50話 天馬とドワーフ王
「あぁ、久しぶりの平和だ~」
「いつも平和だと思う?」
「いいや! お前とライナが筆頭で基本的に何か起きてただろうが!」
「……気のせい、だと思うな?」
「目を逸らしながら言うなよ!」
子供の時に公園や学校で遊んだ遊びが、町全体を巻き込んで訓練形式でやるようになったのはライナのせいなので、自分は関係ないはずだ。
『発端はウィンだから、アタシになすりつけないように』
「……気のせい?」
「その間はなんだよ……まったく」
畳の部屋でゴロゴロしながら、休みの日は自分とライナの監視役としてリムルが一緒に居る事が多くなっている。
縁側で風を感じながら足をプラプラさせて涼み、ライナは畳でリムルと一緒になってゴロゴロしている。
【リムル様、ウィン様。緊急事態です】
いきなり蒼影からの思念伝達が届いて、体がビクッと驚いてしまった。
リムルも驚いたようで、ビクッとスライムボディを振るわせて止まり、縁側に居る自分の隣へとやってきた。
【何があった? ソウエイ】
【北の空に武装集団を確認しました。その数、およそ五百】
「紫苑! リグルドに避難命令を出すように伝えて!」
「はい!」
やりとりはリムルに任せて、自分はお世話をしてくれている紫苑に指示をだす。
自分の声を聴いて、すぐに紫苑が部屋を出て行った。
【一直線にこちらへ向かってきています】
【空から⁉】
蒼影から聞いた方角へと動き出したリムルを追って、自分とライナも杖を取り出して、低空飛行でリムルの後ろを飛ぶ。
「乗って!」
「サンキュー、ウィン」
軽く地面を蹴って更に加速していく、町から飛び出して被害が出ないように少し離れた位置を探して、空から来る集団を開けた場所で待ち構える。
『それにしても、空から、ねぇ』
「この世界の航空機には初めてお目にかかるな」
「流石に機械じゃあないと思うけど……」
視認出来る範囲まで近付いてきた集団に目を凝らす。
「……ペガサス⁉」
「お馬さんだね、羽の生えた」
『ペガサスって言って上げなさいよ』
「彼らが頭上を通過するだけって可能性はあるか?」
〈解。目標が下降を開始しました。目的地はこの場所で間違いありません〉
「凄い、統制のとれた動き……」
『オーク数十万より、厄介そうね』
空を飛んでいても、陣形を崩すようなことなく綺麗に滑降してきている。
ああいう感じの動きは、まだまだウチのゴブリンやオーク達には難しいのにな。
「一体何しに来たってんだ?」
「さぁ? せっかく町も出来てきたのにね」
「あぁ、なるべく争いは避けたい」
『それが原因じゃない?』
……あぁ、魔物の町っていうのは、確かに問題なのか。
「リムル様‼ ウィン様‼」
紅丸と紫苑、それに朱菜やゴブタにカイジンまで、こっちに向かって走ってくる。
『そもそも、何者なのよ? アイツら……』
「鎧を着てて、良く分からな――ん? どっかで感じたことがあるような風?」
『リムルの旦那、とりあえずは話し合いって事で良いのか?』
「あぁ、攻撃してこないならな」
『主様に危害を加えるというなら、全力で叩き潰しますよ!』
「とりあえず、二人とも落ち着いてね?」
何時でも戦闘準備は出来ているという感じで、ヒータがゆっくりと手の平の上で炎の渦を作って遊んでいる。
『血の気の多い野蛮人はコレだから嫌ですわね』
『そういうニニちゃんも、戦闘準備はしっかりしてるじゃない?』
『コレは、もしもの時に備えての準備です』
エリアに指摘されて、プイッと耳を赤くしながらそっぽを向いた。
『……一番に走っていったくせに?』
『フゥリさん⁉』
続々と戦えるメンバーが揃っていく。
「あれ、もしかして……」
「おいおい、なにしてるんだカイジン。早く避難してくれよ」
『ボクが守ってるから、とりあえずは大丈夫だけどね』
アウスに頼んで連れてきてもらったらしいカイジンは、望遠鏡を覗き込んで飛んできている集団を見ている。
「いや、ちょっと心当たりが……」
「知ってるの?」
自分が驚いて聞くと、カイジンは静かに頷く。
もしかして、ドワーフ王国で感じた風に似てるのかも。
「昔、酒の席で退役した老将に聞いたんだ。ドワーフ王の直轄に極秘部隊がいるってな」
「奴らがそれかもしれないって、言うのか?」
「ああ、なにせ、その部隊は――。。
そうこう話を聞いていると、自分達の目の前にペガサス達が降りてきた。
カイジンが目を見開いて、何かに気付くと、すぐにその場で片膝をついて頭を下げる。
「……お久しぶりでございます。ガゼル王よ」
ゆっくりとした動作で天馬から降りたドワーフの王が此方を見る。
「久しいなカイジン。それにスライムと、風の魔女」
自分とライナはガゼル王とやらの発言を聞いた瞬間に、相手を睨み見る。
口が滑っただけか、それとも牽制のつもりか……こちらの情報は知っていると見て良いかもしれない。
「余――いや、俺を覚えているか?」
忘れるわけないと思うね、ドワルゴン王国で裁判にかけられた時、自分達はベスターの罠にはめられて、有罪寸前だったのだから。
この王様の公明正大な裁決のおかげで、事なきを得た。
「王よ、本日は何かご用があるのでしょうか」
カイジンが間に立つ様に、ガゼル王と話を進める。
