侍は迷宮を歩く   作:DRたぬき

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第二十四話:昨日の友は今日の敵

 死体の巨人を倒した俺たちは地下三階を更に進んでいく。

 そんな中、アーダルがしきりに空いた左手を気にしていた。

 

「どうした?」

「スモールレザーシールド、斬られちゃったじゃないですか。軽いのもあるんですが、防具が無いのがちょっと不安で……」

 

 アーダルの革小盾(スモールレザーシールド)は冒険者を始めてからずっと装備していたものだろう。

 手に馴染んだものを失って不安に思う心は理解できる。

 

「儀式剣は素材がちょっとあれなんで、防具として使い続けるには不安で」

 

 確かに。

 エルフの道具であるだけに、何らかの加護は掛かっていると思われるが水晶は防具の素材としてはあまり向いていない。

 

「なら俺の脇差を貸してやるよ。何も無いよりはマシだろう」

 

 俺は打刀についているもう一つの短い刀をアーダルに抜いて与えた。

 

「いいんですか?」

「ああ。脇差は普段あまり使わんからな。長さも短剣(ショートソード)とほぼかわらんし、短剣を多少使っていた経験もあるならそのうち慣れるだろう」

「やった!」

 

 アーダルは脇差を左手に持ち、振っては感触を確かめている。

 右手には手斧(ハンドアクス)、左手には脇差と言う変則的な両手の武器構成となったが、意外といけるかもしれない。

 そんな事を考えながら歩いているうちに、またも通路は曲がり角。

 角の先を覗いてみると、先ほどと同じような形の墓が並んでいる。

 しかし違う点が一つあり、墓の前にはこれ見よがしに朽ちて錆び付いた鎧が転がっている。

 

「なんですかね、あれは」

「さて、わからん。だが近づいたら明らかに動きそうだな」

 

 アーダルを後ろに控えさせ、俺がまず一人で先行する。

 一歩一歩、転がっている鎧へと近づいていく。刀の柄に手を掛けながら。

 すると予想通り、墓から鬼火が現れて鎧に次々と憑依する。

 やがて骨人(スケルトン)が組みあがるのと同じように、朽ちた鎧が中身なく立ち上がる。

 中身も無いのに歩き出す鎧たち。

 亡霊が憑りついた鎧はゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。

 よくよく鎧の胸部を見ると、霊の顔がうっすらと見える。それぞれの顔が異なっており、彼らは恐らく鎧を着けていた戦士だったのだろう。

 肉体すら失い、しかし魂と鎧だけは使命を忘れておらずに現世に遺していたのだ。

 

「この魔物は知っていますか、ミフネさん」

「流石に俺もこれには遭遇した事はないな」

 

 名前もわからぬ魔物。

 だが亡霊が憑りついて動き出した鎧、と言うには舌を噛みそうだ。

 

動く鎧(リビングメイル)とでも呼ぶか」

「亡霊が憑りついているのに生きて動く鎧、ってのも何だか変な名前だと思いません?」

動く石像(リビングスタチュー)とか、実際には生きていないのにそう呼ばれてるんだ。別にいいだろう。生きているかのように動くって意味合いもある」

 

 こじつけに近いが、大体の魔物なんてこんな風に名付けられている。

 第一めんどくさい名前を付けた所で誰も覚えないし、いつの間にか直感的にわかりやすい方で呼ばれるようになるしな。

 

 しかし緩慢な動きだ。

 中身が無く、亡霊たちもそれほど物理的存在に干渉できる力が無いのか、素早く動かす事は出来ないらしい。

 これなら囲まれでもしない限りはそれほど苦労せずに倒せそうだ。

 

