ランガの背に乗りながら、指先でハチミツをすくっては舐め。チラチラと自分とリムルの方に視線を向けてくる。
「なぁなぁ、お前達は魔王になろうとしたりしないのか?」
リムルになら話しかけると思ってたけど、自分にも聞かれるとは思わなかった。
「なにを驚いた顔をしておるのだ?」
「……自分に声を掛けるとは思わなかった?」
「あぁ、さっきの勝負は全てなかったという事にしただろう?」
「……寛大だね」
「ふっふん♪ 魔王だからな。些細な事は気にしないのだ」
ない胸を張って答える魔王ミリムに、自分は何も言えなくなってしまう。
普通はもっと嫌っても良いはずなのに。
「それよりも、だ! さっきの質問に答えて欲しいのだ!」
「……しねーよ」
「自分も興味ない?」
リムルとほぼ同時で答えた。
「え、だって魔王だぞ? 格好いいだろ? 憧れたりとかするだろ?」
「しねーって」
ぴょこぴょこリムルの後ろから顔を出しては、リムルの顔を窺っている。
「お前は⁉」
「え……つまらなそうだからいい?」
「つまらなそうって……じゃあ何を楽しみに生きてるんだ⁉」
「そりゃあ色々だよ。やることが多くて大変なんだぞ……特に、誰かさんが色んな事をやらかして、次々に町中の奴等が楽しみ始めたりするしよ」
半睨みで自分の方を見てきたリムルに、思わず顔を逸らせてしまった。
最近では条件反射的な行動になっている。
「でも……魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?」
何故か魔王ミリムが拗ねたように吐き捨てる。
「退屈なんじゃないか? それ」
「威張るだけなら、別に面白そうに感じないよね?」
「コイツらなんて、自ら子供や住民達と日々遊び惚けてるヤツだぞ。そっちの方が数倍楽しそうだな……仕事が異常に増える事を覗けばな」
『仕事はしっかりこなしてるじゃない……』
『ライナよ。遊んだ後の処理も考えてほしいのだがな……警備隊メンバーや清掃班がどれだけ駆り出されている事か……それさえも遊びの一環になっているのは良いの?』
レイが何かを思い出しながら、深いため息が漏れていく様に言う。
「ゴミ拾い勝負は楽しいよ?」
「宝さがしじゃねぇんだよ! お陰様で偶に変なモノが議事堂に届くんだよ⁉」
リムルがすかさずツッコミを入れてきた。
『まぁお陰様で町は綺麗なんだけどね~、子供達にお菓子やお小遣いを払うのは疲れるのよ。なんでゴミを拾うって事で子供達が争うのか理解に苦しむよねぇ』
『綺麗さを保った地区には褒美とか、子供が帰り路に拾ったゴミを計り場兼ゴミ置き場という設置と、小遣いシステムは画期的だったけどね……ボク達の手間を抜けば、さ』
『ある意味、良い訓練にはなっていますがね』
エリアとアウスのジト目で言葉の端々に鋭いトゲを籠めてチクチクと刺してくる。そしてレイの溜息も自分に刺さるから止めてほしいな。
「おま、お前達⁉ 魔王になるより面白いことしてるんだろ⁉ ズルイぞ! ズルイズルい、もう怒った‼ ワタシも仲間に入れるのだ‼」
目の前に座っているリムルの両肩をガッシリ掴んで、ゆさゆさと勢いよく揺らしている魔王ミリム様は、駄々っ子みたいな子供にしか見えない。
「いまのを聞いてどうして面白いって思えるんだ!」
「面倒だとか言いながら、どこか笑っているではないか」
「揶揄われているだけの可能性?」
「特にお前だ! なにをそんな毎日楽しそうな事をしておるのだ! ズルイぞ!」
いや、ズルイと言われても困るのだが……しっかり危なくないように子供達に言い聞かせながら、遊ぶのは大変なのにね。
「とりあえず、町に来るんでしょう?」
「当然なのだ!」
