侍は迷宮を歩く   作:DRたぬき

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外伝三話:ぼくらの迷宮探索

 僕を誘った癖毛の戦士は、イサームと名乗った。

 彼は既に冒険者をあらかた集めており、後は盗賊だけが欲しい状況だったようだ。

 他の冒険者たちも軽く紹介された。

 

 もう一人の戦士、ユリウス。金髪碧眼で美形だけど、なんか頼りなさげ。

 女僧侶、イヴェッテ。見た目おっとりしてて細い目をしてる。

 男僧侶、ルロフ。髪の毛を短く刈り上げててがっちりしてて、堅物そう。

 女魔術師のリースヴェルト。この中では一番年長の雰囲気を出している。神経質な印象を受ける。魔術師は大体みんなとんがり帽子をかぶってる。そういう決まりでもあるのかな? 黒い髪の毛が綺麗。

 

 以上の五名に僕、盗賊アーダルが入る。

 全員人間で、他種族はいない。

 

「どうして人間だけのパーティになったの?」

 

 素朴に思った僕は何となくイサームに尋ねてみた。

 

「だって、他種族は考え方が人間(ヒューマン)とは違うだろう? 初めての冒険だからさ、なるべく同じ価値観を持ってる人たちを仲間にしたかったからね」

 

 イサームは笑顔でそう言った。

 そんなものなんだろうか。僕もまだミフネさんみたいに人間としかパーティを組んでいないからよくわからない。

 

「よし、じゃあ仲間も揃った事だし早速迷宮に入ろうじゃないか」

「ちょっと待って。今日はどういう風に迷宮を探索しようか考えてる?」

 

 イサームはとても積極的で、それ自体は良い事だとは思うんだけど急ぎすぎのように思える。

 

「それはもう、一気に地下三階くらいには到達したいね! 一日でズバッとさ。それで魔物をバッタバッタとなぎ倒す。それ以外に何がある?」

 

 あまりの考えなさに、思わず僕は頭を抱えたくなった。

 

「幾らなんでも、そりゃ無理だよ」

 

 イサームの背後から声が飛ぶ。

 ユリウスと名乗った戦士だ。

 

「何だと?」

「僕らみたいな初心者が地下三階になんて行けるわけないだろう」

「うむ、流石に小生もそう思う」

「わたしも」

 

 僧侶二人、ルロフとイヴェッテも同調した。

 

「行けても地下二階くらいじゃないかしら」

 

 魔術師リースヴェルトが口をはさんだ。

 彼らの反対に、イサームは途端に口をとがらせる。

 どうやら流石に、他の仲間たちは自分たちの事はそこまで過大評価はしていないようだ。

 僕はホッと胸をなでおろす。

 

「アーダルはどう思ってるの?」

 

 リースヴェルトから水を向けられる。

 

「僕は地下二階にすら行くのは反対だよ。そもそも地下二階に行くのだって、迷宮に何度か潜って、地下一階をある程度網羅できるくらいの実力じゃないと無理だってギルドの人が言っていたし」

「なるほどね。確かにそうかもしれないわね」

「だから今回は、地下一階の面積半分くらいを探索出来たら上出来じゃないかと思う」

「ふん、アーダルはまるで迷宮探索してきたように語るじゃないか。君だって初心者じゃあないのか?」

 

 イサームが苛立ち紛れに突っかかって来る。

 確かに僕も初心者には違いないよ。だけども。

 

「僕は一度、サルヴィの迷宮に入った事がある」

 

 そう告げると、にわかに彼らの顔色が変わった。

 一度だけでも潜った事があれば、経験者には違いない。

 

「そうなんだ。じゃあ、我がパーティ唯一の経験者というわけね。で、その時はどうだったの?」

 

 好奇心丸出しでリースヴェルトが聞いてくる。

 僕はゆっくりと首を振った。

 

「僕以外は全滅。危うく僕も追い剥ぎ(ハイウェイマン)に殺されかける所だったけど、ミフネさんに助けられた」

「ああ、あの魔術使えないサムライの人ね。死体回収業もしてるっていう一風変わった人」

「でもイサーム。その人の使う剣術ってのが、また凄いらしいんだよ。遠くの敵でもカタナでぶった切るらしくて」

「遠くの敵を剣で? そんな技術は小生聞いた事がありませんな」

「一度見てみたいわね、それ」

 

 口々に仲間たちが話し合う。

 ふふ、僕はその技を何度も間近で見た事があるもんね。

 

