心にデュエリスト魂を持って転スラ世界に・・・   作:風月八泉

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37話 欲の勝敗に繋がる想い

 

 

 

 

 

 

 リムルと豚頭魔王の勝負を見守っていたはずなのに――。

 

【なんだ……この風景】

【荒れ果てた荒野だね……】

【うぉ⁉ ウィン⁉ なんで此処に居るんだよ】

【さぁ? わからないけど――】

 

 声がする方をリムルに分るように指を指す。

 何も言わず、自分の表情が物語っていたのかリムルも指示した方向を見る。

 

「わぁぁん」

「腹が減ったのか、少し待っていなさい」

 

 先にいたのは、豚頭族の子供達が泣いていた。

 そこに一際大きなオークが自分の腕を引き千切って子供達に差し出す。

 

「さぁ、食べなさい。しっかり食べて、大きくなるのだぞ」

「――――王よ、もうおやめください」

「この大飢饉の中、王であるあなたまで失っては、我ら豚頭族にはもやは絶望しかありません」

 

 跪いて喋っているオークは、豚頭魔王の隣に居た黒いフードを被った者に似ている。

 いや、多分だが同一のオークだろう。

 

「……一昨日生まれた子が、今朝飢えて死んだ。昨日生まれた子はもう虫の息だ」

 

 豚頭魔王の見た目は普通のオーク達と変わらない所を見ると、きっと名を貰う前だと思う。優しくも悲しく辛そうな眼をして、自身で千切った腕はもう再生している。

 

「この身はいかに切り刻もうと、再生するというのに……、これがすでに絶望でなくて、何だというのだ」

「王よ! どちらに⁉」

「森に入り、食料を探す」

「しかし、あの地は暴風竜の加護を受けし場所……」

「その暴風竜は封印されて久しい。少しばかりの恵みを――――」

 

 

【これって……】

【あぁ、豚頭魔王ゲルドの記憶……だろうな】

 

 

 いつの間にかシーンが移り変わって荒野をふらつきながら歩くオークの姿に変わる。

 すぐに地面に倒れて、その前にゲルミュッドが現れた。

 

「……飢えたオークの若者か」

 

【森に……届かなかったんだね】

【あぁ、ここで倒れてゲルミュッドに出会ったんだ】

 

「なかなかに強い力を秘めている。うまくすれば豚頭帝……いや豚頭魔王すら視野に入れていい」

 

 ゲルミュッドがそう言いながらオークと取引を持ち掛けている。

 

【あのお方はオレに食事と名を与え、そして豚頭帝の持つ「飢餓者」について教えてくれた。オークロードとなったオレが食えば「飢餓者」の支配下にある者は死なない。飢える仲間を救えるのだと――――】

 

 リムルと一緒にビクッと驚いたが、すぐにゲルドの意思だと解る。

 自分は目を閉じて、何も言わずにゲルドの言葉を待ち、リムルはゲルドの背中をチラッと見ながら、前を向く。

 

【邪悪な企みの駒にされていたようだが……それに賭けるしかなかった】

 

 側近に居たオークを連れず、一人で森に行ったのは……きっと恵みを強奪しても自分一人に責任が向く様に、そう考えての事なのかもしれない。

 

 ――けれど、彼は辿り着かなかった。

 

 分けてもらえたとしても、強奪したとしても……豚頭族を救う事は、出来ない。

 それは進軍してきたオーク軍の数が物語っている。

 

 そこに現れたのがゲルミュッド。一人が食えば全員が食わずに済む……非戦闘員を含めれば30万

 

【だからオレは喰わなければならない。お前が何でも喰うスライムだとしても、オレは喰われるわけにはいかない】

 

【腐食の過程がない分、喰い合いは俺に分がある……お前は負けるよ】

【自分の力も加わってるからね】

【同胞が飢えているのだ、オレは負けられぬ】

 

 ――ゲルドは凄いね。

 

【オレは他の魔物を喰い荒らした。ゲルミュッド様を喰った。……同胞すら喰った】

 

