自分達が戦いに出てからも町の発展は進んでいて、しっかりと地面を固めた道に家を建てる為の敷地を決め、いろんな場所で建物を建てる基礎が出来上がっている。
「元気そうだなリグルド」
見回りと相談などで歩いていたリグルドを見つけてリムルが声をかけた。
「リムル様――――――っ⁉」
「り、リグルド? 落ち着いて」
「ウィン様――――ッ⁉」
リグルドのテンションが若干変だが、とりあえず今は報告が先だ。
無事に戻って来てくれた事が嬉しいのだろう。
「いつ戻られたのです⁉」
「たった今、ウィンに乗せてもらってな」
「他のモノ達は?」
「無事、ちょっとまだ用事があるから待機中?」
「待機ですか……」
リグルドの表情が少しだけ曇る。
「オークロードを討伐したから――」
「なんと! では、すぐに宴の準備を‼」
「落ち着けって、宴は1か月後でいい」
「皆が心配してると思って報告に来ただけ。すぐに戻らないといけない」
「なんと‼」
リムルと一緒に溜息交じりに言う。
「シュナやクロベエ。カイジン達にも伝えておいてくれ」
「ははっ‼」
心配そうにリグルドが返事をしていると、空からアウスが下りてきた。
『それでも、少し休んでいけば良いと思うんだけど?』
「アウス……そうも言ってられない感じなの……これから忙しくなるから、覚悟をしておいた方が良いよ?」
『え? なにその嫌な響き⁉』
「俺達だって休みたいんだけどな。苦手な仕事が待っているんだよ」
スライムボディのリムルが嫌そうに眼を細めている。
……スライムだから分かりずらいけど。
そんなリムルにジト目で見つめながら言ってやる。
「自分は巻き込まれた感じ?」
「おい、一人で逃げるのはダメだからな! トレイニーさんがお前も名指しで言ったろう! お前も一緒にやるんだよ!この強欲娘!」
「大喰らいに言われたくない、それに強欲娘じゃないもんね」
「は、どさくさに紛れて此処に残ろうとしても無駄だからな。魂胆が見え透いてるんだよ。絶対に逃がさんっ!!」
シュッと何時の間にか粘糸鋼糸で引っ付かれた。
「うにゃ!」
「さぁ、報告は終わりだ。行くぞ!」
「や~だ~。めんどうくさい~」
「とりあえず、皆には戦いは終わったと報告をよろしく頼んだぞ、二人とも」
『ん、おっけ~い』
「はっ、しっかりと皆に伝えておきます」
しっかりと絡めとられて、リムルが無理やりに影移動で連れ出されてしまった。
「しかし……やることとはいったい?」
『多分、戦後の事後処理だよ……戦い終えたリザードマン、オーク、鬼人、ゴブリン。それにウィンとリムル……二人はきっと立会人の頭をやらされるんじゃない?』
「なるほど! さすがはリムル様にウィン様ですね」
『そうだね』
★☆★☆ ★☆★☆
森の中で軽く向かい合う様に椅子が設置されていて、とりあえず話し合いに参加する代表者だけが集まる場所として、垂れ幕を張って場を区切っている。
出席者は自分とリムルに鬼人達。
リザードマンからは首領と親衛隊長と、その副長。ちなみにガビルだが、彼は反逆罪で連行されていったので此処には居ない。
次にトレイニーさんだが、彼女はリムルや自分達の近くで静かに座っている。
進行をしてくれるん……だよね? なんで物静かに微笑んでリムルと自分を見ているだけなのかな、もしかして全部を自分達に任せるつもりじゃあないよね。
ガビルに連れてこられたゴブリン達からも代表者を選抜して出席している。
そして……豚頭族。代表者が10名。「飢餓者」の影響がなくなって理性的な様子だけれど、麻痺していた罪の意識が出てきたらしく死にそうな表情だ。
オーク達は誰一人として視線を合わせる事なく、下を向いたままだ。
【まったく、なにが「議長はリムル=テンペストとします」だ。戦後処理なんて、どうやって進めていいか、わかんねーよ】
【まったくだよね。見て、良い笑顔で笑ってくれてるよ】
【くそぅ……美人め……】
【なにを見惚れてるの? おバカなのかな?】
【み、見惚れてねぇよ‼】
【ふ~ん……はぁ、現実逃避しても進まないよね】
【だな……まぁ、こうなってしまった以上、仕方ない。俺なりの考えを伝えよう】
【ファイト?】
【お前も頑張れよ!】
自分の膝に乗り、抱っこされながら座るリムル。
