侍は迷宮を歩く   作:DRたぬき

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第百十八話:フォラスと王

 地下八階は大方探索も済んだ。

 道化師なるものと戦い、無事白金の護符も戻ってきた。

 今回の迷宮探索の目的は達成したので、地上へ戻ろうという流れになったのだが。

 

「……アーダル、なぜお主も俺に抱き着いてきているのだ?」

 

 アーダルは俺の右腕に抱き着き、あからさまに口をとがらせている。

 

「たまには僕もこうやって甘えたいんです。だめですか」

「駄目とかそう言う訳じゃないが……」

 

 ノエルの方をちらと見やると、彼女は涼し気な顔を崩しては居なかった。

 内心面白くはないはずだが、余裕があるな。

 

「宗一郎の事が好きなのはわかるけど、急に大胆ね。どうしたのかしら」

「別に、いいじゃないですか。今回僕はミフネさんの役に立ったんですよ。これくらいしたっていいでしょ」

 

 ノエルの言葉に顔を背けるアーダル。

 どうやらノエルにやきもちでも妬いたのかな。

 アーダルが俺に好意を抱いているのは知っている。

 

 忍者に転職してからは、つとめて自分の近接戦闘における実力を上げようと努力をし続けていた。

 そして今回、ノエルとフォラスが戦闘から離脱し、盗賊の迷宮以来の二人で敵と対峙したが思った以上に連携が取れて、策が当たった。

 もう、立派な前衛になっている。

 いや、それはもっと前からだな。

 俺と並び立ってずっと戦っているのに違いはないのだから。

 

「道化師との戦いにおける奇襲はまことに見事だったぞ。これからも俺の隣に立ってほしい」

 

 そう言うと、アーダルは満面の笑みを浮かべて鼻息を荒くした。

 まだ彼女が十五くらいの少女だという事を最近は忘れていた気がする。

 大人びて見えるが、まだまだ気が逸ってしまう時だってある。

 

「なんだかアーダルに甘いわね宗一郎。面白くないなあ」

「今回の戦いで眠りこけてた人が何を言ってるんですか」

「しょうがないでしょ! プリズミックミサイルに当たっちゃったんだから」

 

 俺を挟んで口喧嘩をしないでほしい。

 フォラスはそんな様子を見て笑っている。

 

「両手に花じゃのう」

「これを見てそう仰りますかフォラス老」

「この程度じゃれあいみたいなものじゃろう。可愛いものじゃよ。殺し合いにならないだけな」

 

 それは確かにそうだが。

 迷宮の中で本気の仲違いを起こした冒険者がどうなったか、話を聞くだけでも暗澹たる気持ちになる。

 その場で解散となって、分断されたのと同じとなり結果魔物の餌食となるか。

 あるいは殺し合いになり、迷宮に死体を晒してやはり魔物たちに喰われるか。

 また、酒場で酔った勢いで本音を漏らし、そこからやはり斬り合いになって血を見る羽目になったりと枚挙に暇がない。

 

 俺もある冒険者たちの仲間に加わった時に諍いが起きた時があった。

 酒に酔った戦士二人が過去の出来事を蒸し返すうちに感情的になり、剣を抜いて斬り合いを始めたのだ。

 幸い、酔っていたので素面の時よりも剣筋が鈍かったから、仲裁して武器を取り上げるのに苦労はしなかったが。

 酒場の外に蹴りだし、素手で思う存分殴り合ってもらった。

 その後は結局、戦士二人の片方が抜けてしまったが死ぬよりはよほどマシだ。

 

「二人ともその辺りにしなさい。迷宮で騒いでいると魔物が寄って来る。地上に戻ってからいくらでも喧嘩をしなされ」

 

 フォラスが間に入ると、二人とも少しばつが悪そうにうつむいた。

 こういう時の仲裁には、俺ではなく他の人に入ってもらえると非常に助かる。

 俺が口を挟むと、余計に争いが過熱してしまうからな。

 宥めた後、フォラスが呪文を唱え空間転移によって無事に迷宮の入り口まで戻る。

 

 迷宮から出ると、何故かそこにはフェディン王の部下達が待っていた。

 王の周辺に侍る大臣の一人が、俺たちを睨みつけている。

 

「ようやく戻って来たか」

「ここまで来るとは、一体何の御用ですか大臣殿」

「それはこちらの台詞だ。エレベータも直っていない上に魔術師もまだ居ないはずだろう。何故そなたらは迷宮に潜っているのかね」

 

 なかば詰問じみた質問。

 そんなに今回の事が想定外の行動だったのか。

 すると、フォラスが俺たちの前に出て大臣の目前に立った。

 大臣は色めき立つ。

 

「フォス=フォラス……」

「儂が彼らの仲間に入ったのだが、何か問題でもあるかな」

「……ひとまず、王が君達に会いたがっている。城まで至急来てもらいたい。嫌とは言わせぬぞ」

 

 大臣は苦虫を噛み潰したような顔をし、その場を後にした。

 