 彼は全部の罪も喰らって、ただ一人だけで背負ってきたんだね。

 

【オレが死んだら同胞が罪を背負う。もはや、退けぬのだ】

 

 自分にはちょっと無理かな……。

 そこまでの覚悟を持てるだけの自信も強さも無い。

 

 ――でも。

 

【皆が飢えることのないように。オレがこの世の全ての飢えを引き受けてみせよう‼】

【それでも、お前の負けだ】

【だね――悪いけど、負けられないんだ】

 

 リムルと視線を合わせてお互いに微笑み、小さく頷きあってゲルドの方を見る。

 

【お前が「飢餓者」なら俺は「捕食者」だ。お前の罪もお前の同胞の罪も俺が喰ってやるよ】

 

 今まで抗っていたゲルドの動きが、少し止まる。

 

【罪を喰う……だと? オレの同胞も含めて?】

【そうだよ、俺は欲張りだからな】

 

 荒野の精神世界で自分とリムルはゲルドに背を向けたまま、先を見据える様に顔を上げて前を向いて、遠くを見る様に空を見上げる。

 

【だから、安心して眠れ】

【……オレは、負けるわけには――】

【ねぇ、オーク……ゲルド。一人で食べるだけじゃ楽しくないよ?】

【なに、を――っ⁉】

 

 杖を取り出して、地面に軽く柄を付ける。

 そこから心地良い森の風が吹き抜け始め、リムルと自分の足元から草原になり、森の景色が広がってく。

 

【貴方が一人で食べてもさ、誰も笑顔にならなかったんじゃない? きっと辛そうに見てたんじゃないかな……】

【ウィン?】

 

 どうしようもなかった事は解っている。

 選択肢がなかった事も、先が見えなくて必死にもがいていた事も知った。

 でも、どうしても……彼の傍に居続けた。側近であるオークの顔を思い出す。

 

【一人で全部やろうとするから、満たされない】

【なにが、貴様に――なにがっ!】

【自分は貴方みたいに力はないけどね……強さは知ってるよ? 一人じゃなかったはずだし、傍には話が出来る程の信頼を寄せてくれていた者も居たでしょう】

 

 ゲルドの傍に居た側近は……きっと付いて行きたかったはずだ。

 もしかしたら、二人だったら森に辿り着けたかもしれない。

 たらればの話をしても無意味だけれど、ゲルドの記憶にある側近のオークは何度も、何度も呼びかけていたし、共に付いて行こうとしていた。

 

【自分はね、リムルみたいに罪を喰うなんて欲張りじゃあないけどさ。誰よりも楽しく、皆と共にありたいって気持ちは負けないの。一人じゃあ飢えるだけかもしれないけどね、二人になれば、お話しながら笑って食べられるし、遊ぶ事だって出来る】

【そうだな、お前は遊ぶことには全力だなぁ~。つうかお前の方が強欲じゃないか?】

 

 遊びの欲に終わりなんてないからね。

 

【罪だろうが何だろうが、一緒に背負う事も出来るんだから。別に貴方の罪を否定しないけどね……一つだけ……一人で全部やろうとしたから、負けるんだよ】

 

 ――側近のオークは……貴方と共に笑いたかったはずだ。

 共に無駄話をしたり、遊んだり、一緒に苦しみも辛さも背負って、貴方と共に歩みたかったはずだ……最後は一緒に笑い合えるように……。

 

【…………なるほど】

 

 今まで気丈に立っていたゲルドが、空を見上げて森の木漏れ日を眺めながら、膝をついてゆっくりと地面に倒れていく。

 

【……眠いな。ここは……暖かい】

 

 ゲルドが倒れた眼の先には、小さな生まれたばかりの花が咲いていた。

 

【良いでしょう、お昼寝には気持ちいい場所なんだ】

【ウィン、昼寝って……まぁ、確かに、確かに良い場所だな】

【強欲な者よ。オレの罪を喰らう者よ】

 

 倒れたゲルドを癒す様に花が咲きほこり、優しい風が包み込んでいく。

 

