「――というわけで、お客さんっす」
議事堂の会議室に引っ張り込んで、お客さんという事でポテチの入った器を五つぐらい用意した。辺境調査団の方はヨウムと眼鏡の少年ロンメルが代表して、会議の席に座っている。
【なんの用だって?】
【知らない、そういうのはリムルに任せた?】
【別にウィンがやってくれてもいいのに……この後、ベスターと相談があるんだが】
【サクッと話し合いを終わらせれば大丈夫?】
【おいコラ!】
その他の面々は別の場所で待機しながら、ポテチの器二つを抱えて、皆でパリパリと食べ始めていた。
自分も一緒になってポテチを食べる。なにせトレイニーと一緒に試行錯誤して作った新作味なのだ、柚子に胡椒を効かせたサッパリ風味に仕上がっている。
胡椒や柚子はトレイニーさんからの提供です。
トレイニーさんがポテチを持ってきてくれた事には驚いたが……。
あれ? もってきてくれたのかな? もしかして、森に入って来た人間達を監視しながらポテチを食べていただけだったのかな。
「……お、おう? 俺がこの町というか国というか……ジュラ・テンペスト連邦国の代表をしているリムル=テンペストだ。そっちのウィン=テンペストも同列な」
「本当にスライムが⁉」
フューズが驚いている事を他所にして、ヨウムは脚を机の上に投げ出して、頭の後ろで手を組みながら話を聞いている、ロンメルは諭しているようだが、諦めたようで、こっちに頭を下げながら謝っている。
カバル達に関してはポテチに興味津々で、話し合いというよりも試食会に近い感じになっている。たぶん、メインで話すのはフューズという人だろう。
「いも?」
「うすい、いも?」
「どれ? ……うんめー!」
「なにコレ! すっごく美味しいよぉ!」
「うまいでやすね!」
フューズは三人の事を横目で睨みながら、すこし恥ずかしそうに咳払いをして、席に着いたリムルや鬼人達に視線を向ける。
「コホンッ……失礼。私はフューズと申す者。ブルムンド王国の
蒼影の報告通りの人らしい。ついでにシズさんポジションに着いた苦労人っていうところかな。さすがは支部長というだけあって、リムルがスライムというのに丁重に話を進めようとしている。
「私の目的は貴方たちに会うことですので、ゴブタ殿とウィン様に案内を頼んだのです」
リムル中央都市に連れて来る帰り道で、自分の事はゴブタが喋ってしまった様で後から謝られたのだ。まぁ、自分としては会議の時に言って驚かせようと思ったんだけど、残念ながら失敗に終わってしまった。
「俺に会いに?」
「今から十月ほど前になりますが、森の調査を依頼したこいつらから報告をうけました。まずはギルドの英雄を丁重に弔ってくれたことに、感謝を……お礼が遅くなり申し訳ない」
シズさん、だね。
後で、お墓の方に案内してあげようかな。亡骸はないけれど、イフリートと戦った丘上の町が見渡せ、桜の木がある場所にシズさんの名が刻まれた墓碑があるからね。
「ご丁寧にどうも。でも、わざわざそれを言うために来たわけじゃないでしょ」
「ええ、まぁ……数か月前の事です、ブルムンド王国のギルドの中でオークロード出現の噂が流れ始めました。そして、調査の結果、それが事実であると判明したのです。対策に追われ浮足立っていた頃。執務室に突然、鬼人の男が現れました」
チラッと自分の方をリムルが見てきたので、目を合わせて頷いて答える。
この話はリムルも知っていることだし、改めて言う事でもないだろう。
「確かにオークロードはもういない。しかし、それを成したのが魔物なのだとすると……我々人間としては脅威が去ったとは言い難いのです」
まぁ、そうだよね。
