「――さてと、じゃあ、そろそろお暇するかね」
「帰るのか?」
「あぁ、ギルマスにこの森の調査結果と……それに、シズさんのことも報告しなきゃならんからな。いつまでも世話になる訳にもいかんだろう」
「ギルド?」
自分がそう聞くと、ちょっと詳しめに教えてくれる。
「おうよ、自由組合つってな。ほとんどの冒険者が所属してるんだ」
【ギルマス……ギルドマスターの略称だよな?】
【ドワーフ王国でも聞いた話? カイジン達に聞けばもっと詳しく教えてくれるかも?】
エレン達はそれぞれの荷物を纏めて、武器なんかもしっかりと背負っている。
「もちろん、ここのことは悪いようには報告しないぜ」
「リムルさんやウィンちゃんのことライナさん達のことも、ギルマスに伝えとくね」
「旦那達も何か困ったことがあれば、頼るといいでやすよ」
「おう、そうさせてもらうよ。気をつけてな」
そういって三人が扉の前まで移動して、立ち止まる。
カバルが何かを思い出したかのように、ジッとリムルの方を見る。
「あっ、と最後にもう一つ」
少し照れ臭そうにしながら、リムルの前に戻って来た。
「なぁ旦那。もう一度人の姿になってもらえんかな」
「ん? 別にいいけど」
幼い感じのシズさんって感じだ。顔つきが似ているせいだろうけど、髪の色はスライムだった時の色が反映されているのか、澄んだ空色のような水色だ。
「一体、なんだって……」
「「「シズさん、ありがとうございました‼」」」
三人がそろって並び、リムルに向かって頭を下げる。
「俺、あなたに心配されないようなリーダーになります!」
「あなたと冒険できたこと、生涯の宝にしやす!」
男性二人の言葉に続いて、エレンがリムルに抱き付いた。
「ありがとう……お姉ちゃんみたいって思ってました」
エレンは目尻に涙を溜めながら、しっかりとリムルに抱き付いている。
「本当に、シズさん最後の旅仲間がエレン達で良かったと思うよ」
『……それにしても、アナタ達の装備ってボロボロね』
「ライナ……感動的なシーンで何言ってるの?」
『いやいや、事実だしな。そんなんで帰り大丈夫かよ?』
『下手したら、死ぬかも?』
「……たしかにボロボロだな」
「リムルまで……」
「ひどっ⁉」
散々な言われように、改めて自分達の装備を見下ろすエレン達。
『ちょっと待ってて。丁度良いのがあったはず。ちょっとついて来て』
アウスが三人を連れ出して行ってしまう。
「ねぇ、リムル。ちょっとそのままで――」
「あぁ、そういや。お前もシズさんに言いたい事があったんだったな」
「うん……」
そっとリムルの体に抱き付きながら、ギュッと力を籠める。
「シズさん……短かったけど、お話出来てよかった……ありがとうございます」
リムルは何も言わずに、自分の体を抱き返してくれる。
「シズさんの思い、必ず叶えてみせような」
「うん……それに、シズさんを苦しめた分は、絶対にお返ししてやる」
「あぁ、ぶん殴ってやろうぜ」
まだまだ弱い自分達では、魔王なんて言うような存在の前ではアリも同然に踏み潰されちゃうだろうけど、しっかり強くなって殴り込んでやる。
それに、シズさんが最後まで気にしていた子供たちの事もある。
やらなくちゃならない事は、沢山あるんだ。
★☆★☆ ★☆★☆
「――すごっ!」
「こんな装備、貰って良いのかよ」
「軽いし動きやすいのに、しっかりと防御力もあるでやすな」
キラキラした目で新品の防具を見て子供の様に燥いでいる。
「これって……」
「選別だよ。ウチの職人達が作った力作だ」
「紹介するね。カイジンにガルムってドワーフさん達です」
「力作っつっても、まだ試作品だけどな」
「着心地はどうだい?」
二人の名前を聞いてカバル達の口が開いたままで塞がらない。
「え? カイジンって、あの伝説の⁉ 鍛冶師の?」
「じゃあガルムって、あのガルム師でやすか⁉」
「わぁ――っ‼ 家宝にしますぅぅぅ‼」
お祭り騒ぎは相変わらずのようだけど、カイジン達を見て更に拍車をかけるようにうるさくなっている。
【ねぇリムル、思ってた以上にカイジン達ってさ】
【あぁ、有名人って事だろうな。人間国宝……いや、ドワーフ国宝か?」
『まぁとにかく、良いお土産を渡せたって事で良いじゃない」
悲しみを吹き飛ばすように大はしゃぎしている。
「あ、ウィンちゃん……ありがとうね」
「ライナの姉さんも、ありがとうございやす」
「姫さん方には世話になったな。最後の別れの挨拶を言えたのは、姫さん方のお陰だ。本当にありがとうな」
『まぁ、アタシはウィンに言われた事をやっただけだから、気にしないで』
エレンが走り寄ってきて、ギューッと自分を抱き抱えると。何度もありがとうと言ってくる。最後にしっかりと話が出来て良かったと、瞳に涙を浮かべながら言う。