「わかったよ。つまりアーダルは経験者なのだから、自分の助言には従った方が良いって言うんだろう?」

 

 イサームが若干うんざりしたように口をはさむと、全員が頷いた。

 それが彼をまた不機嫌にさせたようで、先にこの部屋から出て行ってしまう。

 

「彼はまだまだお子様だな」

 

 ユリウスがため息を吐いた。

 

「ねえ、ユリウスはイサームと大分仲が良さそうだけど、何時から組んでるの?」

 

 イヴェッテが聞くと、ユリウスは首を振って答える。

 

「いや。二週間前に知り合ったばかりだよ。君達よりはちょっと早いけど、でも彼の言動の尻拭いばかりさせられてちょっとうんざりしてる。どうやらどこかの家柄の良い所の末っ子らしいんだけど、家業を継げない身だからって冒険者をやろうと思ったらしくてさ」

「でしょうね。あのお子ちゃまのお守りは大変だろうけど、皆でカバーしていきましょう」

 

 リースヴェルトがいつの間にか吸っていたパイプタバコの火を消すと、皆が頷いて外に出た。

 

「それで、これからどうするんです?」

 

 ギルドの外に出て集まると、ルロフが僕に尋ねる。

 

「まず、迷宮探索に必要な道具を揃えよう」

 

 僕たちは「アル=ハキムの店」に足を向けた。

 

 アル=ハキムの店は、その名前の店主が営んでいる生活用品及び雑貨店であり、武器防具以外の品物であれば何でも扱っている。

 生活用具から食料品、迷宮探索や旅のお供に必要な回復薬や毒消しの丸薬、麻痺治しの薬なんかもここで扱っており、品ぞろえは他店の追随を許さない。

 冒険者だけでなく、サルヴィの市民もここによく足を運ぶのだ。

 

 アル=ハキムの店では回復薬と毒消しをそれぞれ一つ買ってもらった。

 それと松明を。

 

「松明なんて迷宮探索に必要なのか?」

「何言ってるんだよ。迷宮に灯りなんかあるはずがないだろう?」

「無いのか。ふうん」

 

 イサームとユリウスの掛け合いも、微笑ましいのか頭が痛いのかよくわからない。

 サルヴィのお城じゃあるまいし灯りなんかあるわけ無いじゃん。

 どうもイサームは無邪気と言うか、考えが無いというか浅いというか。

 僕が迷宮探索する前はどうだったかな……と思った所で、イサームと大して変わらないかもと思ってちょっと気を引き締めた。

 ギルド職員の言う通りに道具を揃えて、あとは何かの役に立つかも、くらいでロープを買ったくらいだったし。

 

 イサームの能天気さに対して、ユリウスは対称的と言うか、かなり慎重を通り越して臆病にも思える。

 初心冒険者にしてはお金をそれなりに持っていたし、毒消しの他にも麻痺治しの薬も買っていた。地下一階にはそんな魔物は出ないって言ったにもかかわらず。

 備えあれば憂いなし、とは言うけどさ。

 

 ともあれ、僕たちは準備を整えてサルヴィの迷宮入口にまでたどり着く。

 

 サルヴィの迷宮入口にはギルド職員が常駐している。

 何をしているかと言うと、どこの誰が迷宮に入ったかを記録している。

 ギルドに登録している冒険者も、そうでないいわゆるモグリの冒険者も。

 あくまで記録しているだけで、何かあった時のフォローは一切ない。

 冒険者はあくまで自己責任なのだ。死ぬ事ですら自分の実力と運任せ。

 それを良しとするからこそ冒険者なんだろう? とはミフネさんがよく言っていた。

 僕はまだ、そこまでの達観は得られていないけど、冒険は楽しい。

 

 ギルド職員は以前冒険者だった人を雇う事もある。

 今日ここに立っている職員さんもその口で、左足には義足を着けていた。

 

「お、見ない顔だな。この紙に職業と名前を書いてくれ」

 

 言われるままに僕らは職業と名前を書く。

 

「僧侶二人か。ある程度危機に陥っても迷宮から脱出しやすい構成だな。初心者の間ではろくに奇蹟も覚えておらんから、その有難みはわからんだろうが」

 

 ギルド職員はそう言いながら、名前を確認して紙をバッグにしまい込む。

 

「君達、迷宮から生きて帰るんだぞ」

「はい、必ず」

 

 自然に僕の口から答えていた。

 他のみんなは生きて帰ってこれるって何となく思っているかもしれない。

 それがどれだけ難しく大変であるか、まだ知らないから。

 

