タリア 拳の乙女   作:なうなり

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東の大陸「グラン」、その辺境の地「ティコネイル」に、彼女はいた。

剣等の武器も、魔法の類もほぼ使用せず、魔物たちに己の拳で立ち向かう彼女は「拳の乙女」と呼ばれていた。

ギルド「赤き血の晩餐会」の所属する彼女のもとに、とある依頼が舞い込む。

それが、彼女の運命を大きく変革させることになるとは、誰も知る由もなかった。


第1話

ここは――どこだ?

 

?「おい、大丈夫か君!?」

 

男の声、若くはない。

 

とにかく、起きなくては。

 

「う、ぐぐ……」

 

痛い、痛い、痛い。

 

体中に痛みが走る。

 

切り裂かれた痛み、骨が折れている痛み、その他にも、言葉では言い表せられないような痛みが、体中を襲う。

 

?「おい、無理をするんじゃない!」

 

体は動かせないが、なんとか目が開けられた。

 

雨……嵐と言った方がだとうだろうか。

 

とにかく、辺りは酷い有様で、わたしはこの川岸に打ち上げられているようだった。

 

次に、声の元を見た。

 

おじさんといった表現が適切であろう顔、無精髭が生えたこの男は、重厚な鎧を纏っており、背中には大剣が見える。

 

一目見ただけで、この人の高い戦闘力が、垣間見れるかのようだった。

 

?「よかった、とにかく生きているようだな」

 

そう言うと、優しくわたしのことを抱きかかえた。

 

?「とにかくここを移動しよう、もうじき、ここもヤツらの餌食になる」

 

そういうと、わたしを抱きかかえたまま、走り出した。

 

男の背中のその先、黒く、大きな影が空を泳ぐのが見えた。

 

数多もの黒い影。

 

おそらく、ヤツとはあの黒い影のことをいうのだろう。

 

?「すまんな、俺は治癒術が苦手でな、麓の村で腕のいい治癒術師を知っているから、それまでしっかり耐えろよな」

 

「はい……」

 

力なく返す返事、もう言葉すらも返すのが億劫になっていた。

 

バリスト「俺の名はバリスト、君の名は?見たところどこかの貴族のお嬢様に見えるが……」

 

そう言われて気が付く。

 

わたしが纏うのは、川遊びとは全く無縁に見える赤いドレス……それもボロボロでグシャグシャで完全にぬれてしまっている。

 

何故このようなものを着ているのか……分からない。

 

何故あんな場所にいたのか……分からない。

 

ただ……これだけは覚えている。

 

「タ……リス……」

 

バリスト「タリス?あまり聞かない名だな、それが君の名前か」

 

……それすら分からない、ただ、私の中にある、唯一の記憶がそれなだけで。

 

「うっ……」

 

痛みが、また、体中を襲う。

 

目の前が、だんだん暗くなっていく。

 

バリスト「おい!?大丈夫か!?おい……」

 

だんだん、声も遠くなっていく。

 

意識すらもだんだんと暗くなっていく。

 

何も考えられなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「逃げて、――!」

 

誰かが、わたしの名まえを呼んでいる。

 

切羽詰まったような、悲鳴のような、断末魔のような。

 

剣の音、槍の音、魔法の音。

 

ここは戦場なのだろうか、しかし、音以外は何もない。

 

そして、その音もだんだんと消えていく……。

 

 

 

 

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