初めは紫苑に頼んだのに「私は秘書ですから。お隣に座っておりますので」と良く分からない事を言われた。
ちなみに、ライナも左隣に座っている。きっとライナが何かしら変な事を吹き込んだに違いない。なぜなら彼女は揶揄う様にニヤニヤとオモチャで遊ぶような笑みをしていたからだ……ただ、今はすまし顔で隣に座っている。
「え――……、こういう会議は初めてで苦手なんだ。だから思ったことだけを言う。そのあと皆で検討して欲しい」
リムルが話し始めて、皆が此方に視線を向けてくる。
「まず最初に明言するが、俺はオークに罪を問う考えはない」
その言葉に、オーク達が視線を上げて驚いた表情で初めてこっちを見た。
ずっと視線が合わなかった彼らオーク達の眼を見て、改めて自分も言葉を発する。
「リムル同様に、自分も罪を問うと考えてない?」
「被害の大きいリザードマンからしたら不服だろうが、聞いてくれ」
「彼らオークが武力蜂起に至った原因と現在の状況を、お話します」
==ゲルドの記憶から見た、オーク達の状況を出来るだけ分かり易く丁寧にリムルと一緒に言葉を選びながらリザードマン達に説明していく。
紅丸や蒼影は「何時の間にお調べに」と呟いていた事を思い出す。
彼らには事前にある程度の事は話している。
「――なるほど、大飢饉……それにゲルミュッドなる魔人の存在ですか……」
「そうだ」
「ちなみに、ガビルを唆したのもゲルミュッドの策かも? 名前を与えたのもゲルミュッドだからね。魔王を誕生させるための贄として、ね」
そう言うとリザードマンの首領が驚いた顔をしていた。
「だからと言って侵略行為が許されないのは当然だが、逼迫した状況から分かる通り、彼らに賠償できるだけの蓄えはない」
「そういうのは建前?」
「まぁ建前だけどな」
「建前?」
自分とリムルのやり取りにリザードマン首領が聞き返す。
「では、本音の方を伺ってもよろしいかな?」
自分は目をつぶって、リムルはリザードマン達を真っすぐに見る。
「オークの罪は全て俺が引き受けた。文句があるなら俺に――」
「自分達に言え?」
「あぁ、俺達に言え」
ゆっくり瞼を開き、リザードマン達を自分も見据える。
「お、お待ち頂きたい! いくらなんでも、それでは道理が……」
黒いフードのオークが慌てて立ち上がって言う。
彼は……ゲルドの側近としてずっと傍に居続けようと頑張っていた者だ。
「それが魔王ゲルドとの約束だ」
リムルがそう言うと、彼は何も言えずに驚いたまま固まった。
「なるほど……しかし、それは少々ずるいお答えですな」
リザードマン首領が少しばかりの不満をぶつけてくる。
まぁそう簡単に受け入れられはしないだろう。
けれど此処で引き下がるわけにはいかない。
「魔物に共通する唯一不変の
何かを言い返す前に、紅丸が自分達とリザードマンの間に入って話し始めた。
「弱肉強食。立ち向かった時点で覚悟はできていたはずだ」
「そなたは、ソウエイ殿と同じく鬼人か!」
少し驚き思わずといった感じでリザードマン首領が立ち上がり、少し落ち着きを取り戻した様子で、大きく息を吐いてから座り直す。
「弱肉強食……確かにその通り。駄々を捏ねてはリザードマンの沽券が下がりましょう」
「いいのか?」
「もとより、この戦の勝者はリムル様とウィン様です。お二方がいなければリザードマンは今頃……ですからお二人の決定に異論などありません」
【意外……】
【あぁ、人間が相手じゃあこうはいかなかったな】
「しかし、それはそれとして……どうしても確認せねばならぬ事がございます」
風向きは良い方向だが、リザードマン首領が話を続ける。
「オークの罪を問わぬということは、生き残った彼ら全てをこの森にて受け入れるおつもりですか?」
「確かにな、戦で数が減ったとはいえ15万は下らないだろう」
この質問は当然だ。
戦いに出てきていたのは戦士達だけで、一緒に飢饉から逃れる為に全部族総出で出てきた数も合わさっているのを、ゲルドの記憶から垣間見たから知っている。
先行部隊と別動隊には混じっていなかったけれど、戦地から離れて待機していた集団の塊が、まさにソレだ。
「……夢物語のように聞こえるかもしれないが……森に住む各種族間で大同盟を結べたらどうだろうかと、思っている」
リムルが提案した考えに一同が驚き、何も言えずに息を呑んだ。
