「なぁウィン……どうなってんの、これ?」
「見たまんま?」
『大賢者に聞いたんじゃないの? アタシは詳しくは知らないから何とも言えないわね』
『皆良い奴だし働きもんだぜ』
『ちなみに、ウィンが暇だって騒ぐから、ちょっと遊具が充実したよ』
「ちょっ⁉ アウス‼」
ずずっとアウスが白老とお茶を啜りながら、自分と一切目を合わせずにリムルに告げ口してくれた。しかも、顔も逸らしてこっちの声は届かないというアピール付きで。
「あ? ウィンさんや? 何をしてるのかな?」
「名付けして、自分も看病されてたの! 部屋から一歩も出してもらえなかったの!」
「ほう、で? 何を作ったのかな?」
リムルが物凄い見つめてくる……じっとりとした責める様な視線付きで。
「べ、別に大したものじゃないよ?」
「ふ~ん……ライナ、どうなのかな?」
『そうね、確か将棋はすでに作っていたとしても、そこから囲碁、囲碁盤。ダルマ落とし? リムルおとしかしら? 後なんかバランスを取るづぇ? すぇんが? 細長いブロックを積み上げて遊ぶヤツよ、輪投げなんかもいつの間にか作られてたわね』
『あぁ、輪投げにボーリング? 纏当てもあるぞ。戦闘訓練になるんだよアレ。しかも楽しく遊びながらっていってウィンが広めてたな』
『道具を作るのに魔法を使うから、魔法訓練にもなってるよ』
「ほうほう……随分と楽しそうな事をしているじゃないか? えぇウィンちゃんよ~」
まずいな、いつの間にか楽しそうな事を自分が一人でやっていたから怒っているみたいだ。何気に寂しがり屋さんなリムルのお説教が飛んでくる前に、話を逸らさないと。
「先ずは鬼人になった皆のことじゃないのかな?」
必死にリムルがジロリと見つめてくる視線から目を逸らしながら言葉を探す。
「あぁ名付けで進化したんだよな?」
「鬼人とは――、オーガの中から稀に生まれるという、上位種族の事です。一度に6人もの鬼人が誕生するなど前代未聞」
「お前は確か……」
「“蒼影”の名を賜りました。ご快復、お慶び申し上げます。リムル様」
「お、おう」
〈上位の魔物に名付けをした場合、それに見合う魔素を消費します〉
【つまり、たった6人に俺の魔素のほとんどを持っていかれたってことか。先に行ってほしかったよね、ソレ……ん? あっ⁉】
バッと自分とライナの方にリムルが顔を向けてきた。
【ど、どうしたのかなぁ~】
【ライナ‼ お前知ってただろう‼】
『あら? 何のこと~? アタシはただ名付けをしたらウィンが疲れるからダメって言っただけで、魔素が減るだの云々は知らな~い』
【嘘つけ!】
取って付けた様な棒読みで、ライナはリムルから隠れるように自分を盾にする。
「はぁ、それはまぁ良いとしてもだ。ウィンはなんでここぞとばかりに遊び道具を増やしてんだよ! てか、訓練ってなに⁉」
「いや……その、いつの間にか、皆に遊びながら強くなる方法を聞かれる様になっちゃって。思い付いたことを、そのまま実践してみせたら……流行っちゃった」
聞かれる度に思い付いた案を実際に見せたら、本当にいつの間にか皆がやり始めて、それにちなんだ遊び道具も増えていくもんだから……ついつい楽しくなってしまった。
「あ~、ウィン様を責めないでやってください。事の発端は蒼影ですから」
「む? アレは画期的なアイディアだ。理にかなっている」
「ほほ、シオンには集中力とバランスを学ばせるには良い玩具でしたな。流石はリムル様と並び立つお方なだけありますぞ」
悪いとは思っているので、頭を下げながらも手先で爪先を摩りながら落ち込む。
「たく、俺が怒ってるのは、俺抜きで皆が楽しそうな事をしてたことに対してだ! なんかやるなら俺も混ぜろよ⁉ 抜け駆け禁止な! 特にウィン、遊びの事になるとお前は考え無しで動くんだから、注意しろよな」
「うぅ、ごめん」
鬼人の面々を何か思い当たる節があるのか、自分の方を見ながら苦笑いをしている。
「ん? そういや、あと一人はどうした?」
「ああ、ヤツはカイジン殿の工房に入り浸ってて……お、来ました」
遠くから走ってくる姿が見える。
「リムル様。元気になって良かっただよ。分かっかな、オラ“黒兵衛”だ」
クロベエが少し照れながら、笑顔でリムルに挨拶をする。
【おお……っ、あんま変わってないぞ】
【口に出して言わないようにね】
【イケメン⇒美少女⇒美女⇒ロマンスグレー⇒イケメンときて、最後に普通のおっさん。俺は今はすっごくホッとしているぞ!】
【気持ちは解るけど……クロベエが可哀想だからね】
「仲良くしような、クロベエ」
「んだ!」
その様子に嫉妬したシオンとシュナがピクっと反応を示していたが、自分は気付かないフリをしておこう。後はリムルに任せた方が良いだろう。
「リムル様、私とも仲良くしてください!」
「あ、こらシオン! リムル様に失礼ですよ!」
「お前ら、着替えた方が良いな、服のサイズが合ってない」
鬼人の美人二人に抱き付かれて満更でもなさそうなリムルだった。
【……なぁウィン。正直、コイツ等ちょっと強くなり過ぎてコワイ】
【えっと、鍛え過ぎちゃったかな? 力はあった方が良いかと思ってたんだけど】
