戦いが終わってゴブリンの村に戻ってみると、良く解らない状況になっていた。
牙狼族は身を低くして、しっかりと頭を下げて生き残った者達の全員がリムルに忠誠を誓っている様子だった。
これからの方針を決めようって事でとりあえず、戦いの後ということで一旦休憩して集まる事になった。
朝になってから広場に全員が集まると、かなりごちゃついた感じでゴブリンに牙狼族という野性味の溢れる所帯になっている。
【さてと、これからこいつらに指示を出して村を整備していきたいんだが……】
【どうするの? こんな沢山の魔物達なんて面倒を見るの?】
牙狼族を統率していたリーダーをリムルが取り込んだことで得た「思念伝達」というスキルでお互いにゴブリン達に聞かれない様に会話する。
「そうだな、牙狼族とゴブリンで二人一組のペアになってもらうか」
「ペ?」
「ア?」
『二人一組ね、そのペアって案は良いね』
『下手に分裂しないし、お互いに弱点を補えそうね』
【そういや、なんか新しい子が増えてるな? 紹介してくれよ】
「ん、彼女はアウス。地霊使いの子だよ」
『よろしく、まだまだ微力だとは思うけど。君達の助けになれるよう頑張るから』
【おぉ、クール系なマイペース少女だな】
「リムル……」
こいつ今チラッとライナとアウスの胸を見た後に、こっちを見てきた。
『大丈夫よ、すぐにウィンも成長するから』
「誰も、気にしてないもん」
なんでライナに慰められなきゃいけないんだ。別に意識してないっていうのに。
『拗ねないで、ウィンは違うベクトルで可愛いんだから」
「そんなフォローは要らないの」
せめて格好良いって方が嬉しいんだから。
【その割には、嬉しそうな顔になってるな】
「リムル、気のせいだから」
そんな感じでこっちの自己紹介が終わるタイミングで、ゴブリンと牙狼族のペアが決まって来たようだ。
「そう言えば村長、お前の名前は?」
「いえ、魔物は普通、名をもちません」
この世界に来てから仲良くなったのはヴェルドラさんが最初だったからな、あんまり意識していなかったけれど、たしかに名前を持っている魔物って特殊個体か。
「名前がなくとも意思の疎通はできますからな」
「そうなのか……、でも俺達が呼ぶのに不便だな」
村長の話も分からない訳ではないけれど、どうもゴブリン達を個別に呼ぶ時には戸惑ってしまうだろう。
「よし、お前たち全員に名前を付けようと思うが、いいか?」
リムルがそういうやいなや一気に騒がしくなる。
全身で喜びを表現する者や、感動の余り泣き出している者まで様々だ。
【え? なにこの熱い眼差し】
【こっちに聞かないでよ】
『名前を貰うってことは魔物にとっては、とんでもない事なのよ』
『普通はポンとくれるもんじゃないからね』
ライナとアウスがリムルと自分を物珍しい奴等を見る様な視線を送ってくる。
『ただ、今回はリムルだけで付けてね』
何故かライナが釘をさす様に言う。
「え? なんで?」
自分も良く解らないので小首を傾げるしかない。
『アウスの名付けをしてるからよ。少数なら良いけど、やるとしたら雌がメインね』
ライナが腕組みしながら、そこは絶対に譲らないという感じで言う。
「わかったよ、じゃあ雌のゴブリン達はまかせるからな」
『えぇ、良いわよ』
「……名前つけるの自分だよね。なんでライナが返事⁉』
ゴブリンの村長がプルプルと震えながら、心配そうな顔をしている。
「あの、本当に宜しいのですか?」
「お、おう。じゃあまあ一列に並ばせてくれ」
リムルがそう言い、自分もゴブリン達に頷いて答える。
するとやはり歓喜の声を全員が再び上げている。
【そんなに名前が欲しかったんなら自分でつければいいものを……】
【誰かに付けてもらいたかったんじゃな?】
リムルとそんな念話をしていると、アウスとライナが何故か溜息をもらしていた。
「ええと、村長とその息子は、村一番の戦士だったリグルの身内だと言っていたな」
「は、はい」
