リムルが低位活動状態になってから復活するまでの3日間……。
「あ、ウィン様! リムル様をお願いしますね」
「え? あ、うん」
起きてすぐにリムルを渡され、膝上に抱えながらのんびりと過ごす毎日だ。
下手に掃除やら家を組み立てる手伝いなんかをしようものなら、すぐに周りのゴブリン達がライナかアウスに報告しに行ってしまう。
「……早く起きてよね」
もうずっとリムルのスライムボディを撫で繰り回すのが日課になってしまっている。
触り心地も良いし、嫌ではないのだけれど……暇でヒマで死んでしまう。
まぁ、もうすぐ起きるとは思うのだが、リムルが起きたら先ずは彼女達の服装について考えないといけないかもしれない。
「まぁ! リムル様。お加減はもうよろしいのですか?」
目覚めたリムルが膝上でビクッと震えたのが分かる。
「村長様を呼んでまいりますね」
「あ、はい」
ハルナが出ていったのを確認してから、小声でリムルに話しかける。
「絶対に、いま胸を見ながら「誰⁉」って思ったでしょう」
「あ、ウィン……いや、だって」
自分が名前を付けた子のはずなのに……なぜ、あんなに女性らしく実ってしまったのだろうか、自分なんて……まだまだ子供サイズから変わらないというのにな。
「でもね、驚くのはまだ早いよ」
「は? いや、それよりもさっきのは誰だ⁉」
「リムル様! お目覚めになられましたか!」
「おお、リグルド。さっきの女性は――」
村長ことリグルドが家の中に入ってくると、リムルの時が一瞬だけ止まった。
【誰だよ⁉】
【リグルドです】
【いやいや、よぼよぼの爺ちゃんだったろ⁉】
【名付けをしたじゃない……アレで進化したんだって】
それ以外に答えようが無いんだから仕方ないよね。
いや、自分も衝撃的だったから……リムルの気持ちが解らないことはない。
「さぁこちらへ、宴の準備が出来ております」
「お、おう」
リムルと一緒に外に出ると、またポカンとした感じでゴブリン達の様子を見ている。
【……なんか、絶対に皆デッカクなってるよな……?」
【……リムル……気になるのは分かるけどね、あんまり女の子の体をジッと見ない】
身長やら体格の事を言いたいんだろうけどね。自然とリムルが見ていく端々でゴブリナ達の体を見て止まっている気がする。
――気のせいではなく、絶対に……。
【御快復、心よりお喜び仕ります‼ わが主よ‼】
「ラ……ランガ?」
「はっ!」
名付けにより「
ランガの尻尾が扇風機のごとく回り始めて、周囲に物凄い風が巻き起こる。
【ど、どゆこと⁉ 親父よりでっかいし】
【ここ3日間の事を簡単に説明するから――】
==簡単ではあるけど、この3日間に起きた事を掻い摘んで説明する。
「リムル様がお目覚めになられた、皆宴の順はできておるな?」
「は~い!」
「おぉ~~‼」
【……しかし、まぁ。名前を付けただけで、こんな風に進化しちゃうだなんて……】
【不思議だね】
雄のコブリンは「ホブゴブリン」に、雌のゴブリンは「ゴブリナ」に進化して、見た目も人族の成人になりたてくらいの見た目だ。
【……ホント、訳わからん】
【まぁまぁ、今は宴を楽しもうよ】
今日の為に野ウサギや牛……鹿? とにかく、宴に必要な肉やら果物なんかを森から狩ってきたんだから……主にゴブリン達とテンペストウルフがだけどね。
「え~では、皆の進化と戦の終わりを祝って。かんぱーい……」
じっとゴブリン達がこちらを見ているだけで、コップや肉を手に持つ気配が無い。
「見つめてないで、しろよ乾杯! 恥ずかしいじゃん‼」
【ねぇリムル。魔物に祝杯の習わし的な事って知ってるのかな?】
【あ……え?】
「リムル様「かんぱい」とは一体……」
リグルドがおずおずと尋ねてくる。
やっぱり知らないみたいだ。
「ああ、なんだ知らなかったのか」
「もうリムルのうっかり……こっやってコップを掲げてね」
「こう、ですか?」
リムルと一緒にリグルドのコップに軽く当てて乾杯と言う。