「わかったわかったから、俺達の町を案内してやるから」
「本当だな⁉ あとくっきー? とやらも寄こすのだぞ! 後でくれるのだろう」
「わわっ⁉ その約束は守るから大丈夫だよ!」
「お前は特に警戒が必要なのだ! くっきーを貰うまでは放さないからな!」
自分達のやりとりを見ていた紅丸が小声で蒼影に「リグルド殿に報告を……」と町の方への連絡を頼んでいた。
『こりゃあ、オレ達も手伝った方がよさそうだなぁ』
『そうですね。ヒータの後ろに乗っても良いですかね?』
『あぁ、一緒に警備に回るか……』
ヒータが少し面倒くさそうに頭を掻きながら、レイを後ろに乗っけて町の方へとスピードを上げて飛んでいった。
「エリアとアウスは朱菜とゴブイチに連絡入れといてもらって良いかな? ライナは町の方に注意喚起ね」
『しょうがないわね……リムル、任せるわよ』
「あぁ、しっかりと見張っておくから安心して行ってきてくれ」
『おっけ~、任せておいてよ』
『ゴブイチにはボクが言っておくよ。料理関係も準備しておいた方が良いでしょう?』
三人とも杖に乗って、町の方へとヒータを追いかけるように飛んでいった。
「えー……じゃあお前のことはミリムと呼ぶ。お前も俺のことはリムルと呼んだらいい。コイツもウィンと呼べば良いしな」
「むっ、いいけど……特別なのだぞ? ワタシをミリムと呼んでいいのは仲間の魔王達だけなのだ」
「それじゃあ……友達? あ、でも嫌ならもっと他人行儀に――」
「今日から友達だと思ったが、やっぱり嫌か?」
「と……ともだち――。特別なのだからな! お前達だから許してやるのだぞ」
「ん、じゃあ今日から友達」
「友達だな」
もうちょっと派手に騒ぐか、拒否されると思ったのだが……なんか思っていた反応と全然違っていて、ミリムは何かを噛み締めるように自分とリムルを見つめ。地面の方を見ながら小声で何度か「ともだち、か」と呟いていた。
リムルは気付いていないのか、ランガから降りてスタスタと前を歩く。
もう町の入り口まできているので、ランガもリムルの影へと入っていく。
「ホラ、着いたぞ」
「ようこそ、魔国連邦へ?」
道の整備として、石畳が採用されていて、歩きやすい様にしっかりと地面を固め、一枚一枚を綺麗にしっかりと並べているオーク達や、外に洗濯物を干しているゴブリナにその子供が手伝っていたりする。
屋台では、串焼きを焼いているゴブリンもいて、ミリムは色々なモノに興味を引かれている様子だった。一つのモノをじっくりと見ながら一々感動している。
「とりあえず、これだけは約束してくれ。まずウロチョロしないこと、それから俺の許可なく暴れないこと」
指を立てながら、どこかの先生みたいに言い聞かせているが、当のミリムはというと……リムル先生の話よりも興味があるモノへと全力で駆け出して行っている。
「うむ! わかったのだ~~」
「っておいい‼」
共同広場にある汲み上げ機である、手押しポンプをオモチャのようにギコギコと動かして水を出しては、目をキラキラさせている。
「これは想像以上に重労働になりそう?」
「お前も見てたんなら止めろよ‼ 兄貴の子供をレジャーランドに連れてった母みたいだぞ、目を少し離しただけなのに‼」
「しっかりリムルが手を握っててあげないと?」
「お前も握ってろよ! 一人で止められるわけがないだろうが!」
「え、ケガしそう」
リムルがダッシュで色々なモノに手を出しているミリムを止めようと追って行く。
「リムル様! ウィン様! 丁度よかった。回復薬についてお話が……」
「おお! 龍人族ではないか、珍しいな!」
あぁ、よりによってガビルに会っちゃったか……下手な事をしないと良いけど。
「我輩はガビルと申す。この町は初めてかチビッ娘よ」
