蒼影が危なく首を刎ねちゃう所だったから、リザードマンの首領さんはそれに気付いていて睨みつけてくるので、牽制するつもりでちょっとヒータや蒼影みたいにしたつもりだったのだけど……どうやら失敗したようです。
蒼影は自分が威圧を放った瞬間にリザードマン達が腰を抜かしたのを見て、こちらをチラリと見ながら「流石ですね」という感動にも近い感情を向けてきている。
ヒータとライナは、そんな蒼影と自分を見ながら「勘違いだから」と言いたげなジト目で自分を呆れた眼で見ていた。
【お前なぁ~、帰ってきたらお説教だな】
【なんでっ⁉】
【誰もそこまでヤレとは言ってない。まぁ、舐められそうにないから良いけどさ】
【ならお説教はなし?】
【ダメだな……というか、早く帰って来いよ】
【どうしたの? 疲れた感じ?】
【……お前のせいで大変なんだよ! なんで可愛い服装をゴブリナ達や朱菜に教えた⁉ 御蔭でさっきまで着せ替え人形状態だぞ⁉】
『あ、それはアタシがウィンから聞き出して教えたヤツね』
【…………リムル、自分の分まで頑張って?】
【あ、おま――】
リムルの犠牲を無駄にしない為にも、しっかりと同盟の話を進めよう。
とりあえず、リムルに報告と首領さんとのやり取りをしている間に、リザードマン達が自分が放った威圧から立ち直ったので、話し合いを再開する。
「……ジュラの大森林に暮らす魔物で森の管理者を騙る愚か者はいない。見たところ、そなたは……、私の知るそれとは内包する妖気が大きく異なる」
首領さんが蒼影の方を見ながら言う。
「南西に暮らすオーガであろう?」
「今は違う。主より「蒼影」の名を賜った折、鬼人となった」
「鬼人⁉ それは、そちらのお方からか――」
「あ~、蒼影に名付けをしたのは自分じゃなくってリムルの方ね。自分が名付けをした子達も鬼人になってるけど?」
「そ、そうですか……」
首領さんは少し考えるように顎に手を当てている。
「……ひとつ、条件を出しても宜しいだろうか」
蒼影が自分を見てくるので、頷いて答える。
「……聞こう」
蒼影が短く答える。
【リムル~、いま大丈夫?】
【ナイスだウィン! てか、お前が繋いだままで居てくれたら逃げられたのによ】
それをすると、帰った時に大変そうだから思念伝達を切ったんだけどね。
【リザードマンの首領さん。同盟の話、受けてもいいってさ】
【ただ、リムル様にも出向いて欲しいとの事ですが……いかがいたしましょうか】
【いいよ、どっちみち湿地帯で決戦予定なんだし。会ってもいない人物を信用しろってのも無理な話だからな】
【では、会談の日取りはいつ頃がよろしいでしょうか?】
【んー、そうだなー】
【準備や移動に時間がかかるととして……6か7日後あたり?】
【そうだな、そんくらいで頼む。そういえば、リザードマンの首領ってどんなヤツだった? ガビルみたいなのは勘弁なんだが……】
【慎重ですが、判断力がある男です。こちらへの対応も丁寧でしたね】
【ふーん。じゃあひとつ伝言を頼むよ】
【承りました】
『もしかして、ガビル一行の事かしら?』
【あ、なんだライナは気付いてたのか?】
『それならこっちからも一つ情報よ。ガビルの一団に仮面をつけた道化師みたいなヤツを見かけたわよ。あんまり良い感じのしない怪しいヤバい感じね』
【ふ~ん、道化師、ね。ゲルミュッドってヤツかな?】
【わからない、でも警戒は強めた方が良いかも?】
【だな、そっちも気を付けろよ】
==リムルとの話を終えて、今後の予定をリザードマンの首領を話し合う。
「――では、我等は準備を整え7日後にこちらに合流する。その時こそ我が主、リムル様にも、目通りしてもらうとしよう。それまでは決して先走って戦を仕掛けることのないように――」