【よく考えたら前世の社会常識が通じるわけがないか、そもそも人間ですらない訳だし】
【羞恥心もね……見てるこっちが恥ずかしくなる】
ゴブリナ達は無駄にスタイルの良い子達が多すぎるんだよ。
元々が小さい体だったから全身を覆えていた服も、ボロ布を胸元と腰に巻いているだけで全裸なのとほとんど変わらないのだ。
【料理?】
【生もあるけど……焼く事を覚えさせた】
【そりゃあ、なんか有難うな】
【うん、大変だったよ】
前世の知識があるとはいえど、料理のりの字も見たことない人に料理を教える事がどれだけハードなのか、身をもって知った。
料理に関してはライナもアウスも当てにはならないのだから。
まぁ今の所は、ゴブリン達よりも抜きん出て料理と呼べる代物が作れる唯一の戦力と言っても過言ではないだろう。
【家もボロボロだな】
【……課題は山積み】
楽しそうにワイワイ騒ぐゴブリン達を見ながら、自分とリムルは先の方針を相談する。
――――――――☆★☆★――――――――
==翌日。
「皆広場に集まれ! リムル様とウィン様より大切なお話がある」
リグルドがゴブリン達に集合の掛け声を村中に響かせる。
まだ早朝という事もあって殆どの者が寝ぼけ眼を擦りながら広場に集まって来る。
「お話ってなんだろう?」
「おはよ~」
「なんだっていいさ、リムル様とウィン様の御言葉ならな」
「リムル様、今朝も神々しい……」
「ウィン様もちょっと眠そうにしてるね。可愛い」
「昨日の牛鹿うまかったなー」
「わたしリムル様のお身体をお拭きしたのよ」
「うわ、ずるーい」
「ウィン様って気品あるよな~」
切り株に座っている自分の膝に、何故か定位置という感じでリムルが居座っているのだが……なぜか、お髭を付けて渋い顔をしながら黙っている。
ザワザワと騒がしいのが収まるまで待つ気だ……。
「あっ、しー……」
気付いた者が次第に周りのゴブリン達に黙る様に促している。
「……はい、今みんなが静かになるまで5分かかりました」
「はぁ、リムル……」
『まぁ統率力としては、出て来た方なんじゃない?』
『でも、リムル君がしたかった事は違うみたいだよ?』
だから前世のネタは、こっちじゃあ通じないってば。
自分は関係ないのにリムルのせいで、こっちまで恥ずかしくなってくる。
顔が熱くなってきたぞ、どうしてくれるんだまったく。
【俺の持ちネタ(校長のモノマネ)も通じないだと⁉】
【……バカ】
ゴブリン達の頭上にエクスクラメーションマークが浮いているのが目に浮かぶようだ。
「えー気を取り直して」
なかったことにしたよ、このスライム。
自分が見つめるジト目から逃れる様に話題を語り出した。
「見ての通り俺たちは大所帯になった。そこで、なるべくトラブルを避けるためルールを決めようと思うんだ」
咳払いして誤魔化そうとしても無理だからね。
「一つ、仲間内で争わない。2つ、進化して強くなったからと言って他種族を見下さない。3つ、人間を襲わない。以上だ、最低この3つは守ってもらいたい」
昨日少しだけ話し合った内容だ。
正直、反応がどう返ってくるか……それはリムルが任せろと言っていたので丸投げさせてもらう。自分にはこういう纏めは荷が重い。
「宜しいでしょうか」
「お、なんだねリグル君」
しっかりと手を上げて発言している辺り、ライナとアウスの教育が行き届いている。
「何故人間を襲ってはならないのでしょうか?」
【来たな……】
【想像した通り?】
「リムル様のご意思を……!」
「ああ、いいからいいから」
【疑問を持ってくれて嬉しい】
【リムルの言葉を真面目に聞いて考えてくれてるって事だもんね】
「簡単な理由だ。俺達が人間が好きだから! 以上‼」
――え⁉ それで良いの⁉ もうちょっとなんかそれっぽい説明なしなの。
「なるほど! 理解しました‼」
【軽っ⁉】
【あ、なにかしらの意図はあったっぽい?】
リムルが変なノリで言うから、真に受けちゃってるのに逆に困ってるのは面白い。