「大同盟……」
誰が呟いた一言かは分からないが、その一言は噛み締めるように聞こえた。
「その見返りに我らは食糧や住む場所を提供するということですか?」
一番最初に復活したのはリザードマン首領だった。
「そうだ」
「住む家なんかの技術支援は自分達の町の職人に頼む?」
「もちろんタダじゃないぞ、ウチも人手不足だからオークの労働はあてにしてる」
「お、お待ちください! その大同盟に――」
いち早く何かに思い至った黒いフードのオークが震えた声でか細く喋る。
「働いた見返りに食糧だからね、それに技術を身に付けてもらわないとダメ」
黒いフードのオークは顔を隠す様にフードを深く被って顔から雫を落としながら、自分達の前に跪く様に頭を下げた。
「オーク達が技術を身につけてくれたら、そのうち自分たちの町を作ればいい。各地に散った者達とも一緒に住めるようになるだろう」
「最終的に他種族共生国家? とか出来たら面白いよね」
「あぁ楽しそうだな~……って、お前は変なもんを広めるなよウィン⁉」
遊び道具はいくらあっても良いモノだと思うんだけどな。
リムルの言葉に返事を返さずに視線を逸らしていく。
自分達のノリに驚いているのか、提案した内容に驚いているのか分からないがリザードマン達が目を見開きながら話を聞いている。
「わ、我々がその同盟に参加してもよろしいのでしょうか……」
「むしろ、してくれないと困る?」
「そうだぞ。ちゃんと働けよ? サボる事は許さんからな?」
「もちろん……もちろんですとも‼」
オーク達が泣きながら膝を付いて頭を下げる。
「……我らも異論はありません。ぜひ協力させて頂きたい」
リザードマン首領が胸に手を当てながら、膝を付いて頭を下げた。
【え? なにこれ? 皆どうして同じ感じで頭を下げてきてるの!】
【いや俺も知らねぇって。そういう仕来りとかあるのか? 未だに魔物の常識ってやつは俺達には難しいな】
【とりあえず、仕来りなら自分もしなきゃダメだよね】
【じゃあ俺も……】
自分もリムルも席を立とうとしたら、シオンとライナが止めてきた。
『なにしようとしてるの?』
ライナはすまし顔をしながら、口角をヒクヒクと笑うのを堪えているのが解る。
「そうです、何をなさろうとしておられるのですか?」
「え? そういう儀式? みたいなのがあるんじゃ?」
「ありません、本当にもうリムル様もウィン様も……」
紫苑が呆れたように笑いながら立ち上がって、自分達の前に立つ。
ライナも同様に前に立って鬼人達が集まり、一斉に膝を付いて頭を下げてきた。
「……じゃあ自分も……」
「させん――」
リムルが粘糸鋼糸で椅子に自分を縫い付け、動けないようにしてきた。
【なんでよ、自分も皆と膝を付いてリムルに頭下げるから!】
【だから、それをさせねぇって言ってんの!】
そんな攻防をしていると、トレイニーさんが立ち上がって自分達の前に来る。
「よろしいでしょう。では森の管理者として。わたくしトレイニーが宣誓します」
【なにしてんのこのお姉ちゃん!】
【リムル‼ 速く止めて! 嫌な予感しかしないって】
「リムル様、並びにウィン様をジュラの大森林の新たなる盟主として認め。その名の下に“ジュラの森大同盟”は成立いたしました!!」
【めいしゅ!?】
【ちょっと糸とってよ! なんか大事になってるっば!】
【待ってくれ、トレイニーさんが盟主じゃないの⁉】
【いやいや、トレイニーも膝をついてるってば! 絶対に面倒事を丸投げする気だよ! そういうのはリムルだけで良いってば⁉】
【お前も同罪じゃい! 俺と盛り上がって他種族共生国家とか言い出すから!】
自分とリムルの考えでは、トレイニーさんは社長みたいなポジションなのに。
このままでは収集がつかなくなる。
「じゃあ、あの……そういうことみたいなので、えっと。よろしく頼む」
「み、皆の働きに期待しています!」
「「「ははッ!!」」」
こうして冷や汗が止まらない自分とリムルを置き去りに、ジュラの森大同盟は成立したのだった。……トップは絶対にリムルに任せよう。
「き、休憩! いったん休憩にするぞ‼」
「うん、ほら……他のモノ達にも話を通す時間も要るだろうしね!」
なんとかこの場の雰囲気から逃げたくて、リムルと一緒に休憩を取る様に促した。