「なに、そこのスライムと魔女の本性を見極めてやろうと思ってな。今日は王ではなく一私人としてきた。物々しいのは許せ。こうでもせぬと、出歩けぬのでな」
『あらそう。じゃあ、一々殺気を飛ばさないでくれる?』
『王でないなら、その行為は無礼ではないのかしら?』
ライナとニニが挑発するように言う。
王の後ろに居る騎士達を睨みながら、同じ量の殺気を飛ばしている。
鬼人達も同様に、何かあればすぐにでも飛び出して行きそうだ。
リムルや自分が貶されたと思ったのか、もう皆が爆発寸前だよ。
「あ――、今は裁判中でもないし、こちらから話しかけてもいいんだよな?」
「当然だ」
「私人なんでしょう、これで文句を言ったら……王の格も威厳も地の底じゃない? 先ぶれもなく、勝手に領地に騎士団を連れて来たんだから、むしろ何を言われてもしかたないよねぇ?」
黒い鎧の男が武器に手を掛けた瞬間に、自分は魔素の量を少しだけ解放する。
「下がっておれ」
低く、それでも圧がある声を後ろの部下たちに向かって、ガゼル王が言う。
まぁここで手を出したら、悪者はドワーフ王国の方になるからね……こんな町に対してはあんまり意味はないけどさ。
相手の方が遥かに大きな国なのだから。それでも、悪評は広がるだろうけど。
ニコニコと笑いながらガゼル王を見ると、相手の方も自分の事を見て微笑んで返してくるだけだ。
そんなやり取りをリムルは「えぇ」と冷汗を流しながら見ていた。
「まず、名乗ろうか。俺の名はリムル。スライムなのはその通りだが、見下すのはやめてもらおう。これでも一応。ジュラの森大同盟の盟主なんでな」
リムルが人の姿へと変じると、後ろの騎士団たちが驚きの声をあげた。
「これが本性って訳でもないんだが、こっちの方が話しやすいだろう?」
「ほう……人の姿で剣を使うのか」
「そんなに警戒しないで欲しいんだけどな」
「それを判断するのは俺だ」
そう言いながら、ガゼル王が剣を鞘から抜き始める。
「貴様を見極めるのに言葉など不要、この剣一本で十分だ」
殺気も何もない状態で剣を抜いてリムルの方へと切っ先を向ける。
「この森の盟主などという法螺吹きには、分というものを教えてやらねばなるまいしな」
煽るように言うせいで、後ろのメンバーが更に殺気立ってるんですけどね。
せっかく自分が前に立つ形で威圧したのに、無駄になってきちゃうじゃないか。
リムルも「煽らないで欲しい」いう感じのジト目でガゼル王を見ている。
そんな一触即発な場に、一つの葉っぱが落ちてきた。
「我らが森の盟主に対し、傲岸不遜ですよドワーフ王」
トレイニーさんと、ほかに二人の樹妖精の女性がいる。
「なんだって……? 樹妖精!?」
なんか忍者のエルフっぽい人の後ろに乗ってるおばあちゃんが、声を荒げている。
「よう、トレイニーさん」
「ご無沙汰しております。リムル様、ウィン様」
樹妖精が現れた事で、向こうの騎士達に動揺が広がっている。
「ふはっ、ふははは。森の管理者がいうのであれば真実なのであろう。法螺吹き呼ばわりは謝罪するぞリムルよ」
豪快に笑いながら、謝罪しているガゼル王に自分とライナはちょっと呆れ気味だ。
「だが、貴様の人となりを知るのは別の話、得物を抜けい!」
「まだ無礼を重ねると……」
トレイニーさんが怒り出して、何やら詠唱っぽい感じで光り出した。
「いいよ、トレイニーさん。俺が無害で愛らしいスライムだってことは、剣で証明するしかなさそうだからさ」
「……わかりました。では、立会人はわたくしが行いましょう」
リムルも腰の刀を抜いて、鞘を自分の方へと投げて寄こした。
「お前はそれを持って、そこでジッとしてろよ。コレは俺とガゼル王のデュエルなんだからさ。手出しは無粋だぜ」
『あらら、言われちゃったわね』
「むぅ~、分かった……」
不満だという思いは頬を膨らましながら、リムルを睨んで送ってやる。
リムルの方は、手をヒラヒラと振りながら、気にした様子もない。
リムルとガゼル王が互いに刃を向け合って、構える。
「では、始め!」
トレイニーさんが、掛け声を高らかにあげる。
「リムル様……」
心配そうに見つめる朱菜。
「大丈夫ですシュナ様。リムル様は必ず勝ちますとも‼」
紫苑はそう言っているが、自分には……そう簡単に勝てるような人物だとは思えない。
『カイジン、あの王様の事を知ってるんでしょう?』
「どうみる?」
「あ、あぁ……ガゼル王はその昔に剣鬼と呼ばれる達人に教えを請い、その剣技をもって英雄王と謳われるお方だ……生半可な剣技で勝てる相手じゃないと、思う」
「へぇ~、剣鬼……なんか、どっかで知った感じかも、ね」
気配を消して姿も見えない人物が一人、この場に居るのだが……はたして、気付いているのは自分とライナ以外に居るのかな。
視線をチラッと送ると、肝心の人物は楽しそうにリムルとガゼル王の戦いを見ながら、自分とライナの方に、黙っていてくれというジェスチャーをしてきた。
『この場で一番のくわせものって、あの人じゃない?』
「同意……」
次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで
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