと投げてよこした。
その後にランガから降りて、地面にふらつきながら立つ。
「主よ!」
ラインが急いでこっちに駆けつけてくる。
「アペライオ……ライナとアウスに警戒を強める様に伝えて」
「ガゥ」
その場でリムルと一緒に降りて、アペライオの頬に手を当てながら指示を出す。状況をしっかりと理解している様で、小さく返事をしてすぐに町の方へと駆け出していく。
「ウィン! シズさんはいったい⁉」
「魔力暴走に近い……けど」
「けど?」
「魔力を抑え付けている感じだった」
シズさんが付けていた仮面が地面に落ちると同時で、大賢者さんの声が頭に響く。
〈対象の魔力が増大しました。警戒してください〉
シズさんの体から炎を勢いよく噴き出してくる。
咄嗟に手を翳して、杖を出現させてこっちに飛んでくる炎を防ぐ。
「なんだこの殺気? まるで別人じゃないか」
「別人なんじゃない?」
「ウィン……なにか分かるのか?」
「魔素が、変って言えば良いのかな……炎の力そのモノって感じがする」
シズさんを警戒していると、後ろからエレン達が近付いてくる気配がした。
「おおい、リムルの旦那ー‼ なんかすげえ火柱が見えたけど……げ⁉」
さすがは冒険者といったところかな。良く分からない事態が起きたと感じて飛び出して来たのだろう。アペライオが一匹で帰って来たのを見てすぐに行動を起こしたようだ。
ライナも続いてすぐに杖で飛んできて、自分の隣に降り立った。
「あれ、シズさんか? なにがどうなって……」
『よく分かんない事態じゃない……それに、炎の精霊の気配がするし』
「こっちも良く分かってない。シズさんが急にああなってしばらく動かないの。町の方は大丈夫だよね?」
『アウスが居るから大丈夫よ。何かあれば合図がくるでしょうしね』
「なら、今は目の前の事に集中だね」
「流石だな。お前らのおかげで、シズさんを助ける事に集中できそうだ」
「ん? シズ……シズエ? シズエ・イザワ? え、まさかあの……?」
「どうしたのギド?」
ジッとして立っていただけのシズさんに少し動きがあった。
手を前にして、人差し指を少し上に動かしただけで、火が地面から飛び出す様に出現して、こっちに襲い掛かってくる。
「その程度の熱じゃ、誰も傷つかない?」
「助かるぜ!」
「すご……でもあっついよ⁉」
「炎に焼かれるよりましでやすよ……でも、間違いありやせん。彼女は爆炎の支配者。シズエ・イザワ。イフリートを宿す最強の精霊使役者でやす‼」
「イフリート⁉ めっちゃ上位の精霊じゃねーか‼」
「冗談でしょ⁉ 伝説的英雄じゃない‼」
マイペースというか、こんな状況なのに元気に言い合いをしている。
【うるせぇ‼】
【というか、知らないで一緒に居たのに驚きなんだけど?】
「あんたら、さっさと逃げ――」
「そんな訳にいかねぇよ」
リムルの言葉を遮りながら、カバルが一歩踏み込んだ。
「あの人がなんで殺意を剥き出しにしてんの知らねーが」
「俺達の仲間でやすよ」
「ほっとけないわ!」
何でだろうね。こんな状況下だっていうのに、緊張感よりも心強く嬉しい気持ちで満たされるように感じて、自然と笑みが零れてきちゃう。
【あんたの言う通り、いい仲間みたいだな】
【だね】
『抜けてる所も多いわよ』
そう言いながらも、ライナも楽しそうに笑っている。
「わかった、気を付けろよ」
『ハナ……レテ』
シズさんが苦しそうに、声を絞り出している。
『オサエキレナイ……ワタシカラ、ハナレテ……』
「ウィンが言ってた通りって感じだな。呪いと言ってたし、ひょっとして――?」
〈個体名、シズエ・イザワと同化しているイフリートが、主導権を取り戻そうと暴走しているようです〉
【やっぱりそうか……ウィン、よく分かったな】
【霊使いって名前は伊達じゃないの】
リムルに自慢するように胸を張る。
シズさんが引き起こしている訳じゃないと分かったからか、やること自体は決まった。
「心配するなシズさん。あんたの呪いは俺達が解いてやる」
ここに居る誰一人も逃げ出す者はいない。
皆がシズさんの顔を見ながら、リムルの言葉に続いて力強く頷き、シズさんを見る。
「任せろ」
「誰も貴女の力で傷つけさせないから」
自分は杖を構えながら、シズさんに微笑みかける。
少し驚いた顔をして、自分達を見つめるシズさんは安心したように俯く。
『オ……ネ、ガ、ィ」
「勝利条件は、イフリートの制圧とシズさんの救出だ」
「はは……まさか、過去の英雄と戦う日が来ようとはね」
「人生何が起こるかわかりやせんね」
「ん? 英雄シズエ・イザワとは戦わないよ?」
「え、だって――」
『ふふ、そうね。アタシ達の相手はイフリート』
「きっと英雄だったら負けたかもしれない? でも、イフリートが相手なら別に怖くないよ。シズさんが一人で抑え込めてたんだから、この人数で勝てなきゃ恥ずかしいよ?」
「確かにな。気合い入れろよお前ら」
英雄だろうがなんだろうが、女性が一人。必死になって抑え込んでいたヤツに負けるつもりは無い。
これが戦闘経験の豊富なシズエ・イザワという英雄だったら、戦闘素人の自分やリムル。それにハチャメチャチームの冒険者3人じゃあ荷が重かったろうけどね。
「行くぞ」