門番の人に改めて騒動の経緯を話してから、知り合いのスライムが連れて行かれた所に案内をしてもらった。
――あの警備隊の人達には後で謝らないとな……好き勝手言っちゃったし。
リムル達が居るであろう牢屋まで案内して貰っている途中で、後ろから大慌てで走ってくるドワーフが今から入ろうとしているドアを思いっきり開けている。
「隊長、大変だ‼ 鉱山でデカイ事故が起きた‼」
いきなり叫びながら言うと、部屋の中からガタンッ‼ という音が響く。
「なんでもアーマーサウルスが出たとかで……」
「なんだと⁉」
「町に出てくる前に仕留めんと……っ」
「いや、そっちは大丈夫。すでに巡回のヤツらが討伐にむかってます。ただ……」
息を切らしながら、少し言葉が詰まった様にしながらも入り口前に立つドワーフのおじさんは、拳を握りしめながら話を続ける。
「魔鉱石の採取のため奥まで潜っていた鉱山夫がひどい怪我を負ったようで……」
「なにっ⁉ ガムル達が⁉」
どうやら中でリムル達の事情聴取をしていた方の知り合いらしい。
「俺たち空気だな」
「っすね」
「ちょっと面白い状態になってる」
「あ、ウィン! 来てくれたのか」
ちょっと牢屋の中を覗くとゴブタは縄に縛られていて、リムルはタル詰めにされている。スライムだし、逃げないようにするにはああするしかなかったのだろう。
「戦争の準備だかで回復薬の類は品薄だ。このままじゃ……」
「馬鹿言うな! あいつらは俺の兄弟みたいなもんなんだ、そう簡単にくたばってたまるか! とにかく今あるだけの回復薬で……」
隊長と呼ばれたドワーフさんが頭を抱えながら必死に何かを考えている。
少し黙って話を聞いていた自分達は、リムルの方を見る。
何やらタルの中でモゾモゾと動きながら、ぴょんと牢の柵を飛び出ていく。
「旦那、旦那」
リムルはそのまま、机の上に乗って隊長さんの腰を突きながら呼ぶ。
「ん? あっ、おい何勝手に出てんだお前!」
「まぁまぁ、それどころじゃあないんでしょ?」
リムルのノリに合わせて、隊長さんが落とした(盗った)鍵で牢の鍵を開ける。ゴブタがそれに気付いて、近付いてきたので縄を切り、リムルがタルに出した回復薬を持ってくるようにゴブタに指示を出す。
「これ、必要なんじゃないですかね」
「これは……」
「回復薬ですよ。飲んで良し! かけて良し の優れもの!」
勝手に牢を抜け出したリムルとゴブタに呆れながらも、ジッとタルの中身を見つめる隊長さん。きっとどうするかと悩んでいるのだろう。
「旦那の兄弟分、このままじゃヤバイんでしょ? 他に打つ手がないんじゃ、とりあえず試してみちゃあどうです?」
苦虫を嚙み潰したようなしかめっ面をして、迷っている時間は無いと思い至ったらしい。何かを決心した顔をしてから、勢いよくリムル達を睨む。
「お前ら、ここからでるなよ! おい! 行くぞ」
「隊長マジすか、アレ魔物でしょ⁉」
「うるせぇ! さっさと案内しやがれ‼」
ドカドカと樽をもって行ってしまった。
「誰も残さなくて良かったのかな?」
「まぁ緊急事態って感じだったしなぁ、信用してくれたって思おうぜ」
「っすかねぇ~」
勝手に居なくなるのもまずいので、大人しく待つことにして1時間。
自分は今あるカード達の手入れと確認。リムルは糸を操る練習がてら東京タワーを作って遊んでいる。ゴブタは寝ている……ある意味、彼は大物なのかもしれない。
「ん? リムル、来たかも」
「お、やっとか」
ドカドカと出て行った時と似た足音が聞こえる。足音の数から人数が増えているようだけど、慌てている感じは全く無い。
部屋に入って来るなり、隊長さんと後ろに立つ3人のドワーフが頭を下げてきた。
「助かった! ありがとう‼」
「あんたがくれた薬じゃなきゃ死んでた! ありがとうよ‼」
「今でも信じられんが、千切れかけてた腕が治ったんだよ」
あと一人は無口な人なのか……いや、喋るのが苦手なんだろう。嬉しそうにコクコクと頷いている様子だった。
「いやホント、あんな凄い薬は初めて見たぜ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ」
「大したことじゃないさ」
リムルに胸はないけど、嬉しそうに張っていそうな感じの声だった。
この一件で隊長さん。名前をカイドウと言うらしい。
自分達を信用してくれて、無事にリムル達は釈放された。
明けた翌日に街中を見回りながら、カイドウさんの紹介で鍛冶屋に行く事になった。
洞窟内というだけあって、家は鉄づくりのモノばかり。蒸気機関で色々と動かしている様子で、至る所に鉄パイプが張り巡らされている。多分だけど空気もあっちこっちにある鉄パイプによって換気してるんだろうな。
「……すごいな」
「っすね……」
「……綺麗な装飾品がいっぱい」
「ウィン様やっぱり女の子っすね」
どうやら、リムルとゴブタが見ていたのは建物や街並みの構造だったのだろう。
自分はお店に並ぶ色鮮やかな武器やアクセサリー、それに食器類に目がいっていた。
武器屋にならぶ剣を見ると、薄らと光っている。
「この武器とが凄い……」
「だな、薄ら光ってる」
「あ、それそれ。ソレ打ったヤツだよ」
「え?」
「コレ、ですか?」