リムルが少し考えながら、村長とその息子を眺める。
「では、父親の村長は“リグルド”だ」
「おぉ……っ! ありがとうございます‼ リグルド感激です」
村長が名前を付けてもらった時に、何やら体が光った様に見えた。もっている杖を胸に抱きしめて、感動に震えている。
「弟のお前は兄の名を継ぎ“リグル”と名乗れ」
「はい!」
「お前は――、“ゴブタ”」
「“ゴブチ”“ゴブツ”“ゴブテ”“ゴブト”――」
名前を付け始めてから、すぐに適当になっていっている。
【そんな目で見ないで⁉ まぁ、なんだ。ネーミングセンスは期待しないでもらいたい。こんだけいると熟考してるヒマもないしな】
意図せずにリムルの事をジト目で見てしまっていた。
【たしかにそうだけど……】
「お前は“ゴブゾウ”な」
それでも名前をつけてもらったゴブリン達は嬉しそうにしているんだし、余計な事は言わない穂が良いか。
「じゃあ雌のゴブリンはこっちにならんでね……って、もういるのね。君は“ハルナ”ね。それから後ろの子が――――」
こんなに嬉しそうに並ばれちゃあ下手に止めれないし、しっかり考えてあげよう。
「リムル様、ウィン様。名前を付けて頂けるの大変に有難いのですが」
「ん?」
「その~、リムル様もウィン様も魔力が強大なのは存じてますが、そのように一度に名を与えるなど……大丈夫なのですか?」
「え~と、自分は別になんともないかな?」
「ん? まぁ、大丈夫だろう」
ライナとアウスが頭目で何やら準備をしているが、一体何をしてるんだろう。
少し気になるが、別に変な事をしている訳ではないで後で聞けば良いだろう。
粗方のゴブリン達に名前を付け終えて、リムルの所には最後に牙狼族の群れがずらりとならんでいる。ちなみに、自分の方に並んでいた雌のゴブリン達の名付けはすでに終わっているので、とくにやる事がなくなっている。
「え~っと、お前は牙狼族のボスだったヤツの息子か?」
【はっ、そうです】
何か二人で話し込んでから、しばらくリムルがコネコネと悩んでいるようだった。牙狼族のあの子にはちゃんと捻った名前を付ける様だ。
「嵐の牙で“ランガ”お前の名はランガだ‼」
自分達に因んだ感じの名前を付けてあげるのか、まぁ下手にいがみ合うとかじゃあなくって、しっかり自分の仲間としてって感じなのだろう。
名付けが終わった瞬間にリムルからガスが抜けた様に、真丸のボディからべちょっと蕩けた感じに変わっていく。
「リムル様⁉」
「どうしたのリムル⁉」
〈解。体内の魔素残量が一定値を割り込んだため、低位活動状態へと移行しました〉
「えっとどういうこと?」
「ウィン様! リムル様は大丈夫なのですか」
「ごめん、ちょっとまってね」
取り乱す気持ちは理解出来るけど、今は待ってほしい。
〈尚、完全回復の予定時刻は3日後です〉
なるほど、とりあえずは普通に回復するのね。
「3日休めば元通り元気になるから、しばらくは安全に休ませてあげて」
「はっ! わかりました。お前達、すぐにリムル様を家へお連れしてくれ」
『はいは~い、これ使って上げて。その溶けた状態じゃあ運びにくいでしょう』
『頑張ってライナと作って来た』
こうなる事を見越して二人は動いていたのか、知っていたなら初めに行ってほしかったんだけどな……いや、けっこうそれっぽいヒントは言われていたかな。
『ウィンもだよ。少なくとも名付けをしたんだから、魔素がかなり減ってるの』
『しっかり休んでくれないと、僕達だって実体化や活動ができなくなる』
「わ、わかったから。そんなに引っ付かないで」
『だ~め、一歩も歩くの禁止よ』
そう言ってライナは有無を言わさせてくれずに、お姫様抱っこで家の方へと連れていかれてしまう。
アウスも後ろを付いてきながら、何故か悔しそうにライナを見ている。
寝られるように藁を敷き詰められたベッドに寝かされて、しっかりと眠りに落ちるまで子供を寝かしつけるように、トントンと二人に添い寝されて寝かしつけられた。