リザードマン達の安全を確保しながら進むと、想像していたよりも早く玉座がある広間についてしまった。そこでは蒼影がオーク達をなぎ倒していて、一体の黒い鎧のオークを粘糸鋼糸で拘束している。
「そっちは終わった?」
「はい、今終わります」
そう言って蒼影は拘束している黒い鎧のオークまでゆっくりと歩いて行き、無理やり起き上がらせる様に頭を持ちあげながら睨みつける。
「次は貴様の番だ。オーガの里を滅ぼし、鬼人を敵に回したこと――」
「まっ……⁉」
「せいぜい後悔するがいい」
持ち上げていない左手で、鋼糸を親指で強く弾く。
絡めとられていた黒い鎧のオークが鋼糸によって全身を切り刻まれていく。
『これなら外に出て、もうひと暴れするか?』
『アタシとエリアでケガ人の手当はしておくわね』
『みんなボロボロだもんね~』
リザードマンの首領さんが頑張って守っていた子達をエリアとライナが治癒しに周り、自分と蒼影は他に残党が居ないか調べて回る。
「ソウエイ殿、ウィン様……来てくださってありがとうございます」
「いいよ、同盟した仲間でしょう」
首領さんとその娘さんは膝をついて頭を下げながら、何度もお礼を言う。
周りに居た者達も首領に続いて、自分達と蒼影に何度も頭を下げお礼を言ってくれる。
「じゃあライナとエリアはリザードマン達をよろしくね。ヒータと自分は外の方に出てリムルの所に行ってるから」
「お供します」
『おっしゃ! もうひと暴れだぜ』
蒼影もヒータは不完全燃焼という感じなのか、まだまだやる気みたいだ。
==リムルの加勢に行こうと鍾乳洞から外へと出てみると……なんか、外が凄い事になっていた。敵ではなく、味方の攻撃でだ。
「なに、これ?」
『おぉ~、結構良い感じに使えてんな。しっかり威力も制御も出来てやがる!』
ヒータが嬉しそうに黒い炎のドームを見てはしゃいでいる。
蒼影も「フッ」愉快そうに黒い炎のドームを見つめて笑っている。
「あ~、二人とも好きに暴れて良いよ? 自分はリムルの所に行ってるから」
「ありがとうございます。それでは――」
『じゃあソウエイ、どっちが多く狩れるか勝負だな』
「えぇ、受けて立ちます」
二人は競う様に戦場の方へと走り出していった。
杖を召喚して、柄に座り音をたてることなくリムルが居る方へと飛ぶ。
「あ~、今度は竜巻? え、誰がやってるのこれは?」
どす黒い雲に、いろんな場所で地面から雲に伸びる竜巻と、稲妻が各地に落ちている。仲間達は一応は無事なようだ。
「なにコレ……」
〈解。個体名ランガの広範囲攻撃技「黒雷嵐」です〉
「あ、そう……」
「リムルも知らなかったの?」
「お、ウィンか……、こんな技は知らん」
オーク達が竜巻に巻き込まれて切り刻まれたり、雷が落ちたりしているようだ。アレに巻き込まれて生きている者は居ないだろう。
砂ぼこりが巻き上がっていて、下の様子は良く分からない。
「すごいね……」
「それで済むレベルか? コレは……」
「というかリムルはいつから空を飛べるようになったの?」
「「大賢者」さまさまって感じだな」
リムルの背に生えているコウモリの翼は「部分擬態」による吸血蝙蝠(羽)とで、あとは「大賢者」さんが空を飛べるようにしてくれているらしい。
「俺も空を自由に飛びたかったしな。カッコイイだろう」
リムルが自慢するように羽を見せびらかしながら、軽く飛び回る。
そうしている間に砂ぼこりが晴れていき、ランガやゴブリン達の様子が見えてくる。
巻き込まれてはいないようだけれども、かなり激しい風の中に居て殆どの者達が這いつくばっていたり、テンペストウルフにしがみついていたりと様々だった。
「ランガの様子が変わってる?」
「へぇ~、ランガのヤツ、テンペストスターウルフに進化したみたいだぞ」
「ドワーフ王国でリムルが冒険者達を脅した姿の黒嵐星狼だっけ?」
「そうそれ、前に姿をもう一度見せてほしいって頼まれた事があってさ、あの時の姿を目指して頑張れって言った事は言ったけど……まさか、ここで進化するとはね」
今までランガの角は一本だったのに、二つの角に額の星型が頭全体に広がって耳まで届いている。角にはバチバチと電気を纏わせている。
敵も味方も、ランガの姿を見て驚き、固まっている者達が多くいる。
その様子を遠くから見ていた紅丸がゴブタに思念伝達を飛ばして、何かを言っている様だった。多分、オーク達が怯んでいる今の好機を逃すなって事だろう。
近くにいたガビルにゴブタが指示を出しながら、オーク達に向かって行く。
紅丸達の方も問題なくオーク達を殲滅している……たったの三人なのに。
まぁ、ヒータと蒼影という二人組の方も派手に暴れている様子だったけど。
炎の嵐を生み出しながら、紅丸がだした黒い炎のドームに負けない感じの存在感を示して、紅丸とも張り合うように魔法を見せつけている。
「……ウチの仲間達は、優秀だなぁ~」
「優秀過ぎて、リムルの活躍場所はなし?」
「そんなことないって……まぁ、俺はアイツだろうな」