「いや、ええとな。人間は集団で生活してるだろ? 彼らだって襲われたら抵抗する。数で押されたら敵わないだろ?」
「そういう訳で、こちらからの手出しは禁止だ。仲良くする方が色々と得だよ。一緒に遊んだり、相手の技術を見たり、知らない遊びをしれたり楽しい事が多く――」
『まってちょうだい、主に遊びの事に比重が傾いてるから。アタシ達の思惑と全く別のベクトルで話を始めないでよ』
『まぁウィンだし仕方ない。娯楽でまったり遊ぶのが好きだし』
ムニムニと左右からライナとアウスにほっぺを引っ張られて止められてしまった。
【お前も俺と対して変わらないじゃないか】
【だって……】
争ったって疲れるだけで楽しくないもんね。
「こほん。まぁ話がそれたが、そんな所だ。なるべく守るようにしてくれ」
ルールを話し合った後は役割分担の話に繋がるはずなのに……。
何時まで経ってもリムルが話しの続きをしない。
「リグルド」
「はっ」
「君をゴブリン・ロードに任命する。村を上手く治めるように」
「ははぁ‼ 身命を賭してその任、引き受けさせて頂きます」
「うむ、任せた」
「……え? リムル⁉」
『アレは、投げたわね』
『適材適所?』
【うん、俺は基本、口だけ番長でいいや】
【君臨すれども統治せず……良い言葉だね】
【そのジト目は止めて、癖になっちゃう……まぁいずれ人間の町にも行ってみたいだろう、俺達の指示がなきゃ何もできないんじゃあ困るしな】
【それは、そうだけど】
『リムル、アナタちゃんと分かってる?』
【何が?】
『ゴブリン達、家を作り直してあのレベル』
アウスが指さした方向に視線を向けると、ボロボロの掘っ立て小屋がある。
「立て直して、これなのか?」
「お恥ずかしい話です」
「まぁリグルドの采配が悪いわけじゃあないさ。建築学もしらなきゃこんなものだろう」
「面目ない……」
自分もライナもアウスだって建築学なんて知らない。
つまり、この集団の中に家を作れる人が一人も居ないのだ。
「こうなると技術者と繋がりが欲しいな……」
「あっ!」
リグルドが何か思い当たる節があるのか、手を付いて反応している。
「今まで何度か取引をした事のある者たちが居ます。器用な者達なので家の作り方も存じておるやも!」
「ほう?」
リムルが興味深げな声を上げた。
「取引相手? 何ていう者達?」
自分も気になったので思わず聞いてしまった。
「ドワーフ族です」
「ドワーフっていうと……あれか? 鍛冶の達人というイメージの……」
「おぉっ、御存知でしたか」
ゲームや映画なんかのファンタジー系統では王道な設定で出てくるからね。
「ドワーフの王国は大河沿いに北上し、2か月の距離です。嵐牙狼族の脚ならばもっと早くに着くかと」
「なるほど、川沿いなら迷う心配もないな」
「留守はアウスとライナに任せれば問題ないよね」
『ウィン! ちょっとアナタまで行く気じゃないでしょうね⁉』
『僕達は置いてきぼりなの⁉』
「リムルが居るから大丈夫でしょう。この村の守りだってしっかりしておかないといけないんだから、ここは一番に信頼できる相棒とアウスが居れば村は万全じゃない?」
「たしかにな。頼めるか」
よし、リムルはこっちの味方だ。
ライナのカードとアウスのカードを村に置いておけば、別に離れられない訳じゃない。それにいざとなれば、特殊召喚系の魔法カードで呼び出す事も出来るはずだ。
……やったことないけど。
『アタシはウィンから離れたくないんだけど……』
『右に同じ』
「なにかあれば、カード召喚で呼べるからさ。おねがい……帰ってきたら二人のお願いなんでも聞いてあげるから」
ここの所、なんにもさせて貰えないし、出かけるのも禁止だったからフラストレーションが溜まって仕方がない。偶には息抜きは必要だと思う。
『…………ふ~ん。それは悪くないかも』
『なんでも、良いの』
「えっと、出来る範囲でなら?」
「ウィン……早まったんじゃないか?」
そうかもしれない……でも、自分もドワーフの国に行きたいもん。