「あんまり変な事はしないでさ、見守ってみない」
巫女さんオーガはこちらを警戒しながらも、チラチラとリムルの方を見ている。
「じゃあ、キミが何かしたら自分も動く。何もしないなら一切の手出しはしない。どう?」
何も言わず、迷うような素振りだけれど……巫女の子は頷いてくれる。
自分達の仲間が勝つと思っているのかもしれないけど、とりあえずは下手に動かないようには出来ただろう。
オーガ達の中で身体が大きくどっしりとしたハンマー持ちの男が、一番最初にリムルに襲い掛かっていく。
リムルが手から「麻痺吐息」を噴射するが、ギリギリで躱して力一杯に横なぎしたハンマーが空を切る。
リムルがしゃがみながら、今度は「粘鋼糸」で大男のオーガを簀巻きにした。
その近くでは、ゴンッ――ッ‼ ドン――ッ‼ と大きな物音を立てながら、ヒータとメイス持ちの女性が暴れている。
『大振りで力任せの攻撃なんて当たる訳ないだろうが! この怪力女‼』
杖を器用に使いながら、全部の攻撃をいなして躱し、隙を見てはしっかりと攻撃を当ててメイスを杖で吹き飛ばしてていた。
森の中だから炎を最小限に使い、相手の武器だけを狙ったようだ。
素手になった彼女は拳でなおもヒータに襲い掛かっている。
『良い根性してんじゃねぇか。素手に武器は無粋だよなぁ』
「なにを……」
ヒータが少し距離を取って、杖を手元から離して炎の中に仕舞い込んだ。
『純粋な力比べといこうぜ』
「望むところ」
お互いの拳を打ち付け合って鈍い音が響いている。取っ組み合って足元をボコボコと凹ませながら純粋な力比べをして、楽しそうに戦っている。
「……ねぇ、巫女姫さん。アレは良いの?」
気まずそうに視線を逸らして、見なかった事にしている。
少し目を離している隙に、忍者っぽいオーガが「身体装甲」で相手の短刀をへし折って、リムルが力一杯に相手の胴を殴りつける。
「……強いっ⁉」
「勝てると思った?」
今すぐにでも助けに行きたそうにしているが、少しでも巫女のオーガさんが動こうとした瞬間に、こっちも合わせて動く。
魔力を込めれば一瞬で相手以上の魔力を込める。
「……うそ」
「下手に動かないでね」
彼女が動きを止めればこちらも止める。
焦りが表情や動きから見て取れるほどになってきている。
「……っ⁉ この風ってまさか」
「あ、気付いた?」
警備隊の皆を魔法で眠らせた相手に対して何にも手を打ってないと思ったのかな。
ちょっと卑怯だけど、風霊使いである自分なら風があればそれらを操って、自分の固有結界内に閉じ込める事も、足元に魔法陣を描く事も出来る。
「大丈夫だよ。キミが何もしなければ何もしない。それは約束してる?」
「いつのまに…………風、ですか」
巫女のオーガさんと自分を軽く閉じ込めるように風が覆う。
少し離れた位置にいるお爺ちゃんオーガがこっちを見ていた。
巫女のオーガが首を振ってこっちに来ない様に促している。お爺ちゃんは目を見開き、驚いているようだが、リムルと対峙している以上は下手に動けないだろう。
お爺ちゃんオーガはすぐに視線をリムルに戻して、しっかりと今の敵を見定め始めた。
「エビルムカデの「麻痺吐息」、ブラックスパイダーの「粘糸・鋼糸」、甲殻トカゲの「身体装甲」。不意打ちへの反応速度を見るに「魔力感知」も持っておるでしょう」
少しの動きしか見せてないのに、「魔力感知」まで一目見ただけで言い当ている。
「凄い……戦闘技術じゃあリムルは敵わないかな?」
自分がそう呟くと驚いた顔をして巫女姫さんが見てきた。
「でも貴方は、魔人様が負けるとは思っていませんよね」
「うん、あの二人じゃあ厳しいね」
「戦闘技術では負けているのに?」
