しんしんと雪が降ってきているのに、とある一画では降ってきているはずの雪を吹き飛ばし、未だに地面が濡れていない様に見える不思議な場所がある。
「ふははは! もう無能などと呼ばれる事はないのだぞ!」
ミリムの高笑いが聞こえる中で、その他大勢の悲鳴が響き渡っている。
「ふん、少し手加減が出来るようになったからって調子に乗らないでください、よっ!」
なんかボールを取る音が鈍く響いているのだが……あれは、自分達が作ったモノだろうかと疑いたくなるレベルだ。
「ちょ! 少しは手加減をして下さいっスよ⁉」
「手加減ならしておるだろう」
「それは手加減にっ⁉ ふぶうへっ⁉」
「ゴブタ~⁉」
警備隊メンバーが心配そうに叫ぶが、ゴブタはというとヨウムの方にサムズアップで合図を送っている。
『は~い、顔面はセーフよ~』
「よっと、ナイスヘッドだゴブタ!」
ヨウムはボールをどうするか考えながら、外野にいるロンメルの方を見ている。
「ヘッドで止めたというより……顔面キャッチ?」
『ミリムさんの球を顔面で止めますか……すごいです』
「レイさんや、感動するのそこかい? いやまぁ、ミリムの剛速球を顔面で受けるのは確かに凄いと思うけどな」
自分とリムルはお茶を飲みながら観戦しているだけなのだが、吹き飛ばされてくる雪が偶にこちらを襲ってくるので、適度に風霊術でガードしている。
ミリムも紫苑もしっかりとボールを投げられるようになっているので、力加減をある程度は覚えてきたんだろうけど、まだまだ微妙な所もある。
「ぬぅ! 上手く投げられん」
『ただ魔力を抑えて流し込んでいるだけですからね。もうちょっと工夫が必要ですね』
エリアがミリムに付きっきりで、水球の水霊術を使ってボールに見立てた水に色付きの水を中に注ぐことで、魔力を籠めるイメージをしやすく説明している。
ミリム自身も投げたボールが真っすぐに投げられない様子だったので、エリアに手伝って貰いながら、なんとかドッジボールに参加できている。
『ほれ、シオンもしっかりと学んどけよ。ロンメルみたいに投げたければな」
「わかってます‼ 私もリムル様やウィン様に褒めてもらうんですから」
紫苑の方はヒータがしっかりと面倒を見てくれているので、放っておいても大丈夫だろう。
ヨウムは回転をかけた球で相手の足元を狙い、ぶつかった後にロンメルが居る方へと転がる様に仕向けていた。
「ほう、ヨウムも結構扱えるようになってきてるんだな」
『そりゃ毎日事ある毎にシオンやミリム様に絡まれてるからね……あれで、まだミリム様の正体に気付いてないんだから……知った時の反応が楽しみよね』
『ライナさんて……』
「レイ、言わない方が身のため? ああいう時は見なかったことにするのが一番?」
ライナに下手な事を言って悪戯の矛先が自分の方に向くと、面倒なことにしかならない。なぜか知らないが、いつも自分もライナの手伝いをしているイメージを持たれているが、こっちも被害者だと知ってほしい。
まぁ、事の発端が自分のせいだと言われると……否定できないのだけどね。
ロンメルの変化球を軽く躱したミリムだったが、フゥリが瞬時に両手で弾き返すようにしてミリムの足先にぶつけて、ミリムをアウトにした。
「あぁ! くうぅ~~⁉ またしてもやられたのだ!」
『ナイスですわ! 厄介者が一人、減りましたわね』
『ん、ブィ』
ピースサインでミリムを少し煽りながら、満足そうに笑っている。ミリムの方は地団駄を踏み鳴らししながら、アウトにされた観戦席の方へと移動する。
「ほっほっほ、皆しっかりと良い動きになってきましたな」
『はい! コレならある程度はヨウムさん達もまともに戦えそうですね』
レイは早く白老との修行を再開したいのか、ヨウム達の成長を今か今かと待っている。
コート上に飛び交うボールに触れないように避けたり、隙があればボールを奪う事で攻撃手段へと目まぐるしく場面が変わるゲームに、ヨウム達はしっかりと付いて行ける様になっていることから、そろそろ“英雄”として本格的に鍛えていっても良いだろう。
このまま何事も起こらないで進めば……滞りなく、人間達との繋がりも出来るはずだ。
「しっかし、そろそろクリスマスだなぁ~」
「あぁ~、そんな季節っぽいね……」
普通に前世の繋がりがある自分は返事を返してしまったが、ライナはまだ良いとしても他の面々は全く知らない言葉に首を傾げている様子だった。
【リムル……この世界にそもそもクリスマスって概念はないんじゃないかな?】
「あっ……」
考えてなかったという感じの間抜けな声を出してリムルが固まる。
「それでリムル様、クリス……マス? それは一体、如何なるものなのですか?」
「うむ」
リグルドが興味を注がれたように尋ねるが、リムルはしばらく固まって動かなくなる。
毎度の事で慣れている様子のリムルだけど、どうせ説明は出来ないんだろうなぁ……と思いながらジッと見つめてしまう。
多分、いまの顔は半目で呆れながらリムルに視線を向けている感じだ。
「えーっとね、キリス――」
【この世界にはありませんよリムルのお馬鹿さん?】
「昔のえらい人のうまれた日で――」
【偉い人って……世界に広まらないような?】
「はぁ……」