「……チビッ娘? それはまさかワタシの事か?」
「えっ」
「おい、待っ――」
どうやらダメだったようだ。
咄嗟に風の塊をガビルの腹辺りに展開して、ミリムの拳を炸裂する前にクッションのように威力を少しだけ殺しながら、ガビルを吹き飛ばす。
「ギリギリかな?」
「ナイスだウィン!」
かなり遠くまでガビルが石畳を砕きながら吹き飛んでいく。
「ガビル―っ‼」
「アレでも威力は殺しきれなかったね……」
地面に突き刺さってるガビルを口を開けながら見ていた部下たち、一瞬遅れながら慌ててガビルの下へと駆け出して行った。
「いいか、リムルとの約束があるから今回はこれで許してやるのだ。次はないから、気を付けるのだぞ。それにしても、ウィンの風魔法は相変わらず、気持ち悪い程の操作能力なのだ、よくまぁあんな密度の風を作れるな」
それを軽く粉砕して、ガビルをノーガードで吹き飛ばしているんだからミリムの方が圧倒的におかしい存在だと思うのだけどね。
一応「暴れない」という約束を守ってくれているようだ。
「はっ、親父殿が川の向こうで手を振って……」
「アホ、アビルは健在だろうが」
あの衝撃を受けてピンピンしているガビルもおかしいのかもしれない。
「し、しかしあの娘。いや、お嬢様は一体……」
「ああ、あれは魔王ミリムだよ」
「ほほう、あれが……はぃい――っ⁉」
数秒くらい遅れ、驚愕といった様子でリムルの顔を二度見している。
「うん、気持ちは解る? けど落ち着いて?」
「みんなにもミリムの姿を覚えて貰った方がいいな」
「そうだね、ガビルが良い例になってくれたし……ゴブタとガビル以外は下手したら死んじゃうかもしれないからね」
「……なんでだろうな、否定できねぇ気がする」
容易に想像がついた様子で、リムルも納得しながら紅丸達に通達をする。
「なるべく多くの住民に中央広場へ集まるように伝えてくれ」
「はい……しっかりと伝えておきます」
「紫苑はカイジン達の方に連絡をお願い?」
「はい、お任せくださいウィン様」
中央広場に設置されている、大舞台の上にミリムを誘導する為に、右手をリムル、左手を自分が握って案内を開始する。
「アイツ結構頑丈だったな! 今度はもう少し強めでいっとくか?」
「あのな、怒ってもすぐに殴ったりしたら駄目だぞ?」
「でも最初にガツンといかないと、舐められるのだ」
「それでやり返されて嵌められたのに?」
思わずボソッとツッコミを入れてしまい、ミリムがちょっとだけ言葉に詰まった。
「はぁ、とにかく! この町の者には俺達がきちんと言い聞かせるから」
「ん、ミリムが舐められることは、ない?」
心の中でだけ、「多分」と付け足し思う。
「そうか? リムルとウィンがそう言うなら、任せるのだ」
「そうしてくれ」
「あ、コレ食べる? 美味しいよ」
屋台で売っているポテチもどきを手に取って、ゴブリンにお金を払ってミリムに差し出す。
「これはなんなのだ?」
また不思議な食べ物が出てきたと、まじまじとスナック菓子を見ている。
「結構人気なんだぜ、それ」
「ん、美味しいよ?」
ぱりっと一つ手に取って食べる。
前のクッキーの事もあってか、すぐにポテチもどきを手に取って食べると、ミリムは次々にパクついていく。
「気に入ったみたいだな」
「まだまだ、理想の味には遠いけどね」
「お前は、本当に程々にしとけよ」
リムルがヒクヒクと眉を動かして言うが、コレだけは手を抜けないのだ。
次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで
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