「技術だけなら遥かにお爺ちゃんオーガが上だけど……リムルが本気出したら一秒も持たないかな? お爺ちゃんだけならある程度は戦いになると思うけどね」
ただ、リムルに対する決め手にはならないだろうな。
奥の手でもあれば話は違うけど、魔素量だけを見るとリムルよりも遥かに下だ。
イフリートの方がまだ厄介だろう。
「ここら辺にしないか? そろそろ俺の言い分も聞いて欲しいんだが」
「黙れ邪悪な魔人め」
「えーと……だからな」
「確かに貴様は強い、だからこそ確信が深まった。やはり貴様は奴らの仲間だ」
――やっぱり誰かと間違ってる。
奴らと言うのは気になるけれど、自分達はそこまで知り合いっていうのは居ないぞ。
「……たかが豚頭族ごときに我ら大鬼族が敗れるなど考えられぬ」
「おい、さっきから何を……」
「黙れ! 全ては貴様ら魔人の仕業なのだろうが‼」
「待てよ、それは誤解――」
リーダーっぽいオーガと話していると、後ろに回り込んだお爺ちゃんオーガの刀がリムルの首に迫っていた。
「あ~、リムルってば気付いてないな」
リムルが遅れて背後に回っていたお爺ちゃんに気付いて、咄嗟に頭を下げた。
「おぉ、斬った⁉ すごい」
「えっ……それだけ?」
「ん? うん」
ただ斬っただけじゃあ、あのチートスライムは倒せないもん。
巫女姫さんは自分の様子に驚き、瞬きの回数がかなり増えている。
「むむ……ワシも耄碌したものよ、頭を刎ねたと思ったのじゃが」
リムルの手がドサッと地面に落ちる。
「次は外さんぞ」
「……どうやら蛮勇の方だったようだな。右腕を失い発狂しない胆力は褒めてやる」
向こうさんは、もう勝った気でいる様だ。
巫女姫さんは未だに動きを見せない自分をジッと見つめながら、何故という視線を向けてくるけど、教えてあげるほど優しくはないね。
「一人で俺たちを相手取ろうとした、その傲慢さが貴様の敗因だ。冥府で悔やみ続けるがいい‼」
豪剣でリーダーオーガが振り下ろした刀が地面を抉っていく。
それを身軽に避けながら、落ちた手をリムルが拾う。
すぐに右腕をリムルが吸収していく。
「右腕を吸収したのですか⁉」
「リムルに斬撃は効かないから」
それを見た巫女姫さんがすぐにでも駆け付けたい衝動に駆られている。
でも、動けば自分も動くので、すぐに躊躇い足が止まる。
「確かにな、すぐに調子に乗るのは俺の悪い癖なんだ。忠告痛み入るよホント。もっと慎重になっていれば、右腕も失わずに済んだのに、ああもう、超痛い」
白々いい嘘を並べながら、ゆっくり歩き。
リムルは仮面を左手で静かに外す。
「……まぁ、「痛覚無効」と「超速再生」が無ければの話だけどな」
再生した腕をヒラヒラと見せびらかしながら、リーダーオーガの方に手を振る。
「ば……化物め‼ 鬼王の妖炎‼」
リムルの足元から炎の渦が立ち上がる。
「あ~もう、森の中で炎なんて使わないでよ」
瞬時に周りの木々に火が飛び散らない様に風で守りを固める。
「た、助けに行かないのですか⁉」
「え? 別に必要ないし?」
リムルに炎は効かないからね。
「やった……のか?」
「悪いな。俺に炎は効かないんだ。本当の炎を見せてやろう」
リムルが手を頭上高く掲げる。
「「黒炎」」
「ああ~⁉ なに出してるの⁉」
「良いだろ別に、お前が周りを守ってくれてるんだから」
「そういう問題じゃないよ、も~」
リムルの上にどす黒い炎の球が浮かぶ。
「ああ……あれは、あの炎は、周囲の魔素を利用した妖術ではありませぬ! あの炎を形作っているのは純粋に、あの者の力のみ。炎の大きさがそのまま、あの者の力――‼」
それにと息を呑みながら、自分の方を見てくる。
その額に冷汗が垂れている。
「どうする? まだやるか?」
「ク゚っ……」
「若、姫を連れてお逃げ下さい、ここはワシが」