 俺は打刀を抜き、動く鎧(リビングメイル)の体に一撃を加えてみる。

 自慢ではないが、俺はそこらの鎧くらいなら刀で真っ二つに出来る。

 動く鎧(リビングメイル)の胴体に刀の刃は食い込んだ。が、刃は鎧を通らずに鈍い金属音を立てて勢いを殺され、止まってしまった。

 思った以上に硬い。

 何百年この通路に転がっていたのかわからないが、見た目は錆びや経年劣化が見られるにも関わらず、強度はほぼ今の鎧と同じかそれ以上と言ってもいい。

 霊の怨念によって強化でもされているのだろうか。

 わからないが、硬いのは確かで厄介だ。

 普通に戦う場合なら。

 

「溌!」

 

 呼吸を整え、霊気を体に巡らせる。

 刀に霊気を宿らせると、刃がうっすらと光り輝く。

 鎧が硬くとも、操っている本体を倒してしまえば何の問題もない。

 動く鎧(リビングメイル)も霊気の持つ力に気づいてか、途端に後ろに下がり始める。

 

「逃がすか!」

 

 踏み込んで上段から刀を振り下ろそうとした時、動く鎧(リビングメイル)は驚くべき行動をとる。

 

「ぬおっ!?」

 

 俺と動く鎧(リビングメイル)の距離は離れていたはずだが、そこから鎧の篭手が伸びて攻撃を仕掛けて来たのだ。

 間一髪で気づいて刀で弾き、難を逃れたが鈍い動きで侮っていると面食らう攻撃だ。

 しかも疲れを知らぬ不死となれば、いくらでも手足を遠間から伸ばしてくる。

 

「厄介だな。僕の武器はどれも短くて懐に入りようがないですよ」

 

 背後でアーダルがぼやく。

 

「何を言ってるんだ。俺よりももっと間合いに優れた武器を持ってるだろ」

「あ、そうか」

 

 言われ、アーダルは背負っているエルフの短弓(ショートボウ)を取り出した。

 これなら懐に入る必要もなく、更には動く鎧(リビングメイル)の間合いよりも遠くから一方的に攻撃出来る。

 俺も武器を野太刀に変え、霊気を更に練って遠当てを使う準備を整える。

 

「いくら間合いが遠いと言っても、更に遠くから攻撃すればいいだけだ」

 

 

 

 そうして、俺とアーダルの遠距離攻撃によって動く鎧(リビングメイル)を一掃した。

 対処法がわかってしまえばこんなものだ。

 

「ハイスケルトンよりは楽でしたね」

「ああ。だがそれは俺たちが不死に対して有効なものを持っているからだぞ」

「肝に銘じておきます」

 

 さて、通路を進むと今まではずっと一本道だった所に珍しく分かれ道がある。

 分かれ道の壁には文字が書き込まれている。

 

『こちら、地上へ帰還する魔法陣あり』

 

 右の通路へ行くと、確かに魔法陣が行き止まりの所に配置されている。

 

「わぁ! 地上に帰れる!」

 

 アーダルが喜び勇んで駆けだそうとしている襟首を俺は掴んで制する。

 急に襟首をつかまれてつんのめり、むせるアーダル。

 

「うえっ! ちょっと何するんですか!」

「地上に帰れるってのは確かに魅力的だ。悪魔的な程にな」

 

 だが少し待って欲しい。

 悪辣な罠を仕掛けてくる奴らが素直にこんな親切をしてくるだろうか?

 俺は動く鎧(リビングメイル)の篭手を持ち、魔法陣の前に立つ。

 

「それでどうしようと言うんです?」

「まあ見ててくれ」

 

 魔法陣の上に篭手を投げ捨てると、魔法陣が眩く輝いた。

 光が徐々に収まり、魔法陣があった場所を見てみるとそこには石の柱が建っていた。

 動く鎧(リビングメイル)の篭手は石柱の中に埋もれている。

 

「魔法陣を踏んでいたら俺たちもこうなっていたな」

「げぇ……えげつな……」

 