脅威だった魔物を倒せる魔物の集団が別にいた……人間からすれば、同じ魔物同士での縄張り争いで、その魔物が人間に危害を加えない保証なんて何処にもないのだから。
友好的な関係を築きたいというのは、あくまでも自分とリムルの考えだからね。
「なるほどな、ドワーフ王が来た時と同じ目的か」
「ドワーフ王? 来たのですか?」
「ああ、ガゼル王が俺とウィンを見極める、とか言ってな」
「で、ジュラ・テンペスト連邦国とドワルゴンで盟約を結んだ?」
「ドワルゴンと⁉」
『そうね、国交を開いている感じよ』
「この地を経由すれば、商人達の利便性は向上する? どう?」
「ちょっと待ってください盟約⁉」
自分がリムルに続いて言うと、フューズが一瞬だけポカンと口を開けて見てくる。
「は……? 盟約⁉」
ヨウムは聞いていないと言うような視線で眼鏡の少年、ロンメルの方を見ると、彼は真剣な表情で頷いて、ヨウムの後ろに立つ護衛の人にも目配せする。
さすがに国のトップとその周辺には伝わっているだろうが……自由組合みたいな、庶民に近しい組織には話が流れていないようだ。
「失礼します……リムル様、ウィン様。ドワルゴンとの盟約の件であれば、私、ベスターの方からも保証します」
「ベスター?」
「ドワルゴンの大臣⁉ あのベスター殿か⁉」
「そうだよ、元大臣だけどな」
『今は研究者よね?』
「ははは、そうですね。いまはリムル様とウィン様にお仕えする研究者です」
ベスターが部屋に入ってくるのと同時に、ミリムが口をもごもごとさせながら、一番端の席に座り込んだ。
アレはゴブタとレイ、それに自分が狩ってきたナイトスパイダーの鍋を食べてきたな。
「いまではカイジンと双璧をなすウチの優秀な研究者兼技術者?」
なんかフューズが大口を開けながら固まってしまった。
「で、そっちの兄ちゃん達は何しにきたんだ?」
「っていうか、なんでスライムがそんなに偉そうにしてんだよ。おかしいだろう! 後ろの強そうなヤツらを差し置いてなんでこんなぷるっぷるなのが偉そうにしてんだよ⁉ なんでお前らは納得してるんだ⁉」
リグルドと紅丸が顔を合わせ「そう言われてもな」という感じの表情で見ている。
「リムル様に無礼ですよ」
紫苑が少し苛立ちながら、宥めに入る。
「うるさい! 黙ってろおっぱい!」
鞘つきとはいえ、重い大太刀でヨウムの頭に紫苑が一撃入れる。
自分とリムルが止める間もなく流れるように事が進んでしまった。
あちゃ~と自分は顔に手をあてて、痛そうなたんこぶが出来たヨウムを見る。ライナは面白そうに笑い転げている。
朱菜の方も「よくやりましたシオン」と言わんばかりの笑みを浮かべながら、ヨウムの方を見て笑っている。
「お、おい……」
「はっ! つい……」
リムルもヨウムを可哀想なモノを見るように声をかけている。
「ウチのシオンがすまんな。ちょっと我慢が足りない所があるんだ、許してやって欲しい」
「ヒドイですリムル様、これでも忍耐力には定評があるのですよ!」
「あははは、我慢が足りぬとはまだまだのようだな、シオン。ワタシのように心を広く持たぬからそんな短気なのだぞ」
ミリムに言われてしまっては、さすがの紫苑も言い返せないだろうね。
「俺は……いや、俺達と言っておこうかな。人間達とも仲良くしたいと思っている。そのうち貿易とかして交流出来れば良いと思ってるしさ」
リムルが一瞬だけこっちを見ながら訂正して言う。
「貿易⁉」
「リムル様が仰っていることは本当です。ガゼル王とリムル様は盟約を交わしておられるのですから」
ショックから回復したフューズがまた驚いているが、すぐに何時ものペースを取り戻し、咳払いをしながら会話に混ざる。
「はぁ、そういうことでしたら此方としても協力はやぶさかではありません。ただし、貴方方が人間の味方なのかどうか、しっかり見極めさせてもらいますが、構いませんね?」