「また来るぜー」
「ありがとー」
「おたっしゃでー」
「……ねぇ、ウィンちゃんって元から緑色の髪だったっけ?」
「あれ? そういや初めて見た時は赤だったような?」
「何言ってるでやすか、赤い髪の子はヒータ姉さんでしょうに」
「あっれ~。そうだっけ?」
最後まで明るさを忘れずに、周りにも元気を分け与える勢いでエレン達は町を去っていった。あの逞しさは自分もしっかりと見習わないとダメだろうな。
★☆★☆ ★☆★☆
「さてと。ランガ、しばらく調べたいことがあるから、俺達のテントに誰も近付けないでくれよ。覗くのも禁止だかんな」
「アウスとヒータは町のゴブリン達に自己紹介と、今はこっちのテントに近付かないように言っておいてくれよな」
「はッ‼」
【これから先に何が起きるかわからないしな。まずは前からウィンが言っていた確認作業から始めよう。「擬態化」人間】
ポヨンと丸かったスライムボディが人型へと変わる。
「ふむ……?」
「リムルさん……逆セクハラ?」
「いや、色々と確認したくてな」
見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
シズさんに似ているから、尚更に背徳感が半端ない。
「……それぞれ、別の部屋でやる?」
「ちょっと待ってくれよ。ウィンにも確認して貰いたい事もあるんだ」
人に擬態かして、リムルは手足の一つ一つを確認しながら動かしていく。
「魔力感知で知ってはいたが……視覚や聴覚で見たり聞いたりするのは大事だな。ウィンの髪って結構サラサラしてんのな。緑色のポニーテールか……可愛いし、良いね」
サムズアップの手をこっちに向かって出している。
「それにしても、鏡がないのが辛いな……もう一回、魔力感知を……」
「イフリートが使ってた分身みたいなのは?」
『イフリートを「捕食」したんなら、そのイフリートの保有スキルも使えるんじゃないかしら? ウィンみたいに魂を込める事はムリだと思うけどね』
〈解。「分身体」含め、イフリートの保有スキルは解析完了しています〉
【なんかライナに煽られて機嫌が悪くなってない? 気のせいかな】
【まぁ大丈夫だろ。さっそく使ってみるか】
リムルが手を前に翳すと、黒い靄から人型リムルと全く同じ個体が出来上がる。
「おー、すごいな」
「だから、なんで裸で出すのさ」
『しっかりと自分で見たいんでしょう』
あんまり見ない様に気をつけないと。
「そういえば、なんでシズさんが弱っていってるのが分かったんだろう……ライナは何か知ってたりしないかな?」
『種族関係じゃない? ウィンは魔女ってだけで種族的には精霊って部類に入るんじゃない? ちなみにアタシ達はカード精霊ね。ウィンのスキルを組み合わせたお陰で、実態のある姿で他の子達にも見える様になってるけど』
〈スキル「カード生成」「遊戯王」「生霊の魂」「自己像幻視」の組み合わせた事により、カード精霊へと存在と魂の生成、そして定着化、かつ「幸運」「可視化」により。カード精霊個体として。個体名、アウス。ヒータ。ライナ=テンペストが現世への召喚固有個体として留まれていると、推察されます〉
「なんか、色々とスキルがあるんだね……」
『一番大きいのは多分、ヴェルドラから貰った加護のお陰もあるだろうね。アレが無かったらカード精霊であるヒータ達は幽霊状態だったと思うわよ』
「それでも、この世界のヤツらなら見えてそうだけどな」
リムルは自分の体をマジマジと見ながら、こっちの会話を聞いている様だ。
「……リムル、自分自身の体を凝視するのは別に良いけどさ。さすがに性別確認は自分が居ない所でやってほしいかなって思うな」
なんか落ち込んでいる様子を見るに、色々と無かったんだろう。
「スライムに性別なんてないよね?」
『無いわね。見た目が中性っぽいけど。無性でしょう』
「むっ、なら……ちょっと大人になってみ」
自分達に揶揄われたリムルが自身の体を大人へと変えていく。
「男寄りに出来るか?」
そうリムルが言った瞬間に自分の目をライナの両手が覆い隠していた。
「ふわぁ⁉」
『ちょっとリムル⁉ ウィンに何てモノを見せるのよ』
「ライナの手でふさがれて見えてないんだけど」
「んじゃあ次は女寄りに……」
「……リムル」
多分ノリで言ったんだろうけど、それは駄目なのではないだろうか。
「うおお……って。スト―――ップ‼」
バサバサっと上着を分身体に被せたのだろう。
「リムルのおバカ」
『こればっかりは救いようは無いわね。ウィンに変な事したら八つ裂きにするからね』
「ごめんなさい」
「元男だからって……リムルのエッチ」
『その内に刺されるんじゃない?』
刺されたところで、リムルには効きそうにないんだけどね。