【感謝する……オレの飢えは、いま……満たされた】

 

 

 

    ★☆★☆    ★☆★☆

 

 

 

「ウィン様、大丈夫ですか⁉」

「うん、大丈夫だよ」

『もしかして、リムルとリンクしてた?』

「たぶん、そうかな?」

 

 紅丸が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「なにか体が光っておりましたが、いったい?」

「リムルと一緒に、ちょっとね」

「リムル様と一緒に?」

『へぇ、ウィンは色々な能力を持ってんな』

『そういう問題? まぁいきなりぼうっとしてたから心配したんだよ』

 

 白老が不思議そうに聞き、苦笑いしながら答えると蒼影が良く分からないという感じで小首を傾げている。

 

「リムル様……」

「心配しなくても大丈夫だよ紫苑。リムルの勝ちだ」

『豚頭魔王とも繋がってたのかしら?』

「そうだね、彼の……ゲルドの記憶と思いを知れたよ」

『そうか……タフだったなぁアイツ。さすがは魔王ってつくだけはあるぜ』

 

 その言葉を聞いて、紫苑は目を見開きながらリムルの方へと顔を戻した。

 ゲルドを捕食したリムルが、スライムの体から人型へと戻る。

 

「俺達の勝ちだ、安らかに眠るがいい」

 

 そう言ってリムルが振り返ると、紅丸達やゴブリン達が喜びの声を上げる。

 ガビルとリザードマン達も同様に歓喜の声を上げて喜んでいる。

 

 オーク達は頭を抱えながら項垂れる者や、膝をついて泣き崩れている。

 ゲルドの側近だった黒のフードを被ったオークは静かに立って泣いていた。

 

「……王よ、やっと……、やっと解放されたのですね……」

 

 風が運ぶ音は時に便利だけれど、こういう時には少し悲しい音も拾ってきてしまう。

 

「心配しました!」

 

 紫苑がリムルをギュッと抱きしめて抱擁しているのを、ゴブタ達ゴブリンが少し羨ましそうに見ている。

 

【ねぇリムル。戦後の後処理ってさ――】

【あぁ、その面倒事を思い出させないでくれ……そうだ、こういうのは――】

 

 そう、どの世界だろうと、いつの世も戦後の後処理ってのは大変なものだ。

 

「さすがはリムル様、ウィン様です。見事約束を果たして下さいましたね」

 

 トレイニーさんが見計らったようなタイミングで登場する。

 樹妖精を始めてみたゴブリン達が騒ぎ始めた。

 

「おい、あれドライアド様じゃないか⁉」

「えっ⁉」

「うわぁ本物⁉」

 

 ゴブリン達の様子を背中に聞きながら、コホンと咳払いして喋り出す。

 

「森の管理者の権限において、事態の収束に向けた話し合いを行います。日時は明日早朝、場所はここより少し南西、森よりの広場。参加を希望する種族は一族の意見をまとめ、代表を選んでおくように。以上です」

 

 声高らかに、透き通った声音が響き湿地帯にいる魔族全員に聞こえていただろう。

 

「代表だって、どうする⁉」

「え、オレ無理」

 

 ゴブリン達が焦った様に話し合いを始めた。

 

【さすがは社長(仮)。こういう時は頼りになるな】

【これなら自分達が何かしなくても大丈夫?】

 

 下手すると、勝利側のトップってことで面倒事を押し付けられそうで心配していたけれど、トレイニーさんが来たなら心配いらないだろう。

 

 そう思って、リムルと一緒に一息入れようとした瞬間だった。

 

「それから、異論はないと思いますが……議長はリムル=テンペストと――」

 

「えっ⁉」

「頑張ってねリムル、自分は――」

「逃げんな、お前もだ!」

 

 嫌な予感がしたので逃げようとしたのだが、リムルがすぐに引っ付いてきた。

 

 

 

「異界の脅威を退けた同格、ウィン=テンペストの両名とします!」

 

 

「なんでっ!?」

「ははっ! 逃げようったってそうはいかんのだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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