 僕の返事をよそに、パーティは迷宮へと踏み込んでいく。

 石造りの階段を降りていく靴の音が響き渡る。

 かつん、かつんという音がほの暗い迷宮の闇に溶けていく。

 

 誰が言うわけでもなく、各々が松明に火をつけ始めた。

 当たり前に迷宮は暗い。

 灯りも無く、窓もない閉鎖空間に光が差し込んでくるわけもない。

 迷宮に入る前はそれなりに騒がしかった仲間たちも、いつの間にか言葉が少なくなっている。

 

「隊列を組もうか」

 

 そう言って、狭い迷宮の通路の列を成す。

 前列には戦士イサーム、ユリウス、僧侶ルロフ。

 後列には僧侶イヴェッテ、僕、魔術師リースヴェルト。

 

 前列には重装備を施し、魔物の猛攻にも耐える体力がある者を。

 後列には体力が少なく直接攻撃に弱いが、しかし支援や遠距離攻撃が出来る者を。

 

 僧侶は戦士には劣るけど、重装備が出来るので前列に立たせるのもありだとは聞いていた。なので、今回はそうしてみた。

 僧侶二人でも男性で体格の良いルロフ。

 彼の腕は戦士たちに引けを取らぬくらい太く、彼のメイスの一撃はスケルトンの頭骨くらいならやすやすと砕くだろう。

 

 僕は薄く方眼が描かれた紙を鞄から取り出した。

 ミフネさんは便利な地図を持っていたけど、僕らは残念ながらそんなものは持っていない。

 一歩進むたびに、こうやって迷宮の形を描いていく必要がある。

 迷宮は常に変化するとは言われているけど、毎日細かく変化があるわけじゃない。

 魔素(マナ)が澱み溜まった場所が変化するとはまことしやかに語られているけど、真相はよくわからない。

 地上に近い所は魔素(マナ)が空気の流れと共に抜けていきやすいみたいで、変化には乏しい。

 だからこうやって地図として記しておくと、後でまた潜る時に助けとなる。

 地図を売る人ももちろんいるんだけど、彼らが売っているものは古かったりでたらめだったりで信用出来る地図が少ないから、結局は自分で描いた方が早い。

 

「アーダル、どっちに行こうか?」

 

 前列に立っているユリウスが尋ねる。

 

「まずは、そうだね。行き止まりっぽい右の通路に進んでみようか」

「まどろっこしいな。一気に次の階に降りる階段でも探してみないのか」

「やめなよイサーム。一つ一つ確実に、だよ」

「ふん。それにしても煙臭くてかなわない。迷宮探索ってこんなものなのか」

「何事も、憧れのままの方が幸せだったのかもね」

 

 リースヴェルトの皮肉に口をとがらせるイサーム。

 冒険者を初めて日が浅いけど、僕も冒険者となってもう二回くらいは命の危機に遭ったから、冒険者の現実という物を多少は知っている、はずだ。

 憧れて現実を知らないままのほうが幸せな事っていくらでもある。

 それでも僕は冒険者を続けたい。

 

 やがて右の通路の行き止まりまでたどり着くと、左側の壁に扉がある事に気づいた。

 ここは僕の最初の探索時にも行った場所だ。

 いわゆる迷宮の中の小部屋。

 宝が隠されていたり、魔物が飛び出してきたりだけど、開けてみなくちゃわからない。

 不安と期待が半々のびっくり箱みたいな感じで、冒険者はそれが醍醐味だと人もいる。

 

「中に入るぞ、準備はいいか皆の衆」

 

 ルロフが腰に提げていたメイスを持ち、みなに問う。

 仲間の表情は硬い。しかし、目には輝きが見える。

 やる気は十二分にある。

 言葉にはしないが、やってやるぞという気合が体中から迸るのを感じた。

 特にイサームは血の気が勝って興奮を抑えきれていない。

 大丈夫かな。

 

 さて、扉を開くと言ってもお行儀よくノックしてから入るわけではない。

 

「じゃあ、俺がいち、にの、さん、でやる。そしたら前列のみんなで突っ込む。後列はその後に続いてくれ」

 

 イサームの言葉に皆が頷き、深呼吸する。

 

「いち、にの、さん!」

 

 勢いよく扉を蹴破るイサーム。それに続いてユリウスとルロフがなだれ込む。

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 はたまた宝との出会いか。

 僕らの腕と運が試される。

 

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