トントン――っとドアをノックする音が響き、ライナが開けると蒼影が立っていた。
「ウィン様、リザードマンの使者が訪ねて来ました」
『あちゃ~、ついに来たか』
「リムルには?」
「リグルド殿が報告に行きました」
『見たところ影分身の方だね、上手く扱えてる?』
「いえ、まだまだですね。監視や報告程度なら問題はありませんが、戦闘となると心許無いです。数もまだ遠隔で保てるのは二体ですから」
それだけ扱えるようになってるなら十分じゃないかな……。
影分身の術を記した木簡を渡してから、そんなに日は経ってないんだから。
「じゃあ今監視してるのが、本体?」
「はっ、いつでも動けるように監視しております」
『とりあえず、アタシ達も行こうか』
「そうだね。蒼影は紅丸や白老達にも報告をお願い、その後は影分身を駆使してリザードマン達の監視を重点的にお願いして良いかな?」
「御意に」
フッと蒼影は影に溶ける様に消えていった。
『影移動も使いこなしてるみたいね』
「自分は使ったことないんだけど、どんな感じなのかな」
『別に使わなくても良いでしょ、飛んでいった方が早いわよ。ほらアタシの杖に乗って』
実体化している状態じゃあ、ライナは影移動で飛べないから嫌がったな。
ライナは光属性だから、そもそも闇系統の能力は相性が悪いのか使いたがらないんだよね。使わせてもくれない事が結構ある。
少し高く飛んでみると、確かにリザードマン一行が町の方へと歩いて来ている。先行したヤツはもう入り口付近に立っているようだ。
リグルドの肩に乗ったリムルを見つけて、ライナがゆっくり下りてい行く。
丁度良く紅丸達も蒼影から話を聞いて駆けつけて来たようだ。
『やっほ、リザードマン達が来たんだって?』
「蒼影から聞いた?」
「お、ウィン達か。今呼びに行く所だったんだ」
トンと地上に降りると、紅丸もリムルの方へとやってきた。
「リムル様、ウィン様。話は聞いた。俺達も同席して構わないか?」
『リザードマンの思惑が知りたいの?』
「あぁ、何かあれば俺達も一緒に戦う」
「もちろんだ、果たして敵か味方か……」
「ん~……あるいは、どっちでもないかも?」
「どういうことですか?」
シオンが不思議そうに聞き返して来た。
他の面々も興味がある様で、自分の言葉に耳を傾けている様子だ。
「第三勢力の可能性かも?」
「第三? それはそれで面倒だな」
「想像だけど、オークの軍勢を見て戦力を揃えたいとか考えて、ゴブリンの集落を取り込んでるから、ここも勧誘に来ただけ……けど、リムル。下につけと言われて、その話を受ける? リザードマン達の力は知らないけど自分は嫌かな」
「なるほど……確かに俺も嫌だな……面倒事の匂いしかしないぞ」
自分達よりも能力があってこっちの好きなようにして良いなんて、そんな都合の良い話は、何処にもないだろう。下手に下に付いても面倒事が増えるだけだ。
「まぁ使者がどんな奴かで、色々と決めれば良いだろう」
『マトモなヤツなら良いわね』
「やめてくれよ、変なフラグを建てるの」
そんな話をしながらゆっくり入り口の方に向かうと、先行していたリザードマンが入り次に立っていた。
「……あれ? なんだ一人だけか?」
「いや、奥の方から遅れてくるよ? さっき空から見たから」
「来ましたね」
なんか騎獣っぽい二足歩行の小さな恐竜に乗って登場した。
【なんか、演出くさい登場だな】
【実際に演出なんじゃないかな?】
入口前で急ブレーキをかけてくるっと回転しながら飛び降りる。
「ご尊顔をよーく覚えておくが良いぞ。このお方こそ、次代のリザードマンの首領となられる戦士――」
バッと両手を広げて、天に叫ぶように声を張り上げる。
「我が名はガビル。お前らにも吾輩の配下となるチャンスをやろう‼」
周りのリザードマン達がパチパチと拍手をしている。
こっちの雰囲気は「何を言ってるんだコイツ等は」という戸惑いと呆れ顔だ。
なにせ皆が発した一声は「……はぁ?」で一致したからね。
【お調子者?】
『それだけで済めば良いわね。良いウィン、ああいうのはアホって言うのよ』
【配下になるチャンス? このリザードマン……ガビルだったか? 偉そうに一体何様のつもりなんだよ……】
なんかミリミリミリミリ――リムルの方から音がするなと思ったら、シオンがリムルを絞め潰さん勢いで力を込めている。
【ちょ……シオンさん、やめて! スライムボディがスリムボディになっちゃう‼】
シオンの腕から抜け出そうとリムルがくねくねと動き出す。
「シオン……リムルが苦しそうだから、勘弁してあげて」
「はっ! 申し訳ありません」
自分の声で気付いたシオンが慌てて、リムルを解放する。
リムルは紅丸の腕に飛び退いて避難した。
こちらがそうして遊んでいると、なんにも反応を示さない事に業を煮やして、ガビルが勝手に話を進め始めた。
「やれやれ、皆まで言わねばわからんか。貴様らも聞いておるだろう。オークの軍勢がこの森を進行中だという話だ」
ガビルというリザードマンは一々喋る度に、変なポーズを決めている。
動きが五月蠅いし、声もうるさい。
「ウィンの考えが当たったな」