「全く変わらん連中じゃの」

「王家とは何度か話し合いを持たれたのですか」

「何度かの。王の直属の顧問として仕えないかとも誘われた時もあったが、そんなものより時を操る魔術を完成させる方が大事だ。なにより、まず儂を雇いたいのならアーティファクトを返却するのが筋だろう。それでも雇われる気はさらさらないがな」

 

 フォラスが言うように、魔術師は己が人生の目的と言うべき探求をしている者が多い。

 故に、俗世の人間が願う様な名誉や財産と言った物に興味を示さない者が多いのもまた事実。

 

「とりあえず、誘われているからには行こうか。久しぶりに当代の王の顔でも拝むかの」

 

 

 

 

 城へ辿り着き、謁見の間に通される。

 大臣たちが並び、兵士もまた至るところで警備を固めている。

 フェディン王はひじ掛けに寄りかかり、俺たちを見下ろしていた。

 俺たちが跪くと、王は立ち上がる。

 

「地上へ上がって来たという事は、白金の護符を取り戻せたのであろうな」

 

 王の問いに、フォラスは立ったまま答える。

 

「いや、あれは悪魔の生み出した炎によって消失した」

「あれが? 如何なる干渉も受けぬ物のはずであるが……」

 

 訝しむ王の態度にも全く怯まないフォラス。

 

「しかしそれが事実である。この世より無くなった物を持ってこれるはずも無かろう」

「不敬であろう、フォラス殿。控えよ」

 

 大臣の一人がフォラスに言うが、フォラスの一瞥によって気圧されて口をつぐむ。

 

「よい。フォラスは我らより遥か昔から生きている伝説のような人物だ。頭を垂れるような気にはならぬだろう。消失したのであれば致し方ない。非常に惜しいがな」

「それにしても久しいな、フェディン王」

「こちらこそ。迷宮の管理人が迷宮から出てくるとは一体どのような心変わりかと」

 

 フォラスは王に更に近づく。

 周囲の近衛兵がざわめき、剣の柄に手を掛けるが王がそれを手で制する。

 二人の距離は、睨み合いをするような間合いに近づいた。

 

「儂の心は何も変わってはおらぬよ。いよいよ迷宮を封印する時が来た。それだけを王に伝えようと思ってな」

 

 王が少しだけ、眉を上げた。

 すぐに穏やかな笑みを取り戻すが。

 

「迷宮は今や、都市に災禍をもたらすものである。フォラスが宗一郎たちに協力するとなれば鬼に金棒であろう」

「儂は迷宮の深部に至れる者をずっと待ちわびていた。五百年も待った。お前らが儂に協力せぬがゆえに結果的に無為に過ごしてしまったぞ。今更手助けは無用だ」

「無礼な!」

 

 口々に大臣たちが声を発するが、フォラスが更に彼らを睨みつけると、その気迫に気圧されて二の句を告げる事は出来なかった。

 所詮大臣どもではこの老人の持つ胆力に敵う奴などいない。

 フェディン王は流石に国を統べる者だけあり、全く怯んではいないが。

 

「自らの不始末をそのまま放置して逃げる選択肢もあったが、恥を忍んで王家に協力してくれぬかと頼んでも王家は儂を助けてはくれなんだ」

「迷宮の探索と言えば冒険者がやるのが筋であろう。あえて言うが、ふがいない者ばかりであった故に迷宮の攻略が進まなかったのであろう」

「戯言は結構。儂はこの若者たちと共に迷宮を封印する」

 

 きっぱりと言い放つフォラスに対し、色めき立つ王の部下たち。

 しかしそれでも、王は笑みを崩さない。

 

「そうか。しかし何時でもそなたらのサポートは惜しまぬぞ。我らにしてもようやく迷宮を踏破してくれる者が現れたのだからな。そうそう、エレベータも修理が完了したから是非使ってほしい」

「協力を惜しまぬというのなら、儂が集めたアーティファクトを返却してくれぬかね」

「あれは我が先祖が迷宮で見つけたものだ。そなたの所有物という証拠があるのかね」

「白々しい。あれは儂の研究室に所蔵しておいたものだぞ」

「先祖がそう言っている以上、私にはそれ以上知る術はないのでな。ともかく、我が宝物庫に収められている財宝に手出ししようなどと変な気は起こすなよ」

 

 流石に王は古代遺物(アーティファクト)を返すつもりはないようだ。

 白金の護符に代表されるように、ひとつ古代遺物(アーティファクト)があるだけでも探索が楽になり、戦闘でも状況を一変させるだけの力がある。

 俺が王でも誰かに譲るつもりはない。

 

「もっとも優先すべき事項は迷宮の封印だ。今しばらくはお前らの手元に置かせてやろう。いずれ、回収させてもらうがな」

「……迷宮探索の無事を祈っているぞ、フォラス。そして宗一郎たちよ」

 

 王はこれにて謁見を終わると言い、部屋を後にする。

 大臣や部下もそれに続き、俺たちだけが残された。

 フォラスは俺たちに向き直り、清々しい顔で言う。

 

「少しは鬱憤も晴れたわ。では次回の迷宮探索の為に、打ち合わせでもするかの」

 

 流石に五百年以上も生きている者は、肝の据わり方が違うものだ。

 その胆力こそ、俺が見習うべきものであろうな。

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