「――――申し訳ない。こちらの勘違いだった。どうか謝罪を受け入れて欲しい」
ランガに乗るリムルにオーガの若頭が頭を下げて謝罪している。
「それにしても、やりますね。そんな華奢な体をしているくせに」
『はは、鍛えてっからな。まっ、本職は魔法使いなんだけどなぁ……森の中じゃあアレが一番なんだよ。オレが得意な魔法は火属性だからな』
『アンタの魔法は危なっかしいのよ。爆発ばっかりさせて派手さに全振りなんだもの』
ヒータがチラッとこちらを見て、すぐに目を逸らして戦っていた女性と話している。
「あれ……? リムル様?」
「おう、起きたかお前ら」
眠らされていた警備隊の面々が起き始める。
「オーガ達は大丈夫? リムルが乗り気になって攻撃してたけど」
「はい、頂いた回復薬のおかげで……」
巫女のオーガさんが全員の体調を確認しながら言う。
「よし、じゃあ全員で町に戻るか」
「はっ」
「全員って、俺たちもか?」
オーガの若頭が戸惑いながら、自分とリムルを交互に見ながら聞いてくる。
「ん、色々と事情も聞きたいし? その姿やさっきの「里を襲った」っていう話は、自分達の町にだって無視できる話じゃない?」
「だな、飯くらいだすからさ」
「招待はありがたいが……いいのか? そちらの仲間を傷つけてしまったが」
「それはお互い様?死人は出なかったし、そっちも手加減はしてたでしょう? ……リムルにはそういう訳でもなかったけど、そっちもしょうがないよ」
「まぁそれに今日、うちは宴会なんだ。人数が多い方が楽しいだろう?」
警備隊の皆も異論はないと頷いて、町に向かって皆で歩き出す。
「そういや、お前ら名前は?」
「いや、俺たちに名持ちはいないよ」
「あ、そっか。普通は無いんだっけ」
「普通は? そういえば、そちらはみな名前があるような感じだったな」
『そうね、というか全員がネームドよ?』
『名前の付いてねぇヤツは……いねぇな』
「リムルが頑張って付けたからね」
「いや、ウィンも名付けはしてただろうが」
開いた口が塞がらない様子のオーガ達と、宴の話で盛り上がるゴブリン達(主にゴブタ)というちょっとズレた空気感で、帰路についた。
==自分達が町に着くころには空は暗くなり始めていて、宴の準備も終わっていた。
ゴブリナ達が飲み物や食べ物を各テーブルに運び、料理の上手いホブゴブリン達が肉を焼いたり、サラダを作ったりしている。席に座っているのは宴の準備で働いた者達。
レンガでバーベキューの台を作ったり、椅子やテーブルなんかを作っていたらしい。
「……よし! リムル様、どうぞ」
「おう、ありがと」
ゴブイチが丹精込めて作った串焼きを、リムルの下に持ってきて差し出す。
「……リムル様、味わからないって言ってなかった?」
「今は人間のお姿だからな、きっとわかってくださる。美味いものを、召し上がって頂きたいじゃないか」
周りにいたゴブリン達もゴブイチが持ってきた串焼きを見つめ、リムルが食べている姿を息を呑んで見守っている。
当のリムルは、ゴブイチが丹精込めて焼いた串焼きをゆっくり味わいながら、プルプルと震えだしていた。
「……リムル様?」
不安そうに見つめるゴブイチだったが、そこまで心配する必要はないだろう。
「うんっっっまぁぁい!」
味覚があり、味を噛み締めるように食べていたリムルが、弾ける様な笑顔で喜んでいるだけだからね。
「美味いよ、ゴブイチ君‼」
ゴブイチが照れながらお礼を言い、周りにいたゴブリン達が更に騒ぎだす。
少し離れた位置では、ドワーフ達とオーガ達、それにリグルド達が話し合いながら酒と肉を食べていた。
「豚頭族が大鬼族に仕掛けただって? そんなバカな!」
「事実だ。武装した豚共数千の襲撃を受け、里は蹂躙し尽された」
カイジンとリグルドがオーガ達の話が信じられないと、驚いている。
「300人いた同胞は、もうたった6人しかいない」
「信じられん……あり得るのか、そんなこと……」
「そんなに、おかしいことなんすか?」
カイジンは髭を撫でて呟くと、近くで話を聞いていたゴブタがひょこっと顔を出して、戸惑いを隠せなかったカイジンに聞く。
「当然だ、オーガとオークじゃ強さのケタが違う。格下のオークが仕掛けること自体あり得んし。まして全滅させるなど――」
「全滅ではない。まだ俺たちがいる。」
「……すまん」
それにしても、大鬼族の里が壊滅か……それは確かに悔しいだろう。そして、先導していたであろう者が、リムルの持つ仮面に類似するモノを付けていた。
「勘違いするのも、怒るのも無理はない?」
「あぁ、だが今は違うと良く分かる……」
若頭が酒を飲みながら、町の様子を少し寂しそうに眺めながら言う。
「なるほどな、そりゃ悔しいわけだ」
「肉はもういいのか? リムル殿」
「ちょっと食休み」
「そうか」
