子供達を連れて運動場までくると、時間的に休みなのか他の生徒たちが多く居る。
「テストって、なんで運動場なんだよ」
「まぁまぁ」
自分達の事を聞いているのか、なんか注目の的になっている。
「え、何? どこのクラス?」
「ほら、例の……」
「あれが、新任の先生? 子供じゃん」
色々と言われているが、今は気にしていてもしょうがないだろう。
「テストって……、一体何をするんです?」
「模擬戦だよ」
リムルと自分は上着を脱いでライナに預け、少し身軽な格好になる。
「全員、いっぺんに来てもいいぞ」
「それじゃあ……一人でやる?」
「あ~、どうすっかな。別にそれでも良いんだけどな。好きな方を狙って良いってのはどうだ? お互いに干渉は禁止な」
自分達がそんな話をしていると、舐められていると感じたのか露骨に苛立った様子をみせる子供達。
まぁ多少は挑発しているんだけどね。
全力で来てくれないと、意味がない。
「信頼を得るのが難しそうだしな」
「シズさんに劣らないとこ見せないと、駄目そうだし?」
シズさんの名前を出した途端に、ケンヤとゲイルから殺気交じりの視線が向けられる。
「ご自分がシズ先生に並ぶと? ずいぶん大口をたたくんですね」
一番最初に動いたのはゲイルだった。
「大怪我しても、怨まないでくださいよ‼」
右手を空へと上げて、魔力弾を作って自分の方へと飛ばしてきた。
「ん、良い魔力弾だけど……ちょっと雑? 威力はそれなりだけど、力が飛散し過ぎかな? でも、当たれば良い威力? 当たれば、だけどね」
魔力弾に圧縮した風を当てて彼の魔力弾を乱すように中から飛散させる。
傍から見ると、ちょっとした風魔法を無詠唱で使い、指を鳴らしてかき消したように見えたのか、周りにいた生徒たちが唖然としている。
「なんですかそれ!」
「何って……風霊術?」
ニコッと微笑んでゲイルに言い返すと、ちょっと頬を赤くしている。
「汚いですよ、そういうの!」
自分がよく分からずに首を傾げていると、リムルが隣でニヤニヤしながら笑っている。
「よく覚えておきなさい。大人は汚いのだよ」
なんでリムルが答えるんだろう。
そんな話をしていると、隙を付いてリョウタが身を低くしながら、獣のように自分へと襲い掛かってくる。
「ぐるあぁぁ!」
「狂戦士化かな?」
軽く彼の攻撃を手先でいなしながら、しばらく様子を見る。
「肉体強化はなかなか良い? けど……」
少しだけ身を屈め、力任せに振るっている力を利用するように片手でリョウタの手を上から下へと回すように動かすだけで、リョウタを遠くへと投げ飛ばす。
「意識がないのは、駄目? ……マイナス点?」
飛んで行った先に風霊術を足に纏わせた一歩で一瞬で追い付いて、リョウタはさっきまで自分が居た場所を見た瞬間に後ろからコツンと頭を小突いてリョウタの狂戦士化を解除してあげる。
「はッ⁉」
その様子を見てか、ケンヤの方はリムルの方に標的を定めたみたい……いや、教室でやられたから、それのお返しという感じかもしれない。
「これでも……くらえぇ‼」
ケンヤは無数の火炎弾を雨の様にリムルへと飛ばすが、リムルの方は体勢を低くしながら地面を這うように走ってケンヤの方へと近付く。
「……シズさんに憧れるのは分るけど――」
ケンヤは火炎弾を飛ばすのに必死で、リムルの接近に気付いていない。
リムルがケンヤを脅かすように、屈めた体制を彼の前でワザと正す。
きっとケンヤにはリムルが下から突然に飛び出してきたように見えたと思う。
「うわっ‼」
「扱い慣れないなら、炎に拘るのはやめておけ。エネルギー効率が悪い」
「ぶッ⁉」
リムルはケンヤにデコピンをして終わらせる。
少し悔しそうにしながらも、ケンヤはすぐに後方へと飛び退いた。
「流れる水流よ我が敵を捕らえよ。ウォータージェイル」
今度はクロエが魔法を唱え、リムルを渦潮の様な水流がリムルを包んでいく。
「水の檻ね……見事なもんだ」
結構すごいかも、密度もしっかりしている。
下手にあの水流に触れれば危ないだろう……普通だったら、だけどね。
「そこから水の刃を降り注がせることも出来る、負けを認めるなら解除するけど……負けを認めないなら死んじゃうよ?」
クロエはリムルを脅すように言うけど、リムルは気にした様子もなく水の刃が回す渦へと突き進んでいき、何事もなかったかのようにクロエの魔法から抜け出してきた。
「あ、あれ!? なんで……」
「すごい魔法だったぞ。今後ともしっかり勉強するように」
リムルはクロエの頭を撫でながら言うと、彼女は少しだけ泣き出してしまう。そのことにちょっと気まずそうにしながらも、リムルは撫で続けていると……クロエは俯きながらも、ちょっと口角が上がって頬を赤くしている様に見えた。
多分、気のせいだろう。
「さすがにアレは危ないから要らないよね?」
クロエの使った魔法を自分が魔法陣を展開させて吸収する。