【いやな、オークを倒した後、裏切られたりして……って考えたらな】
【あ~……、今は気にしない方向で――】
【というか、鍛え過ぎた? おい、真面目に何したんだお前⁉】
==リムルが寝ている間の事を話して、その日は終わった。
リムルにお説教されて翌日。
警備隊やベニマル、戦える面々が集まってハクロウの稽古をしている。
ゴブリン達はハクロウの攻撃を必死に避けながら、飛び退いたり吹っ飛ばされたりしている。ゴブタなんかは叫び声を上げながらも上手く攻撃から逃げている。
「豚頭帝? なんだそりゃ?」
「オークロード……それがベニマルの里を?」
「まぁ、簡単にいうと……化け物です」
「……おい」
「簡単すぎ?」
「ってことは今、俺たちの目の前にいるハクロウはオークロードか?」
「あぁ、アレも似たようなもんですね」
白老が軽く地面に木刀を振り下ろすと、地面を斬撃が這って襲ってくる。
「ホッホッ、言ってくれますな。稽古がしたいと望まれたのはリムル様達ですのに」
ベニマルに直撃する感じで少し後ろに飛ばされ、自分とリムルは斬撃の勢いを殺しながら軽めに避ける。
「自分は巻き込まれただけ!」
「ウィンは体を動かせ。あと罰だからダメ」
「戦士じゃなくて、魔法使いなのにぃ」
ぶ~ぶ~と抗議の声を上げるが、リムルに無視されてしまう。
ちなみにライナ達は仕事があるから、というもっともらしい理由を盾に逃げ出した。
「俺、ちょっと休憩」
「自分も休む!」
「仕方ありませんのう」
剣術を習いたいと言い出したのはリムルなので、しっかり鍛えてもらえばいいのに、何故か自分も巻き込まれる形で、稽古に参加させられている。
「おぬしらは、まだ続けるぞ」
ゴブタを含むゴブリン達の方にクルッとハクロウが向き直ると、片手で剣を構えたままで、まだまだ襲い掛かっていった。
「まさに鬼コーチ……」
「ウィン様、聞こえたら稽古に参加させられますよ?」
ベニマルの言葉にハッとして、すぐに両手で口を塞ぐ。
「まぁ、それは冗談ですが、オークロードというのは数百年に一度、生まれるというオークの特殊個体です。なんでも、味方の恐怖の感情すらも食らうため、異常に高い統率能力を持つんだとか」
「うへぇ」
「感情を無くした兵士……ゾッとする」
稽古中のハクロウは楽しそうに木刀を振り回しながら、
「ほれほれ、打ち込んでこんか!」
「無理――!」
と、ゴブリン達を軽くあしらっている。
「里を襲ったオーク共は仲間の死にまるで怯むことがなかった。あるいは、と思いまして」
「なるほど……」
「それは確かに、可能性としては高い感じ?」
「まぁ、可能性でいや、非常に低い話です」
「他になにかないのか? 里が襲われた理由の心当たり」
ゴブタが影移動でハクロウの背後を取って、
「スキありっす」
襲い掛かるが、木刀をクルッと回してゴブタの腹に一撃入れる。
「まだまだじゃのう」
ゴブリン達は無残にも転がっていた。
「関係あるかわかりませんが、襲撃の少し前にある魔人が里にやってきて「名をやろう」だとか言ってきたんです。俺を含め、全員から突っぱねられて、結局帰っていきました」
「魔人、そいつから怨みを買った?」
「逆恨みか~」
「仕方ありません、主に見合わなけりゃこっちだって御免だ」
「名前は憶えてる?」
「そいつの名前……なんだったかな。たしかゲレ、げろ?」
どうやら名前も覚えられないほど、どうでも良い存在だったらしい。
「ゲルミュッドだ」
蒼影が音も無く現れて、名前を教えてくれる。
「そう、それだ」
「ソウエイか、どうした?」
「ご報告がございます。リムル様、ウィン様」
「なにかあったの?」
「リザードマンの一行を目撃しました。湿地帯を拠点とする彼らが、こんな所まで出向くのは異常ですので、取り急ぎご報告をと」
「リザードマン?」
「はい」
「オークじゃなくってか、なんでまた?」
「なにやら、近くのゴブリン村で交渉に及んでいるようでした。ここにもいずれくるかもしれません」
ソウエイから報告を聞いていると、遠くからシオンが走って来た。
「リムル様~、お昼ご飯の用意が整いました。今日は私も手伝ったんですよ」
その言葉を聞いて、鬼人の面々が一瞬だけ動きが停止する。
「おう、ありがとうシオン。お前らも行こう」
リムルがそういって、こちらを誘ってくる。
「あ~ごめんリムル。ソウエイとこのあとスキルのことでちょっとね。前に話してた分身の事で良い物があるからさ、一緒に取りに行こうか」
「はっ、ありがたく」
ベニマルの視線が「ズルいぞお前ら」という事を訴えているが、命が掛かっているので知った事ではない。
「や、俺は今日は遠慮します……」
「あ、そう?」
ハクロウに至っては、気配を消して自分と一緒に移動してきている。
「そうか……リムルは知らなかったね」
「大丈夫でしょうか」
「これも、修行ですじゃ」
ソウエイとハクロウの顔色が悪くなっているが、知らなかったリムルには良い教訓になるだろう。それにシオンの弱点を知っておいて損はないはずだ……今後の犠牲者を出さない為にも、必要な犠牲だ。