「それまでは絶対に、死なない、相手に食べられない様に遠くから牽制だけ? これ以上、相手に能力を与える事はしない様に心掛けてほしい」
「うむ、承知した」
『最後にひとつ、私達とリムルから伝言よ「背後にも気をつけなさい」。しっかり覚えておくのよ。お調子者にも気を付ける事ね』
「……? そうしよう」
『別で動いてるオークの団体さんはオレ達が相手してやっから、下手に加勢しにくるなよ。巻き添えくらって死なれたらた目覚めがわりぃからよ』
==それだけ伝えて、自分達は鍾乳洞から出て行く
★☆★☆ ★☆★☆
『予定よりも別動隊の動きが早いわね』
『なら、仕方ねぇよな。こっちは先に討っておかねぇとな。リザードマン達が合流前に全滅しちまうからな』
「さてと……蒼影。リムルの方はよろしくね」
高く立派な木の上から、別動隊の動きを見て自分達は様子を見ながら作戦を練る。
「分身体は残しておきますので……ご武運を」
しばらくは蒼影も戦うと言っていたのだが、蒼影にはリムルの方について居てほしいと頼み、こっちは直接の戦闘をする気はないと事前に約束をしていたので、渋々ながらも蒼影は影移動でリムルの所へと向かってくれた。
『時間を掛けて良いなら、先ずは罠で数を減らしていきましょうか』
『能力や耐性を得られない様にしないといけないのが面倒だが、どうするよ大将?』
「先ずは分断で数を限定しつつ、囲った相手は一網打尽で残さず殲滅?」
『まぁ、それが妥当ね。別動隊を先導してるのは黒い鎧のオーク共だけで、あの仮面つけた道化師みたいのは居ないわね』
『傀儡やアンデットは簡単な命令しか聞かないから、問題ないとしてよ。問題は黒い方か? 強さはそこそこ、ただ知性はしっかりありそうだな』
別動隊のオーク達を見ていて気付いた事が一つある。
「ねぇ、後ろから削っていけば、数は減らせそうじゃない?」
『んあ? あ~、もしかして先導してるだけで後ろの警戒は無しか?』
『足止めは数を減らしてからでも、問題はなさそうね』
トレイニーさんに貰ったタネを木に植えてみると、その場所二葉の芽が出て、おおきくなってからトレイニーさんが生えるようにして表れた
「あら、どうかしましたか?」
「ちょっと手伝って欲しい? アレの数を減らすの」
指を指した方向をトレイニーさんが見る。
「数を減らすというのは?」
少し険しい顔をしながらオークの一団を見つめる。
『面倒な先導者が居ない今なら、簡単に数を減らせるでしょう』
『ただ真っすぐ目的地に歩いてるみたいだからな。後ろを歩いてる奴等を分断してから一気に片付けるんだよ』
「進路上に落とし穴少し作るから、それをトレイニーさんに広げてほしいのと、隠してもらいたいの。後は最後尾が来た時に纏めて落とす感じで――」
軽く地面に設計図を掻きながら、トレイニーさんに説明すると頷き「それなら出来ますね」とパンと手を叩いて、さっそく作業に取り掛かる。
落とし穴や大落とし穴、なんかのトラップと使って穴を作り、そこからトレイニーさんに手伝ってもらいながら穴を広げ、隠す様に蔦と草や土を盛って隠す。
後はトレイニーさんに合図をすれば、蔦を外して落とし穴を作動させる。
ガン――っ!! 少し大きめな音が鳴りながら土砂崩れのようにアンデットや傀儡みたいな人形が落ちていくが、豚頭族が歩みを止めることはない。
「これは……どういう?」
その様子を見ていたトレイニーさんが少しだけ驚いた様子でオーク達を見ている。
「恐怖心がないから、かな? あと、気付いてるのは後ろの面々だけで、他は全くと言って良いほど気にしてないんだよ」
落ちた奴らはヒータが速攻で攻撃をぶつけて、アンデット系はライナが浄化させることで殲滅していく。
とくに操られているのかは分からないが、意識や知性はあるのに心を何処かに置き忘れた感じの黒い鎧のオークが、そういう傾向にある。