リムルがある一点を見つめながら言う。
そこには一際大きなオークが一体、存在感は凄くある。
「アレが豚頭帝……」
そっちに気を取られていると、紅丸達が居る方向から凄まじい音が聞こえる。
紅丸が出した黒い炎のドームから逃げ惑うオーク達をシオンが一振りで断ち切った……吹き飛ばす様に切り裂いたのかな。
自分達が見ている事に気付いたのか、嬉しそうにシオンが手を振ってくる、
「うわぁ……」
「……リムル、シオンを怒らせないでね?」
「あぁ、アレは怖いな」
空から見ていると良く分かるけど、両端はヒータと蒼影組と紅丸組が制圧していき、中央はランガやゴブタ達が善戦しているのが良く分かる。
数的には相手の方が圧倒的に有利だったはずなのに、今では見る間にオーク軍の数が減っていく。それでも、全滅までは程遠いという驚きはあるけどね。
「あ、リムル。あそこに指揮官」
「おぉサンキュー、流石はウィンだぜ」
風で音を拾いながら敵の指揮官を直ぐに見つけてリムルに報告。それをリムルが「思念伝達」で俯瞰情報から得た場所を紅丸へと繋ぐ。
「やっぱり紅丸達は別格に優秀?」
「あぁ、この戦いが終わった後も仲良くしたいものだね」
そうして戦場を優位に進めていると、何かが近付いてくる音が聞こえた。
「リムル……なにか来る」
「え? うおっ⁉」
ギュンと豚頭帝の前に仮面に眼鏡をかけた男が降り立った。
「これは一体、どういうことだ⁉」
降りて来るなり、小さな男が怒鳴り散らしている。
「このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって‼」
リムルと一緒に鬼人達の傍へと降りる。
【計画だって……】
【いきなり飛んできて何を喚き散らしているんだこいつは? ……っていうか誰?」
【ゲルミュッド……それって確か――】
「あの方は……!」
ガビルが反応している所を見ると、名前は正しい様だ。
つまりリグルの兄に名付けをし、ガビルにも名前を付け……そして紅丸達の里を滅ぼしたヤツの名前でもある。
「このノロマが! 貴様がさっさと魔王に進化しておれば、わざわざ上位魔人である、この俺様が出向く必要などなかったのだ‼」
トレイニーさんが言っていた魔人がこの人なのかな? それにしては小物っぽい気がするんだけど……。確実なのは豚頭帝誕生に関りがあるのは確かだって事だ。
「魔王に進化……とは、どういう事カ……?」
豚頭帝がゲルミュッドに聞き返している。
「豚頭帝は計画を知らないの?」
「理解してないって可能性もあるぞ」
確かにその可能性もある。
豚頭帝の様子から見るに、ギリギリ理性が残っている様にしか見えないし。
「チィ! 本当に愚鈍なヤツよ……」
当のゲルミュッドは豚頭帝の様子に苛立っている様子だ。
「ゲルミュッド様! 吾輩を助けに来てくださったのですか⁉ 申し訳ない、ラプラス殿から警告は聞いていたというのに……」
「……ガビルか、いいところに来た」
ゲルミュッドが杖を高く掲げると、何かを詠唱し始める。
隣に居たリムルが一足飛びにガビルの元へと動いたので、自分はその場に静止して様子を見ることにした。
「――――――え?」
「デスマーチダンス!」
ガビルに無数の魔法玉が襲う。
「あのトカゲを食え、オークロード。使えぬヤツだったが、一応この俺が名を与えた個体の一つだ。貴様を魔王に進化させるだけの力はあるやも知れん」
リムルが助けた事に気付いていない様子だし、本当に大したことない奴なのかも。
ゲルミュッドが放った魔法をリムルが全て捕食してガビルを助けている。
「お前、複数の魔物に名付けしてんのか。それも計画の一端か?」
「なっ……!? き、貴様……」
〈告。個体名リグルの兄にかつて名を与えた者も「魔王軍の幹部ゲルミュッド」という情報です〉
【もしかしてリムル……忘れてた?】
【そういや前にリグルがそんなこと言ってたっけ】
リムルの補佐に回る「大賢者」さんも大変だね。
「ゲルミュッド様……な、何故……っ! 吾輩には、見所があると……いずれは右腕にしたいとおっしゃったではないですか⁉」
悲痛な叫び声を上げるガビルが何とも痛々しい。
そんなガビルの前に紅丸が歩いてやってきた。
「自分の役に立たないヤツは消す。それがそいつのやり方なんだろう」
ガビルの扱いを見ていて腹がたっていたけれど……自分よりも遥かに怒りを抱いている者達が居るのなら、自分が手を出すべきではないと思い止まった。
「ようゲレ……じゃなくて、ゲルミュッドか、オーガの里で全員に突っぱねられた「名付け」は順調なようだな」
「き……鬼人!」
紅丸や白老達が揃ってゲルミュッドを囲う様に立っている。
「我らの里をオーク共に襲わせたのはお前だな?」
シオンの圧が増していく。
「違うのなら早く弁明をしなされ。無限にわき出るオーク共の狩りにも飽いていたところ……。明確な仇がこれと分かれば、殺る気も出るというものぞ」
鬼人達の殺気が一気に増して、ゲルミュッドが怯んでいる。