「にしてもお前の妹、すごいな。薬草や香草に詳しくて、あっという間にゴブリナ達と仲良くなった」
「……箱入りだったからな。頼られるのが嬉しいんだろう」
ライナとゴブリナ達が楽しそうに笑いながら話している中心に、巫女姫さんがいる。別の場所ではヒータとダンス勝負をしているオーガの女性。将棋を指しているお爺ちゃんオーガとアウス、知識担当のホブゴブリン達がその盤面を興味深げに見ている。
「で、お前らこれからどうすんの?」
「どう、とは?」
「今後の方針? 再起を図るにしても、他の地に移り住むにしても……仲間の運命はキミの采配に掛かってるんでしょう?」
「……知れたこと。力を蓄え、再度挑むまで」
「当てはあるのか?」
目を閉じて格好つけているけど、リムルが聞く当ては無いんだろうな。
何も言えずに、自分とリムルから顔を逸らしてしまっている。
「ちょっと提案。リムルの部下になるとかどう?」
「は?」
「あぁ、なるほどな……お前達全員、俺の部下になる気はあるか?」
「こちらが支払うのは衣食住の保障。拠点があった方が再起を図るにしても、仲間を募るにしても、ここなら色々と手を打てるでしょう? 拠点として此処を使う感じかな?」
同情的な気持ちが無いわけじゃない。
知り合って話し合って、感じの良い魔物達だって分かったから誘っているんだ。
それに戦闘能力が高く、戦闘経験がある仲間と言うのは貴重だ。
「しかし、それではこの町を俺たちの復讐に巻き込むことに……」
「まぁ別にお前達のためだけって訳じゃないぞ。ウィンの考えもそうだろう」
「うん、数千のオーク。しかも武装して攻めてきたんでしょう。どう考えても異常?」
「攻めてきたって理由は分からないが、話しを聞いただけでもそりゃあ異常事態だ。この町だって決して安全とは言えなくなってくる」
「……なるほど」
この町には警備隊はあっても、それはあくまで町の警備や防衛目的。
オーガのお爺ちゃんみたいに戦いの経験という点に優れた人。それはこの町には誰一人として居ない人材だ。
戦闘力だけならリムルや自分達、霊使いが居るけれど……規模が違い過ぎる。
――少し、卑怯かもしれない。
けれど、このオーガ達みたいな人材はそうそう居ないだろう。こんな所で逃がしたくはないし。仲良くなった人が無謀に数千規模の戦力に挑んで死にゆくのは阻止したい。
リムルと戦った時に圧倒的な差を前にしても、仇と死に向かおうとした誇り高きオーガの若頭だ。豚頭族と対峙した時、感情で突撃していく姿が容易に想像できる。
オーガの里みたく滅ぼされたくないし、皆が死ぬ姿は見たくない。守れる力が増えるなら増やすべきだし、得られる経験や知識は馬鹿に出来ない。
もう少しだけオーガの若頭に寄り添ってあげられればとも思うけれど、自分にはそこまでの知識も誘い方っていうのも分からない。こんな形でしか彼等を抱き込めない事が凄く申し訳がない。
それでも、楽しく過ごせる町にするためにはどうしても欲しい存在を逃しはしない。
自分達の提案に悩んで、継ぐ言葉は出てこないようだ。
「……悪いが少し、考えさせてくれ」
「おう、じっくり考えてくれ」
一人考えを纏めようと、宴の席を離れていく若頭の横に行き、少しだけ話しかける。
「……ごめんね……でも、抱えた仲間の思いには全身全霊で応えるから」
自分の言葉に歩みを止めて、また森の方へと歩いて行った。
「ウィン? どうした?」
「ううん、なんでもない。さっ、宴を楽しもう」
「だな、さぁ~また肉を食うぞ」
★☆★☆ ★☆★☆
早朝になって、自分とリムルの所にオーガの若頭が訪ねてきた。
リムルを膝に乗せて、台座に座りながら若頭を見つめる。
「……決めたのか?」
昨日の思い詰めた顔から、少し覚悟の決まったという視線を此方に向けてくる。
「オーガの一族は戦闘種族だ。人に仕え、戦場を駆けることに抵抗はない」
膝をついて視線の高さを合わせてくれる。
「主が強者なら、なおのこと喜んで使えよう。昨夜の申し出、承りました。我らオーガ一同、貴方様方の配下に加わらせて頂きます」
【……お前、気付いてたな】
【うん、ごめんね。何も言わなくて】
【……はぁ、いや、気付かなかった俺も俺だ……こいつの気持ちにもっと配慮すべきだったな。本当なら今すぐ刺し違えてでも、仇を討ちたいだろうにな】
【でも、それはさせてあげない。気に入っちゃったんだもん。彼等のこと】
【おまえなぁ】
【それでも、彼の決断に見合うだけの覚悟はあるつもりだよ】
【そうだな、俺たちに出来るのは、その決断を悔いのないものにしてやるだけだな】
彼が頭を下げて配下に着くといった決断。それはきっと自分自身の不甲斐なさを吞み込んで、一族の頭としての決断だろう。
「わかった、オーガ達を此処へ呼べ。全員に俺の配下となった証をやろう」