それでも逃げ出したり、取り乱さずに淡々と進軍していく姿は異様としか言えない。
『でもよ、これならしっかり恐怖心があった方が厄介だったろうな』
『そうね……何度も同じ罠に掛かったりすることはなかったでしょうね』
「可哀想だとは思うけど、手は抜けないからね。そんなことをしたらリムルやリザードマン達が大変な事になっちゃう」
何度も同じような落とし穴があるのに、後ろの方から段々と数が減っている。
多少、息のある奴等は全部「コレクト」でカード化し、倒した者達も同様に魔素をカード化してカード作成に使う材料とさせてもらう。
「恐怖心がない事は恐ろしい事ですが……同時に弱点でもあるという事ですか」
「本来なら、一度あった事は警戒する? 恐怖心がないから、警戒せずに進む……それは、こういう嵌め手には好都合だからね」
呟く様に言うトレイニーさんに、どう返して良いか分からず苦笑いをしながら言うと、少しこちらを見て、優しく微笑みを返してくれる。
「……ふふ、大丈夫ですよ。貴方様を怖がることはありません。優しい心の持ち主だと、知っていますから」
『そうそう、優し過ぎて困っちまうくらいだ。力はあるのになぁ』
『あら、そういう所が可愛いんじゃない』
「も、もう……そういうのはカッコイイで良いと思う」
こういう美女や美少女達からの好意は慣れていないので、照れ臭さを隠そうと言葉を探しながら抗議するが、皆は何故か微笑ましい笑みを向けてくるだけだった。
==1日、2日、3日と続けて、流石にそろそろ足止めを考えないとリザードマン達の支配領域に入りそうだ。もう、オークロード率いる本隊の先行部隊は到着しているかもしれないが、こっちの別動隊が入ってしまえば挟み撃ちになってしまう。
やっぱり、こういうのは慣れないし慣れたくもない。
さっさと片付けて、皆と遊んでいる方が遥かに有意義だ。
「早く片付けて、リムル達に合流したいし。そろそろ気にせずに殲滅していこう」
『ようやくか、コソコソと手を打つのも飽きてきたしな』
『湿地帯の入り組んだ道なら、上からの奇襲も出来るわね』
「狭い道に誘い込んだら{激流葬}で数を減す?」
『アタシはミラーフォースを使ってみたいわね』
湿地帯に入って、水場が多くなってきた。
「それじゃあ、水の威力でも上げようかな?」
カードホルスターから水霊使いのカードを取り出す。
『つうことは、次に増えんのはエリアかよ』
『はいはい、新しい仲間が増えるんだから喜びなさいよ……ライバルも増えるけど』
『お前も喜べよ……』
「ヒータと協力すれば、水蒸気爆発で一気に敵も吹き飛ばせるよ」
『……ウィンとの協力技か……そりゃあテンション上がるな』
『いいなぁ~』
ライナがヒータの事を恨めしそうに見て、何が悔しいのか分からないがちょっかいを出し始めて、ヒータが揶揄いながら逃げている。
「ほら、遊んでないで行くよ? 景気づけに派手なの一発」
もう四枚、カードホルスターから魔法カードを取り出す。
雷の絵が描かれた{サンダー・ボルト}と{ライトニング・ストーム}。それにトラップカードの{連鎖除外}二枚だ。
トラップは試しで、残りのアンデットと傀儡に使ってみる。
鎖が胸に打ち込まれ、次々にアンデットと傀儡たちを撃ち抜いていく。
「あ、結構な魔素が溜まった?」
除外される効果がどういう感じで働いているのかは、分からないが……連鎖除外の中に吸い込まれるようにして消えていった。
「な、何者だ⁉」
黒い鎧のオークが驚きながら自分達の方を見てくる。
『今更かよ』
『呆れて言う言葉が見つからないですね』
「あ、トレイニーさん。ありがとうね、ここまで手伝ってくれて」
「いえ……皆様のご武運を信じて、お待ちしております」