「――というわけで、国交樹立のチャンスってワケなんだよ」
「は、ははぁ……なるほど……」
大体の経緯を話している自分とリムルは普通にしているのだが……ヨウムの方は異様に疲れた感じで話を聞いている。
「それにしても、魔王かぁ……。その配下ならさぞかしおっかないのが来るんだろうなぁ」
「どうだろう? 別にケンカが目的じゃないし?」
初めて会った頃のヨウムと違って、色々と鍛えられた結果か、すぐに色々な考えを出来るようになっている。
「でも、不測の事態に備えてあちらにはベニマルさんを行かせたんだろう? 向こうだって同じように考えるんじゃねぇのかなぁ」
「だとしても関係ないな。下手に手を出してチャンスをふいにしたくないし」
「確かに……」
「だからお前も使者相手にケンカ売るなよ?」
「俺も手下どもも、そこまでバカじゃねーですって」
摘みとお酒を飲みながら、一息ついている。
「……そういえば、レイと白老が会いたがってたよ? 腕が鈍っていないか確かめたいって言ってた?」
呑み込んでいたお酒が一気に喉を通っていき、おもいっきり咽せている。
「し、師匠と姉弟子が⁉ 一気に酔いが醒めた……」
==ヨウム達が来てから数日後。
多少なりとも整備した開けた場所に馬車ならぬ虎車が向かってくるのが見えた。
「来たか……」
曳いている虎さんはどうやら普通の動物ではなく、魔物みたいだ。体から少し電気を帯びている様にみえる。
虎車のドアが開いて、女性の声が聞こえてくる。
「お初にお目にかかります。ジュラの大森林の盟主様方。私はカリオン様の三獣士が一人、
杖を持った黒髪ロングの妖艶な女性が降りてきた。
種族の呼び名からして、蛇という感じなのだろうか……ラミア的な感じかな。
少しはだけた着物に、女性らしいプロポーション、雰囲気も蛇っぽい感じだけれど、しっかりと二本足で立っている。
リムルと同じように人化が出来るってことなのだろう。
「はじめまして、俺が――」
「はッ、脆弱なるスライムが盟主だと? 馬鹿にしてんのか⁉」
別の虎車からドアを蹴り上げて開き、勢いよく降りてきた女の子。
「その上、矮小で小賢しく卑怯な人間共とつるむなど、魔物の風上にも置けねぇ」
頭の上にケモ耳がある……耳は虎っぽいから、多分だが虎の子なんだろう。
ちょっと前世でいうギャルっぽい感じの子だ。
ミニスカートに動き易そうな服装で、ちょっと露出が高めだね。
「控えなさいスフィア。カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」
「うるさいぞアルビス。オレに命令するな」
『随分な物言いですね』
「このヨウムは俺の友人で、同じ師についた弟弟子でもあるんだが」
「お、おいレイお嬢、リムルの旦那まで……」
スフィアというギャルっぽい虎の子が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら此方を見てくる。
「それがどうした?」
あぁ、なんというか獣人系統の人達って、相手の力量を見ないと気が済まない人種なんだろうかね。
あれはおちょくって挑発してるんじゃなくて、此方の力量を知る為であり、獣王国の使節団達に自分達の力を見せつける為でもあるんだろう。
【……そうきたか】
多分、リムルも気付いている様子で、自分を見てくる。
【ん~、面倒だからリムルに任せた】
【いや、手伝えよだから!】
リムルがちょっと自分の方を睨みながら、少し考えてヨウムの方を見る。
「なぁヨウム。ちょっと実力をみせてやったらどうだ?」
「はぁ⁉」
まさかそんな提案がされると思わなかったヨウムが叫んだ。
「おいおい、平和的にいくんじゃなかったのかよ⁉」
「向こうが仕掛けてくるなら話は別だ」
「ほう? やるか人間」
まぁ、ただの手合わせってだけだし、ヨウムでも大丈夫だろう。
『あの、主……』
「はいレイはステイね。手出し禁止」
『あぅ、は~ぃ』
露骨に落ち込まないで欲しい。
ミリムが居るうちは稽古と称して戦いを楽しんでいたようだが……ミリムや紫苑の影響なのかな、バトルジャンキーになってきている。
そろそろ朱菜やハレたち御巫の修行でもさせて、女性らしさを学ばせた方が良い気がしてきた……最近、朱菜が自分の仕草に対して一つ一つ注意してくることが増えたから、その生け贄にレイを差し出すのも良いかもしれない。
「頭、やっちゃってくださいよ!」
「お願いします、ヨウムさん!」
『さぁヨウム、師匠に教えてもらった強さを見せつけてやりなさい』
なんかレイもヨウム達一行にやいのやいのと煽られている。
当のヨウムは頭に手を置いて、「なんで俺がこんな面倒なことに」という感じで暗い表情をしている。
やっぱり、ヨウムも色々と鍛えられているようで、ここでやりあう意味を理解している様子だった。
「……しょうがねぇなぁ。ちゃんと骨は拾ってくれよ旦那に姐さん」
「あぁ、任せ……ろ?」
紫苑がスライムボディのリムルを朱菜に手渡している。
「紫苑?」
「黙ってきいていれば、リムル様に対する暴言の数々。我慢に我慢を重ねていましたが、どうやらその必要はなかったようです」
「シオンさん、ちょっと……」
ヨウムが紫苑に喋りかけているが、アレは話を聞いていないね。
「貴女の相手は私です」
「面白い」
面白がらないでスフィアさん。
『ねぇ、シオンはこの話の流れの意味を理解……』
『してるワケねぇって……ありゃ感情と筋肉が脳と直結してるような人種だぞ』