 その後、石柱ごと篭手は砕けてバラバラになった。

 転移する場所を間違って建物の中に埋もれた、という人の話は聞いた事はあったが、実際に目の当たりにすると背筋が寒くなる。

 無機質と混ざり合った人を助ける術は今の所無い。

 肉体と無機質が混ざり合い、呪文を受け付けなくなるらしい。

 唯一、完全蘇生(トゥルー・リザレクション)だけが肉体を失った死者すらも蘇らせることが出来るが、太古の時代に存在していたと本に記述が遺されているだけだ。

 サルヴィの寺院の大僧正すら使えるのは蘇生《リザレクション》までだ。

 

「なあ、アーダル。お主は帰りたいのか、それとも父を蘇らせたいのか、どっちなんだ?」

「え、それは勿論父は蘇らせたいですよ」

「本当にそう思ってるのかもしれんけどな、そういう風に都度帰りたがるようでは少しばかり疑いたくもなろうが」

「……すいません」

「いい加減、腹を据えて覚悟を決めろ。俺たちは宝を得るまで前に進むしかないんだ」

「はい……」

 

 どうにも初心者だからか危険を回避したがる癖と言うか、臆病心が見えるな。

 とはいえ、俺もまさかこの迷宮がここまで様変わりしているとは思わなかったから、それは俺も悪いと言えるが。

 ここまで来たからには待ち受ける強敵を踏み越えていくしかないのだ。

 

 罠を回避して通路を進むと、またしても扉が見えてくる。

 先ほど見た大部屋の扉と同じだ。

 扉を押して開くと、やはり先ほどと同じような広い円状の空間が広がっている。

 しかし扉の先に敵はいない。

 先に進む扉は固く閉じられている。

 俺たちが部屋に入ると、やはり同じように鍵が閉ざされてしまった。

 敵を倒すと何らかの仕掛けで扉が開く、という機構になっているのに敵が居ないのでは俺たちは閉じ込められただけなのではないか。

 これも罠の一種か?

 

 しかし部屋の中央には何故かぽつんと宝箱が一つ置いてある。

 

「宝箱に何か仕掛けでもあるかな? ちょっと調べてみます」

「おい、先に行くなよ」

 

 盗賊の性か、宝箱を調べに先走るアーダル。

 

「罠は……かかってないですね。珍しい。っと、中にあるのは……これは首飾り?」

 

 綺麗だなと言いながら、アーダルは何気なく首飾りを首に提げる。

 

「調べもせずに装着するのは……」

 

 既に遅かった。

 首飾りを見た瞬間、彼は既に魅入られていたようだ。

 血のように赤い宝石の入った首飾りを提げた瞬間、宝石が光を発する。

 光に呼応し、大部屋の天井にびっしりと描き込まれた魔法陣が発動し、アーダルの下へとゆらゆら火の玉が降りてくる。

 火の玉はアーダルの体へと入り込み、やがて目を瞑っていたアーダルは顔を上げてこちらを見た後、自分の体を確かめるように軽く動かし始める。

 

「なんだ、ガキの方か。サムライの方が良かったぜ」

「アーダル、お主何があった。大丈夫か?」

「ああ。このガキはアーダルって名前か。いや悪いな。ちょっと体借りてるぜ」

「お主……アーダルではないな」

「察しが良くて何よりだ。じゃあオレがこれから何をしようかもわかるよな」

 

 アーダルの体を乗っ取った「何者か」は左手に脇差を逆手に構え、右手に手斧(ハンドアクス)を持って俺に向ける。

 今まで浮かべた事も無い凶悪な笑みを浮かべ、ジリジリと近づいてくる。

 

「これは参ったな……」

 

 まさか仲間が乗っ取られるとは考えもしなかった。

 アーダルを傷つけずに乗り移っている霊を倒さねばならない。

 

「……本当に、ここの連中は悪趣味が過ぎる」

 

 思わず愚痴り、俺は打刀を抜いて「仲間」に向ける。

 

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