リムルと一緒になって見ていた剣を指差して、カイドウが言う。
「これから会う鍛冶師。カイジンって俺の兄貴さ」
褒められた事が嬉しい様で、声が上がりながら武器屋に入っていく。
「兄貴、いるかい?」
カーン、カーンと良い音をさせている鍛冶師の背中に声を掛けるカイドウさん。
「なんだカイドウか、悪いが今忙しんだ。急ぎでないなら日を改めてくれ」
【おお……ザ・職人】
【そうだけど、なんか本当に急いでる感じ?】
「ん? 昨日の3人じゃないか。ここで働いていたのか」
すこし奥の方で荷だしや小道具を持っている3人のドワーフが居た。
「あぁ、どうもリムルの旦那!」
確かに昨日の騒ぎでリムルが助けた人達だ。
「カイジンさん、この方ですよ。昨日俺たちを助けてくれたスライムは」
「そうだったのか、礼を言う。すまんが今ちょっと手が放せなくてな」
「いや、いいよ邪魔して悪いな」
「親父さん、相談してみちゃどうです?」
「む? いやいや、相談しても無駄だろ」
「でも、あんな不思議な薬を持っていた方ですぜ」
「そうですよ、親父さん」
「………(コクコク)」
何か本当に困った事情がありそうな感じだ。
――といっても。
【おいおい、ただのスライムに何を期待しているんだよ】
【いや、だってリムルだし。何とかしてくれそう?】
【ウィンさんや、俺は万能便利グッズじゃないからね?】
【でもさ……ここで恩を売っておけば、自分達の求めてる人で助けてくれるかも?」
【……確かに、恩を売っておくのもアリか】
【聞いてみて無理そうなら無理でいいんじゃない?】
【それもそうだな。役に立てるかわからんけど聞いてみない事には……だな】
取りあえずの方針が決まったので、リムルと向き合いながら頷く。
「話してみてくれ」
カイジンさんが少し悩みながら、ぽつぽつと語り出す。
「実はな――」
★☆★☆ ★☆★☆
「――成る程ね。今週末までにロングソード20本納品しなきゃならないのに、素材が足りないと」
「国が各職人に割り当てた仕事だ。引き受けた以上、出来ないじゃ済まされねぇ」
端っこに乱雑に置かれた剣が目に付いたので手に取ってみる。
店前に出ていた剣みたく光ってはいない剣だった。
「これは……違う?」
「ああ、それはただの鋼の剣だよ。今回の依頼は「魔鋼」を使った長剣だ」
「普通の剣と、どう違うんだ?」
「ウチにあった在庫で出来たのは、この1本だけだ。見てみるか?」
手渡された剣は光って見える。
リムルも興味深げに覗いている。
「魔力を馴染ませやすい「魔鋼」を芯に使ってある。簡単に言うと使用者のイメージに添って成長する剣なのさ」
【なにソレ、欲しい⁉】
「まず引き受けなきゃ良かったのに」
カイドウさんがため息交じりにカイジンさんを見て言う。
「俺だって最初は断ったさ。したら、あのクソ大臣のベスターの野郎が……「名高いカイジンともあろうお人が、コノ程度の仕事も出来ないのですか(笑)」とか、こともあろうに国王の前で言いやがって……!」
ガシガシと頭を掻きながら叫んでいる。
「落ち着け兄者」
「自由組合へ採取依頼は出したのか? 知り合いに融通してもらうとか」
「やれることはやったさ、でも絶望的だ」
カイジンさんが机を思いっきり叩いて、頭を抱えながら落ち込んでしまう。
「くそっ、期日までもう5日もないってのに……」
【ねぇリムル、そのベスターって人が「魔鋼」を買い占めてカイジンさんを陥れようとしてるっていうのは……考え過ぎだと思う?」
【どうだろうな……怪しくはあるが、俺達はベスターってヤツを知らないからな。ところで「大賢者」さん、ちょっとよろしい?」
〈はい〉
【俺、洞窟で鉱石見つけ次第くってたよな】
【あぁ、そういえば適当に鉱石採取してたね、リムル】
【ひょっとしてあれってさ……】
〈解。個体名、ヴェルドラ=テンペストの魔素を受け超高純度となった魔鉱石です。なお、精製すれば「魔鋼」が抽出できます〉
【ビンゴ⁉】
【本当に意味のあるモノだったんだ】
【ふふ~ん、馬鹿にしたもんじゃあないだろう】
何も言い返せないのが悔しくて、口先を尖らせながらそっぽを向く。
「……とまぁ、こんな状況よ」
「なぁ、親父さん」
「ん?」
「俺たちの村に技術指導として来る気はないか?」
自分の手にある長剣をそっとリムルに手渡す。
「は? いや俺は……」
「いやー、親父さんの打つ剣が気に入っちゃって」
「あっ コラそれは1本しかない完成品だぞ⁉ なに食ってんだ⁉」
〈完成品の解析完了〉
「おい、コラ!」
【で、鋼の剣も回収……】
傍から見てると、ただスライムに大事な商品が捕食されてるようにしか見えないね。
〈素材を確認しました。複製しますか?〉
【イエスだ】
ブワッと魔素が放出されて、風が吹き荒れる。
「うおっ⁉」
ドワーフの皆が驚いて身構えていたが、リムルの前に20本の剣が並べられる。
「無理強いはしないさ。でも、検討してみてくれ」
「魔鋼のロングソード20本。完成?」
「あぁ、見てみてくれよ」
おずおずとカイジンさん達が剣を手に取って調べていく。
「本当に……魔鋼のロングソードだ」
なんだろうな。リムルのせいか言い回しが悪いのか……ちょっと見方を変えると結構な闇商人的な感じの、断れない勧誘に聞こえてくるのは気のせいだろうか。