結構濃い魔素を使った術だったから、ちょっと気になって吸収させてもらった。
「こうなったら、私のお人形で……。あっ⁉ 耳が、こ……焦げてる‼ なんで……」
「さっきケンヤが所かまわずに撃った火炎弾?」
自分の言葉にはっとして、アリスはケンヤの事をポコポコと殴りだした。
「もーっ! あんたがバカスカ火ばっかり使うからぁ‼」
「お、俺のせいかよ⁉」
「二人共、それどころじゃないだろ‼」
その様子を見ていたライナがアリスに近付いてく。
『ほら、ちょっと見せてみなさい』
「え……、はい」
アリスは戸惑いながらもクマのお人形をライナに見せる。
『ちょっとそのまま持ってて』
「な、何する気よ?」
『治療よ』
ライナがウィンクしながらアリスに答えて、手を翳して焦げた部分の耳に光霊術を光を当てると、すぐにクマの人形は綺麗に修復されていった。
『ほら、治ったわよ』
クマの人形が元通りになってアリスは目を輝かせながら、物凄く喜んでいた。
「さすがライナだ」
「それで、次はアリス? その人形で戦う?」
アリスはギュッとクマの人形を抱きしめている。
「なによぅ……」
「……先生、その仮面、シズ先生の?」
クロエがリムルの事を見ながら、遠慮がちに聞いてくる。
「ああ、この仮面と一緒にお前達のことも託されたと思っている」
「その場には自分も居た……」
「あのね、アリス。私、リムル先生とウィン先生は信じていいと思う。それに助手のライナさんも」
大人しい感じのクロエが率先して言うのは、ちょっと驚きだ。
「ボ、ボクもそう思う」
次はリョウタが声を上げる。
「だってシズ先生の後に来た先生達はみんな、玩具とかくれたけど……ボクらと話そうとはしなかった」
「リョウタの言う通り、この人達は今までの先生とはタイプが違う。それにシズ先生の知り合いなら……信じてみたい」
リョウタに続いてゲイルも自分達を真っすぐに見て言ってくれる。
「……わかったわよ。冷静なゲイルまでそう言うなら、信じてあげる」
プイッとアリスが顔を背けながら言うけど、その顔や耳は真っ赤に染まっている。
「お人形直してくれたし、テストはここまでにしてあげる!」
「ん、ありがとう?」
「ありがとな」
テストを受けていたのは、どっちもだったのかな。
「ケンヤはどう?」
「お前も信じてくれるか?」
何も言わずにケンヤは地面を見つめている。
「……シズ先生だって。俺たちを見捨てて行っちゃったじゃないか」
ケンヤは拳を握りしめながら、か細く言葉を吐き捨てる。
きっと本心であり、本気で言っている言葉でも無いんだろう。
アレだけシズさんに憧れているケンヤだもん、信じている気持ちが大部分を占めているのに、居なくなってしまったシズさんを責めずにはいられないんだと思う。
その証拠に、彼の体は震えている。
「今さら、新しい先生が来たからなんだっていうんだよ。俺たち……もうすぐ死んじゃうんだぞ‼」
怨みでもなく、怒りでもなく……悔しさと、苦しさが入り混じったような、ケンヤの叫び声が響く。
だからこそ、真っすぐに自分達も言ってあげなけらばならない。
「間違ってるよ?」
「え?」
ケンヤの目を見つめながら、真っすぐに言い返す。
「あぁ、先ず一つ、シズさんは決してお前達を見捨てたわけじゃない。彼女の最後の旅はお前達のためのものだったんだよ」
リムルはゆっくりとケンヤに近付き、彼の肩に優しく手を置いて言う。
「俺たちの、ため……?」
シズさんが子供達を置いて旅に出た理由……初めは分らなかったけど、今ならなんとなくだが理解出来る。
シズさん自身も召喚された子供だったはずなのだ。
それなのに寿命を全うできている……それは、身内にあふれるエネルギーを安定させた自分がいたからだと思う。
そして、旅に出たのはそれを聞き出すつもりだったんじゃないか――。
相手にどんな意図があったかは謎だが、自分の命を救ったその方法を……魔王、レオン・クロムウェルに。
「もう一つ、間違ってる? 「もうすぐ死ぬ」ってところだけどね……悪いけど絶対に、死なせないよ? それに……シズさんは、笑顔で逝ったの。心残りは君達だと言っていたけどね」
目を逸らさずに、全員の目を見ながら力強く言う。
言葉に自分の覚悟を乗せて、子供達に届けるようにまっすぐな言葉で。
「安心しろ、シズさんのやり残したことは、俺達が継いだ。だからお前達は俺達を信じて、いい子になれよ?」
「明日も……未来だって、笑って楽しく暮らすせるよう。絶対に助けるよ」
「あぁ、絶対に助ける。必ずだ」
そう自分とリムルが言うと、子供達は泣き崩れるように身を寄せ合って抱き着いてきた。
それをしばらく、リムルやライナと一緒に皆の頭を撫でながら泣き止むまで、いつまでも待ってあげる。
次の解放テーマ、ワルプルギス終わりまで
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