心にデュエリスト魂を持って転スラ世界に・・・   作:風月八泉

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96話 遺志と教師

 

 

 

 

 

 

 

 もうどれだけの漫画本がリムルの中から出てきたか分からない。

 見て分かるのは散らばった漫画本が机を埋め尽くしているくらい……あとは、部屋の隅に後で読むという感じで積み上げられた漫画雑誌の山がある。

 ちょっと離れた位置に、漫画本の山があるけどね。

 

「あああ……もう二度と続きは読めないと、あきらめていたのに……」

 

 ユウキは涙を流しながら漫画本を抱きしめて喜んでいる様子だ。

 

「ありがとうございます、師匠‼ 先ほどまでの無礼の数々、どうか、ご容赦ください」

 

 素晴らしい身のこなしで土下座しながら、リムルに頭を下げるユウキにちょっと引き気味に彼を見る、自分と秘書さん。

 

「うむ」

「漫画って凄いね」

「俺もここまで効果があるとは思わなかった」

 

 秘書さんが散らばった漫画本を整理しながら、動き回る中。中断していた話を続きをすることになった。

 

「そういえば、まだ要件を伺っていませんでした。いらしたのは何か理由があるんですよね。もちろん、協力させてもらいますよ!」

 

 とりあえず、これでシズさんの心残りも訊きやすく――。

 

「やはり帰還方法を探している、とか?」

「え? 帰還?」

「あれ? 違うのですか?」

「あ~、そういう可能性もあるのか?」

 

 ただ、正直言って帰還するとして、自分はウィンのままになるだろうし……リムルに至っては擬態があるとはいえ、スライムの姿でって事になる。

 

 自分もそうだろうけど、確かリムルも似た境遇で死亡しての転生だ。

 あちらの世界へ帰れたとしても、今更自分の居場所はないだろう。

 第一、この姿じゃ信じてもらえないだろうしね。

 

 それに今となっては、あいつらを置いて行く方があり得ない。

 

「出来そうなのか?」

「リムルは……帰りたいの?」

「いや、こっちに色々と出来た縁もあるしな、あいつらを置いて行くことはないよ。それにお前も帰らないつもりだろう」

「ん、そうだね」

 

 ユウキは少しほっとしたような、顔をしながらも暗い表情をしながらリムルの質問に答えてくれる。

 

「可能性がないとは、思っていません。呼ぶことが出来るのなら還すことが出来たっていい」

 

【……やはり、駄目か】

 

 たしかにそうだけど、いまユウキの言い方で気になる部分があった。

 

「……呼ぶ?」

「あ、いえ。あまり気分のいい話ではないので……」

 

 自分が意味深に聞くと、ユウキは慌てたように笑顔を張り付けたような顔で、話題を逸らそうとしてきた。

 

「それより、リムルさん達の用件は?」

 

【はぐらかされた?】

【だな、まったく――】

 

 リムルはスライムボディから人型へと変わる。

 

「さっき言ったろ。シズさんの遺志を継いだって。もし知ってたら教えてくれ」

「……お願い」

 

 ユウキは少し驚いた感じで、自分達をジッと見つめてくる。

 

「イングラシアにいる彼女の心残りだ。5人の子供達の現状が知りたい」

「シズさんに代わって、子供達を助けるために、自分達はこの国に来た?」

 

 ユウキは目を閉じてゆっくりと息を吐く。

 

「…………知っています。ですが、それは簡単ではありません」

「わかってるよ、彼女が成し得なかったことをするんだ」

「朝飯前なんて思ってないよ?」

 

 ユウキは自分達の言葉を聞いて、ゆっくりと目を開いてこちらを見てくる。

 自分達の真剣な思いが伝わったのか、ユウキも頷きながら真剣な眼でこちらを見てくる。

 

「……そうですか。あの子達のことを話す前に……、さっきの話をちゃんと伝えないと、いけませんね。それが、シズ先生の遺志だというのなら。僕も貴方達に託してみます」

 

 ユウキは秘書さんに何か資料を持ってきてほしいと頼み、取りに行かせる。

 

「ではまず……お二人には自由学園の教師になっていただきましょう」

「は? 俺が?」

「教師?」

 

 自分とリムルがポカンと、良く分からない顔をしてユウキを見る。

 

「はい、シズ先生の遺志を継ぐのなら。「先生」という立場が最も適しています。シズ先生が辞任して以来、後任のいないクラスがあります。良ければリムルさんとウィンさんには、そこの担任を……」

 

 そこまで言われて、ちょっと悪い予感が脳裏に過った。

 

「待った。そのクラスの生徒が例の5人の子供達なのか?」

「……そうです」

「後任がいないというのはどういうこと?」

「あぁ、学校として無責任すぎるだろ」

「返す言葉もありません。ですが、英雄シズエ・イザワの後任というのは荷が重く……」

 

 なんかユウキの言い方は、歯切れが悪い感じがする。

 

「比べられちゃ敵わん、ってことか? だからってなぁ」

「……ねぇ、それだけじゃない? もっと別の理由があったりする?」

「…………ウィンさんの予想は当たっています。これからする話は、あまり気分のいいものではありません。だからこそ、あの子達の担任には、知っておいてもらわねばならないのです」

 

 それがさっきの「呼ぶ」と言っていた事と関係しているのなら、自分達もしっかりと聞いておかなければならない事だ。

 

「リムルさん、ウィンさん。この世界の人間と魔物の力関係について、どういう認識ですか?」

「……まぁ、魔物の方が強いんじゃないか?」

 