「しかも、面倒な使者ですよ」
『あのアホに付き合わないとダメなの?」
「流石はウィン様ですね。未来でも見通せるんですか⁉」
「シオン、前に蒼影が報告してくれた内容があるでしょう」
三秒ほど沈黙して、右上を見ながらシオンが答える。
「……そうでしたね」
『忘れてたわね』
こっちはあからさまに話を聞いていないアピールをしているのに、ガビルはうっとうしい動き付きで話を続けていく。
「しからば、我輩の配下に加わるがいい。この我輩が! オークの脅威より守ってやろうではないか! 貧弱なゴブリンではとうてい太刀打ちできまい?」
そこまで言い終えてようやくこちらを見ながら、一人一人に視線を巡らせる。
ホブゴブリンの筋肉マッチョなリグルド。鬼人のシオン。鬼人の紅丸。鬼人の白老。スライムのリムル。霊使いの自分。
憑依装着のライナ…………あれ? そういえばライナのヤツ、いつの間に霊使いから憑依装着に進化してたんだろう。
「…………ん?」
そそくさと自分の陣営にガビルが戻って行き、しゃがみながらヒソヒソと話始めた。
「ゴブリンが居ないようだが?」
「あれー?」
「情報によればここは確かにゴブリン村のはず……」
内緒話は丸聞こえなんだけど、良いのだろうか。
『ウィン、何言ってるか聞こえるなら教えて?』
「え⁉ 聞こえるのか⁉」
「え? 聞こえないの?」
『ウィンは風に関する事を無意識に操ってるからね。内緒話も聞こうと思えば聞けちゃうのよ。かなり遠くの音も意識すれば拾えるはずよ』
なるほど、そういう使い方もあるのか。
軽く、リザードマン達が話している内容を伝える。
「リムル、オークの話が本当なら共闘って選択肢もあるよ?」
『……アレと手を組むの?』
「ベニマルやウィンに背中を預けるなら良いけど……アレに背中を預けるのはちょっと嫌だなぁ。嫌いではないけど、ああいうアホ」
「嬉しいことを言ってくれますね」
「ほっほっほ。我らはリムル様とウィン様に付いて行くと決めてますからな。お二人がお決めになった事に従いますぞ」
確かにリムルの言う通りで、あのリザードマン達に背後は任せたくないね。
「あー、ゴホン。聞けばこの村には牙狼族を飼い慣らした者がいるそうだな。そいつは幹部に引き立ててやる。連れて来るがよい」
あまりにも上から目線で話すガビルにシオンが再びイラつき始めていて、ベニマルも「こいつ今すぐにでも殴りてぇ」みたいな顔をしている。
ちなみにライナはどこ吹く風でニコニコしている。
リムルはまたシオンに絞められているようだ。
【リムル! ランガを呼んで話を進めよう】
【そうだな! あいつの力量も測りたいしな】
「ランガ!」
「ハッ!」
リムルの陰からランガが飛び出して来た。
「かっ、影の中から⁉」
リザードマン達が思わず身構えてしまっている。
「そいつの話を聞いて差し上げろ」
「御意」
いつもリムルを乗せている大きさから、元の二回り位大きい姿でリザードマン達を威圧しながら迫っていく。
「あれ? あんなにデカかったですかね?」
「あれがランガの本当の大きさなんだよ」
「尻尾を振った時に被害が甚大だったの」
『それでリムルが叱ったら小さくなったって訳よ』
「へぇ……」
「まぁ、威嚇するには……あのサイズの方が都合がいい」
ガビルが見上げないと、ランガの顔を見れない程の大きさだ、威圧感はかなりのものだろう。さっきまでの大きな態度が嘘のようだ。
「主より命をうけた。聞いてやるから話すがいい」
「お、おお。貴殿が牙狼族の族長殿かな?」
【へぇ、他の奴らは畏縮してるけど、あいつは結構根性ありそうだな】
「さすが威風堂々たる佇まい、しかし――「主」がスライムとは些か拍子抜けであるな」
【ああん?】
【見た目はスライムなんだからしょうがない? 魔素も抑えてるし】
【そうだけどよ~】
「どうやら貴殿は騙されておるようだ、良かろう。この我輩が貴殿を操る不埒者を倒してみせようではないか」
「……トカゲ風情が我が主を愚弄するとは」
ランガもイライラが溜まって今すぐにでも噛みつかん勢いで唸っている。
リザードマン達はそれに気付いておらず、ガビルコールで盛り上がっている。
『あのトカゲ、死んだわね』
「ガビルだよ?」
「名前などどうでも良いでしょう。死ぬ奴には無縁のモノです」
「むしろ思いっきり嚙みちぎってやって欲しいですね」
紅丸と紫苑が怖いよ。
誰も止める者が居ないようだ。
【あ、ヤバい。あいつ死んだ】
【は、早く止めないと⁉】
そんな一瞬即発な空気感のなか、間の抜けた声が聞こえてきた。
「あれ? なにやってるっすか?」
「ゴブタ⁉」
「お前(シオンの手料理でのせいで)死にかけてたはずじゃ……っ⁉」
〈告。個体名ゴブタはシオンの料理に抵抗して「毒耐性」を獲得したようです〉
【あ、そう……毒って】
「あの後に、自分にライナとシュナで解毒と治療で頑張った?」
『大変だったのよ』
横目でシオンの方を見ると、顔を逸らしてこっちを見て来ない。
「いいところへ来た。ゴブタよ」
「へ⁉」
ランガに襟首をくわえられて、リザードマン達の前に突き出された。
「え? えっ?? な……⁉ なんすか、この状況⁉」