ブルムンド王国。
初めてきた、人間達が住む国で、魔物の生息する森に近いためか建物は堅固な作りをしている。山中を上手く活かした作りをしていて、テンペストやドワルゴンとは全く違う雰囲気がある。
街を警邏しているらしい人員も多く居る。
「ああいう人達も自由組合がやってるのかな?」
「一部はそうじゃないか?」
住民の表情は明るく、メイン通りでお店を出している人達は笑顔でお客さんの呼び込みをしているほどだ。
「仮面のお嬢ちゃんに、魔法使いのお嬢ちゃん。焼きたてのパンはいかが?」
「ん~、それじゃあね……」
カバル達の分と自分達の分を買っていく。
「ありがとうね。一個サービスしといたよ」
リムルが嬉しそうにパンの入った袋を受け取る。
「うん、いい国だ」
『絆されてない?』
「まぁ、活気ある国だよね」
少し街を見回って、料理屋に入って休憩する。
「そういえばよ、どうしてリムルの旦那達は人間の国に来たがってたんだ?」
「夢で見た子供達に会うためにな」
「夢、でやすか?」
「夢で見た子供達に会うため?」
エレン達が首を傾げる。
「シズさんの心残り……」
「あぁ、なにか意味ありげな夢だったからな……シズさんの心残りは、身体を貰った俺が解決してやりたい」
「むっ、俺達が正解?」
「あはは、悪かった。俺達な」
「へぇ~。あ、だったらぁ、うちのギルマスに紹介状書いてもらうといいかも」
「フューズに?」
カバル達のエレンの言葉に頷きながら、説明を補足してくれる。
「イングラシアには自由組合、つまりギルドの本部があるんだよ。自由組合総帥であるグランドマスターは確か、シズさんの弟子だって話だ」
「そうそう。その名も、ユウキ・カグラザカ」
リムルとチラッと視線を合わせる。
名前の響きからして、日本人だ。
リムルとリンクして見せてもらった光景には子供らの他に、二人の男女のイメージも見えていた。おそらくどちらかが、ユウキ・カグラザカだろう。
子供達と同じく、彼女が最後まで気にかけていた二人だ。
彼らにも会っておきたいところではあるが……見せてもらった光景で女性の方は、会うとなるとちょっと怖い。
見た目的なイメージだが、随分と冷たい目をしていた感じがした……あの目は良く知っている。他者を信用することが無い者の目だ。
青年の方は、まだ話しやすそうな人だったから、会うなら男の人が良いなぁ。
「んじゃ、午後はフューズんとこに案内してくれ」
「おう! っとそうだ、旦那に姐さん。イングラシアにいくんならギルドで冒険者に登録しといた方がいいぜ」
「え、なんで?」
「ほら、冒険者って街の外での活動がほとんどでしょう?」
「もしかして、身分証明に使える?」
「ピンポン! ウィンちゃん大正解! ギルドと提携している国なら身元証明されるのよぅ」
『へぇ~、便利なモノがあるのねぇ』
確かに身分証は必要だ……このブルムンド王国に入るのだって、カバル達の連れって扱いで一緒に入れたけれど、イングラシアは大国だっていうし、入国審査も厳しそう。
実際、このブルムンドの入国ではカバル達が上級冒険者だったから、門番達にも信用が高く自分達が彼らの近くにいるっていう事で通されたようなものだ。
『それじゃあご飯を食べ終わったら、自由組合に行くって事で良いわね』
「取っておいて損はないだろうしな」
「ん、賛成」
==カバル達と騒がしい食事を済ませて、ギルドへと向かった。
「冒険者登録? その仮面……英雄に憧れるのはわかるけど……あなた達には、まだ早いと思うわよ?」
受付嬢の眼鏡のお姉さんに、やんわりと止めておけと言われている。
「リムル……シズさんのコスプレだと思われてない?」
『まぁ、有名な英雄様だったのなら、そう取られても仕方ないわよねぇ』
「お前ら……俺を揶揄いたいなら後にしてくれよ。つうか、お前らも同様に断られてるだろうが!」
『まぁ、この姿じゃあしょうがないわよね』
「子供にしか見えないもんね?」
「呑気に言うなよなぁ」
ちょっとふざけていると、傍で話を聞いていたエレンがリムルに抱き付いて受付嬢の方を見て、後ろにはカバル達が立ちながら自分の肩に手を置いて紹介してくれる。
「まぁまぁ、そう言うなって。この人達はこう見えて俺ら三人が束になっても敵わねぇんだから」
「そうそう。私達より全然強いんだよぉ」
カバルが笑いながら言うと、受付嬢の人が驚いた表情で固まった。
「えっ⁉」
「あの小っさい子達がカバルさん達より強いってのか⁉」
「ウッソだろ……」
「どう見てもガキなのに……」
少し離れた場所に居た冒険者達も不審な眼で自分達を見てくる。
「あっしらの客人に失礼な態度はやめてくれやすかねぇ」
「すっすみません‼」
ギドが一喝してくれて、すぐにその場は収まった。
「し、失礼しました。それでは試験を許可します」
受付カウンターにリムルと自分、それにライナの分の紙が出される。
「こちらにお名前と希望される部門をご記入ください」
意外とって言っては失礼かもしれないが……カバル達って結構、ギルド内では信頼されているんだ。
『エレン達の信頼がどうやって高められたのか、ちょ~っと気になるわね』