「いやヒータ……その言い方は酷くない?」
『アレを見ても否定できんのかよ?』
『ウィンちゃん、目を逸らしたらダメだよ……打つ手はないかもしれないけど』
『エリア、アンタも何気に酷いこと言ってる自覚あるかしら?』
そっとヒータが指を指した先にいる紫苑から目を逸らす。
『良いですかレイさん。シオンさんの様になっては駄目ですよ』
『そうですわ、ああいうのは可愛いのではなくおバカというんですわよ? レイはもっと可愛げのある子になってくださいましね』
『……違くない?』
紫苑は背負っていた大太刀を地面に突き刺して構える。
「スライムの配下がどの程度のものか、このオレが確かめてくれる!」
スフィアが軽く地面から飛び上がると、体を丸めながら紫苑へと飛んで行く。
紫苑の方も怯むことなく真正面からスフィアを止めて、お互いに両手を掴みあった状態で地面が凹んでいった。
紫苑はすぐに、スフィアを投げて転ばせようとするが……身軽なスフィアはクルクルと猫みたいに空中で身をひるがえして、着地する。
蹴りを入れる度に地面が抉れているが、紫苑の方も軽やかに避けている。
「――――まったく、しょうがありませんねスフィアは。代わりに貴方があの人間の相手をなさい。グルーシス」
「え?」
アルビスは虎車を操っていた青年に声を掛ける。
呼ばれたグルーシスという青年は面倒そうに御者台から降りてきて、溜息を漏らしている。
「俺ですか……人間の相手ね……まぁいいか。遊んでやるよ、人間」
「おう、よろしく……な」
ヨウムが肩に担いでいた剣を挨拶終わりと同時に振り下ろす。
グルーシスは避けているが、ヨウムが放った威力ある斬撃に驚いた様子だった。
ヨウムはすぐに下ろした剣を、横へ薙ぎ払う。
「っとぉ!」
一連の動きを見てヨウムから距離を取るグルーシス。
腰に両手を回すと、二本のナイフをヨウムに向かって投げる。
ヨウムはしゃがんで躱し、そのままグルーシスに斬りかかる。
すぐにグルーシスはヨウムの後ろへと飛び退いて、ナイフがブーメランのように帰ってきたところで掴み、逆にヨウムへと斬りかかった。
すぐにヨウムが振り返って、剣でグルーシスの攻撃をガードする。
「あっ」
ヨウム達に集中していたら、紫苑がなんかし始めていた。
「鬼人の真の力、見せてあげましょう……」
「おいシオン! この辺り一帯を吹っ飛ばす気か⁉」
「あ~、あれは聞こえてないいよ……」
「……いいぞ、見せてみろ。本能を解き放て‼ そしてオレをもっと楽――」
「それまで」
盛り上がり始めてしまった両者を諫めるようにアルビスが割って入る。
「……もう十分です。このあたりに致しましょう」
やっぱり蛇なんだな。足が蛇になっている。
「……ちっ、いいトコだったのに」
ヨウムが驚きの表情でアルビスの方を見ている。
「お、おい?」
「ヨウムも剣をおろす? もうお終い」
「姐さん……」
グルーシスの方もすでに武器を下ろしていた。
「それで? 俺達は合格なのか?」
「ええ、堪能させていただきましたわ」
「合格? ってことはまさか、この仕合いは……」
「あぁ、どうやら俺達は試されていたらしいな」
「ん? あれ? ヨウムは気付いてなかったの?」
てっきり気付いているものだと思ってたのに。
スフィアが手を上げて声高らかに叫ぶ。
「見たか、お前ら。彼らは強く度胸もある。我らが友誼を結ぶに相応しい相手だ。彼らとその友人を軽んじることはカリオン様に対する不敬と思え! わかったな‼」
「「「「ははッ‼」」」」
「スフィア様の言われるとおりだ。獣人とこれだけやり合える人間は滅多にいない」
「……嬉しいね」
グルーシスがヨウムに語り掛け、手を伸ばして握手を交わしている。
まったく、到着早々にどうなることかと思ったけど、一先ず一件落着の終わりだね。
「シオン、お前もそれでいいな?」
「は、はい……ですが、あの……。コレ、どうしましょう?」
「コレ?」
「これ……魔力弾……」
さっき紫苑がぶっ放そうとしていた、魔素の砲弾って所だろう。
もう見るからに暴発寸前だけどね。
「お、落ち着けっ。そっとだ、そっとそれを上に向けるんだ」
「消せないのか?」
「リムル様、退避を……」
蒼影がそそくさと現れて、リムル達の安全を確保しようとしている。
「無理ですっ。といいますか、もう気力が限界で……」
「なにぃ――⁉」
『ほ~らなぁ。シオンだぜ、こうなると思ったよ』
『ヒータちゃん! そういうことを言ってる場合じゃないよね! どうするの!』
『はぁ……ウィン、なんとかして』
ライナがさっさとどうにかしろと目で訴えてくる。
「はぁ……攻撃の無力化、発動?」
「よっと、手伝うか?」
リムルがスライムボディから人型へと変わって隣に立つ。
「ん~、必要ないかな?」
「お~い、シオン、撃て」
「ですが――」
「大丈夫、信じて?」
「そうそう、俺とウィンを信じろ」
「は、はいっ‼」
紫苑が此方に向かって放った魔力弾は、攻撃の無力化によって何かに吸い込まれる様にして消え去り、何事もなかったかのように風が少し靡いただけだった。。
「別にリムルのスキルでも良かった?」
周りの面々もアレだけの魔素を籠めた塊が一瞬にして消えたことに、声も出ない様子だった。
「お終い?」
「さすがはウィンだな」
「リムルの秘書は世話が焼けるね?」
「うぐっ、それはシオンに言ってくれ」
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