「黙れ爺。無残に散った同胞の無念を背負ったこの俺が……ようやく見つけた敵を前に逃げろだと? 冗談ではない」
圧倒的差を目撃しても、震える体を抑える様に刀を握り直して、しっかりと構え。リムルを真っすぐに見ながらリーダーオーガはしっかりと、リムルを見据えている。
「俺には次期統領として、育てられた誇りがある! 生き恥をさらすくらいなら、命果てようとも一矢報いてくれるわ」
「若…… それではワシもお供いたしましょうぞ」
なんか腹を括っちゃってるじゃん。
「はぁ……ねぇ、面倒だからアレ止めてきて?」
「で、ですが……」
「あっちのおバカは自分が止める?」
自分が展開していた魔法を全て解いて、オーガの若頭を指差してやる。
すぐに意を決して、巫女姫さんが飛び出していく。
「お待ちくださいお兄様!」
「はいはい、どうするのこの状況!」
巫女姫さんはリムルを庇う様に立ち、自分はリムルの前にジト目で睨む。
「いや~、だって」
「はい、言い訳を考えない」
ビシッと指差して、腕組みしながら面倒くさいと全面に顔にだしてリムルに近付く。
「そこをどけ!」
「いいえ! この方々は敵ではないかもしれません!」
「お? 良い感じ?」
「まぁ、あの姫さんはおバカじゃないって事でしょう」
「いやだからな……そんな目で見るなって」
とりあえず、自分と巫女姫さんが間に入った事で、状況は緩和した感じになった。
「なぜだ? 里を襲った奴と同じく仮面をつけた魔人ではないか、お前もそう言っただろう⁉ そっちの女もそうだ! なぜ⁉」
「確かに言いましたが……昏睡の魔法に抵抗してみせた、あの二人のホブゴブリンは、この者達を信頼して慕っているようでした。わたくしを牽制していた、精霊様もです」
チラッとこちらを見ながら、巫女姫さんが話しを続ける。
「それはオーク共を率いていた魔人の在り様とは、あまりに違うように思うのです」
【リムル、もう一押しだよ】
【だな!】
リムルの方をジト目で見ながら、とりあえず自分は何も言わずにリムルの前に立つ。
「よく考えろよ、この娘さんが本当はどっちを庇おうとしてるのか。なぁ、若様?」
「む……」
ようやく話を聞いてもらえる雰囲気になってきた。
「それはもういらないでしょう」
「あ~、分かったからさ。怒るなよ、すぐに消すってば」
リムルが自分で出した炎を捕食して、鎮火する。
「いま、何を……っ」
「捕食したんだよ。あんなのテキトーに投げたら死人がでるし……めちゃくちゃ怒るヤツが目の前に居るからな」
「森の中で火を使う? おバカでしょう二人とも」
ジト目でオーガの若頭とリムルを睨みつける。
二人してビクッと肩を揺らして、何とか誤魔化そうと話を逸らし始めた。
「……結局、何者なんだ、お前達は?」
「俺? 俺はただのスライムだよ。スライムのリムル」
「自分は精霊? ……魔女かな?」
「スライムだと? 馬鹿な、いくらなんでも」
リムルが人型から崩れて、スライムボディになると、ランガの上に乗る。
「ほ……ほんとうに、スライム⁉」
「ちなみにこの仮面はある人の形見で、今朝がたに俺の手元に戻って来たばかりだ。なんならお前らの里を襲ったヤツのと同種のものか改めてもらって構わない」
ホレと言いながら、若頭のオーガに手渡す。
「あ、ああ」
「似ている気はするが……」
「これには抗魔の力が備わっているようです」
「しかし、あの時の魔人は妖気を隠してはおらなんだ」
「では……」
ふんぞり返るリムルを三者三様に色々な表情で見ている。
「はいっ! そっちもいつまでも力比べしてないで⁉ こっちの話に参加しろよ⁉」
「ヒータ! お遊びは終了‼」
『良い所だったのにな』
「勝負はお預けですね」
なんであっちは戦場であった戦友感が漂っているんだ。