「あ、いや、別にその人の信者ではなくてもいいんだけど――」
「はぁ?」
「モミの木やら七面鳥やらプレゼントやら用意して、サンタさんっていうサンタ服を着た人がだな――」
【ねぇ、サンタさんがいきなり出てきてるよ? どっから来たってならない?】
「サンタ殿はどこに?」
案の定というか、気になるよね。
「え、サンタ? サンタはえーと、夜に侵入して……」
『それって敵なの? なんで侵入してくるのよ? というか侵入を許すなんて警備は一体何をしてるわけ?』
『しかし、夜ですからね……ソウエイ殿みたいに影移動が得意な可能性があります』
『そういう問題? 女の子の寝込みに来るのよ! そんな変態は即刻退治すべきです』
「乙女の寝床へ来るなんて信じられませんね」
女性陣が白熱しちゃってるじゃん……どうするのさ。
リムルの気持ちが解るせいで、なんとも言えないんだよね。
自分もリムルもそうだと思うけど、漫然と受け入れていた前世である日本の常識。風習も文化も歴史だって世界の成り立ちすら違う、文字通り「異世界」人に説明するのは――とても難しい問題だ。
リムルもなんとか説明しようと、スライムボディがポヨポヨと右往左往しながら、必死に言葉を探している。
「とどのつまり、宴? サンタっていう役割の人がいて、プレゼントを配ったり交換したりする……えっと、冬のお祭りって感じ、かも?」
「そうっ! そんな感じの宴だ!」
なんとか自分も皆に伝わる様にと言葉を選びながら言う。
「なるほど、素晴らしいですな!」
リグルドが理解しましたと嬉しそうにしながら明るく笑う。
まぁだいたいの納得で良いと思うので……良しとしよう。
★☆★☆ ★☆★☆
樹羅に何故か居るトレイニーさんに手伝ってもらって、町の外れに大広場を作り、そこの中央に大きな木を生やしてもらう。あとは木に飾りつけをしようということで、町の人達を呼ぶ。
「大きな木ですね~」
「これが、光るんですか?」
紫苑が木のてっぺんを見上げながら言う。
フューズの方は違うモノに興味を示している。
「たいしたもんだな、カイジン!」
リムルがクリスマスツリーを作ると言うので、カイジンにちょっと無理なお願いをしにいったのだ。
小さい豆電球みたいなモノがどうしても必要だったから、ライナと協力しつつ、カイジンと一緒に頑張って作ってみたモノだ。
「どんな感じかは、暗くなってからのお楽しみだぜ、旦那」
「一個一個は蝋燭以下の光量だが、こんだけ飾ればな……研究所の照明の仕組みで面白い事を考えるもんだぜ、ウィン姐さんもよ」
「さすがだな、一気にクリスマスらしくなった。完成度、高いぜ――」
カイジン達の方をリムルが意味深に見ながらニヤニヤと笑い、ドワーフ組を見る。
「おっさん達も含めてな!」
「そ、そうですか?」
「流行るかな?」
サンタ服をカイジン達に着せている。
さすがドワーフというか、はまり役だとしか言えないね。
ちなみに余談だが、サンタ服はガゼル王の方にも送ったらしい。
喜んで来てくれてると良いが……着ていたら、それはそれでシュールな気がするけど。
リムルがサンタ服なんてモノを作ったせいで、女性陣は軒並みサンタのコスプレをさせられている……もちろん、自分も例にもれずにサンタの服装だ。
「ねぇリムル……」
「なにかねウィン?」
「なんでスライムボディなのか、聞いて良い?」
「ふっ、そりゃ元はスライムだからね。しっかりとサンタ帽子も付けているだろう」
「ふ~ん、そう……そうやって逃げるのね?」
妙に短いスカートを履かされている、自分の身にもなってほしい。
「ま、まぁほらなんだ。こういうお祭りなんだから、しっかりそれらしい格好をしないとダメだろう? 皆も喜んでいたじゃないか!」
「それはリムルもだよね……今日は逃がさない……自分に着せたのならリムルも着るべきだよね? しっかり女性服を朱菜に用意させているから――」
「じゃあ俺は見回りに――」
『は~い、ダメよ~。一名様ご案内~』
ライナに光の網で捉えられて、モノの様に朱菜へと流れる様に手渡されていた。
「はかったなっ!」
『ふふ、ウィンから頼まれたのよ。ごめんなさいね』
「ありがとうございますウィン様、リムル様ったらせっかく作った衣装を全然着て下さらないので、どうしようかと思っていたんです」
「せっかく、リムルが言ったことを体現しようと皆が頑張っているのに……リムルが、頑張らないなんて、ありえない? 朱菜だって一生懸命作った服なのにね?」
リムルの心に刺さる様に皆の部分や朱菜が作ったというのを強調して言うと、リムルも観念したように大人しくなった。
「わかった、わかりました~。ちゃんと着るから許してくれってば」
『最初から素直に着ておけば、責められなかったのにね』
「まったくだね?」
「くそぉ、逃げられると思ったのになぁ」
「ふふふ、観念してくださいね、リムル様」
朱菜に抱きしめられながら、紫苑にも見張られて退路を断たれたリムルもサンタのミニスカートでお祭りを楽しむ事となった。
次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで
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