「ん、それは当然?」
「あぁ、別にそれでかまわないよ。滞在を許可する。俺達が脅威でないと解って欲しい」
ヨウムの方も何やら考え事をしながら話を聞いている。
フューズもリムルが友好的に話すので何かと面を食らっている様子だ。
「えーっと、私達はファルムス王国の調査団です。こっちは団長のヨウム。私はお目付け役のロンメルといいます。こちらにお邪魔したのは成り行きですが、調査対象のオークロードがすでに居ないと知れたのはラッキーでした。目に見えて危険な調査ですのに、領主は強欲で寄せ集め集団にまともな装備など揃えてくれるはずもなく……」
正規の部隊じゃあないから、粗悪品の装備で向かわせたわけだ。
「よく逃げ出さなかったな」
「そのために私が同行を命じられました。契約魔法という強制的に従わせる術がありますので、それで縛るのです」
【思ってたよりも、ブラック?】
【そこまではソウエイから聞いてなかったな】
「ま、その魔法はもう解いちゃったんですけどね、あはは」
ロンメルは笑いながら言う。
その姿に、自分とリムルは少しだけ驚いた。
「ロンメルはお目付け役? だよね?」
「そうでしたよ……ですが、今はこのヨウムについて行くと決めたのです」
そう言われて、ヨウムはフイっとそっぽを向いてロンメルと顔を合わせようとしない。
でも、それなら尚更に気になる事が出来てしまった。
「どうして逃げようとしなかったんだ?」
リムルも同じようで、自分よりも早くヨウムに聞く。
「ああ? 危険な調査に安い装備で送り出されたんだろ? 聞くかぎりじゃ雇い主は成功報酬を奮発するタイプとも思えないけどな」
「んなこた分かってるよ。オークロードの情報を教えてやらねぇと、町の人があぶねぇじゃねーか」
また足を机の上に乗っけて、背もたれに寄り掛かるヨウムに朱菜が「行儀が悪い」いう視線を送るが、ヨウムは気にしないようだった。
「あの町にゃ説教くせぇジジイや酒場のお節介なババアや、あとをついてまわるうぜぇガキ共だっているんだぞ」
……あぁ、こういうタイプの人か……態度や言葉遣いはかなり悪いけど。
「勘違いすんなよ。あいつらが死んだら寝覚めが悪いと思っただけだ」
気恥ずかしそうにしながら、悪態を付いているが、いい奴だってことは誤魔化せないタイプの人間さんだね。
「ま、あのタヌキ伯爵が困る姿は見てみたいけどな。ロンメルから聞いた話じゃ、防衛の強化に充てるべき国の援助金も着服してたってんだぞ!」
「つまり、何の対策もしていなかったところへ、オークロード出現の話が出て、慌てて我々が編成されたんです」
ロンメルが何となしに答える。
「そもそもだな。この危険極まりない調査に、こんな若造使うか? もっと熟練の魔法使いの一人や二人抱えてんだろうが。結果だけ分かれば良いって魂胆が丸見えなんだよ」
たしかに、どう考えても捨て駒だろうね。
あわよくば、ロンメルの抹殺も視野に入れている可能性が高い。
ロンメルがヨウムに従う理由は良く分かる。
「そういえば、カバル達を助けてくれたそうだな。友人として礼を言うよ」
「いや、あれは……正直、戦力になれたとは思わねぇよ。ナイトスパイダーの脚をはじくので精一杯だったしな。助かったのはそこの変なののおかげだ」
腕は立つが、調子にはのらない。
仲間に慕われるカリスマ性もあり。
顔も悪くない。
なにより、いい人だ。
「……リムル様?」
『ウィン……』
「なにか企んでおられるな」
「ですね」
たぶん、リムルも同じ考えをしたのかな。
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