普段はポンコツ三人衆みたいなイメージしかないから……これは、少し認識を改めてあげないとダメだよね。
なんかライナはニヤニヤとしながら三人を見ているけど、なにか気になる部分でもあったのだろうか。
「ちょっと交換窓口に行ってくる」
カバル達が別の窓口へと向かい、ゲルドから貰った幻妖花を取り出して受付の人に渡しているのを見つめる。
【なぁ、アレってゲルドが渡してたヤツだよな?】
【そういえばさ、カバル達がテンペストに来ると、何かしら要らない素材を持ち帰ってたってなかった?】
『クロベエのところから、特に要らない素材はあげてたって聞いたわね』
【俺も聞いた事あるな……】
幻妖花を大量に渡して、受付の人が騒いでいたのが他の冒険者にも伝わっていく。
「スゲ――」
「こないだの魔物の素材もそうだけど、どこで見つけてくんだろうなぁ」
「そらおめー、熟練冒険者の勘ってやつだろ」
……なるほど、こうやって信頼を得てきたわけね。
ライナの睨んだ通りだったというわけだ。
じーっと自分達に眺められていた事に、カバル達が気付いて気まずそうにビクついていた。
「……討伐部門。それも三人共」
まぁ、普通は採取や探索とかの部門だと思うよね。
子供に戦闘はこなせないと思うのも無理はないだろう。
「ねぇ、君達、本当にいいの? 採取や探索部門にしておいた方がいいんじゃないかしら」
「実地試験なんだろ? 採取や探索じゃ時間がかかる」
「それは、そうだけど……あなた達も良いの?」
「うん? 問題なし?」
『えぇ、別に弱くないつもりよ』
そう自信満々の態度で受付嬢さんに言う。
「確かにな、討伐の実地試験なら隣の棟でできる。一番お手軽で、一番危険な試験だ」
話を少し遠くで聞いていた男がこちらに歩いてきながら言う。
その片足は、過去にモンスターにやられたのか、義足だった。
「……あんたは?」
「試験管のジーギスだ。受けるつもりならついて来い。カバルどもの紹介ね……、はッ、どれほどのもんか知らんがな」
試験場所の方へと、ジーギスがコツコツと歩いて行く。
「……なんかお前ら、嫌われてねぇ?」
「あれ――?」
隣の棟まで案内してくれ、ついてきたのはカバル達だけでなく……あの場に居た冒険者達の殆どがついて来たんだと思う。
だだっ広い棟の中には魔法陣が描かれていた。
「この中で戦うのが試験?」
「そうだ、これは外に被害をださないためのもの。受験者である、お前達は、この円から一歩でも出たら失格とする」
「なるほど、わかった。で、相手は?」
自分達が特に緊張した様子もないのが、不満なのか……ジーギスはちょっと機嫌が悪そうに見える。
「ではEランクの試験を開始する。魔物に見事、打ち勝ってみせよ」
義足の方の脚をコツコツと床を叩く様にすると、急にジーギスの前に召喚魔法陣が描かれて、犬の魔物が飛び出してきた。
「いでよ、狩猟犬」
「おお……っ」
『……邪魔よ』
ライナの方に襲い掛かったが……軽く光霊術で作り出した剣で猟犬の首を落とす。
魔物の勢いはそのままで、魔法陣の壁に首の無い犬の体がぶち当たった。
「おい、俺もウィンも何もしてないんだが?」
『アタシに言わないで、一体しか出さなかった試験管が悪いのよ』
周りはポカンとしていて、ジーギスは「は⁉」と驚いている。
エレンとカバルは手を合わせて喜んでいるようだけど。
「召喚魔法ってやつか……ウィンのとは違うみたいだな」
「自分のは魔法っていうか、スキルだし?」
『そうね、ああいう魔術と一緒にされると困るわね』
「じゃ、次もよろしく」
「次は人数分?」
別におちょくっている訳ではないのだが……ジーギスには挑発しているように見えたようだ。
「……いいだろう、次だ」
額に青筋が出来ている気がする。
「いでよ、ダークゴブリン‼」
邪鬼妖精と書いて、ダークゴブリンだそうだが……なんだろう、ゴブタの挑発的な笑みに似ているせいか、ちょっとイラッとする顔だ。
「可愛くない」
パチンと指を鳴らし、三匹出てきたダークゴブリンの首を風の刃で切り落とす。
「あ! おいコラ、俺がやろうと思ってたのに」
『そうよ、せっかく人数分出してくれたのに可哀想でしょう』
「ダークゴブリンがゴブタに似てたのが悪い?」
「……それは俺も思ったが……俺にもやらせろよなぁ」
『もう、これじゃあ試験にならないわね』
無詠唱で一瞬にして終わってしまったのは確かに悪かったと思う。
「えっと、ごめんなさい? 知り合いが煽ってきた時の顔に似てたから、つい……次は手加減して戦う?」
「そういう問題か?」
なんか物凄い顔をしているジーギスに、なんと声をかければ良いかが分からない。
「……飛び級だ」
ジーギスがプルプルと震えながら小声で言う。
「へ?」
「カバルらを倒したというその腕、最早疑ってはいない。このまま順々にランクを上げていくのも面倒だろう。どうだ? 一気にBランクの試験を受けてみないか?」
「……いいねぇ」
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