 リムルの言う通りだろう、ただ控え目な言い方だけど。

 

「控え目な表現ですね。人間からすれば強靭な肉体を持ち、数多のスキルを使う魔物は無視のできない脅威です」

 

 それはそうだろうね……ヴェルドラとかミリムとかを知ってしまうと、尚更にそう感じてしまうだろう。

 

 アレらのレベルは、その気になったら人間の国の一つや二つを一人で滅ぼせそうだ。

 

「人々は常に希望となる勇者の存在を求めています。しかし、人間は生来、スキルを持ちません。厳しい訓練の末、手に入れることもありますが……強大な魔物に対抗できるほどの能力を得る者は、そう簡単には現れません」

 

 そう考えると、ヨウム達の存在は凄く貴重だったんだと思える。

 ヨウムも地獄の様な特訓でスキルを手に入れていたみたいだから……白老にも鍛えられてそうとうな能力を得たことだろう。

 

「……だから人々は選択したのです。万の犠牲を出してもたった一人の英雄を生み出すことを――」

「どういう意味だ?」

「厳しい訓練をせずとも、人間がスキルを持つ可能性が一つだけあります。リムルさんとウィンさんにも、覚えがあるのではないですか?」

 

 思い当たることは、異世界からこちらへ渡った時という事になる。

 

「異世界から、こっちへ来る時、か」

「そうです、僕のような例外もありますが。異世界人は大抵、なんらかのスキルを身につけている。というのが定説です」

「定説……それって、この世界では結果が得られているって言い方に……」

「ウィン?」

 

 自分は驚き、戸惑いながらユウキを見る。

 リムルはまだ分かっていないみたいだけど、研究が進むほどに異世界人がこちらに渡ってきたとは思えない、なら、考えうる最悪は……召喚という「呼ぶ」という行為が真っ先に頭に浮かぶ。さっきユウキが言い淀んだ事と、気分の悪い話にも繋がる。

 

 ユウキは自分の顔色を見て頷きながらも、話を続けてくれる。 

 

「世界を渡る際に肉体が一度滅び、再構成される時に大量の魔素を取り込むのですが、そのエネルギーが本人の望みに沿った形で定着するのがスキルや耐性なのだとか」

 

 自分もリムルもあちらに体は置いてきちゃった感じだ。

 けど、そういう仕組みでスキルや耐性を得て、こちらに来るんだ。

 

「ですが、偶発的にやってくる異世界人を待っているだけでは、人々の不安が解消されるまでには至りません。だから、各国は極秘裏に召喚の儀式を行っているのです」

「国ぐるみの誘拐じゃねぇか。標的になった方はたまったもんじゃないな」

「ある日突然、見知らぬ世界に呼び出された上、魔物と戦わされる……」

「はい……兵器として、期待される彼らは逃げ出さないよう魔法で行動の制限を受けます。殆どが護衛として王族や貴族に仕えているでしょう」

「なるほど、確かに胸糞の悪い話だ」

 

 秘書さんが持ってきてくれたシュークリームを食べたリムルが驚いたような顔で固まり、一気に食べ始めた。

 そして、まだ食べていない自分の方のシュークリームをチラ見しだした。

 

「あげないよ?」

「まだなにも言ってねぇじゃん」

 

 そっとリムルからシュークリームを遠ざける。

 

 そんな事をしていると、ユウキが秘書さんが持ってきてくれた資料を、自分達の方へと差し出してくる。

 

「これを見て下さい」

「名簿?」

「例のクラスのやつか?」

「はい」

 

 パッと開いた名簿にはこの世界の文字で書かれているので、まだスラスラとは読めない。

 

「アリ……アリス、ロン、ド? クル、クロエ……」

「アリス・ロンド、7歳。クロエ・オベール、8歳。ゲイル・ギブスン、9歳。リョウタ・セキグチ、8歳。ミサキ・ケンヤ、8歳」

「あぁ、助かる」

「それか、ら……えっ⁉」

「お、おい、どうした?」

 

 そこまで読んでいて、ある一文が目に入って来た。

 

〈告。特記事項に需要と思われる記述があります。読みますか?〉

【ああ、頼む大賢者】

〈全員、推定余命。一、二年〉

 

「どういうこと⁉」

「おいユウキ、どういうことだ!」

 

 リムルとほぼ同時に叫んでいた。

 

「召喚の儀式には膨大な手間と費用がかかります。そこで簡素化された召喚術式が編み出されたのですが……。その方式では失敗が多く、戦う力を獲得していない子供たちが呼ばれてしまうのです。そして本来、スキルへと還元される大量のエネルギーは行き場をなくし――――やがて、その身を焼き尽くす」

 

 多少の境遇は想像が出来ていたけど、ここまでの事とは思わなかった。

 

「なら、不完全召喚された子供達は、その殆どが数年以内に死んじゃうってこと?」

「確認されているので、五年以内に死んでしまうそうです。シズ先生の後任がいない理由がお分かりでしょう。皆、責任を持てないのです」

 

 リムルも何も言えず、自分も握った拳に力が籠っていく。

 

「あの子達は――、理不尽に呼び出され、死を目前に控えた。勇者のなり損ないなのですから」

 

 ユウキも悔しそうな表情で、静かに語っていた。

 思った以上にやっかいで、大変な事だろうけど……シズさんの遺志だけじゃなくって、その子達を絶対に助けたいと、改めて自分で誓おうと思う。

 

 

 この子達がこれから先も笑っていられるようにすると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで

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